ウルトラマンGATE 超人 彼の地にて、斯く戦えり 作:AGIの素
「……下!…ル……殿…」
「ゾル……殿…!…事……か…」
「ゾルザル殿下!」
ハッとゾルザルの意識が復活した。
意識を取り戻したゾルザルの様子に安堵した取り巻きだったが、その顔を見あげ、空の青色も目に入った。ゾルザルはそこで初めて自分が寝かされていることに気づいて身を起こした。
「ぐうっ…!一体何が…」
「ああっ!ゾルザル殿下、頭を打たれているのですから……!」
バッと上体を起こし、ズキズキと痛む頭を抑えながら直前の記憶を思い返す。
巨大な怪物。燃え盛る木々。青い巨人。
「…ぐ、そうだ。その後に木が……」
顔に直撃した筈だ。
落馬しているのも頭が痛むのもそれか。
そう納得したゾルザルだったが、取り巻きの言葉を払い除け直ぐに立ち上がる。いつまでもこうして地面に腰を預けるなど、ゾルザルのプライドが許さなかった。
「……あの巨人と怪物は?火も消えているようだが、そんな水はあったか?」
「か、怪物の方は巨人が生み出した光の剣によって討伐されました。きょ、巨人はその後に掌から水を生み出し火を消すや、空を飛び何処かへと去っていきました」
「む…。光の剣に、掌から水…。どうやらその巨人は高い知性を持っているらしいな」
「は…、といいますと…?」
呆けたような取り巻きの言葉にイライラとしつつも、ゾルザルは述べる。
「貴様らはオーク鬼やジャイアントオーガーが燃え広がる炎を消し止める光景を見たことがあるか?そもそも、あの火球を素手で払う力を持つ存在が、足元の小火を気にすると思っているのか?自らが危ないのなら先にやるに決まっている。怪物を倒した後に水を出したのがその証拠だ。わざわざ、自分に危害のない炎を消してから去ったということだ」
ゾルザルの言葉に取り巻きたちは再び湧き上がる。
「おお!とすれば、神の使いというのも強ち間違いでは…!」
「確かにそうだ。あの巨人の背に比べれば火のなんと小さいこと。我々をお救いなさったのだ!」
「しかし、流石はゾルザル殿下、素晴らしいご慧眼ですな」
「ええ。次期皇帝ともなれば、私共とは観る所が違う」
「この程度、少し考えれば分かることだ」
取り巻きどものおべっかに、そんなことも自分で考えられないのかと鼻を鳴らすが、そこでその苛つきを抑える。
取り巻きがこうなのはいつものことであるし、何より今の自分は皇帝の目を欺くために
先ほどの苛つきが後を引いていたのだと自分を納得させる。
「しかし、どうされますか。あのようなことが起こったのですから、あちらも会談どころではないでしょうが…」
「それに、ゾルザル殿下も頭を強く打たれているのです。あの程度で済んでいるとは言え……」
「行くに決まっている。あのような事が起こったからこそ、その始末に気を取られるであろう。そこを突き証拠を掴んでやるのだ。ここでおめおめと引き返しては、何のために来てあんな目にあったのか分からんではないか」
鶴の一声に迷っていた取り巻き連中も同調する。ゾルザルは馬に跨り腹を蹴る。
水のせいで乾いた土が泥となり、駆ける馬がそれを跳ね、柔らかいそれに足跡を残していった。
●●●
そうして少しばかりの時間が経って。
ケルビムの襲撃による混乱と、議員を乗せた高機動車による避難が丁度間にあったというその時に、ゾルザルが取り巻き連中と共に森林公園へと辿り着いた。
ケルビムによる被害で会場は滅茶苦茶で、付近に落ちた火球のせいで地面には痕が残りテーブルは吹き飛ばされ、上に乗っていたであろう料理が地面に散乱している。
そして、その場で右往左往としながら寄り合っているのは帝国貴族の子供たちやその親。着飾っていたであろうドレスなどの服飾品を身につける婦人達。
更に目を向ければ、給仕やメイドなどが後片付けに奔走し、楽士らが己の楽器の様子を見ていた。
荒れているのは予想内。だが、陰謀めいた会合が開かれていると聞かされていた分、その落差は激しい。
「なんだ、これは?」
国政に携わる者の陰謀でなく、家族連れの交流中に不運な事故にあったかのような姿に困惑し、そのままに進んでいった。
その貴族らも、これまでのこともあってか突然の闖入者に一瞬驚いたような目を向けるも、この中に宮廷などに見知った貴族婦人などの顔もあった。
そんな女性らはゾルザルが第一皇子であると知れば、「皇子様もご招待されていたのね」と勘違いして、恭しく迎えた。
何しろ当の主催者が皇女なのだ。その兄である皇子が呼ばれていたとして不思議はない。
遅れて到着したことやその格好に注目し、皇子らもあの怪物による被害を受けたのだと知ると同じ境遇故か心を開きやすくなるものだ。
