憑依者がいく!   作:真夜中

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30話 とばっちり

将来の目標というか望みを自覚し思いの外気分が良くなっていた俺は1人イェーガーズ本部の俺専用の一室でワインを飲んでいた。

 

あの後、エスデスが予想よりも20分近く早く現れ、ちょうどそのタイミングでサヨと少年がお互いの手を握り見つめあっていたのでちょっとした修羅場になって大変だったのだ。

 

室内の温度が一気に下がり、窓が凍りついた。

 

頬を赤く染め照れたようにはにかむサヨのことを真剣な表情の少年が見つめる。

 

まるで劇の一幕を見ているようだった。

 

まあ、当然その事が気に入らなかったエスデスの近くにいたウェイブが被害を受けた。手足を氷づけにされたのだ。

 

完全なとばっちりである。

 

その時のウェイブの悲鳴で我に返ったサヨは慌てた様子でウェイブの元に駆け寄り、エスデスは少年に首輪を着けると少年のことを抱きしめながら自室へと向かってしまった。

 

それから慌てた様子で帰ってきたボルスにサヨがウェイブの手足の氷をルビカンテで溶かしてくれと言って、危うくウェイブが焼き殺されるところだったがボルスがお湯を沸かして溶かしてくれたので何とかなり、サヨがウェイブの霜焼けの治療を行っている。

 

クロメは眠いと言ってさっさと部屋に戻って寝ているので、今起きているのは俺とサヨとウェイブとボルスの4人だけのはずだ。

 

もっともサヨとウェイブの2人もそろそろ寝るだろうがな。

 

「……手紙でも書くか」

 

大臣を始末してからの俺の目標が決まったのでそれをチェルシーに報せておこう。

 

その事自体は最後に少しだけで、本文はナイトレイドに潜入してからやってもらうことの内容だ。

 

幾つかあるが1つはな安寧道の教祖と会えるように渡りをつけてもらうことだ。これは確実にやってもらわなければ困る。

 

陛下のために必要不可欠なことだからだ。

 

やってもらうことをこと細やかに書き連ねていると部屋の扉がノックされた。

 

「誰だ?」

 

書くのを一旦やめて、扉をノックした人物にそう声をかける。

 

「えと、タツミです」

 

「少年か……入っていいぞ」

 

俺は椅子に座ったままそう言う。

 

「……失礼します」

 

声を小さくしながら少年が部屋に入ってくる。

 

部屋に入ってきた少年の格好は……一言で言うと以前と言っても何年か前になるが大臣の息子だと威張り好き放題やっていた婦女暴行犯に襲われた婦女に似たような感じになっていた。

 

着ている服が不自然に伸び、首には首輪の痕が残っている。後、キスマークも。

 

ちなみに件の男は手足の関節を1つづつ増やしてから捕らえて、大臣の権力を削るために利用させてもらった。まあ、あまり効果はなかったが……。

 

所詮自称大臣の息子だ。

 

体型からして大臣の息子だとは到底思えなかった。大臣とは違い武闘だったから余計によう思ってしまった。

 

確か……し、シラ? だったかスラ? だったか忘れたが……まあ、そんな奴がいたのだ。

 

婦女暴行犯は一言で言えば雑魚。武の心得はあるようだが……如何せん当時は経験も何もかもが少なかったからだろうかがとても弱かった。

 

事実、指1本で顎を揺らすだけで終わった。その後、帝都警備隊の拘置所に運んだのだ。そいつは目覚めた後にそいつを見張っていた兵士へと暴行を加え拘置所から脱走しようとしたので抵抗することも逃げることも出来ないように両手足の関節を1つづつ増やさせてもらったのだ。

 

「やけにボロボロだな」

 

「……あの人に私の色に染めてやる! て襲われましたから」

 

少年はとても疲れた様子で乾いた笑みを顔に張り付けながらそんなことを言った。

 

「そうか……」

 

よく無事ったものだ。俺としてはそこに驚きだ。

 

てっきりそのまま性的に捕食されているとばかりに思っていた。

 

「今は……無事だったことを喜ぼう。少年だって始めては好きな相手の方がいいだろう?」

 

「ええ……まあ、そうですね……」

 

ふと思ったのだが……エスデスは少年が抜け出したことに気がついているのでは?

