東方盾騎伝   作:アニュスデイ

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はじめまして。
拙作ではありますが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。


00.開幕

 

諸々が眠るべき時間に、彷徨い歩く人影があった。

その足取りは重く、覚束ない。

今。彼がいるその世界において。

その出で立ちは、格好のエサでしかなかった。

 

 

 

東方盾騎伝 ~The knight of silver~

 

 

 

――物語は遡る。

 

彼は騎士として、この世に生を受けた。

代々、皇家の護り手としての役割を担ってきた武門の一族。

彼は一族に待ち望まれた、希望の担い手だった。

父譲りの銀髪と、母譲りの碧眼。

成長するにつれ、希望は大きく確かな光を放った。

 

父は彼を深く愛した。

母もまたそれに劣ることのない愛情をもって接した。

時に言葉で。時に拳で。時に温もりで。

皇家ひいては国の守護者たる、栄誉ある家柄。

しかしそれゆえに伴う重苦をまるで感じさせない、幸せな家族だった。

 

時が経つにつれて。

父は彼を厳しく鍛えた。

母もまたそれに劣ることなく教養を叩き込んだ。

その家柄は、他者と決して同列に在ることのできないもの。

しかし彼は理解していた。

だから捻くれることなく、真っ直ぐに、父母の教えに従った。

 

家督を継ぎ、ゆくゆくは(こう)と国を護ること。

それが自分の運命であるのだと。

自分も他人も、誰も彼もが、それを疑わなかった。

 

 

その運命を、嘲笑う者がいるなどと、知ることなく。

 

 

 

 

「何か、言い遺すことはあるか?」

 

紅色の空の下、廃墟と化した街の残骸の中。

おそらく街の広場であったであろうその場所に、五つの人影があった。

絢爛豪華な衣を纏った男が、屈強な男二人に拘束され、力なく項垂れている。

問いかける男もまた、数多の修羅場を潜ってきたであろう貫禄を感じさせる。

 

「……どうしてだ。どうして、こんなことを?」

「ふむ。お前の座っていたところからは、この世は幸せなお花畑にでも見えていたか?」

「少なくともこの国は、この街は、皆が幸せであったはずだ!」

「やれやれ。そんなことだから、お前は今こうして這いつくばっているのだ。皇よ」

 

あまりがっかりさせてくれるな、と。

かつての敬うべき相手に対し、男は卑しく笑う。

 

「花畑には美しいものばかりが集まるわけじゃない。

 見えないところに薄汚いゴミどもも寄ってくる。やがてすべてを枯らしてしまうような、な」

「ふん。それは、今オレの目の前にいるようなヤツのことか?」

「私はほんの僅か摘み取っただけだ。楽園そのものを枯れさせないための犠牲にすぎんよ」

「戯言を抜かすな中将よ! どうせ権力財力、ただ力の欲しさにやったまでだろう!」

 

拘束されてなお掴みかからんとする勢いで、皇と呼ばれた男は叫ぶ。

中将と呼ばれた男は意に介する様子もなく、冷めた目で皇を見下す。

 

(こう)。それ以上、口を開かないほうが宜しい。お前の護り人(もりびと)まで失望させるつもりか」

「何が護り人だ! こうして謀反に加担している以上、逆賊以外の何者でもない!」

 皇と共に代々続く家名を穢し貶めた、武人として恥ずべき、生き恥の塊よ!」

「……もう、語るべきこともないようだ。

 皇よ。他に言い遺すことがなければ、処断を以ってこの聖戦は決着だ」

 

中将が視線で合図をすると、護り人と呼ばれた男が斧を構える。

その背格好は細身でやや上背がある程度だが、構える斧は重厚で大きく、

彼に操れる代物なのか疑わしくさえある。

しかし護り人は平然と、顔色ひとつ変えることなく得物を操り、皇の首に刃をあてがった。

 

「皇よ。私は汚名を被ってでもこの国を護ると決めたのだ。例え、鬼と呼ばれたとしても」

「笑わせるな! 鬼の支配で何が護れるものか!

 オレの護るべきものたちを食い荒らした貴様らが、いったい何を護るというのだ!」

「その答え、あの世で眺めているがよい。さらばだ、皇よ」

 

中将の右腕が振り下ろされる。

一瞬の間の後。

風鳴りの音、ついで首の転がる音。

 

「聖戦は成れり。これより私は王として、護国の鬼と成ろう。

 護り人よ、御苦労であったな」

 

王の労いにも、護り人は顔色を変えることなく。

ただじっと、その碧眼は変わり果てた皇の骸を見つめていた。

 

 

紅の空の下、廃墟と化した街の残骸の中。

――護り人が幻想郷へと迷い込む、十日前の出来事であった。

 

 

 

 




次回より、東方の世界へ。
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