世界の限界を越える歌声   作:鳥籠のカナリア

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第5話

「結構歩いたなぁ……」

「そうね」

 

 楽しい時間というのはあっという間で、一通りショッピングを楽しんだころには日は傾いていた。空の色は茜色を通り越して紫紺から青褐色のグラデーションが支配していて、まだ遅い時間でもないのにうっすらと月が浮かんでいる。

 

「んー、ちと寒いなぁ。用事も終わったし19時だし解散にするか?」

「いえ……まだ一緒に居たいわ」

「ん゛ん゛っ゛!」

 

 予想外の言葉をかけられたせいで変な声が出た。せいぜいお腹すいたくらいの表現で言われるとばかり思っていたから正面から言葉を投げられると動揺する。

 

「……あー、肉でもいいか?」

「ええ、今日は少しお腹が空いたわ。どっち?」

「ここのモールの上の方。エレベーターに乗ろう」

 

 日が沈み始めた時間帯、ショッピングエリアに近い階層のファミリーレストランは休日ということもあってほとんど満席。

 だが、上の階に来ればすっかり足が遠のいてしまう。なぜならだいたい上の階にテナントを構えられるのは一人頭の期待値が高い店になるから。

 

 その中のひとつに足を踏み入れる。

 

「予約の夏目です」

「はい、お待ちしておりました。2名様ですね」

 

 奥まった場所にある個室案内された。トイレとも離れていて万が一にも湊が他の客から見えることはない。ファン層が若者に寄るとはいえ、気を使っておくに越したことはない。ロックって言ったらセックスとドラッグとか誰か言ってた気がするが、ガールズバンド時代に男なんてほとんど見ねぇからなぁ……。

 

「酒も頼めるから欲しければ頼んでくれ。俺はドライマティーニにするけど、湊は?」

「分からないから任せるわ」

「んー……スクリュードライバーとかは飲みやすいからそれにしようか」

 

 一通りの注文をして届いたカクテルに手をつける。ジンの風味をそのままに高いアルコール度数を保っているカクテルのため、手を早めてしまうとすぐに酔う。

 

「……なんか、手慣れてる?」

「そうかぁ?」

「予約してたし、個室だから」

 

 まぁ普通の大学生が相手なら俺も予約とか取らないが、相手はメジャーデビューしている芸能人。一回の大炎上がバンド人生に影響を及ぼすことも考えると、下手なことは出来ないし、したくない。

 

 気にしすぎといえばその通り。芸能界に詳しくない人間が余計な気を回しているだけと言われても否定のしようがない。

 

「飲み放題とかもないから大学生だと手が伸びにくいかもな」

「そうじゃなくて、エスコート慣れしてるって言うのかしら」

「……あー」

 

 今回のデートであまり悩んでいないし、金が出来てから覚えるデートの仕方をしている自覚はある。少し背伸びした印象を持たれるかもしれないが、嫌な思いをされるよりはよほどいい。

 

「リサが言ってた意味が分かったわ」

「なんて?」

「……女の子が分かってるって」

「あんのギャルゥ……!」

 

 今井、俺のことをなんだと思っているんだろうか。

 こっちはまともにデートすらしたこともない男だというのに、あらぬ誤解を受けているようで渋面を浮かべる。

 

「でも、私はそう思わないわ」

「ん? 女の子転がしてそうってのがわかるのに?」

「ええ。出来ることとやることは別よ。相手は選ぶでしょう?」

「……よくお分かりで」

 

 降参だ、と両手をあげるとくすくすと笑ってくれる。

 こうしておどけて見せても以前は笑ってくれなかったような気がするが、それは俺がおどけ上手になったわけではない。彼女自身が色々な経験をして変わっていったからだ。

 

 互いが頼んだ料理を腹に収めて酒に手を付け始める。

 空腹の状態だと酒の回りが早いがある程度腹に入れておけばよほどの下戸でもない限り酔わないだろう……と高を括っていたのがよくなかった。

 

「なんだか、ふわふわするわ……」

「嘘だろお前……?」

 

 なんだか、よくない流れではないだろうか。

 そう思って彼女のグラスを見てみると、一杯まるまる空いていることに気が付いた。スクリュードライバーはそれなりに飲みやすいが、カクテルのなかでは度数が低いだけでおおよそ10度以上ある酒。

