憑依者がいく!   作:真夜中

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31話 殲滅戦

「今日はギョガン湖にある山賊の砦を攻め落とすぞ。イェーガーズ初の大仕事だ」

 

俺は朝食を終えた後、上機嫌なエスデスに連れられた少々窶れた少年がいるところで今日の予定を発表したのだ。

 

「おい……」

 

「どうしたエスデス将軍?」

 

「初耳だぞ」

 

「当たり前だろ。今初めて話したんだからな」

 

当たり前のように返す。

 

本来ならエスデスには話しておくべきだったが、わざと話さなかったのだ。

 

特に深い理由はない。些細な八つ当たりのようなものだ。

 

地図をテーブルの上に広げ、山賊の砦のある位置に丸をつける。

 

「最近、ギョガン湖に山賊の砦が出来たのは知っているな」

 

「はい。帝都近郊における犯罪者たちの駆け込み寺ですね」

 

「ああ、サヨの言う通りだ。ナイトレイドのように居場所のつかめない相手は後回しにして分かりやすいのから順に叩いていく」

 

イェーガーズのメンバーの連携を高めるにはちょうどいいからな。

 

「敵が降伏してきたらどうします?」

 

ボルスの問いにエスデスが不敵な笑みを浮かべる。

 

「降伏は弱者の行為……。そして、弱者は淘汰されるのが世の常だ」

 

「……と、エスデス将軍は言っているが……山賊は皆殺しだ。ただ、1人も生存者は残さない。これは決定事項だ。イェーガーズが相手にするのは基本的に凶悪な犯罪者だ。それも確実に処刑となるような犯罪者をな」

 

そう言いながらイェーガーズのメンバー全員1人1人に視線を向ける。

 

誰1人として不満そうな顔はしていない。

 

皆、それぞれ覚悟は決まっているらしい。

 

ランやボルスは当然と言える。なんせ俺の副官と部下だからな。

 

「ランスロットが言っているようにこれからはこんな仕事ばかりだ。きちんと覚悟は出来ているな? 」

 

エスデスがイェーガーズのメンバー全員にそう問いかける。

 

その問いに真っ先に答えたのはボルスだった。

 

「私は軍人です。命令に従うまでです。このお仕事だって……誰かがやらなくちゃいけないことだから」

 

続いて鞘に収まったままの八房を握りながらクロメが答える。

 

「同じく……ただ命令を粛々と実行するのみ。今までもずっとそうだった」

 

次はウェイブが答える。その手には片刃の大剣である帝具グランシャリオの発動の鍵が握られている。

 

「俺は……大恩人が海軍にいるんです……。その人にどうすれば恩返しが出来るかって聞いたら、国の為に頑張って働いてくれればそれでいいって……」

 

そこで一旦話を切るとウェイブは大剣を背に背負う。

 

「だから俺やります! もちろん命だってかける!!」

 

そして、次にランが答える。

 

「私は何れ政界に出ます。ですが、政界に出る前にやることがあります。それを終わらせないと政界には出られません。こう見えてもやる気に満ちあふれてますよ」

 

そうだろうな。ランはかつての教え子たちの仇を討つという目的がある。政界に出たら例え仇を発見しても自らの手で仇を討つことが出来ないからな。

 

それは、やる気に満ちあふれているはずだ。

 

次はサヨが答える。

 

「私の覚悟は決まっています。記憶喪失の私ですが彼らの様な存在は許せません! きっと記憶を失う前の私もそう答えるでしょう……。迷う必要などありません!!」

 

サヨも覚悟は十分か。

 

後はドクターだが……正直に言ってドクターのは聞かなくてもいいだろう。

 

「ドクターはどうだ?」

 

聞くのか……。

 

「フッ……アタシの行動原理はいたってシンプル。それはスタイリッシュの追究!!!」

 

カッと眼を見開くドクター。

 

……聞かなくてよかったてはないか、エスデス。

 

ドクターは軍人ではなく研究者だ。医者の様なことも出来るが、本職は研究者だ。

 

「お分かりですね?」

 

「いや、分からん」

 

そこはエスデスに同意する。俺にも全く分からん。

 

「かつて戦場でエスデス様を見たときに……思いました」

 

昔を思い出すように眼を閉じるドクター。

 

「あまりに強く……あまりに残酷……ああ……神はここにいたのだと!!!」

 

そう言葉を発しながら次々とポーズを決めるドクター。そのポーズはいちいちやる必要があるのだろうか。

 