ゾルザルやその取り巻きとて、粗野であるが乱暴に振る舞ってはいけない相手と場は弁えている。
陰謀と関わりない貴族やその家族には礼節をもって相対すべきであり、こうして不運な事故にあい不安げな様子の子どもや婦人を見れば猛っていた気持ちも落ち着いて、現状把握に努めることにした。
「ここでは何をしていたのだ?」
「ピニャ殿下とスガワラ閣下共催の園遊会を行なっておりました。気取った集まりではなく、みなご一族や子供たちを招いて、垣根を取り払った楽しい一時を送りましょうという趣向でございました。………先ほどの騒動で中断されましたが、殿下もあの山のような巨体の怪物を目にされたのですか?」
答えたのは老メイド長。凛と背筋が伸びて受け答えも堂に入ったもの。
ゾルザルは異母妹であるピニャの名が出てきたことに加えて、先ほどの怪物という大きな出来事に気を取られ、「スガワラ」という聞き覚えのない名前もどこぞの貴族の一員かと聞き流した。
「遥々来られたというのに会場がこの有様では残念でしょう。今、無事な料理や酒などをメイドが取っておりますので、よろしければ…」
そう言って差し出された料理は実に美味そうな香りを漂わせていた。
外においていた料理の大半は地面に落ちたり土煙に晒されてしまって食べられたものではないが、鍋に入っていたスープの類や冷凍保存ゆえに密閉されていたアイスクリームなどが主である。
「お、おお…」
呆気にとられたゾルザル達はそれを受け取って、口にしてみて皆顔色を変えて貪る。
取り巻き達も許可を貰ったからかそれらを口に含み、その美味さに舌鼓を打つ。
だが、どうにもゾルザルとしては先のことが気にかかって料理に集中することができない。それに、この惨状の後だ。
もしも中に土でも入っていたら嫌だということで、取り巻きどもに先に食わせて安全性を確かめ、その間にと周囲を見渡した。
この様子では本当に園遊会のようで、出された料理や格好なんかもそれにふさわしい様だった。
少なくとも、マルクス伯が言ったような陰謀めいた会談が行われているとも思えない。そんな騙すような真似をしてもマルクス伯は勿論内務省の利益にもならない。
この催しに参加させるための嘘というのなら別の言い方も有ろうというもの。
何かの手違いか、それとも場所を間違ったか。はたまた、示し合わせたように現れたあの怪物。その存在をマルクス伯は知っていて、これに巻き込まれる位置を挙げてこちらの暗殺でも謀ったか……。などと疑いながら怪しいものはないかと注意を払って歩いているとこちらを呼ぶ声がする。
「兄様!」
ゾルザルのことを兄と呼ぶのは、この場においてはピニャしかいない。
いつもの様に騎士団ごっこの従者を引き連れながら、赤いドレスには焦げつきや、土煙による汚れが目立っていた。
それは勿論ピニャ自身にも及ぶ。
その様子にゾルザルは眉を顰めるが、あれに巻き込まれて汚れているのは己も同じ。他の貴族の目にするところでこの様子であるなら、ピニャたちもあの怪物の出現は予想外だったと確信する。
それにメイド長の言うとおりにピニャがいたため、主宰がピニャというのも殆ど確実。マルクス伯の注進もやはり誤りだったかと結論づけた。
ゾルザルから見たピニャは、騎士団ごっこに明け暮れるだけあって軍事主義者であり、主戦論者でもあったからだ。最初から穏健派の一部派閥であるのならともかく、その彼女が講話交渉の仲介役になっているなど、思いもよらないことだ。
「兄様、今日は何のご用でありましょう?」
「なんだ、来てはいけなかったかのような口振りだな」
当然、ピニャとしては来てほしくはなかったが、当然そんなこと口にするわけにもいかず、表面上取り繕いながら、残った料理を差し出して矛先を変える。
ピニャが呼んで持ってこさせたのは、濃厚なコンソメスープ。
様々な素材の旨味とふんだんに使われた塩やこしょうの香りが食欲を唆る。
湯気を立てるソレを鼻先で嗅いで、少しばかり口につけてぐいっと飲み込んだ。
が、しかし。
「う、げほっ、ごほっごほっ…!」
しかし、ゾルザルは途端に咽て激しく咳こんだ。
その様子に「まさか毒か!?」と疑った取り巻きどもが血相を変えてメイドや給仕たちを睨みつけ、腰の剣に手を伸ばす。
その様子にメイドらも怯え、ピニャにすら睨みをきかせるそれに対抗せんと薔薇騎士団員も戸惑いながら腰に手を当てる。
「げほっ、ごほっ…!鎮まれお前たち!咽ただけだ。心配はいらん!」
一触即発の空気になったが、それもゾルザルの一言で収まった。
