ウルトラマンGATE 超人 彼の地にて、斯く戦えり 作:AGIの素
その日、アルヌスが揺れた。
アルヌスの丘に建てられたアルヌスの街。
いつも通りに雑多な人々が溢れ、商人、傭兵、店員等がよく行き交っている活気ある様子だ。
その日も、ごく当たり前にそれが続いていた。
しかし、次の瞬間にはそれが様変わりする。
大地が揺れ、建物が揺れ、大きな衝撃が足元から近づいていくる。
震源。それはここから離れた位置に現れた怪獣が移動した際に起こったものだ。地震に慣れている日本国民であれば、この距離の振動は「おっ、割と揺れたな」という程度にしか感じないだろうが、あいにくとここは特地である。
日本ほどではなくとも地震の例が多い世界各地と比べても、ここは地震というものがとんと起こらなかった。権力者や名のある立場のものですら噂にすらも知らないという時点で、過去の例も殆どない。
そんな彼らにとって、不変の存在に思える大地が揺れるなどということは想像すら出来ないものだった。
平衡感覚を失うほどではない。しかし恐怖と混乱が勝るらしい。街中ではアルヌスの町民から商人に始まり、普段は己の力を誇示せんとする傭兵たちまでもが怯えて戸惑っていた。
そんな中、動じず動く一団がある。
アルヌスに深く関わるものならば知らないものはいない「緑の人」だ。
彼らは恐怖に打ちひしがれている人々や店側の被害などを確かめ、精力的に動いていた。
その様子は、地揺れという神の怒りかと見まがうそれすらもはねのける逞しい戦士たちに見えた。
だが、話はここで終わらない。
その直後、街中に建てられている
「なっ、なんだこの音は!」
「うっ、唸り声か!?」
彼らが不安からか武器に手をかける中、そこから強く言いつけるような硬い声が届く。
『アルヌスの街外周部付近に巨大生物が出現。繰り返します。外周部付近に巨大生物出現。各自、避難の準備を行なってください。建物の中など、周囲の状況が確認できない場にいる方は、速やかに周囲を確認出来る場所に移動してください』
聞こえてくるのは、特地の言語による一斉放送。
この支持にも人々は一体何処から語りかけられているのかと戸惑うも、またしてもその混乱収まらぬ間に爆発音が木霊する。
ゴロモスとGGU自衛隊合同部隊の戦いが始まったのだ。
察しの良いものはこの時点で何かが起こっていると察知してとにかく反対方向へと行くが、やはり初めてのことで、外部から来ただけの者も多いために動きは鈍い。
「こっちでーす!落ち着いて避難を!」
「命大事に!こちらへ逃げて!」
そんな中、やはり緑の人たちが現れて呆ける彼らを無理やりにでも誘導していく。
人々はその態度から何かを知っていると思って尋ねるが、帰ってくる答えは「
その支持に従って積極的に避難をする者が3割ほど。
4割程がその流れに乗ろうかと不安そうな顔で雑談や何事か等と話し合いながらなんとなく歩いている。
後の2割が目まぐるしく変わる異常事態へと恐怖や混乱からその場から動けなくなっている人達で、そういった人々には駆けつけた自衛隊員が手を貸している。
そして残りの1割はというと、怖いもの見たさか原因究明のためか。音のする方向へと足を向けていた。
ダークエルフの女、ヤオ・ハー・デュッシは、その中の2割であった。
怯えて立ち竦んでいるわけではない。この地に来て慣れない環境の中、このようなことが起こって人に聞こうにも知らないというので、どうすることもできずにうろうろとしていたのだ。
「い、いったい何が起こっているというのだ…?」
困惑しながらも周囲を見渡すヤオの目には、そんな混沌とした状況の中において、他と異なる行動をする一団を捉えた。
「あれは…あの時の…!」
視界に映る
結果こそ芳しくなかったが、この街にも長くおり、緑の人とも親交の深い様子であった彼女ならばこの騒動も何か分かるのではないか。
頼れるもののいない遠い地では、僅かな間とはいえ頼りになった者の顔を覚えておくものだ。
そうヤオは自賛して声をかけようと追う。
が、どうやら彼女は一人ではないようで、