「そのスタイリッシュさ! 是非アタシは勉強したいのです!」

 

床に膝を着き、悩ましげな表情をしながらエスデスを仰ぎ見るドクターにさすがのエスデスもかける言葉が見当たらないようで無言である。

 

「……皆迷いがなくて大変結構……そうでなくてはな」

 

ドクターの発言をまるでなかったかのように振る舞いつつ、エスデスは帽子のつばを掴み、位置を調節する。

 

「では、出撃だ」

 

「行くぞタツミ」

 

エスデスが少年を連れていくつもりのようだが。

 

まあ、いいだろう。

 

「え……俺も!?」

 

寝耳に水だったのだろうが、エスデスが少年を見逃すはずがない。

 

「補欠として皆の働きを見ておくのはいいことだぞ」

 

……少年はイェーガーズの補欠か。

 

エスデスの独断にも困ったものだ。

 

俺は内心で溜め息を吐きつつギョガン湖へと向かうのだった。

 

 

 

 

ギョガン湖周辺山賊の砦付近。

 

少年とエスデスは2人っきりで山賊の殲滅戦を観戦ずるそうだ。

 

砦へと上がっていく階段の前で一旦立ち止まる。

 

そして、ランが上にある山賊の砦を見上げながら言う。

 

「地形や敵の配置は頭に叩き込みましたが作戦はどうしましょう?」

 

皆で上にある山賊の砦を見上げる。

 

「ドクター以外なら1人でも殲滅できるような相手だから正面から行くとしよう」

 

「帝具の能力は使う?」

 

「いや、クロメは使わなくていい。使ったら山賊程度なら超級1体で殲滅できる。今回は全員がどのように動くのかの確認のためでもあるしな」

 

「ん、わかった」

 

コクリとうなずくクロメ。

 

「それでは……さっさと終わらせるぞ」

 

そして、俺たちは山賊の砦へと向かって歩き出した。

 

 

 

 

山賊の砦の入り口が見えてくると、そこからぞろぞろと山賊が現れてくる。

 

その数は軽く数十人。

 

防具は顔を覆う鉄製のヘルム、服装は薄汚れた白いシャツの上に濃い緑色のジャケットを羽織ったものであり、器は拳銃とナイフ。

 

そんな集団が走ってくる。

 

そして、10メートルほどの位置まで来ると武器をこちらに突き出すように構えると話し出した。

 

「おいお前たちここがどこだか知ってて来てんのかぁ!?」

 

「正面からとはいい度胸じゃねぇか!!」

 

「生きて帰れると思うなよ!!?」

 

口々にそう言ってくる山賊の声には明らかにこちらを見下していた。

 

「うっはーっ、可愛い女の子もいるじゃねぇか」

 

「たまんねぇな連れて帰って楽しもうぜ」

 

ニヤァァ、と下卑た笑みを浮かべているのが声音からしてありありとわかる。

 

サヨもクロメも表情こそ動かしてないが、あの下卑た笑みを向けられては内心穏やかにはいられないだろう。

 

「さてと……門の破壊までは俺がやるとしよう」

 

背に背負っていたパルチザンを左手に持ち、右手に左腰に吊るしていた黒塗りの鞘から抜き出した無毀なる湖光(アロンダイト)を握る。

 

山賊の方に向かって歩き出すと俺に向かって山賊たちが武器を構えながら何の連携もなく駆け出してきた。

 

「…………」

 

俺は山賊たちとの距離を一瞬で詰めると左手に握っているパルチザン横凪ぎに振るった。

 

骨を砕く衝撃が腕に伝わりつつも左から右へと動かす。

 

その動作1つで目の前にいた山賊たちが10人以上吹っ飛んでいった。

 

「…………」

 

目の前で吹っ飛んでいく仲間を見ていた山賊が眼を見開き、口をあんぐりとしながら固まる。

 

隙だらけなので今のうちに門を破壊させてもらおう。

 

左手に握っているパルチザンを思いっきり投擲する。

 

砦の門にぶつかると、ゴオォンッッ!! と粉塵を巻き上げながら門が大破した。

 

「……脆いな」

 

溶断出来るほど赤熱化していないパルチザンを1回投擲しただけで壊れるとか……予想以上に門が脆かった。

 

ふと、背後に視線を移すと驚いているウェイブの姿があった。他の面子は普段と変わらぬ様子である。

 

そのうちウェイブも他の面子と同じようにこの程度のことでは驚かなくなるだろうと思う。

 

