大変遅くなりました。
俺は今、イェーガーズ本部ではなく宮殿の中庭で陛下と一緒にいる。
陛下の手には帝国軍の一般兵士に支給されている剣の模造品が握られている。最も模造品であるが故に重量に関してはとても軽く身体の出来ていない陛下でさえも軽々と持てるほどだ。
俺が宮殿に来ることになった理由はドクターに帝具の引き渡しをするためだ。エクスタスとスペクテッドの2つである。
「く……鎮まりなさい……アタシの身体……スタイリッシュな男なら、罰ゲームの1つや2つ問題ないはずよ!!」
まるで薬物の禁断症状のように身体をビクンビクンと震わせながらドクターがぶつぶつと言っている。
スタイリッシュなポーズをとろうとする度に無理矢理変なポーズをするため、元々変だったポーズがさらに奇抜に変化してしまっている。
「な、なあ……ランスロット……その、ドクターはどうしたのだ?」
あまりにもおかしい様子のドクターに不安を覚えたのだろう。
「何か悪い病気を患っているわけではないのでご安心を。単に普段出来ていることが出来ないので少々おかしくなっているだけです」
「そ、そうか。何か悪い病気であるのかと心配になってしまったぞ」
ホッとしたように息を吐き出す陛下。
視線をドクターの方に移すと……。
「スタイリッシュな男なら……このくらい……」
震える左腕を右手で押さえつけるドクター。
……よし、見なかったことにしよう。
普通のドクターは罰ゲームが施行されてからわずか数分だけだった。
スタイリッシュを抜くとドクターが単なる薬物中毒者にしか見えなくなるので次からは別のにしよう。
「ドクターのことは放っておいて……陛下やりましょうか」
「うむ、よろしく頼むぞ」
コクリと小さくうなずくと陛下はは模造剣を正眼に構えて真っ直ぐに降り下ろした。
降り下ろした剣をまた正眼に構えると真っ直ぐに降り下ろす。
何度も何度も同じことを繰り返した。
その光景を見つつ、ドクターへと視線を向けると何かを悟ったような顔をしているではないか。
「そうだったのね……真のスタイリッシュとは内から溢れ出るもの、それに今さら気がつくだなんてアタシもまだまだね」
………………。
「ああ、今のアタシならわかる。人が内に秘めしスタイリッシュ度が」
どうやら、よくわからない謎の目覚めが起きているらしい。
人の内に眠る輝きなら未だしもスタイリッシュ度がわかるとは……。
ドクターが両手を広げ天を仰ぐ。
その動きは無駄に清廉されており、今までの奇抜なポーズよりも普通に決まっていた。
「新たな扉を開いたアタシはまさにスタイリッシュな男として1段階上に上がった」
…………俺は何も聞いてないし、何も見なかった。
何やら新たな扉を開いたドクターの邪魔をするのも悪いしな。
本音を言えば関わりたくない。それだけだ。
内なるスタイリッシュに目覚めたドクターなんか知らない。
■
その頃、イェーガーズ本部の医務室では……。
「コロちゃん、つまみ食いは駄目だからね」
「きゅ~」
コロが物欲しそうにお盆に乗っている炒飯を見つめている。
「あーん」
レンゲに乗った炒飯がウェイブの口元に運ばれていく。
「い、いや……自分で食べられるから」
「怪我人なんですから遠慮しないでください」
既に何度も行われたやりとり。
本来いるはずの医者も空気を読み、退出済みである。
退出する際に「……これが若さか」と哀愁の籠った言葉を口にしていた。
医者……37歳独身。過去に3人の女性とつき合うも全て破局。しかも、その内の2人
そんな医者の事情など知るよしもないウェイブとサヨであった。
■
「…………………………なあ、ランスロット」
「どうしました?」
「…………いいのか?」
「ええ……構いません」
そう、何やらよくわからない悟りを開き、自称新たなスタイリッシュに目覚めたドクターは近衛兵のスタイリッシュ度を測りに行ってしまったのだ。
その先で幾つもの雷が発生しているが……。
ドクターのことだから無事だろう。
結構しぶとそうなキャラをしているからな。
「それよりも……陛下はチョウリ元大臣、いえ今はチョウリ内政官でしたね。彼の後ろ楯にブトー大将軍がついたのはご存知ですか?」
「知っておるぞ。大臣が時折、は~……頑固親父2人のせいでストレスが溜まりますねぇ、と愚痴をこぼしてるからな」
「そうですか」
とりあえず、大臣が嫌なめにあっているので気分が良くなる。
