憑依者がいく!   作:真夜中

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37話 帰還と目覚め

「……残るは4人だけか」

 

スタイリッシュがサヨに連れられ帝都に帰還すると同時刻には強化兵は目、耳、鼻を除き全滅。

 

オーガは上半身剥き出しの格好でナイトレイドの前に立っている。

 

目、耳、鼻の3人はオーガの背後におり、この絶望的状況を打開するためにスタイリッシュの残した切り札を使うかどうかの判断に迫られていた。

 

4人の前にいるのはブラートと途中からナイトレイド側の援軍として現れたスサノオ。

 

その2人により、強化兵は軒並み討ち取られた。

 

レオーネは未だにスタイリッシュの散布した薬の影響で満足に動けない仲間を守るようにブラートとスサノオの後ろで待機している。

 

決着の時は近い。

 

 

 

 

「……なんすか……この状況?」

 

この場の混沌した様子に意味がわからないといった様子のウェイブ。

 

「……急に部屋が磯臭くなった」

 

ウェディングドレスの胸元を片手で押さえつつ、クロメがそんなことを言った。

 

「酷っ!?」

 

部屋に入ってきてそうそうそんなことを言われると思っていなかったのかショックを受けた様子のウェイブ。

 

「気にすることはない。単にクロメの機嫌が少し悪いだけだ」

 

押さえてないとすぐにずり落ちてしまうウェディングドレスに涙目になっているクロメをあやしつつ言うとウェイブが2回目を擦った。

 

「…………何があったんすか? 」

 

その言葉に全ての疑問が集約されているように感じた。

 

「……色々あったんだ」

 

ただこの一言だけ言えば理解できるだろう。

 

状況が状況だけにな。

 

 

 

 

「…………何で俺まで」

 

ウェイブが部屋に入ってきてから約20分。

 

ウェイブはウサ耳ヘアバンドを付けるはめになっていた。

 

原因はクロメがウェイブを罰ゲームありのトランプに誘い、ランと共謀してウェイブをはめたからだ。

 

「イエーイ!」

 

クロメとランがハイタッチを交わし、ボルスがダンボール箱の中からピッチピチの黒タイツを取り出してウェイブに手渡す。

 

「これも着てね」

 

「…………マジっすか」

 

嘘ですよね、と黒タイツとボルスに交互に視線を移すも、ボルスはウェイブの言葉に首を左右に振るだけで答えた。

 

「ウェイブ―――」

 

俺は指で着替え専用のエリアを指差す。

 

「―――着替えてこい」

 

死刑宣告をされた無罪の人のようにどんよりとした空気を醸し出しながらウェイブがトボトボと着替え専用のエリアへと移動する。

 

ドクターとサヨが戻ってくる僅か10分前の出来事であった。

 

 

 

 

―――ザンッ!

 

夜の暗闇の中、首が1つ宙を舞う。

 

その首の持ち主の身体は仰向けに地面に倒れた。

 

「相手に切り札は使わせないようにするのは基本だろ?」

 

すでに事切れてしまったオーガに投げかけられた言葉。

 

首を飛ばされたのはオーガ。

 

目、耳、鼻もそれぞれ打ち取られてしまっている。

 

オーガは目からスタイリッシュの残した切り札を奪い、使おうとしたところをブラートによって殺られたのだ。

 

スペクテッドを使っていようと帝国最強格とも存分に戦える実力者であるブラートの動きに反応しきれなかった。

 

反応しきれていればこの薬を使うことが出来たのだが……それはすでにもしもの話であった。

 

「……皆、無事か?」

 

空からエアマンタが降下して、地面に着くとエアマンタの上から飛び降りたナジェンダがそう声をかけた。

 

チェルシーはエアマンタの上から降りることなく、身を乗り出すようにして下を覗く。

 

―――無傷とは言えないけど誰も軽傷以上の怪我は無しか……イェーガーズのメンバーの実力次第では確実にイェーガーズが全滅しそうかな。

 

いくらエスデスやランスロットのような破格の戦力がいようともナイトレイドにもその2人に対して真っ向から戦える実力者はいる。

 

「……やっぱり、百人斬り(ブラート)は別格かぁ~」

 

私じゃ相手にならないし、他のメンバーを殺るにしても不意討ちじゃないと絶対に無理そうだし……どうしようかな? と再会を喜ぶナイトレイドのメンバーたちを観察しつつチェルシーは新しい棒付きキャンディーを取り出す。

 

―――私も遠くまで来たもんだよね。

 

ランスロットと出会い、今に来るまでのことを思い返すとつくづくそう思ってしまう。

 

元々ただの地方の領内の役場に勤める一般人だったのに……今ではスパイ活動をする暗殺者。

 

人生どう転ぶかわからない。

 

ボスであるナジェンダとの再会を喜ぶナイトレイドのメンバーたちから視線を外して帝都の報へと視線をずらして想いを馳せる。

 