 

…………これってかなり危なくないか……主に見つかった後の少年の身が……。

 

まあ……俺の部屋にいるからサヨやウェイブが被害を被ることがないのが救いだから良しとするか。

 

少年は敵なのだから。

 

以前、首斬りザンクとの時に少年を発見したときは少年を助けるようにアカメが現れた。

 

仲間でなければ目撃者としてあの場で始末されていたはず。

 

だが、今は少年がナイトレイドだろうが気にする必要はない。

 

本格的にぶつかるのはまだ先のこと。今すぐではない。サヨのこともあるしな。

 

「明日は大変だろうな」

 

「ハハハ……そうすっよね……」

 

ガクッと肩を落として陰鬱な様子で少年は深く深く溜め息を吐いた。

 

その様子は売れない本屋の店主(40代)を彷彿させる。

 

店をたたんで新たな仕事をするかこのまま頑張って店を続けるかの瀬戸際で迷い苦悩している姿に似ているのだ。

 

「まあ、拷問はされないだろうからそこだけは安心するといい」

 

「うわぁ……安心出来る要素が全然ない」

 

仮にウェイブであった場合は完全に拷問だったな。

 

たまたま近くにいただけという理由で手足を氷づけにされたのだから、それだけエスデスの中ではウェイブは拷問しやすい相手なのだろうしな。

 

ウェイブにとっては完全に不運でしかないのだが……。

 

 

 

 

一方その頃。別室でサヨに手当てをされているウェイブはというと……。

 

「ふう……軽い霜焼け程度で済んでよかったです」

 

「……俺もそう思う」

 

安堵の溜め息を吐くサヨとウェイブ。

 

「本当……ボルスさんが来なかったらどうなっていたことか」

 

「その時はコロちゃんにバクッとやってもらってました!」

 

「きゅうぅぅ」

 

サヨの言葉に反応したコロが巨大化しグッと拳を握りサムズアップをする。

 

しかも、大きく口を開けているので中にある鋭い歯が見えているのだ。

 

「…………食い千切らないよな?」

 

冷や汗をかきながら恐る恐るサヨにそう尋ねるウェイブ。

 

若干ではあるがその声は震えていた。

 

「大丈夫です! 私の手は食い千切りませんから」

 

晴れ晴れとした笑顔でそう宣言するサヨだがウェイブにはこう聞こえていた。

 

―――私以外の手は食い千切る! と。

 

ボルスさん、急いで戻ってきてくれてありがとう……と、ウェイブは心のなかでボルスに感謝の念を送っていた。

 

「そ、それよりも……記憶の方はどうだったんだ?」

 

「……駄目でした」

 

「……そっか」

 

「でも、平気です。例え思い出せなくても新しい思い出を作ればいいだけですから」

 

目をつむりながら静かに……だが、しっかりとした意識を乗せてそう言うサヨ。

 

「俺も協力するぜ、忘れられないような思い出作りをさ!」

 

「はい! ありがとうございます、ウェイブさん」

 

「おう! 後、さんずけはいらないぜ。歳も近いしさ」

 

「わかりました。今からウェイブと呼ばせてもらいますね」

 

霜焼けにも効くスタイリッシュ作の万能塗り薬を塗り終わり、サヨは塗り薬の入っている小瓶に蓋をすると元あった戸棚にしまう。

 

それからウェイブがサヨをサヨの自室へと送る。

 

「それじゃ、また明日な」

 

「ええ、おやすみなさい」

 

サヨはそう言ってから部屋の中に入っていく。ウェイブはそれを見届けると自分の部屋へと戻るのだった。

 

 

 

 

「………………………………………………意外と長くなってしまった」

 

あの後、少年を探しに来たエスデスによって少年が連れ去られ、俺は再び手紙を書き始めた。

 

そうしたら、思いの外永くなってしまったのだ。

 

大体4枚ほどだ。

 

「それしにしても……少年は無事だろうか?」

 

連れていかれる時に少年から助けてくれと視線で訴えられたが、気がつかない振りをして見送ってしまった。

 

まあ、命に関しては大丈夫だろうが……貞操が無事かはわからない。

 

仮に少年に恋人がいるなら悪いことをしてしまった。

 

まずは、そこを確かめるべきだった。だが、エスデスなら略奪愛も辞さないだろうという確信がある。

 

……今さらだな。

 

とりあえず、御愁傷様とだけ心のなかで言っておこう。

 

俺にはほぼ関係のないことだしな。

 

それよりも明日の予定についてだ。

 

明日はギョガン湖に最近出来た山賊の砦の破壊だ。イェーガーズ初の大きな仕事。

 