 そんなものを酒に慣れていない大学生に気を付けるように言ってなかった俺の落ち度だ。

 手を出すつもりはないものの、酒に慣れていない女性を酔わせてしまったことに心の底から後悔する。

 

 一部では酒を飲んで酔ったということは持ち帰れるという考え方もあるようなので、気を付けておいて損はない。……湊は絶対分かってない。

 

 高校大学、その両方で女子ばかりの環境で育ってきた人間だからそのあたりのバランス感覚がないのだろう。せめて目の前で飲んでいるときは教えておこう、とひそかに決意してチェイサーを注文しておく。

 

「ナツメさん……?」

「多分酔ってるだろ。一旦酒は飲むな」

「……分かったわ」

 

 普段よりも素直に言うことを聞いてくれる気がする。

 酒を飲んだ人間はだいたい自分は酔ってないと言い出して話を聞いてくれなくなるのだが、彼女は幼くなる酔い方をするらしい。

 

「湊って酔うと幼くなるんだなぁ……初めて知ったわぁ……」

「……だめかしら」

「いや、ダメじゃねぇけどよぅ」

 

 現実逃避もしたくなる。

 普段がクール系で誰に対しても平坦な対応しか取らない歌姫が酒を飲めば、つまりは自分の前では油断した姿を見せてくれるというシチュエーションに思うところがあるどころかめちゃくちゃアリだな、と思うくらい。

 

 しゅん、と少し気落ちしたような声で長い睫毛を揺らして瞳を伏せる姿は庇護欲がそそられるのを自覚してぐっと息を詰まらせながらなんとか言葉をひねり出す。

 

「ねぇ、ナツメさん」

「んー?」

「どうして構ってくれるの?」

「そんな構ってるか?」

「……ライブハウスに通い始めてから、ずっと」

「どうしてかぁ……」

 

 自然と目で追ってしまうから、常連だから、長い付き合いだから。

 心当たりは色々と理由はあるが、強いて挙げるならばひとつだけ。

 

「俺が世話焼きたいからだよ。迷惑だろうけどな」

 

 気恥ずかしくなって、注文したドライマティーニを呷るとアルコールが喉を焼いて顔をしかめる。酔いが全身に回っていく感覚は何度やってもあまり好きになれないのだから、無理な飲み方をするもんじゃない。

 

 ──なぜ大人は酒を飲むのか。大人になると悲しいことに、酒を呑まなくては酔へないからである。子供なら、何も呑まなくても、忽ち遊びに酔つてしまふことができる。

 

 どこかの文豪が雑誌にて書いたとされる言葉を思い出す。酔わなければ本音すらも言えないなんて、ほとほと呆れる話だ。

 

「……迷惑じゃないわ。私はあなたに救われたもの」

 

 そう言って微笑む彼女からは厚い信頼が感じ取れて思わず視線を逸らす。そんな信頼を向けられるようなことをした記憶なんてないのに、彼女から向けられる視線は酔っているとは思えないほど穏やかなもので、心臓が跳ねた。

 

「……いいから水飲んどけ」

 

 どんな言葉を言っても照れ隠しにしかならなくて、そんな言葉が滑り落ちる。ここまで饒舌になるなんて聞いてねぇ……!

 

 注文しておいたチェイサーである程度酔いをさましたあとに冷静になったのか、お互いにぎこちない時間を過ごして店を出る。

 

 帰りたくない、と言わせてしまった手前、夕食が終わったから解散しましょうなんて言ったらあとで周囲からなにを言われるか分かったものではないし、なによりも俺自身がまだ湊と一緒に居たい気持ちがある。

 

「飯食ったあとに言うのもなんだけどさ、ここの近くって展望台なかったっけ?」

「そうなの?」

「ああ、モールの中においてある地図に書いてあった」

 

 沿岸近くに建設されたこのショッピングモールは置いてある地図を見てみると思っていたよりも近いことは分かるが、元々山だった場所を崖の方まで開拓しているらしく勾配が強そうだ。

 

「ちょっと歩きそうだけど、大丈夫?」

「……大丈夫よ」

「ちょっと付き合ってくれ。酔いを醒ましたい」

 