そんな纏まりのない集団を怪訝に思ったが、そんなこともあるかと納得して声をかける。
「す、すまない!これは一体何が起こっているのだ!この声と音はどこから…!」
かけられた声に振り向いたレレイは眉を顰めるも、その姿を見てどこか納得したかのように頭を振る。
ロゥリィは露骨に眉を顰めたが、接点のないテュカはこんな場所にダークエルフがいることに対して少し驚いたような顔をしている。
「ジエイタイに水龍の退治を頼み込むために交渉に来た者」とレレイが簡単に説明を終え、どう説明したものかと顎に手を当てる。
「別にぃ、実際に見せてやればいいんじゃないのぉ?特に隠してるってわけでもないみたいだしぃ、そっちのが手っ取り早いでしょう?」
「どの道向かってるわけだしぃ」とはロゥリィの言。
そう言われてはレレイも納得したようで「見たほうが早い」と言って同行を認めた。
何が何やら分からぬ間に、ヤオを加えた一同はアルヌスの街の外壁にまで辿り着くと備え付けの梯子を登り始めた。
本来関係者以外は登ることを禁止されているが、技官としての立場を得ているレレイはそれらの制限を一部通過できる。
無論、自由にとは言い難いが、機密や武器庫などでない外壁の上に同行者を連れることくらいはわけないのだ。
その間も続く爆音や轟音に冷や冷やとしながら壁の上に上がってみれば、そこには未知が広がっていた。
いや、未知というのならばこのアルヌスに来て何度も味わっているが、それは驚嘆や感心に近いものだった。
しかし、これはどうだ。
ここから然程遠くない場所には黒く輝く甲殻を持つ巨大な何かがこちらへ向かって来ており、それらに向けて緑の人の持つ何かや鉄の象などが居並び攻撃をしている。
その音や弾かれた弾などが地面に残す軌跡からその威力の程は推察でき、放たれたミサイルの爆炎と音が連鎖し思わず身を竦ませる。
よく見れば、遠方に見える鉄の象からは緑の人が顔を出して様子を伺っている場面も映った。
「な、何だ…あの化け物は…!緑の人たちが、戦っているのか?一体、何と戦っているのだ!?」
放たれる戦火。炸裂するミサイルや砲弾の威力は水龍のそれを超えているように見えた。少なくとも、水龍の炎で炭になることはあれど、硬い岩盤が弾け飛ぶなどということはない。
そして、それを食らっても尚動じない巨大な化け物に、一部の攻撃はその化け物をもってしても効果があるようであった。
その全てがヤオの常識外。
思わず後退りをしてしまう中、その光景を目にしながらも三人娘に困惑はない。緊張と不安こそあるだろうが、それでも目の前の事実を確と受け止めていた。
「…?あなたは自衛隊の噂を聞きつけて水龍退治を頼みにやってきたのではなかったか?」
それに対してもレレイは不思議そうに首を傾げるだけだ。
「噂……。緑の人が、炎龍を討伐したという…」
そう言葉を転がして、その噂の続きをふと思い出す。
炎龍をも超え、遥かに強い巨大な怪物と、それを退治する青い巨人。
旅の途中で聞いた噂の中にあったりなかったりとしていたものだから、脚色か物語でも混同しているのだとばかりに考えていたが、それが眼の前の光景と結びつく。
「噂は、本当だった…?」
戦闘機を目にしたときと同じ音。けれど含まれる意味は真反対だ。
ヤオの目から見ても、そのとてつもない轟音や岩肌を容易く砕く目に見えない一撃の凄まじさは分かる。
離れてこそいるが、ダークエルフであるヤオは視力に優れ、一流の戦士でもある彼女にとって、距離を逆算しての大きさの計算などは苦もなかった。
「あれは一体……」
「カイジュー。そう分類されている巨大な生物と、そう聞いている。そのほとんどが尋常ではない力を持ち、その種類は様々。門の先にも多数出現しているらしい。そして、見ての通りこの世界にも生息している。………言っておくが、今放たれているあの砲は、一つ一つが炎龍を殺した鉄の大筒を上回る威力を持っている」
ヤオはガツンと頭を殴られたような衝撃を受けた。
あの居並ぶ箱の一つ一つ。それぞれが古代竜をも殺せるのだと言われて動じずにいられるだろうか?
