アークナイツRTA 「愚人曲:Coda」称号取得アビサルハンタールート   作:ころもち

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いつかに書く書く詐欺してたスカジさんとホモくんの話と在りし日のウルピ&ホモくん兄弟話
短い。
なんかこう回想秘録みたいな感じです。


宵闇明星

 

 

 

夜警の伴奏

 

 

部隊に配属されたばかりのスカジにとって、周りは皆どこか変人だった。

無論スカジも変人の類だけれど、本人はそこまで自覚がなかった。

エーギル人なんて変人の集まりであると知るのはまだ先だ。

 

適性検査で機械いじりを職とし、修理人としてそれなりに上手く生活していた所をまた検査され、今度は戦闘職と来た。

おばあちゃん、お母さん、可愛い妹と引き離されてゼロからの戦闘訓練。

改造手術が功を奏して身体は面白いほどに動くが、それだって厳しい訓練の痛みや疲れを帳消しにしてくれるわけじゃない。

 

スカジの上官、ウルピアヌス隊長は寡黙だった。

いつも書類と睨み合い、医務室でレントゲンと睨み合い、作戦前は椅子で足と手を組んで目を閉じる。

作戦前は即興で美しい歌を作り、隊員たちに丸暗記させてから蹴り出す…戻ってきた生き残りにまた歌わせ、歌わなかったり聞くに絶えない者を『異物』が変身したものとして処分するのだそうだ。

日の浅いスカジが本当かどうか周りに訪ねても、メンバーは曖昧に笑うか露骨に話を逸らすかだ。

……自分への指導の的確さ、情報を伝わりやすく噛み砕いて簡潔に提示してくれる辺り悪い人ではない。おそらく。

 

皆のあこがれと信頼、畏怖の的である隊長には戸籍上の弟がいた。

いつも片手に楽器を携えていて、戦闘中でさえ奇特な武器で音を奏で、作戦前は床に胡座をかいて目を閉じる。

作戦成功後はささやかな祝賀会として即興曲を送り、元気のあるメンバーは合わせて踊り、疲れ果てた怪我人達はそれを子守唄に眠る。

ボケっとしていて趣味が変で馬鹿舌など仲間内からはなかなかの言われようだが、不思議と皆彼の周りを囲んで暇を潰すことが多かった。

配属されたばかりのスカジを気にかけ、僚友のために鎮魂歌を捧げる。悪い人ではない、でも、エーギルらしくない。

 

そのほかたくさんの僚友にも助けられ、スカジはアビサルハンターとしての重責を少しづつ消化していた。

変化とは不可逆のものであるのがほとんどだが、このような緩やかな順応はいくつあっても良い。

目的が終わりのないゴミ掃除であっても。

 

 

あの日のスカジは、ちょうどその『ゴミ掃除』に疲れ切っていた。

6度目の出撃。

恐怖に叫びながら海溝に引きずり込まれて行った僚友のことが頭から離れなかった。

彼彼女らは、せめて人として死ぬ事ができただろうか?

改造の果てに理外の力を手に入れたアビサルハンター達を、果たして人であると言えるのかは判然としないが、意思ある限り人は人とスカジは思う。

そう思っていたい、せめて自分が自分であるうちは。

 

エーギルの国は海底にあるため、人工的な光源によって昼夜の区別がつけられている。

今は夕方も遅く、昼間分の光源が徐々に色を落として薄橙となっていくのをぼんやり眺める。

見張り台からの眺めは良いものだが、沈みゆく光源の先に薄らと見える暗い海が今だけは煩わしかった。自分が見捨てた、自分が取り落としてしまった仲間たちは、みなまだ彼処に居る。

 

「………ぐす、」

 

鼻をすする音がひとつ。スカジの未だ削れていない人間性の発露。

人に見せるものではないので、こういう時に一人でぶちまけるのだ。

ポロポロと溢れ落ちる塩水を拭い飲みこみ、何とか抑えようとする彼女の元に声が1つ飛び込んできた。

 

「風邪をひいてしまうぞ。」

 

幸か不幸か。

大きな図体を折り曲げ、肩を竦めた男が申し訳なさそうにスカジを見つめていた。

背は高いが細身で、遠目で見ると針金のよう…と揶揄されていた先輩。皆に恐れ慕われる隊長のあまり似てない弟、アイスキュロス。

夕日に照らされた顔は逆光でよく見えないが、普段タレ目につり眉の顔がタレ目タレ眉の情けない様相になっている。

 

「改造戦士が、風邪?…ひくの?」

「いや、それは、その、すまない、声のかけ方が分からなくて。」

「……見た?」

「何をだ、君が泣いていたのをか。見たよ。」

「やけに自信満々ね、腹正しいわ。」

「一応君の先輩なんだからもっと敬いの心を持つが良いよ。」

 