「……次はいつ会えるのかな」

 

何もなければ帝都にいるであろう人物のことを思いチェルシーは呟くのだった。

 

 

 

 

「…………ウェイブ」

 

「……サヨ、こんな俺を見ないでくれ……ッ!」

 

シリアスな雰囲気のウェイブとサヨであるが実際には全身黒タイツにウサ耳を着けたウェイブをサヨが憐れんでいるだけだ。

 

「……こうか?」

 

「いえ、もっとこう……腰を反らして」

 

そして、ドクターはエスデスに対して悩殺ポーズのレクチャーを行っていた。

 

戻ってくるなりこれだ。

 

確かに遊んで待っていたから俺にどうこう言う資格はないだろうが……ドクターはこの状況に順応するのが早すぎでないか?

 

戻ってきて早々……少年を悩殺するためのポーズを研究していたエスデスにポーズのレクチャーを始めたのだから。

 

サヨにいたってはウェイブの姿を見るなり……すぐさまウェイブを慰めに行ったのだから、ウェイブがどれだけどんよりとした空気をしていたのかがすぐにわかる。

 

「………………いつまでこれを着てればいいんだろうか?」

 

「わからない」

 

「…………はぁ」

 

俺はクロメを膝の上に乗せたまま溜め息を吐いた。

 

ポンポコおねすと君着ぐるみを早く脱ぎたいのだが……クロメも早く元の服装に着替えたいだろうし、遊びを終わりにしたいのだが……。

 

ボルスとランの2人は未だにトランプをやっているのだ。

 

ソリティアと呼ばれるゲームであり、何手で終わらせられるかを競っていた。

 

……ともかく、イェーガーズが全員揃ったのでこの遊びは終わりにしよう。

 

 

 

 

遊びを終わりにして、約10分。

 

罰ゲームの衣装から普段着に着替え、会議室に場所を移し、全員が席に着いた。

 

「……これより会議を始める。いくつか報告することがある。まず1つ……西部戦線において帝具使いが発見された」

 

「発見されたって味方じゃないんですか?」

 

「今なお戦争中の西の異民族の将が使い手らしい。帝具の形状は斧……おそらく二挺大斧ベルヴァークだ」

 

「……ほう」

 

エスデス直属の帝具使い三獣士の1人ダイダラが使っていた帝具だけあってエスデスの視線が鋭くなった。

 

「……確かその帝具は竜船での一件で革命軍に渡ったと考えられていたはずですが……まさか」

 

革命軍が西の異民族に帝具を流したのでは? とランが言うまでもなく全員の脳裏に考えが浮かんだのだろう。

 

特にウェイブとサヨは怒気を放っていた。ボルスやクロメはそこまでではない。

 

ボルスは軍人としてウェイブよりも長く勤めている故にこのような手段がとられることも理解している。

 

クロメは暗殺者だ。どのような事態が起こってもその都度臨機応変に対応出来なければ死ぬような任務についていたのだからこれくらいのことで慌てたりはしない。

 

ウェイブとサヨは革命軍が敵に帝具を横流ししたせいで死ぬことになった兵士たちのことを思って憤りを感じているのだろう。

 

俺もそのせいで部下が死ぬことになったので……腹に据えかねている。何かで気を紛らわさないと革命軍の本拠地を動員出来る最大限の兵力で攻め落としに行きかねないくらいには……。

 

そうなると大臣への牽制となる存在が消えてしまう。

 

故に……罰ゲームで気を紛らわしていたのだが……思い出すだけで再び怒気が再燃する。

 

これは俺の失策だろう。帝具を回収せずに革命軍に渡るのをよしとしてしまったのだから。

 

だが、帝具を回収していれば、その場にいたのに何故三獣士と共に賊を討たなかったのだと責められる口実を作ってしまう。

 

故に帝具を回収しなかったのだが……それが裏目に出た。

 

俺はこうなる可能性をもっと考えておくべきだった。革命軍が俺のことをどれだけ邪魔に思っているかを。

 

革命軍の本拠地に動員出来る最大限の兵力を率いて攻め落としに行こうと思うのは俺自身の失策に対する八つ当たりだろうな。

 

自覚しても抑えが効かない。

 

後悔先に立たずとはよく言ったものだ。今の俺がまさしくそうじゃないか。

 

だが、今は後悔している時じゃない……今は他のことが先だ。八つ当たりなどしている暇があるのなら……その分の時間を有効に使わなくてはならない。

 

「2つ目は革命軍のスパイが帝都で数十人ほど発見された」

 

「それについては私が拷問して、情報を吐かせている」

 

たいした情報は持ってなかったがな、とエスデスは肩をすくめる。

 

「3つ目は帝国の暗殺チームが幾つか壊滅。さらには革命軍に潜入していたスパイ数人からの連絡が途絶えた。おそらく始末されたのだろう」

 