人の不幸は蜜の味というが正しくそれだろう。
あの2方が組んでいるのだから大臣の動きはある程度抑えられる。
後はこのチャンスをどう生かすかだ。
革命軍の戦力を減らすか、大臣側の権力を削ぎ落とすか悩み所だ。どちらを選んでも最終的には両方をやることになるのだからそこまで考える必要はないが、どちらを先に潰したかで取るべき手が若干変わる。
1番良い展開は大臣を排除した上で革命軍に身を寄せている内政官らをこちら側に引っ張ることだ。
革命軍側を下手に弱らせると大臣に対する圧力が弱まってしまう。
それは俺が困る。少なくとも革命軍にはこちら側の注目を集めていてもらわなければならない。
そうすることで俺が裏でこそこそと謀りやすい。
怪しまれても革命軍に対するものだと言えば強くは突っ込まれないからだ。
「……ランスロット。今亡き父上が帝国を見ていたらどう思うだろうか?」
「わかりません。陛下のお父上とは話したことは皆無に等しいので。ただ……悲しむとは思います」
「……そうか」
「ええ。ブドー大将軍やチョウリ内政官は陛下のお父上がご存命の頃から軍人、内政官として働いていたはずですので2人に聞けば詳しくわかると思います」
ここで大臣の名前を出さない。
帝国の腐敗を一気に進めた男に聞いたところで都合の良い嘘を吹き込まれるだけだ。
大臣が勢力を急激に伸ばしたのは先代が亡くなってから。
つまりは……それなりに知恵があったということ。
ただの愚か者であれば大臣の力は今以上に強大であったはずだ。
まあ、それでもこの有り様なのだから能力はたかが知れているのだろう。
……そういえば……先ほどからうるさいくらいに落ちていた雷が無くなったな。
■
「ンフフ……雷に対しての耐性もバッチリ! さすがアタシね」
そう喜びはしゃぐ、スタイリッシュの視線の先には銀色に輝く武骨な鎧を装備した体長2メートルを超える筋骨隆々な大男の姿があった。
「そうかよ」
不機嫌そうに呟くのは銀色に輝く武骨な鎧を着た男……オーガである。
既に帝都警備隊隊長だった時の面影はなく誰1人この男がオーガと気がつくことはなかった。それ故にこの男は宮殿に入れたのだ。
「ああ、オーガあなたにこれを渡しておくわね」
スタイリッシュがオーガに向けて
「いいのか?」
帝具を受け取り、スタイリッシュに尋ねた。
「ええ、問題ないわ。あなたの新しい目になりそうだしね」
新しい目……帝具、スペクテッド。
それがオーガの手に渡った帝具の名称である。
「なら、ありがたく頂戴するぜ」
---これでまた、1つあいつを殺すための力が手に入った。
「さてと、そろそろ行きましょうか」
---エスデス隊長も最悪タツミを殺しても構わないって言ってるし、見つけたらオシオキして殺しちゃいましょ。危険な芽は早めに摘み取らないとね。
内心ほくそ笑むスタイリッシュは帝都の外へと向かうのだった。
オーガはスタイリッシュの後に続く、この後に起こる戦闘が自分の最後の戦いであることを知らずに。
■
夜。ナイトレイドのアジト。
そこではエスデスとの戦いでの疲れの大半を回復させたブラートを交えてタツミの帰還を祝い宴を開いていた。
「プハーッ! さすがブラート、あのエスデスを負傷させるなんてボスも知ったら大喜び間違いなしだ!」
木製のジョッキに入ったお酒を一気に飲み干してレオーネが上機嫌にそう言う。
「さすが兄貴だぜ!」
タツミは尊敬の眼差しをブラートに向ける。
ブラートが負傷しアジトに戻ってきてから、その負傷の理由を聞いてタツミはブラートに向ける尊敬の念がより一層高まった。
現在の目標はブラートと肩を並べられるほどに強くなることであり、普段の訓練にいつも以上に気合いが入っていた。それこそもうオーバーワークだと思われるくらいに。
「おうよ! 百人斬りのブラートの名は伊達じゃないぜ!」
ビシッと親指を立てて決め顔をするブラート。
「あとこの場にボスがいればナイトレイド全員集合でしたね」
シェーレが自分の食べる分の肉を切り分けながら言うとマインがうなずいた。
「そうね。革命軍の本部に戦力の補充に行ってるけど、どうなのかしら?」
「ナジェンダさんのことだからあてがないわけじゃないだろうけど……」
「うむ。ボスのことだからあてがあるのだろう」
ラバックの言葉にうなずくアカメ。
真面目な顔をしているが、その両手には手羽先が握られていた。