はぁ、とあきらめの溜息を吐いたアイスキュロス…先輩はスカジの隣にズドンと座り込んだ。

ひょろ長くてもこうも大きいと物見台も狭い、はよ降りろとスカジは思った。流石に可哀想だし申し訳ないので舌打ちに留めた。

 

「慰めなら、大丈夫。1人で、何とかできるもの」

「慰め、というべきか…私は驚いているんだよ、スカジ。」

「どうして?」

「君と来たら談話室だと大抵体を動かしておかしな事をしてるから、いつも無表情で元気だなと思っていたんだ…景色を見て涙を流す、なんて想像だにしなかった。失礼なことを言った気がするなすまない。」

「先輩から見て…私にはそういう情緒が無さそう、ってことね。」

「悪し樣に言い過ぎだ。否定はしないが。」

 

否定はしないんじゃないか、何だこの男。

気にかけてもらっているとは言えそれはそれ、礼儀の無い相手にかける情はあんまり無い。

地上のスナギツネのような顔をしたスカジから露骨に目を逸らし、アイスキュロスは眩しい光の方を見ている。帽子と残光に阻まれて、お互いに横顔の輪郭のみが見える。

 

「忘れているだろうが、今日の見張り番は私と君だ。何も意味無く君を探してた訳では無い、気味悪がるなよ。」

「別に…気味悪がってなんかないわ、変だと思ってるだけ。」

 

ごそごそ、と背中に背負ったケースを下ろし、ガチャガチャゴキンと鉄棒を繋ぎ合わせて取り出したるは吟遊詩人の持つような琴だった。

 

「…貴方の弓、元はどんな形だったか分からなくなってきたわ。」

「はは、変形機構はいいものだよ。理性的でいられる。私も入隊したばかりの頃は『弓で恐魚に挑むなど』と嘲笑された事がある。」

「武器なんて、使えればなんでもいいのに。その人達は何を使っていたの?」

「さぁ、なんだったかな…皆死んでしまったので、記憶も朧気だ。」

 

エーギルの技術の結晶がアビサルハンターならば、持つ武器とてそれに見合ったもので在るべきだ。

アイスキュロスの変形機構たっぷりの弓はその恩恵を然りと受けていたが、仲間内の評判は悪かったそうだ。臆病者の卑怯者、後ろで演奏したいから弓でも使っているのだろうさ。

今では死人の嘲笑者たちは、彼の大弓が双剣に変わる事すら知らずに死んで行ったのか。

 

「私は戦場でも音が聞きたい、自分を見失わない為に。

周りから見れば傲慢な死に急ぎに見えても不思議じゃない。

だが…結局私は今まで生き残った、なら間違いでは無かったのだろう。」

 

自分に言い聞かせるように語る彼を見ていた。

職分を全うするのは狩人として当然のこと。しかし、アイスキュロスにも周囲の空気に心をささくれ立たせる時期があったのだ。

今のスカジのように。

 

「この程度で揺らぐ私は、まだまだ未熟かしら。」

 

自然と引き出された問いは、「未熟だとも」とすぱりと切り捨てられた。

しかし、別に悪い気はしなかった。彼の顔や声に、責めるような雰囲気が微塵も感じられなかったからか。

 

「こんな経験、慣れていい物とは思えない。

私も君も、いつまでも未熟でいたいものだな。僚友の死のたびに嘆き、ひとつひとつを引き摺っていられるなら幸福だ。」

「あなたは『去ってしまった彼らの分まで前を向かなければ』なんて言うタイプかと思っていた。」

「いつかはそうなるかもしれない。だが今の私は、傷つく心を持っているんだ。」

 

そればっかりは大切にしないといけない。無くしたら取り戻すのは難しいからな、永久歯のように。

そういったきり黙り込んで琴を爪弾き始めた男を尻目に、スカジは光源の放つ最後の輝きを見た。

こういう時に慰めでも激励でもなく、ほんの少しの同調を投げかけてくる男の事はそれなりに好きだった。

 

幼い頃に聞いた母の歌に似た旋律が、見張り台の周りをぐるぐる旋回しながら響いているように感じる。

「交代になったら起こしてやるから、寝ているといい」との言葉をうつらうつらとした頭で聞いて、返事をする前に眠ってしまった。

 

 

 

 

────────────ええ、こんな夢を見たのよドクター。

誰の夢かは、私にはもう分からないけれど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

⬛︎⬛︎Hzの囁き

 