 あんまり大丈夫じゃなさそうなんだけど……最悪は背負えばいいか。

 俺は湊の手を引く形で階段を上っていく。幾重にも曲がりながら、階段が続いているおかげで二人の足はパンパンになっている。

 バイト以外で外に出ない男と、ダンスをするわけでもない歌声バケモノのコンビでは流石にキツい。

 

 歩いて、歩いて、その先を登り続ける。そして、その頂上に辿り着くと──

 

「……すごい光景ね」

「すごい空の色だ」

 

 日が海を赤色に染めていく。青から赤に海の色が変わっていき気づいたときには月が主張していた。この場所に立つと、これまで起きた数々の出来事が想起される。

 俺はぼんやりとある事を思い出して、考えていた。

 

 湊のことだ。人は一人で生まれて、そのまま独り育つことはできない。誰にも話しかけられない幼児は、適切に栄養を与えられたとしても、数年も生きることは出来ないという結果がある。

 

 自分以外の誰かの言葉がなければ、人は死ぬ。誰かという存在があって始めて、私という世界が形作られるという。

 

 人は一人で生きて一人で死んでいくという事実も完全に正しい。

 そうだとしても、やはり誰か他の人間がなければ私という世界が形作られることもない。私という世界があって始めて、世界と繋がれる。

 

 そんなことを、Roseliaを組む前の湊の姿と重ねてしまった。

 

 いつしか完全に黄昏時は終わっても夜の帳が落ち切っても月は輝いたままそこにあって、                                                                                                                              それを奇麗だと思った。

 

「今日は月が随分奇麗だなぁ」

「あれ、満月かしら……」

「あー……ん-……いや、直前のきぼうじゃないかな」

「希望?」

「いや、幾望。満月に限りなく近くて、でも少しだけ欠けている月……だったかな」

「詳しいのね」

「月ってどこでも見えるだろ」

 

 子供のころから月が好きだった。

 特に、満ち足りた様子の満月を見上げていると、自分もそうなれるのではないかという希望を抱けた。

 

「満月の一歩手前の状態、それを幾望という。声に出すと慰めみたいにも思える」

「そうかしら? 慰めよりも、もっと別のものに聞こえるわ」

 

 満月になる寸前ならば、それはあと一歩で満月になれるのだからがんばれ、という励ましの言葉ではないか、と。

 創作をする人間らしい美しい言葉だと納得したのは、きっと彼女の言葉が美しいばかりでなく、自分で歩んできた道を思い返しているように見えたからだろう。

 

「十六夜、ってあるだろ。満月の次の日。あれにはもうひとつ名前があるんだが知ってるか?」

「知らないわ」

「既望、だってさ。既に望が過ぎたと書く」

 

 なにもない空をホワイトボードのようにして既望と書く。

 満月まであと少しの夜を幾望と呼び、すでに終わった満月の夜を既望と呼ぶ。

 そして、その両方に対して希望を連想するほど希望を持てていない。

 

「……そんなに思い入れがあるとは思わなかったわ」

「子供のころの話だからな。こういうときでもないと言わない」

 

 高校に入って二年が過ぎたころ、知り合いの勧めによって唐突に始まった縁もゆかりもないライブハウスでのアルバイトは、人生を変えるだけの出会いとともに幕を開けた。

 

 湊友希那。当時はソロであらゆるバンドに助っ人に出ていたにも関わらず、どことも組まずに活動していた女の子。そんな彼女を見て、羨望と嫉妬を織り交ぜた人々はこう言った。

 

 孤高の歌姫、と。

 

 彼女と出会ったことで、月のように美しい彼女に手を伸ばしたいと思うようになってしまった。

 

 だけど、それは高望みというやつで。未だ届く気がしないと苦笑する。だが、あの時の彼女に思ったのは孤高なんて響きのいい言葉なんかじゃなくて、鳥籠の歌姫という方が自分にはしっくりきたんだ。

 

「ほら、子供のころは思うだろ? 自分の手が月まで届くんじゃねぇかなーって」

「あなたにもそんなころがあったのね」

「今では、届かせるためにちょっと頑張ってる」

「ふふっ……届いたらいいわね」

 