砦や拠点攻めは俺の得意とする分野だ。

 

本当なら今日のうちに行くはず立ったのだが、エスデスが少年を拉致してきたから急遽予定を変更した。

 

サヨの記憶を取り戻せる可能性も少なからずあっからという理由もあるが……。

 

それはともかくだ。……明日の昼にはギョガン湖にある山賊の砦をイェーガーズのメンバーで攻め落とす。

 

軍を使い攻め落とすのなら降伏すれば命をとらず、捕虜として連行し、強制労働に就かせるのだが……イェーガーズのメンバーだけで攻め落とすので山賊は皆殺しである。

 

実際、イェーガーズのメンバーならギョガン湖にある山賊の砦ぐらい単独で潰せるぐらいの実力はあるはず。ドクターを除いてだが……。

 

ドクターの帝具は戦闘用ではないからな。それを言ったらランの帝具であるマスティマも純粋な戦闘用の帝具ではないが、ラン自身が無手でもそれなりに戦えるので問題はない。サヨはコロがいるから問題ないし、クロメにいたっては骸人形、ボルスはルビカンテで一気に広範囲を殲滅出来る。

 

そして、ウェイブだが……鎧の帝具ということもありイェーガーズの中では最も防御能力が高い。

 

資料を見た限りでは、ウェイブ自身の腕も悪くないので山賊の砦ぐらいなら単独で攻め落とせるだろう。

 

「…………ふぅ」

 

軽く息を吐き出すと、俺は密かに部屋に持ち込んでいた剣をベッドのしたから取り出す。

 

鞘代わりに巻かれた布を取り払い、その全貌をさらけ出させる。

 

禍々しいオーラを放つ堕ちたる聖剣―――無毀なる湖光(アロンダイト)

 

「……久しぶりの出番だ」

 

ギョガン湖に砦を築いた山賊相手に使うにはもったいないが使うとしよう。

 

正直に言えばそこら辺に落ちている木の枝でも十分だと思っているが、ナイトレイドといつまみえてもいいようにこれからは常に持っていく。使うか使わないかは別としてではあるが。

 

俺が本気であることを知らせるのにはこれが1番手っ取り早いのだ。無毀なる湖光 (アロンダイト)を常に持ち歩くという行動で示すことで、俺が本気でナイトレイドを潰すつもりなのだと周りに知らせる。

 

当然、ナジェンダ元将軍は無毀なる湖光 (アロンダイト)のことを知っている。ならば、そこからすぐに想像がつくだろう。

 

俺やエスデスの様な革命軍にとって脅威となる存在は革命軍側のスパイによって行動を監視されいるのだから、そこから情報が行ったりもするはずだ。

 

そして、鞘代わりの布を無毀なる湖光(アロンダイト)に巻き付けて壁に立て掛ける。

 

「……さて、見直しておくか」

 

チェルシーから定期的に送られてくる手紙の内容を再確認する。

 

その中から今必要な情報のみを探す。

 

今必要なのは……チェルシーがナイトレイドに侵入することと安寧道の教祖と接触することについてだ。

 

犯罪者の情報については帝都警備隊の副隊長に渡してあるので問題はない。

 

捕まえるだけなら俺がいなくてもなんとかなる。でなければ情報は副隊長に渡はしない。その辺りはちゃんと自分で確認しているのだからな。

 

後は大臣の動向に注意しなくてはな。

 

チョウリ元大臣が政務に復帰したことで、反大臣側である良識派が力をつけ始めたが大臣が何の反応もしないので怖い。

 

チョウリ様も俺と同意見らしく、大臣の動向に気をつけている。

 

あの大臣がこのままなにもしてこないとは思えない。

 

絶対に何かしようとしているはずだ。

 

大臣のことだから絶対にろくなことにはならならいだろう。

 

このまま良識派が力をつけていくのを黙ってみているはずがない。

 

裏で何かしているはずだが……。

 

それが何かは不明だ。それゆえに手のうちようがない。

 

全く困ったものだ。

 

ただでさえ、幾人もの良識派内政官が大臣によって地方に送られ、その上で濡れ衣をきせて処刑されたりしているのだからそれを一気に行われたらとてもまずいことになる。

 

「……本当に面倒な相手だ」

 

やはり、大臣のことを考えると気分が沈んでくる。

 

この鬱憤は全部山賊へぶつけるとしよう。

 

八つ当たりで申し訳ないがな。

 

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