クジラのエーギルというのは、一般的に方向感覚に優れている。

1度通った道は忘れず、その気になれば聞いただけの道を間違わずに通って目的地にまで着くことが出来る…というのが俗説だ。

 

ウルピアヌスという名の青年もその特徴に漏れなかった。

例えば。

最近彼が勉学の合間を縫って顔を出している施設は、同じ居住区間にあってもかなり離れた場所、無秩序に入り組んだ建物街と化した下町にある。

普通、街の外の人間なら地図とにらめっこしながらさ迷い歩くこと請け合いだが、彼にとっては1度行けば行きなれた道だ。

第一こんなところで手間取っていては面会時間が潰れてしまう。

 

ウルピアヌスが会いに行っているのは、1人の幼児だった。

自分と同じ色の髪、自分より灰色がかった瞳。顔もどことなく似ている。

エーギルの戸籍謄本が改ざんされていなければ、おそらくは彼の血縁上の弟だ。

面倒な事情によってウルピアヌスの家ではなく、養育院で育てられている、まだ何も知らない小魚。

 

哀れんでいるのか、と言われればそれは違う。

慈しんでいるのか、と言われれば首を傾げる。

 

いかに彼が優秀な人間だとは言え未だ家からは出ていない身、個人の力で当主たる父の了承を得て幼児の現状を何とかしようなど無謀な考えだ。

やってやれない事は無いのかもしれないが、そこまでやろうと思っていない時点でこの感情は慈しみなどでは無いだろう。

強いていえば、興味か。

 

問と答えを反芻しながら舗装の崩れかけた道を歩き続けて施設についたウルピアヌスは、門の前でウロウロしていた小さな人影を見て珍しく驚きの声を上げた。

 

「…何をしている、危ないだろう。」

 

声を聞いてこちらを見上げた幼児は、喜色満面の顔でウルピアヌスの細長い足にしがみついてケラケラと笑った。

小さくともクジラ、前にあった時より重くなっていたので危うくよろけるところだった兄に幼い子供特有のゆったりした音が届く。

 

『にいさまをまってたんだよ、ほんとだよ。』

「だからと言って外に出るのは良くない。職員が探しているだろう、早く中に戻りなさい。」

『いっしょにきてくれなきゃいやだ。』

「行ってやるから。ほら、ちゃんと歩け。」

 

小さくて暖かい手を骨ばった大きな手が包む。

歩く間にもお喋りは止まらない。

 

『⬛︎⬛︎のだから、⬛︎⬛︎⬛︎まにも⬛︎べてほしくって。のこしていたら、⬛︎ってす⬛︎られてしまったんだ…ごめんなさい。』

「…気にする事は無い。」

 

危うく腐ったパンを食べさせられる所だったウルピアヌスは賢明な職員に感謝した。ロッカーに放置されたパンは恐ろしい、とても。

 

幼児に引かれて院内を進むウルピアヌスは、その健康的な耳で幼児の「言葉」と「音」が混ざった日々の報告を聞いていた。

傍から見れば雑音と無音に等しくとも、クジラには分かるものだ。

 

幼児がこんなふうになっているのは、普段同種のエーギルと関わっていないからだろうか、と考える。

クジラのエーギルはそこそこ珍しい、少なくともこの養育院には幼児以外にいないはずだ。

滅多に会えない同族に会えた嬉しさで興奮状態になり、言葉と音の境界線が崩れているのかもしれない。

所詮一過性のものなので気に病むことでもないが、それにしたってウルピアヌスは少しだけ心配になった。

 

「普段、他の子供と話す時もそうなっているのか?」

『そうって、なに?』

「今のようにだ。その「音」は同族以外には通じない、会話に出すのは得策じゃ…不便だ。」

『ふーん…でも、にいさまはわかるんでしょう。なら、いいよ』

 

ひとりで勝手に納得してしまった。小賢しい幼児だ。

 

『だって、ひみつのおはなしみたい。にいさまとぼくだけの、ひみつ。』

 

そう言ってにっこり笑うのを見ていると、まあいいかと妥協する男がいる。このぐらいの歳の子供にはそういう力があるのかもしれない。

 

「言い逃れをするのは良くない事だ、アイスキュロス」

 

勝手に外に出たことを職員に叱られた幼児…弟にクッキーを差し出しながら、兄は言った。

 

 

 

『にいさまのおうちって、どこにあるの?』

「遠い所だ。」

『おしえて。』

「…絵を描いてやろう。」

 

その絵を頼りに家の付近までやってきた弟に肝を冷やすのは暫く後の話。

 

 

今やズレにズレて途絶した音の波、通じていた頃はこんな事もあったのだ。





作業BGMはawakenでした。

通常ホモくんの実装時期()

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