チェルシー以外にも送っていたがそいつらからの連絡が無くなったので革命軍の動向を知るのが難しくなった。

 

元々チェルシー以外のは当たれば儲けもの程度のだったゆえにそこまで重要ではない。

 

革命軍のとれる手段はある程度想像がつく。

 

動向を知るのが難しくなろうがどうとでもなる。

 

打倒すべき相手は決まっているのだから。

 

「まあ、3つ目にいたってはイェーガーズに関わるようなことではないのでこれといって気にする必要はない」

 

イェーガーズの領分はあくまでも賊の討伐。

 

そこから大きく外れるようなことをする必要はない。

 

「最後にイェーガーズが最優先に狙う相手はナイトレイドだ。それ以外の賊も討伐対象ではあるが……ナイトレイドと賊の討伐が重なった場合はナイトレイドを優先することになる。その時は他の部隊もしくは帝都警備隊が賊を討伐する手はずだ」

 

ナイトレイドとイェーガーズの戦力はだいたい互角と考えていいだろう。ブラートはエスデスが相手をすれば問題ない上にアカメに関してはクロメもしくは相性的にウェイブ。

 

厄介な相手を押さえる人員は揃っている。

 

ナジェンダ元将軍も全盛期の頃の力はないはずだ。ランやボルスでも十分に殺れる。他にも注意すべき相手はいるが……それはドクターとサヨに任せれば問題あるまい。

 

「……でだ、ドクター……何をやっていた?」

 

俺はドクターがサヨに迎えに行かせるような時間まで何をやっていたか問いただすことにした。

 

 

 

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………」

 

ドクターの話を聞くと会議室が重苦しい沈黙に包まれた。

 

溜め息すら出ない。

 

帝具が2つナイトレイドに渡った。それだけでなく増援まであったそうだ。

 

しかも、偽・アドラメレクという切り札の兵器の1つがブラートに防がれたらしい。

 

一網打尽にするチャンスだったのだが、インクルシオの防御力が想像していたよりも高かったので普通に防がれたのが原因のようだ。

 

これで電撃も効果が無いに等しくなったか。

 

インクルシオの元となった危険種タイラントは適応力が高く、その特性が引き継がれているであろうインクルシオに同じものは効きにくい。

 

エスデスにより亀甲縛りにされているドクターが肌に食い込む縄に悶えているがそれは気にしない。

 

現にランやボルスは全く気にしていない。単に意識して見ないようにしているだけかもしれないが。

 

「ぁ……あっ……あっつ!?」

 

クロメは亀甲縛りされているドクターの背中に蝋燭を垂らしている。

 

これもエスデスの命令だ。

 

ウェイブとサヨは自室に帰らせた。

 

こんなものを見せる必要はない。

 

…………また新しい扉を開こうとしているドクターの姿なんてな。

 

「ウェイブと違って特に鍛えていたわけではないからこんなお子さまレベルの拷問で済ませているが」

 

ウェイブだったら完全に拷問だったんだな。

 

ここに本人がいなくてよかったと心から思う。

 

「まあ、ナイトレイドの戦力がより詳細に把握出来たことは唯一のプラスですね」

 

「そうだね」

 

ランやボルスの言う通りプラスがあるだけマシだと言えるな。

 

仮にドクターが討たれていたらそれこそ大損害だった。

 

帝国最高の技術力を誇るドクターは代えの利かない人材だ。

 

それも当然ナイトレイドないし革命軍も理解しているだろう。特にドクターはイェーガーズの中で1番戦闘能力が低いのだから、狙われる可能性はかなり高い。

 

「話を聞く限り……エクスタスについては元の使い手の手に戻っただけと言えるな」

 

スペクテッドは使い手がいるのか不明だが、いたとしたら面倒なことになりそうだ。

 

幻覚による同士討ちを狙うとかもありそうだから、そこに注意しなくてはらない。

 

「だね。でも、スペクテッドが奪われたのは痛いね。エクスタスのように当たらなければいいって訳にはいかないし」

 

「そうだな。いくら作戦を立てようが全て筒抜けになってしまう。これは軍隊レベルでの戦闘になった時はかなり痛いぞ」

 

エスデスの言う通り、軍隊レベルでの戦闘になった時はかなり痛い。

 

俺やエスデスのように多少の戦力差は個人でどうもでも出来るような存在は中々いない。故にスペクテッドが奪われたのは不味い。

 

「やっぱり今からでもナイトレイドのアジトに行くべきかな?」

 

クロメがドクターの背中に蝋燭を垂らしながら尋ねてくる。

 

ドクターの悶える姿を極力視界に入れないようにしつつ、首を1度左右に振る。

 

「いや、すでに移動しているだろう」

 

「だろうな。アジトが攻められたのだ移動しないはずがない」

 

最も……明日はそのアジトに行くことになるだろうがな。

 




次は番外である過去編になります。

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