憑依者がいく!   作:真夜中

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21話 知らせ

「久しぶりだな……レオーネ」

 

「将軍こそ久しぶりじゃん。聞いたよ……ナイトレイドのシェーレを捕らえたんだって」

 

「ああ……。その直後に警備隊隊員が何者かによって殺害されてしまったがな」

 

「らしいね。セリューだっけ? 殺されたの」

 

「ああ」

 

そんなことを話ながら帝都の通りを歩く。

 

「3日後にシェーレが処刑されることが帝都中に大々的に知らされたけど……それって」

 

「……大臣の独断だろ。遠縁を殺された腹いせを兼ねてのな」

 

「ふーん……腹いせね」

 

「ああ」

 

それと同時にナイトレイドの構成員たちの動きがあるかを探っているのだろう。

 

きっと処刑人も失っても痛くも痒くもない大臣にとってようなどうでもいいような奴が送られてくるだろうな。

 

もしかしたらナイトレイドの構成員がシェーレを助けに来るかもしれないから。

 

「捕らえたってことは独房に入れてんの?」

 

「いや……帝都警備隊の拘置所にいる」

 

「聞いた私が言うのもなんだけどさ……そうペラペラと喋っていいの?」

 

「問題ない。帝都警備隊の拘置所は帝都中に約百を越える数で存在しているからな」

 

中にはその場所が秘匿されているところもある。

 

故に問題ない。

 

「それに今日は忙しくてな……呑みに行く余裕がないんだが」

 

呑みに誘いに来たのだろうと思いそう言うが、レオーネからの返答は違うものだった。

 

「いんや、私も予定があったから誘おうとは思ってなかったよ」

 

「店の予約でも入ったのか?」

 

「んまあ……そんなとこかな」

 

そういう時もあるか……。

 

真面目にやっているところは想像出来ないが。

 

「……何か失礼なこと考えただろ」

 

「よくわかったな」

 

やはり勘は良いようだ。

 

じと目で睨んでくるレオーネ。

 

「失礼な奴だな。私だってやるときはやるんだぞ」

 

「その機会は滅多になさそうだけどな」

 

本当……いつやる気になるんだか。

 

なにぉ! と憤りながら軽く俺の肩を殴ってくるあたり……やはりレオーネはアウトローというか自由人のように思える。

 

立場に関係なく自身の物差しで世界を見れている。なんとも羨ましいことだ。

 

地位があるその地位から見える世界が優先されて自身の物差しで世界を見ているのか自身の地位から世界を見ているのかわからなくなる。

 

それ以前に……こう立場を気にしないでいられる相手はそういないから、心が休まる。とても貴重な時間だ。

 

「なに笑ってんだこの野郎ーっ!」

 

「落ち着け」

 

殴る力が強くなってきたので灸をそえるためにでこぴんをした。

 

バチンといい音が鳴る 。

 

思ったよりも威力が出ていたようだ。

 

「ぐおぉぉぉ……」

 

大袈裟に両手で額を押さえるレオーネ。

 

そんなに痛かったのだろうか?

 

「……お、おのれぇ……よくもやってくれたなあ~!」

 

恨みがましい視線で睨んでくるも涙目になっているので迫力と言うものがまるでない。

 

「そんなに痛かったか?」

 

個人的にはそこまで強くした覚えがなかったので少しばかり心配になった。

 

「痛かったぞ! ほら、見ろ! 絶対赤くなってるって」

 

びっと赤くなってる箇所を指で指し示すレオーネ。

 

確かにそこは赤くなっていた。

 

綺麗にその箇所だけなのでよほどピンポイントに決まったのだとわかった。我ながら感心するような精度のでこぴんである。

 

「赤くはなってるが……頭蓋骨は無事なはずだ」

 

「怖ッ! なにその発言……」

 

ビクッと両腕で自分の身体を抱き締めながらレオーネが後ずさる。

 

「いや……少し前にな……」

 

「いや、いい! 聞きたくない」

 

両手で耳を塞ぎ聞きたくないと態度で示しているが、一応言っておこう。

 

「……でこぴんしたら……相手の頭蓋骨がその部分だけ砕けたんだ」

 

ピシリッ! と空気が凍ったような音が聞こえた。

 

「そ、それて……マジ?」

 

「ああ……あれは俺も少しばかり焦った。相手は賊だったのだが、あまりにも喚くものだから煩くてな黙らせようとでこぴんをしたら……その結果だ」

 

生かしておけと言った本人が殺してしまうとか……あれは本当に失態だった。

 

ランも唖然とした表情で俺を見てたしな。

 

まさか……でこぴんで人が死ぬとか誰も予想出来なかったはずだ。

 

「そ、そんな……危険なことを私に……」

 

「安心しろ……ちゃんと砕けないレベルの力加減は出来ているはずだ」

 