 冗談を言っても笑われるだけ。本当の意味なんて伝わるはずもない。

 太陽のように眩しくなく、星のように瞬きの間に消えてしまうような存在でもない。

 

「ああ、本当にきれいだなぁ……」

 

 月に照らされて微笑む彼女があまりに美しくて、自然と口角があがる。風で波打つ銀髪が月の光に照らされてまるで絹のような透き通った色に見える。

 

 くすくす、と笑っていた湊が急に止まって奇妙な沈黙が訪れる。

 いつもとは違う、心なしか緊張したような空気に首をかしげた。あまり見たことのない姿だな、と他人事のように眺めていると、力強い視線が向けられる。

 

「三つ目のおねがい、いいかしら」

「ああ、どんなお願いだ?」

 

 いつか見た、彼女を追いかけようと思った真剣なまなざし。

 湊友希那という人間を表す姿であり、それだけ彼女が本気だということだろう。

 しかし、いつかした最後のお願いを使ってまで叶えたい本気になるようなことがあるのだろうか。

 

「私も、目指したものがあったわ」

「音楽以外に?」

「ええ」

 

 頷いてこちらを見る。その瞳はどこか悩んでいるようにも見える。

 彼女は歌で雄弁に語る人間だと誰かが評していたのを思い出す。

 つまり普段の彼女は口下手で──そのことから逃げずに真摯に向き合える人間だということだ。

 

「……私は、たくさんの人たちに助けられてきたわ」

「ああ、ずっと見てたよ」

 

 孤高の歌姫と呼ばれても意に介することなく自分の理想を追い続け、Roseliaを立ち上げ、メンバーや他のバンドと関わることで少しずつ大人になっていく彼女は眩しかった。

 

 努めて柔らかな表情を作って彼女と視線を交えると、彼女の瞳が少し揺れた。

 

「そうね。本当に、ずっと見てくれていた。私がここまで来れたのは、あなたのおかげでもあるの」

「それはお前が頑張ったからで、俺はなにもしてないよ」

 

 結局、歩んでいけるかどうかは自分次第。周囲の人間が出来ることはちょっとしたサポートくらい。それほどのことはしていないのに、彼女にしてみれば大きなことだったらしい。

 

「でも、私が……迷っていてもあなたが居てくれた。あなたはいつかに、こう言っていたわね──人は、誰かの言葉がなければ生きてはいけない。今日だって、相手があなただったから」

「……」

 

 それは思っていた。いくら言うことを聞くと約束していたとはいえ、わざわざデートの約束を取り付けようとするなんて、湊らしくはない。

 

 Roselia結成時、FWF、プロ入り前。無責任に、結局湊自身はどうしたいのか聞いただけでなにかやりやすくなるように動いたわけではない。俺が出来たのは彼女が自分の気持ちを吐き出せるように言葉を尽くした程度で、彼女のために自分が出来たことなんてなかった。                                      

「だから……これからも一緒にいてほしいの、あなたに」

 

 まさか湊から告白されるとは思っていなくて、言われたことを咀嚼して時が止まったように固まる。

 しかし、妙な納得も同時にあった。湊友希那という人間は、やりたいことに対して実直に行動出来る人間だ。それがもし、恋愛に傾いたとしても揺らがないという確信が俺の中にあった。

 

 なら、あとは俺のなかにある感情を言葉にするだけだろう。

 

 深く、タバコを吸うような深い呼吸をする。無駄なお喋りは、タバコの煙より有害だ。おためごかしな言い訳は身体を濁らす。

 濁った身体からでは芯のない煙のような言葉しか生まれない。誠実な誓いなど、子供でも言うことの出来る安い言葉。内実が伴わない言葉は空気中を道化のように踊る。

 

 どこかで聞いた言葉を思い出す。女を大切にしろ、男は奴らから逃げられない。大切に思う女なら、なにがあっても絶対に踏ん張れ。

 

 長く、彼女を見てきた。意地を張って、張り続けて。自分の本質を見失うところまでいって、そして戻ってきた少女が精一杯自分の気持ちに区切りをつけて、心のうちを告白している。その事実に、頭が真っ白になりそうなのを懸命にこらえる。

 

 楽になろうとするな、彼女は逃げずに自分の感情を言葉にしたんだ。

 