「い、いや、だが。あのような巨体、この見晴らしのいい丘で見つけられぬ筈が……。翼もないようであるし、よもや空から来たなどと…」
「先の地揺れ。あれは恐らくこの怪獣が地面の中を移動したことによるものと思われる」
「それって、前に近くで現れたカイジューみたいに?」
「そう。見た所、体のつくりは以前現れたマグラーに似ているように思われる。特徴的な棘はないが、体型や尻尾、顔つきなどかが類似していることを踏まえると、あれも同じく地底を住処としている可能性がある」
「以前現れた…?このような存在が、そんなにも軽々に現れるというのか…?」
最大の脅威とされる古代竜は長い休眠期間があり、個体数も限りなく少ない。
それは生物としての強靭さ故であり、長い時を生き、生存競争におけるライバルも天敵も皆無という生態系の頂点に位置するために、問題はなかった。
だが、カイジューというのがそんなにも強力なのにも関わらず、噂話の内容やレレイらの言い分を信じるなら、門が開いてから……少なくとも彼女たちとジエイタイが接触してから数えても、数ヶ月で既に4体以上もの怪獣が姿を現していることになる。
「なんと、なんという…」
言葉を失い見守る中、放たれたミサイル群が更なる爆炎を上げる。
ヤオは前に目にした戦闘機の内部に人がいた事や、支援戦車から顔を覗かせる自衛隊を目にしたことから、それが乗り物であると理解していた。
そのような鉄の乗り物を大量に並べ、まるで歩兵が矢を番えるかのような速度で撃ち込める。
それほどの圧倒的な力を有していながら、あのカイジューという存在は前進し続けている。
同時に、それ程の力を持っているのなら、水龍退治に手を貸してくれてもいいじゃないかという不満が持ち上がり、けれど冷静な部分が国境越えと少人数の派遣では危険だという理由を思い出して堪える。
かつてのような希望と祈りにも似た心境ならば納得できないと叫びたいところだが、この衝撃は旅立ち以降抱えていた憎悪と不安をも一時的に吹き飛ばしてしまったらしい。
それがどうにもショックで視線を彷徨わせれば、そこには避難指示を聞かずに様子を確認しに来た者たちが腰を抜かしたり騒ぎ立てているのが見えた。
その連中は何も知らないままにそれを目にしているが故の動揺があったが、その真の脅威に気づいている者はどれほどいることか。
ヤオはそんな彼らに複雑な視線を向けるが、徐々に戦局は自衛隊*1へと傾いていく。
やがて、放たれた
「た、倒したのか…」
「やったぁ!アルヌスの街がなくなっちゃうかもって思ったもの!」
「……やはり、凄まじい。自衛隊の持つ旧式装備ですら、この世界の何物をも跳ね除ける力を持っていたが、備えがあればカイジューですらも…」
「いいえ?油断は大敵よぉ?」
「何?」
他の面々が倒したと確信する中、ロゥリィだけはその紅い瞳を細めて呟いた。
するとどうだろうか。倒れた怪獣は跳ね起き、目を血走らせて死に物狂いで爆走を始めた。
「まだ生きていたの!?」
「致命的な攻撃に一時気絶していた?」
「ああなると厄介よぉ?死の淵に置かれたものは死以外のすべてを必要な犠牲と割り切ってしまうもの…」
「こ、こっちに来るぞ!しかも先ほどよりも速い!」
起き上がり迫る怪獣の尋常でない生命力に驚かされながら、けれどもロゥリィだけはその不死性故か、それとも長い時を生きた経験か老婆心か、そう呟いた。
その瞬間だ。
妨害も無視して迫る怪獣は、けれど猛速で飛来した鋼鉄の翼竜によって追いつかれる。
とてつもない衝撃に、放たれた紅の熱戦はその命を奪い去った。
最後の最後。圧倒的な力でトドメを差したそれは、ヤオにも覚えがある。
低空から身を翻したそれの全容を見て、テュカは元気よく手を振っているし、レレイはその法則や機構に。ロゥリィはその性能と搭乗者の戦士としての面に関心を寄せていた。
そこからしばらく。
斃れた怪獣に近づいた人影が何事かをしたかと思えば、各所から歓声が上がっていく。
『アルヌスの街への連絡です。此度の作戦によって、巨大生物は討伐されました。巨大生物は、討伐されました。厳重警戒態勢と避難勧告を解除となりました。また外周部の亡骸へは許可なく近づくことを禁じます。繰り返します―――』
そのような放送が響き渡り、避難した人が戻る中、ヤオはただじっと死した怪獣と、それを成した一団をぼうっと眺めていた。
その胸中には様々な思いや己の常識を超える事態による混乱が複雑なほどに渦巻いており、それを処理することが出来ていなかった。
ふと袖を引かれたような気がして視線を下へ向けると、レレイが登ってきた梯子を指して言った。
「事態は解決した。私たちは降りるが、一人でこの場に残っても自衛隊に捕まるだけ。先に降りてほしい」
「あ、ああ…。すまない」
心ここにあらずと言った様子で従ったヤオは、街中で3人と別れた後、トボトボと宿へと戻ると、未だ空に日が差しているというのにも関わらず、服も脱がずに寝具へと倒れ込んだ。
暫く天井を見上げていたかと思えば、数分後には自然と静かに寝息を立て始める。
今のヤオには、このとてつもない情報と、内に溜まった感情の渦。それを整理するための時間こそが必要なのだった。
前半だけで終わらせるつもりだったのに、補完を加える内にいつの間にか1話分の分量に…。