「安心出来るかっ!? 本当は将軍って超級人型危険種なんじゃないの?」

 

「…………」

 

1人で超級危険種を狩れるのでレオーネの言葉を否定できない。

 

「……え……否定しないの?」

 

「いや……否定できる部分が少なくてな」

 

並の帝具使い相手なら素手でも鎮圧可能な上に1人で超級危険種を狩れるのでな。

 

「ま、まあいいや……それじゃ!」

 

それだけ言うとレオーネは逃げるようにして俺の前から去っていった。

 

 

 

 

ちょうどその頃。

 

元大臣であるチョウリの屋敷ではーーー。

 

「スピアちゃん。お湯は沸いた?」

 

「いえ、まだです。沸騰するまではもう少しかかりそうです」

 

護衛として派遣されたボルスがエプロンを身に付けながらスピアと一緒に料理を作っていた。

 

「じゃあ、お湯が沸くまでにお魚のつみれでも作ろうか」

 

「はい! ご教授のほどよろしくお願いします!」

 

礼儀正しくペコリと頭を下げるスピア。

 

「いやいや、私なんてそこまで上手じゃないから」

 

そう謙遜しながらもボルスの包丁捌きは乱れることなく正確に魚の皮を剥いでいた。

 

「そんなことないです! 私なんて……」

 

スピアの目の前には中途半端に皮の剥かれた魚。

 

「大丈夫よ、スピアちゃん! 私だって最初は下手だったけど妻と一緒に料理をするために練習して上手くなったんだもの。きっとスピアちゃんも出来るよ」

 

「そうですよね……武芸と同じで積み重ねが大事ですよね!」

 

うんとうなずくボルス。

 

護衛として派遣されたはずなのに何で料理を作っているのかというと……理由は簡単だ。

 

いつも料理を作っているシェフが腰を悪くしたため他に誰かが料理を作らなければならなくなったのだ。そこで妻子持ちであるボルスの名が挙げられたのが始まりである。

 

ランスロットの部隊にはとりあえず何か困ったことが起きたらボルスさんに相談しましょうという暗黙の了解が存在していた。

 

「いや~、見かけに寄らずいい男ではないか」

 

チョウリはボルスのことをそう評している。

 

「ええ、実際に部隊の中で一番兵士たちに頼りにされていると思います」

 

「ほお……ラン君がそう言うとは」

 

そんなことを話すチョウリとラン。その視線の先にはボルスに料理を教わっているスピアの姿がある。

 

おっかなビックリしながら包丁を動かしていくスピアに持ち方からちゃんと丁寧に指導するボルス。

 

その姿は完全に料理教室の先生と生徒のようであった。

 

「……非公式でボルスさんの相談室なんてものが一時的に存在してましたし」

 

「なんじゃそれは」

 

「私はまた聞きなので詳しいことは知りませんが……何でも恋愛相談から子育て、さらには上手な買い物の仕方まで相談出来るそうです」

 

それは軍人としてどうなのだ? と思わずにはいられなかったがチョウリは深く考えようとはしなかった。

 

深く考えても無意味な気がしたからだ。

 

「はぁ……明日には帝都に向けて出発するのにこんなにゆっくりとしてていいんじゃろうか?」

 

「いいんじゃないんですか? 帝都に着けばこうゆっくりとした時間は作れないかもしれないんですから」

 

「……そうじゃな」

 

帝都に着けば大臣との戦いが待っている。

 

それはまさに命懸けのものであり、自分の娘であるスピアも間違いなく自分の戦いに巻き込まれていくだろう。

 

娘には人並みの幸せを掴んで貰いたいが、スピアはチョウリを支えることを選んだ。

 

その事を嬉しく思う反面、チョウリは娘を巻き込んでしまうことに対して深く後悔していた。

 

いくら皇拳寺で免許皆伝の槍術を誇ろうともそれだけで生き残れるかと聞かれれば生き残れるとは答えられない。

 

「大丈夫ですよ。彼女は私が守ります」

 

「そうか……そうじゃな。弱気になったらいかんな」

 

チョウリが小さく笑みを浮かべる。

 

例え自分が駄目でも自分の意思を継いでくれる者がいるのだ。

 

「孫の顔を見るまで死ぬわけにはいかんよな」

 

「は、ははは……それは……スピアさん次第です」

 

好色爺のようにニヤリとしながら言うチョウリにランはちょっと気まずそうにしながら答えた。

 

「ホッホッホッ、親公認なのだから遠慮なんて要らんのだぞ?」

 

チョウリはそう言いながら覚悟を決めていた。

 

次代の者たちのために例え命を失うことになろうとも最後の最後まで戦い続けることを。

 

それが動くのが遅かった自分に出来る償いだと。

 

 

 

 

「何か異常はあったか?」

 

「いいえ。ありません。シェーレは大人しく本を読んでいます。今はサヨが近くで見張っています」

 