ピニャとしてもまさかの事態に焦りを覚えたが、それを胸中に抑えて薔薇騎士団員にも控えるよう言いつける。
「確かに美味いのだが……少ししょっぱすぎるんじゃないか?」
「そ、そうですか?確かに味の濃いスープですが……」
「まあいい。それよりも、水だ。えらく喉が乾いた」
「こちらに」
老メイド長が水差しからグラスへ移そうとするが、それを奪い取ってすべて飲み干してしまう。
「あ、兄様、少し飲み過ぎでは…?」
「ぷはぁっ!…まあそう言うな。俺とて遥々やってきた上にあの怪物の火に巻かれて喉が渇いていたんだ」
「あの怪物…ですか」
「ピニャも見ただろう?あの点を貫かんばかりの大角に、暗器のような鉤爪。棍棒のような尾を持ち、巨大な火の玉を吐き出す巨大な怪物を」
来たか。とピニャは体を強張らせる。
あの位置とゾルザルの来た時間から考えれば、目にしていて当然のものであったが、いざそれに言及されるとなると、言葉選びは慎重に行わなければならない。
「え、ええ、勿論です。かくいうこの会場もあの怪物によって崩壊したのですから」
「それもそうか。しかし、あれは一体何だったのだ。龍をも超える大きさを持つ怪物など聞いたことも見たこともない」
ここだ。とピニャは機を見計らって情報を提供することにした。
ピニャの知るゾルザルというのは、己に都合のいいもので世界は満ち溢れていると感じ、それを否定するものは敵。そして嘘であっても自己を満たすものなら嘘だとしても信じて主張するような人間だ。
その根底にして最大の理由は、大なる帝国こそが最強にして至高の存在であると信じて疑わないということである。
例え歴史上稀に見る大敗北を知ったとして、その理由や敵の技術力には目を向けず、偉大で強大な帝国ならば勝つだろうという甘えがある。
最初から蛮族と見做している国家への対応であるならともかく、目にした巨大な怪物くらいは客観的な……大いに補正が入るものの、ヒト種よりは客観視できるだろう。
直ぐ側に伊丹が隠れているので、不利になるようなことは言わず、けれど最低限伝えるべき情報を開示する。
「兄様、あれは『カイジュー』と呼ばれる類の怪物です」
「何?ピニャ、お前知っているのか?」
「ええ。最近各地に現れたという巨大な怪物を纏めた俗称らしいのです。あの個体だけではありません。妾や騎士たちも他に何体かを目にしております」
「あれと似たような存在が複数いるか…。ピニャ、何故黙っていた」
「あのような存在、実際に目にしなければ虚言と疑われますでしょう。事実、妾も噂話を耳にしましたが、出来の悪い創作と思っていましたから」
「……カイジューか。覚えておこう。あのような存在がいるとは父上も知らぬだろう。お前の証言だけでなく、伝える者が多ければ幾分かは信憑性も上がる」
それに関しては素直に嬉しいところだった。
ただでさえ圧倒的に負けている戦力差であるのに、大災厄とも呼べるカイジューの存在すら知らないというのは、単純に情報アドバンテージが違いすぎるからだ。
これを足がかりにニホンという国の軍事力や功績を伝えようかと思ったが、ここで伝えてもゾルザルの価値観や信じている世界からすれば認めがたいことだろう。
一蹴されたり怒りを向けられるならまだよい。この情報を曲解して変な方向に振り切られるのが一番困るのだ。
ならば、存在や強大さを示唆するだけで今回は十分だ。展開が変わったり必要になればまた後で渡していけばいい。
そう納得することにして、一端思考を打ち切った。
「あの巨人もカイジューか?」
「いえ、あれは『ウルトラマン』と呼ばれる存在です。カイジューのことを伝えた者が同じく話してくれました」
「ほう…ウルトラマン…。それで、その話をしたという者は?」
ここで少しピニャは考える。
実際にその情報を教えたのはレレイであるが、そもそもの情報源は自衛隊であるし、それを素直に伝えたところで面倒そうだな。と思ったのである。
それにレレイは自衛隊とも親しく、それなりの立場を貰っているらしいことは把握していたので、よけいな茶々入れをされて反感を買うのも避けたい。
ならば、そういった存在の知識を持っていても掘り下げられることはなく、それでいて手も出しづらい立場か力を持つ存在…。
そこまで考えたピニャは該当する人物が一人いることに気づいてその名を挙げたのだった。
「そ、それは……ロゥリィ……。ロゥリィ・マーキュリーです」
絞り出したその言葉に茂みに身を潜めていた伊丹が噴き出したのは詮無きことである。
この後は原作通りにマルクス伯の云々やらがあって、退散して園遊会は終了です。
次回はゴロモス戦の後日談になるかな?