ウルトラマンGATE 超人 彼の地にて、斯く戦えり 作:AGIの素
難航していたヤオの取り締まりは、レレイが招集されたことによって瞬く間に片付いていった。
恐喝事件は偽りであり、むしろ偽りで訴えた男は警務官に捕まり婦女暴行未遂犯として捕らわれることとなった。
こうしてヤオが巻き込まれた事件はあっさりと片が付いたのであるが、ヤオは仕事を終えて立ち去ろうとするレレイをしがみつくようにして捕まえるとこの機を逃してたまるものかとばかりに捲し立てた。
そして同時に一族が水龍に襲われていると告げたのである。
これにはレレイとしても知らんぷりというわけにはいかない。
今こうして彼女がここにいるのも、元はと言えば同じ古代龍である炎龍にコダ村が襲われたからだ。
犠牲者は比較的少ないものの、それでも知り合いや友人が命を失っている。
その気持ちは理解できたし、何よりあれだけの力を持つニホンならば、意外とあっさり解決できてしまうのではないだろうかと思ったレレイは暫し逡巡するも、最終的にはその懇願を受け入れることにした。
「……概ね理解した。ニホン人に助けてほしいということを伝えればいい?」
「そ、そうだ。見たところ御身は顔が利くようだ。ならば口添えも頼みたい」
こうして、ヤオの希望はようやく叶ったのである。
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アルヌスの街の一角に、『貴賓席』と呼ばれる食堂がある。
そこは清掃が行き届いたちょっとした喫茶店のような雰囲気で、落ち着いたデザインのテーブルや椅子が整然と並べられ、観葉植物や絵画などの調度品が上品な空間を演出している。
一般席の雑多な雰囲気とは大違いだ。
夕の食事時にはまだ早いが、1日の研修課業を終えたボーゼスやパナシュといった貴族のお嬢様方が奥まった一番良い位置のテーブル席を占領している。
因みに、ボーゼスらは普段アルヌスの街で生活しながら語学研修を受けている。
少し前帝都にいたのは騎士団員の様子やアルヌスでの近況報告、そしてピニャの持つ資料の翻訳作業などを進めるためだ。
同じ経験を共有する者としてボーゼスが代表としてそれらを受け持っていたのだ。
そんな彼女たちは出される菓子や紅茶に舌鼓を打ちながら一つのタブレットの画面に釘付けになっていた。
菓子を食べる反対の手にはペンが握られており、次々に映像で流れる内容を汲み上げて翻訳しているらしい。
「お嬢様。本日の新しい茶葉が入りました。お試しください」
そんな彼女たちの様子に、書類仕事に追われる官僚やリスニングテストでも受ける学生とを重ねたウェイターは生暖かい気持ちになりながらも職務を全うする。
因みに、執事番と言われるこのウェイター達は皆が二科(情報担当)だ。
池袋の特殊な喫茶店で働いていたという触れ込みで連れてきた者である、という建前だが、当然一般人の立ち入りが禁じられている特地に喫茶店員など来れるはずもない。
日本の物品の取り扱いやサービスの為に、わざわざ研修させられたのだろう。
自衛官らはそれを理解して「苦労してるなぁ…」としみじみと思いつつ、幹部自衛官は口を噤んだ。
彼女たちは日本の菓子類を褒め称え、それに対してのおべっかも忘れない。気分よく楽しんでもらったほうが都合がいいのである。
因みに、そんな執事番も仕事はしっかりと熟している。
その目は「彼女たちが何に関心を持ち、どう行動しようとしているか」に向けられており、最近の話題はもっぱらウルトラマンや怪獣達へと向けられていた。
ちらりと覗き見れば、タブレットの画面上では、怪獣などを紹介するという某動画サイトの映像が流れていた。
これは本土でダウンロードしてから持ち込まれたもので、近年の怪獣災害に伴って需要が増した動画だ。
ボーゼス達にとって、その動く映像と紹介文は必要な情報である。そのためこうして自由時間に頼み込んでその内容を書き記して解読しているのだろう。
あくまで怪獣の姿や活躍くらいなもので重要性の高い情報やこちらの戦力に繋がる情報等には触れず、地球であれば誰でも目にすることが出来る程度のものなので、問題はない。
ただ怪獣の種類が多いため内容が多く、報告書に書く内容がワンパターンになってきたせいでお上から「真面目にやってるのか?」と訝しげな顔をされるのが最近の悩みと言えよう。
そんな光景の一方で、別のテーブルではヤオが茫然自失と視線を中空へと漂わせていた。
向かい側にいるレレイは何を考えているのかじっとヤオを観察している。
レレイお気に入りのハーブティーが届くも、ヤオは何の反応も示さない。
仕方がないからとポットから注いだレレイはヤオへ勧めることニ度。震えた手で力なくカップを口へ運んだ。
それを数度程繰り返し、空になってようやく気がついたとでもいうかのようにレレイへと事の真偽を縋るように確認していた。