「そうか。休んでいいぞ。これからは俺がやる」

 

「はっ! 了解しました! 失礼します!」

 

敬礼をしてから去っていく見張りの兵士。

 

彼がいなくなると俺はシェーレが逗留されている場所に向かった。

 

「あ……将軍! お疲れさまです!」

 

サヨが敬礼をしながらそんなことを言ってくる。

 

「ああ、サヨもご苦労だった」

 

俺はサヨにそう言葉を返すと椅子に座り本を読んでいるシェーレに話しかけた。

 

「……調子はどうだ?」

 

「体調は悪くないです。足は痛いですが」

 

「…………」

 

「どうしました?」

 

返事をしなかった俺にシェーレがそう言ってくる。

 

「いや……受け答えはするのだな。てっきり黙ったままで口を開くことはないと思っていたからな」

 

「そうですか? 話せないこと以外は話しますよ」

 

首を傾げながらそう言うシェーレを見ていると本当に暗殺者なのかと疑いたくなる。

 

「そうか。まず、お前の処遇が決まった……死刑だ。執行は3日後」

 

それを聞いたシェーレは、特に恐れた様子もなく、そうですかとだけ答えた。

 

「慌てたりはしないんだな」

 

「ええ、覚悟はしてましたから。いつか自分も殺される時が来るだろうって」

 

やはりそうか。覚悟が決まっているからこそ慌てることはない。

 

「そうか……」

 

尋問しても喋らないだろう。なら、その分別のことをやるべきだな。

 

「サヨ……シェーレの世話を任せる」

 

「はい。わかりました」

 

もしかしたらサヨの記憶を取り戻す手助けになるかもしれない。少年はナイトレイドの構成員となってしまっているのだから、同じナイトレイドの構成員であるシェーレがサヨの失われた記憶を刺激するようなことを言う可能性がある。

 

それでも、ほんの少しの確率でしかないがやらないよりはましだろう。

 

尋問の結果を問われたら……チェルシーから流された情報を使ってナイトレイドが革命軍と繋がっていることを言えば問題ない。

 

3日後はナイトレイドがどう動いてくるかわからないが、シェーレ奪還に動く可能性は否定出来ない。そうなると来るメンバーはブラートは確実だろう。

 

インクルシオには奥の手として透明化がある。それを利用してシェーレの傍まで誰にも気づかれることなく移動してくる可能性は高い。

 

新しいパンプキンの使い手は怪我をしているからナジェンダ元将軍が来る確率が高い。アカメに関してはわからない。陽動に出てくるかそれとも出てこないか……。

 

「俺はこれからやらなければならないことがあるから行かせてもらう」

 

「はい。了解しました。あの……帝具の適性検査はどうすればいいですか?」

 

そういえば……使い手のいなくなったヘカトンケイルの新たな所持者になれる奴がいないか検査をするようなことになってたな。

 

すっかり忘れていた。

 

「なら今から行ってくるといい」

 

「え……でも……」

 

「気にするな。足を負傷しているのだから逃げられることはない」

 

今さら逃げようなどとは考えないだろうしな。

 

 

 

 

その日の夜。

 

「……ついにか」

 

元大臣であるチョウリ様が帝都に向かうとランから手紙が届いた。

 

大臣のことだから暗殺者を仕向ける可能性が高いからランとボルスを護衛として送った。さらに兵士もつけている。

 

これでそうそう遅れをとることはないと思うが……。

 

俺の方でも少し釘を刺しておいた方がいいかもしれない。

 

大臣のことだから邪魔な相手を葬るために帝具の使い手を送り込むだろう。まあ、羅刹四鬼の可能性も否定出来ないが。

 

だが、今はエスデスが帝都にいる。ならば、その部下である三獣士が行く確率が高い。

 

全員が帝具の使い手であり、その実力も保証されている。

 

「……どうするか」

 

帝具使い同士が殺意を持ってぶつかれば必ずどちらかが死ぬ。もしくは相討ち。

 

…………俺が直接迎えに行くか。

 

多少道の整備が必要になるが……そうも言っていられそうにはないからな。

 

同じ帝国の軍人同士で争うことになるのは避けたいのだが。

 

すでに内乱に近い状況になってきているのだ。

 

あまり戦力を減らしたくはない。

 

「はぁ……」

 

溜め息が出る。

 

本格的に大臣を今すぐ斬り殺したくなってくる。だが、そうすると他の奴らが好き勝手やり始める。

 

すでに好き勝手やっているのに大臣がいなくなると、そいつらが個々に動いて余計に面倒なことになるから殺るに殺れない。

 

何度この考えに辿り着いたことか……。

 

まあ、それも我慢するしかないと溜め息を吐きながら俺は西で異民族に睨みを利かせている部外に西の地の現状を知らせるように手紙を書くのであった。

 

 

 

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