「それにしても……」
マインの視線の先には飲み比べをするブラートとレオーネ、そして……次々と酒を追加するタツミの姿が映っていた。
「……心配して損したわ」
エスデスに捕まり、同郷の者と再開するも相手は記憶を失っていた上に自分たちの敵となっていたのだ。
だからこそショックを受けているのではないかと心配していたのだが、それは杞憂に済みそうなので言葉ではそう言いつつも仲間として認めているタツミの普段通りの姿に安心していた。
そんなマインの内心をシェーレは察しており、クスリと笑みを浮かべている。
素直じゃないんだからと、妹を見守る姉のような暖かい視線をマインへと向けていた。
「…………」
ラバックはラバックでマインちゃんまで……と1人ショックを受けていた。
そして、悔しそうな顔をすると行き場のない思いを糧にやけ食いを始める。
「む!」
やけ食いを始めたラバックに自分の分まで食べられるのではと危機感を抱いたアカメが料理を食べる速度を上げる。
とても暗殺集団の一員には見えない光景であった。
■
深夜。
宴も終わり、皆が寝静まった頃、ナイトレイドのアジトから少しばかり離れた場所にスタイリッシュはいた。
傍にチームスタイリッシュの面々の中でもとりわけ贔屓にしている面子を置いて。
「このトローマが1人仕留めましたぜぇ! 引き続き任務を続行します! とのことです、スタイリッシュ様」
ナイトレイドのアジトに侵入を果たしたトローマの言葉を強化された聴力で聞き取り、伝える女装少年。
スタイリッシュからは耳と呼ばれている。
「上出来よ。さすが、桂馬の役割……敵地に飛び込んだわね」
自分たちの出番が来たことを察する強化兵たちが何時でも飛び出せるように四肢に力を込める。
「さあ、チームスタイリッシュ……熱く激しく攻撃開始よ!!」
その言葉を待っていたとばかりに強化兵たちが動き出す。
「いい!? なるべく死体は損壊しないで持って帰るのよ! 生け捕りなんか出来た人は一晩愛してあげるわ!」
普段のスタイリッシュならば確実にこの場面で自身がスタイリッシュだと思うポーズをとっていただろうが、そんなことはなかった。
スタイリッシュなポーズをやらないという約束を未だに守っているからだ。
スタイリッシュな男は約束を破らない。内なるスタイリッシュに目覚めた故の結果である。
やったことと言えば眼鏡を右手の中指でクイッと押し上げて位置を調節したくらいのもの。
「……しかし、いいのですか? エスデス様やランスロット将軍に賊のことをお知らせしなくて」
そうスタイリッシュに尋ねる男。
スタイリッシュに目と呼ばれる男だ。
「ふふ……ナイトレイドにその帝具……こんな最高の実験材料がいーっぱいなのよ。独り占めしなくてどうするのよ!」
「では、お嬢に声をかけなかったのも?」
そう尋ねるのは地面に四つん這いになった男。
スタイリッシュからは鼻と呼ばれている。
ちなみにお嬢とはサヨのことである。チームスタイリッシュの面々からはドクターの次に好かれているのだ。
それ故にお嬢。
もしウェイブがサヨを泣かせたらチームスタイリッシュ全員がウェイブを潰しにかかる計画を密かに立てていたのは言うまでもない。
サヨがチームスタイリッシュの面々から好かれている理由は単純に分け隔てなく接してくれたからに他ならない。
ホモだろうがレズだろうが元犯罪者だろうが見た目が変だろうが、サヨは一切偏見の目で見ることはなかった。
だからこそチームスタイリッシュの面々から好かれているのだ。
「あの子はウェイブの看病をしてるからね。それに、結果を出せばランスロット将軍は黙認するでしょう。
---既にオーガはナイトレイドのアジトに向かってるしね。
「カクサン、トビー……アナタ達は大物相手よいける? 」
「ワッハハ!! 問題ないですぜ!」
「最高のコンディションです。誰にも負ける気がしません」
カクサン、トビーの両者とも各々返事を返す。
万物両断エクスタスを片手に持つカクサンと全身機械化したトビーはナイトレイドのアジトへと向かう。
己が狙う相手を仕留めるために。
「ああ……ショーの始まりね。ゾクゾクするわ」
チームスタイリッシュとナイトレイドの戦いが幕を開けた。
そして、ナイトレイドのアジトの方に2つの影が迫っているのだった。その距離は未だ遠く参戦の時までまだしばらくの時を有する。