視線を前に戻すと腰を抜かして、四つん這いになりながら逃げようとしている山賊が数歩先にいた。

 

「ひ、ヒィッ!?」

 

俺が近づいてくるのを知るや否や顔を恐怖1色に染め上げてガタガタと震えてだす。

 

「……運がなかったな」

 

俺はそいつの足を左手で掴むと、そいつを砦の外壁に向けて投げた。

 

グシャリと潰れ外壁を赤く染め上げる。

 

目の前で起こった出来事に放心して隙だらけな山賊たちを次々と斬り捨てていく。

 

確実に殺すために首をはね飛ばし、胴体を両断する。

 

「こ、この、化け物め!」

 

少し離れた位置から拳銃を向けてくる山賊との距離を一瞬で詰めて、拳銃を握っている方の手首を斬り落とす。

 

その際に拳銃を左手で回収して山賊の頭に突きつける。

 

「へっ!?」

 

「その言葉は聞きあきた」

 

言うと同時に発砲。

 

その死に顔は自分の手が斬り落とされたことすら認識していなかった。

 

背を向け逃げ出す山賊たちに次々と発砲して仕留める。

 

特級危険種や超級危険種の動きと比べると動いていないに等しい。

 

……所詮は弱者しか狙わない賊徒か。

 

弾の切れた拳銃を足元に転がっている虫の息の山賊に叩きつけてから門の方へと歩を踏み出す。

 

「……なんだこれは?」

 

砦の外壁の上にいた山賊目掛けて高速で拳台の大きさの火を吹く何かが飛んでいった。

 

それは外壁にぶつかると同時に爆発。

 

振り返って見るとそこには二足歩行で両腕を真っ直ぐ伸ばし砲身の長い大筒を握っているコロの姿があった。

 

先ほどの何かはコロが握っている大筒から放たれたものだろう。その証拠にコロの握っている大筒の砲身からは煙が出ている。

 

この大筒はドクターの造り出した兵器で間違いあるまい。

 

視線を先ほど爆発のあった場所に戻すとそこは抉れていた。

 

威力も中々のものだと感じさせる。

 

量産したらコストのかかるものの防衛戦や攻城戦では使い方次第で無類の戦果を出すことだろう。

 

そんなことを考えているとクロメが1人砦へと駆けていく。

 

「行ってくる」

 

「ああ」

 

すれ違い様にそう言葉を交わし、クロメは砦の中へと入っていった。

 

 

 

 

それから数分もしないうちに山賊の殲滅は終了した。

 

ランが上空から逃げ出す山賊たちを羽根で撃ち殺し、ボルスが砦の外壁から弓で応戦してくる山賊たちを放たれる矢ごと焼き、クロメとウェイブは砦の中で山賊たちを斬り殺し、サヨはコロに跨がり弓で山賊たちを射抜いていった。ドクターは私兵で辛うじて生き残っている山賊を発見次第淡々と始末していたが。

 

大きな仕事ではあったが、イェーガーズ全員でやるような仕事ではなかったとつくづく思う。

 

だが、これでこの辺りの賊による被害は減少することは確実だ。

 

それだけでもやった甲斐はあるものだ。

 

これで商人や旅人たちも少しは安全にこの辺りを移動できるだろう。

 

山賊たちの死体はその砦ごとボルスに焼却してもらい、帝都に帰還。

 

今回の1件についての報告書をまとめ、ファイルに挟んでおく。

 

「結局……無毀なる湖光(アロンダイト)の出番はほぼなかったな」

 

イェーガーズ本部で無毀なる湖光(アロンダイト)の刀身を磨きつつぼやく。

 

無毀なる湖光(アロンダイト)についてこれは帝具なのか質問が来たが否と答えた。

 

無毀なる湖光(アロンダイト)の存在自体を知らないウェイブやサヨからは当然のように帝具でないなら何なのだと質問されたがその答えは内緒だと話して神造兵器であることは言わなかった。ドクターは調べたいから貸してくれないと言ってきたが……。

 

当然断ったが。その事もあらかじめわかっていたのだろうドクターは残念ねと肩をすくめていた。

 

ただ、例え神造兵器であることを素直に話しても誰も信じないだろうがな。代わりにドクターが物凄く興味を持ちそうではあるが。

 

ナイトレイドが相手であれば出番は少なからずあるだろう。

 

それ以外であれば滅多に出番はなさそうであるが……。

 

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