レレイの紹介を受けて、念願叶って狭間陸将と面会が叶ったヤオは、事情を説明して助けを求めたのである。
水龍によって部族が襲われている。炎龍をも倒したという貴方がたに討伐を頼みたい。と。
勿論、対価として預かった人の頭程もある金剛石の原石も提示した。
しかしながら、その嘆願虚しく返ってきた答えは否だった。
その理由は、シュワルツの森の立地にあった。
ヤオが地図を広げ故郷を指したそこは、帝国との国境を越えたエルベ藩王国に位置していたのだ。
ことわりもなく軍が国境を越える行為は、宣戦布告と同義である。それはこの異世界でも同じこと。
国境を越さずとも、近くに大軍を移動させると政治的な緊張を高めることになるのだ。
ヤオとてここまで一縷の望みをかけてきたのだから、引き下がらずに少数だけでもと縋るも、狭間も部下の命を預かる身だ。
その様な少数で補給も受けられぬ状況で危険なドラゴンと相対させることなど出来ようはずもない。
それは覆しようのない事実としてヤオの耳に刻み込まれ、声を殺して涙を流したのである。
その絞るような嗚咽の声は、いつの間にかまわりのテーブル席を埋めていた自衛隊幹部たちも重々しい空気と痛ましさで黙り込んでいた。
そんな中で、語学研修中のご令嬢方の流している動画の音声が場違いなように聞こえ、それがまた哀れさを誘うのだった。
そのテーブルから少し離れた席には健軍一等陸佐と加茂一等陸佐、そして用賀二等陸佐と柘植二等陸佐の4人が注文したコーヒーを待っており、その視線は今も泣くヤオへと向けられていた。
「用賀……何とかしてやれんか?」
「無理ですねぇ。昨今の情勢から見ても越境攻撃なんて真似したら同盟国からも非難の嵐ですよ。……特に既存の自衛隊じゃ怪獣に敵わないから功を焦ったとか野党に言われるのがオチですよ」
「言わせとけばいいんだよ。そんで醜態を晒していなくなっちまえばいい」
「言い過ぎですよ」
「言い過ぎも何もあるか。怪獣対応に世界で協力して取り組もうって時に、我欲でまぜっ返す奴らに巻き込まれるのは俺たちだ」
「……ま、お上もすんなり通るなら苦労はないんでしょうけどね」
加茂一等陸佐の愚痴るような言葉に宥める用賀。
そうこうしているとこの店で働くヴォーリアバニーのデリラがコーヒーを運んで来た。
デリラが去るのを待ってから、再び会話を始めた。
「でも、あの野郎ならなんとか躱せるんじゃねぇか?俺はよぉ、テレビ見てて思わず爆笑したぜ。ま、茶化すような答弁が咎められて、後でしこたま怒られたそうだが、それも形だけのことだったしな。国会で言いたい放題言って注意で済むってのも人徳って言うんかね…。ま、その後のインパクトが強すぎてあんま話題に上がらなかったってのもあるかもしれんが」
「まあ、ただでさえ特地人として三人娘のインパクトがあった上で、しまいにはウルトラマンですからねぇ」
柘植はコーヒーを飲み干して言う。
「ま、幸いなのが当初の目的は今も継続されてるってとこだな。ドラゴン退治は置いとくとして、帝国を叩き潰して責任者の処罰と諸々の賠償を取り立てるってのは今も方針として機能してる。……本位総理は急拵えだって前評判だったが、やってみれば中々粘る所もあるな」
「門の問題と怪獣騒動の最中に就任しましたからね。むしろ平時の政治に長けててもその常識は通用しないですから。……ただ、この世界の政治情勢がだいぶ分かってきましたから、柔軟な対応が必要になるでしょうね。この世界の覇権国家たる帝国をうかつに叩き潰して難民やら兵士崩れやら、ハイエナなりが闊歩するようになっても困りものです」
今帝国がなくなれば、当然支配下に置かれる多くの民や兵士は行き場を失って混乱状態に陥る上、覇者がいなくなった空の玉座をめぐって列強の争いが始まるだろう。
この世界において日本は単純な武力で見ればどんな国にも負けないと言えるだろうが、手の届く範囲は限りがある。
彼らとてそんなことをして徒に戦火に巻き込まれる命を増やしたいわけでもない。
それにそんな真似をウルトラマンに守ってもらっている身で行うのもどうかという不安もあるのだ。
現実的な問題としても、個人的な感情としても、この世界の平和を維持するための役割を誰かに負わせなければならない。
「ま、資源の採掘にしろ商売をするにしろ、先立つものは必要だろうな。今じゃ怪獣被害だけでも銀座事件が比べものにならない額の被害が出てるしな。資源と賠償で少しでも補いたいってんだろ」
「……その怪獣が問題だな。偵察に出た航空自衛隊からも、痕跡を発見したとかいう報告も出てる。帝国から『門』を守るだけならこんな戦力はいらないが、かといって怪獣相手は難しい。……帯に短し襷に長しだな」