「手、借りてもいいか?」

「……どうして?」

「いやまぁ、大した意味はないよ。触りたいだけ」

「……わかったわ」

 

 差し出された手を、包み込むようにして優しく触れる。

 まるで壊れものでも扱うかのように繊細な手つきで軽く押したり握ったりして感触を確かめる。

 あんなにも力強い視線と歌声なのに、力を入れてしまえば折れてしまいそうなほど華奢な手のひら。

 今日一日中触れていた手なのに、触れようのない宝物に感じるのは本当の意味で彼女に手を伸ばしたことはこれまでに一度もなかったからだろう。

 

「今日のこれも、いつかは想い出になるだろうな」

 

 この時間をいつか思い出すためには、今日を過去として思い出すための未来が必要なのだと。

 様々な言葉が浮かんでは消える。水底で舞い踊る水泡を眺めるような気分で空を見上げる。

 

 自分の気持ちをどのような言葉で綴ればいいのか分からない。

 

「……そうね」

 

 遠くを見る俺を見てある種の答えを出したと思ったのかもしれない。さりげなく手を離そうとする彼女の手を反射的に掴み取る。

 不安そうに瞳を揺らす様子を見て、泣かせたくないなと思った。

 きっとそれが答えなんだろう。

 覚悟を決めて、乾ききった舌をゆっくりと動かす。

 

「正直、最初はお前のことがあまり好きではなかった」

「え?」

「だっておっかねぇんだもの。ずっと鋭い視線向けてきてさ」

「そうだったかしら」

「でも、なにかに追い立てられるように走り続ける湊を自然と目で追っていた」

 

 彼女は知らなかっただろう。俺のなかで彼女は上から数えた方が早いくらい苦手な人間だったことを。その理由が、真摯に取り組める真っすぐさだったことを。

 そうして、困難に正面から向き合う彼女を見て彼女のように物事と真剣に向き合える人間になりたいと思って努力してきたことを。

 

「お前の努力する姿を見て、俺もそう在りたいと思って努力していた」

 

 ずっと言葉にしなかったこの感情は、きっと恋と呼ばれるものだった。

 

 そこまで一息に言い切って、深呼吸をする。

 ここまで来たら関係性はいい意味でも悪い意味でも変わってしまうだろう。

 

「俺は、お前と思い出すならいい想い出であってほしい」

 

 ゆっくりと彼女に微笑みかけて世界で一番、彼女に向けて言いたかった思いの丈を言葉にする。

 

「好きだ友希那。これからも俺と一緒に、同じ時間を過ごしてほしい」

 

 透き通るような黄金色の瞳を見て囁くと、うっすらと膜を張って湿って、それでも雫だけは落とさずに煌めいて俺のことを映している。

 その様子はまるで、想いのひとつでも取りこぼさないように聞き入っているように見えるのはきっと気のせいじゃない。

 

 そうして潤んだ瞳をゆっくりと閉ざして、微笑んだ。

 

「ええ、ありがとう。健一郎さん。こちらこそ、お願いします」

 

 他に誰が居ても聞かせたくない震えた声と、誰が居ても見せたくない美しい微笑みに我慢できずに抱き寄せる。

 急ぎすぎた行動かもしれないと思うと同時、彼女の方からも腕が回される。

 ぎゅっと背中に回る手が、まるで逃がしてあげないと言外に滲ませているようで面映ゆい気持ちになりながら、それでもいいかと思った。

 

「……ふふっ、あったかいわね」

「あぁ……そうだなぁ……」

 

 心を初めて通わせることが出来たときに最初に思ったのは愛されたいではなく、大切にしたいという純粋な気持ち。

 彼女は強いかもしれない。鳥籠から旅立った小鳥は力強く空を羽ばたいた。

 それでも安らげる場所は必要で──そういう場所になれるように歩んでいこうと、そう決意する。




お付き合いありがとうございました。匿名解除する年明けに色々ぶっちゃけますが、この子たちの物語は終わりです。ふふっ、お話ごっちゃになったわ。
1月1日追記
企画者様に見られる前に企画者以外の方に作者割られました。身内ですら確定はさせなかったのに。オマージュ元から割られる経験なんて初めてだわん。
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