睡眠から意識が覚醒するとき特有の、重かった瞼がひとりでに開いていく感覚。
まだ怠さを訴える四肢に"うるせえ動け"と内心で激を飛ばして立ち上がった。
先刻からガツガツと脳天を殴りつける痛みは二日酔いだろうか、とりあえず目覚ましに水でも飲もうと、そこまで考えて漸く気づく。
「…俺の部屋じゃねえな、どこだココ」
昨晩、眠る前に居たのとは明らかに異なる間取り。
壁紙や家具といった内装も、ずっと暮らしてきたコンクリ造の現代的な建造物から異国情緒漂う民家へ変貌していた。
この突飛な状況からして、情報無しで推測できる問題ではないと結論付け、とりあえず部屋を見回す。
ベッド、テーブル、証明、窓、扉…とりあえず外を見れば自分の居場所ぐらいは掴めるかも知れない。
そう考えて窓に手をかけて、そしてまた気づく。
「俺、こんな手細かったっけか?」
それは明らかに、今まで見慣れてきた己のものではなかった。
肌は日を知らないかのように青白く、薄い肉を隔てた骨の感触からしても、何かを思い切り殴りつければ折れてしまいそうなほど儚いものだった。
言うなれば少女の細腕のような…少女?
「あ、あー…」
そういえば声も高いような、幼いような。
何というか…どこかの小説や漫画で見たような展開、お約束とでも言うべき気づき・思考の連続であると思い至るのは難しいことではなかった。
だが頭のどこかで、その結論を認めたくないと思った俺はとりあえず、一縷の望みを賭けて窓を開け放った。
「冗談キツイぜ…」
雲一つない、透き通るような青空だった。
普段ならば心洗われるはずのその天気が、今は俺を嗤っているような気がした。
なんせ遮るものは何もなく、空の全容を見通せるのだから。
おかげで否応なく、見ねとせねども目に入り、知れとせねども理解するのだから。
「なんて立派なヘイローだ…クソったれが」
キヴォトスに来た、という事は間違いなかった。
そして酔いが覚める前のことを思い出して…ちょっと待て、昨日まで俺は何をやってた?
暫しの思考、そして記憶の欠落を認識する。
俺が元々外の大人でありながらキヴォトスを知っていたこと、昨晩テキーラをキメて寝たこと、あとは歴史とか神話の知識を一部…ソレ以外の肝心な事が思い出せなくなっていた。
「…こういう時は鏡を探すんだよな」
だが記憶喪失という状況にも、俺はどこか冷静でいられた。
なんせ前世ではジャンル名が付く程度にはポピュラーな展開だった。
そして何を隠そう、この俺も娯楽として"それ"を嗜む側の人間だった。
「お…あったあった、やっぱ布被せて目隠しされてたか」
全身を映すにも不足ない姿見を見つけ、掛けられていた色鮮やかな布を取り払う。
そこにあった姿は―――悲しきかな、予想通りだった。
ついでに言えばコレも知ってるジャンルだった。
そして主人公に苦労が絶えない事も俺は心得ていた。
「これが…俺かぁ」
鏡の向こうに立つ
白き痩身の少女
趣味と好奇心のままに神秘を弄り回していた結果、自分がソレになってしまった悲しきバカ野郎。