「まあまあ、ちゃんと目的はありますよ。現在は、帝都で各種工作が進行中です。諸々の条件の提示と交渉に帝国が受け入れないといった場合には、帝都に向けて進撃ということになるでしょう。既に計画は済んでいます。命令が出れば帝都占領は80時間で完了しますよ」
「そりゃ一体いつになるんだ?」
「明日でないことは確かです。ですが来月か再来月か……何れにせよ交渉は始まりますよ」
気の長い話に天井を仰ぎ見る加茂に、柘植は現代戦争のことの迅速性を説く。
「助ける力があるにもかかわらず、それを行使できない俺たちの目の前で、女が泣いている。たまらないぜ……なあ用賀。やっぱりなんとかしてやれんか?」
「無理だと申し上げましたが」
「だからさ、出来る限り少ない戦力で国境を騒がさない程度に……なんとかならんか?」
「最小限ですか?相手は空飛ぶ戦車とすら言えるドラゴンですよ」
「だが現に伊丹がどさくさ紛れとは言えパンツァーファウストで仕留めているだろう。怪獣とは違うんだ」
「そうだぜ。折角空自も居るんだ。ファントムで殺れないか?」
加茂も身を乗り出して提案する。
「……いやぁ、最新式ならともかくファントムで堕ちますかね?相手は第三世代装甲
「じゃあどうしろって言うんだ?」
「……こちらの設定したキルゾーンに、高度20〜50mくらいまでファントムに追い込んで貰って、後は特科に榴弾砲をぶち込んで貰います。
そして地面に釘付けしたところで、コブラからTOWミサイルのつるべ打ち…。可能なら74式戦車からAPFSDSを叩き込みたいところです。ま、最後は普通科の隊員に死亡確認をさせる必要があるでしょう。…炎龍とやらの話ではそこから再生する可能性はないみたいですが、怪獣なんて化け物がいるんです。用心に越したことはないでしょう」
しかし、現実的に被害を出さず圧倒出来るであろう戦力を計算すると、複数の機甲部隊や航空戦力が必要となり、とても少数とは言えなくなってしまう。
「だから無理なんです」
用賀二等陸佐の言葉に肩を落とす三人。
しかし、ここで敢えて勘定に入れていなかった戦力を挙げた。
「確かに俺たちじゃ動きづらいのは分かった。……だが、GGUならどうだ?」
「……まあ、詳しい内容はともかくとして、不可能ではないでしょう。まがりなりにも怪獣対策組織。荷電粒子砲に隊員一人一人に小型化したレールガンを持たせるような技術力…。手負いとはいえパンツァーファウストで首が飛ぶなら、少数でも或いは…」
「そうだ。それに少し前に来たあの戦闘機の性能ならドラゴンなんて羽虫と変わらんだろう?どうにか協力を漕ぎ着けられないか?」
そんな提案をするものの、しかして顔色は明るくない。
「……ですが、GGUはあくまで対怪獣に向けて組織された戦力です。特地に人員派遣を行なっているのだって怪獣が確認されているからに過ぎません。動かすには相応の理由と許可が必要です」
「……やはり、厳しいか?」
「まあ無理でしょうね。怪獣が確認できて、しかもそれが要人のいる都市を襲っているとかなら緊急で駆けつけることも出来たんでしょうが……。ドラゴンは公式に怪獣に及ばないと判断されました。他国の領地で軍事行動をするには弱いです」
「ううむ…。ドラゴンを確実に倒せる戦力でも、怪獣相手じゃ心許ない。そういう面で見れば自衛隊で十分に解決可能、となるか…」
「それに仮に出撃出来たとしてもGGUの装備は最新式なんてもんじゃないです。こっちの持ち込んだ旧式と違って、そう簡単に捨て置いていいもんじゃないのでその理由で動かすのは上が渋るかと…」
これがまだ自衛隊との連携組織として小規模であった特災課時代ならば動かせただろうが、今やGGUは世界的な組織として力をつけている。
組織が大きくなった弊害とも言えよう。
「ま、そんな感じでどうしても厳しいですよ。動かすにしても、最低でもその森のある範囲の領主クラスからの許可か、或いは本当に怪獣が現れて人里を襲っているとか…。そんな理由がない限りは…」
用賀の言葉にいっそう肩を落とした三人は、やはり気まずそうにヤオの方を見てすっかり冷めたコーヒーの苦さと現実のしがらみの多さに顔をしかめるのであった。
原作との変化点として、ボーゼスも銀座でBL本に触れずに怪獣や兵器などを調べていたため特地でも怪獣系の解説などを翻訳しています。
それに伴って、タブレットや映像媒体の一部持ち込みの解禁と、前に見せてもらっていたことで、紙媒体だけでなく映像による解説なども所望しました。
因みに勿論のことですが、テュカの精神が壊れてないのでヤオは脅しに出れません。
ヘイトの溜まる要素がなくなる代わりに頼みの綱も減るという目に……。
でも仕方ないね。古代龍は強いけど、自衛隊の戦力の一部を差し向ければ安全に駆除できちゃうんだ。もっとヤバイ奴向けに組織された所を動かすにはちょっと脅威として弱いんだ。防衛ならともかく外に向けるのはね……