憑依者がいく!   作:真夜中

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番外過去編 勧誘

宝物庫の扉が開けられる。

 

チェルシーが宝物庫の中に先に入り、その後に俺が入った。

 

「宝物庫と言う割には……そこまで手入れがされてないな」

中に保管されている像は埃を被っているし、鞘に入っていない刃剥き出しの剣は若冠錆び始めている。

 

「まあ、それよりも私が見てほしいのはこれよ」

 

チェルシーがそう言いながらランタンを木箱の上に置いてクリアケースの中に入った化粧品箱を持って俺に見せてきた。

 

「…………まさか、これは……っ!?」

 

「気がついた? そうこれは将軍が察した通りの代物よ」

 

チェルシーの持っているクリアケースに入っているのは俺が探していた帝具に他ならなかった。

 

変幻自在ガイアファンデーション。

 

これこそ俺が発見次第破壊しようとしていた帝具。

 

「そして……私はこれを使える!」

 

チェルシーがクリアケースした中からガイアファンデーションを取り出す。

 

「…………」

 

使い手がいるのは想定外だった……。

 

これがチェルシーが俺にチェルシーを切り捨てることが出来ないようにする札だったのか。

 

確かにこれは切り捨てるには惜しい。

 

安全ということを考えるなら壊した方が確実……だが、使い手をこちらに引き込めるなら! 特に部下として欲しい。

 

そうなれば色々と仕込む必要があるが、情報を探る面では圧倒的なアドバンテージと潜入などの危険で難易度の高い任務を比較簡単にこなすことが出来る。

 

どう? としてやったりとした様子のチェルシーに思わず予想をいい意味で裏切ってくれた嬉しさが込み上げてくる。

 

「ああ……最高だ。最近の出来事の中で最もいい出来事だ。チェルシー……ものは相談なのだが……俺の元に来る気はないか?」

 

「……はい?」

 

「急にこんなことを言われても困るだろうから返事は後でいい。とりあえず、俺がチェルシー……お前のことを必要としているとだけ理解してくれ。嫌なら当然断ってもいい」

 

言葉には出さないが断られたら当然ガイアファンデーションは破壊する。

 

ガイアファンデーションは絶対に大臣側に渡してはならない帝具だからだ。

 

「ただ、返事は3日後で頼む。その日に俺はこの地から帝都に戻るからな」

 

「……3日後。なら、その日まであなたのことを色々と教えてくれる?」

 

「もちろん。そうじゃなきゃ困る。太守への目眩ましも兼ねてお互いのことをより深く知ろう」

 

お互いのことを知らなければ信頼関係は築けない。

 

特にスパイをやってもらうつもりなので信頼関係は強ければ強いほどいい。

 

ドロンとチェルシーの姿が猫のものに変わる。そしてすぐに元の人としての姿に戻った。

 

「ちゃんと使えてるでしょ?」

 

ふふ、と小さく笑うチェルシー。

 

「ああ……ますます欲しくなった」

 

するとポッとチェルシーの頬が赤くなった。

 

「……ま、まさか……そんなストレートに言われるなんて……ちょっと恥ずかしいわね」

 

単に俺の言葉が照れくさかったようだ。

 

「と、とりあえず……明日から人前では恋人……いえ、愛人? のように扱ってね」

 

恥ずかしさを誤魔化すように捲し立てて言うチェルシーの様子に新鮮な気分になる。

 

このようなやりとりは初めてだからだ。

 

「わかった。可能な限り善処しよう」

 

今こそロクゴウ将軍から渡された本の力を使うときだな。

 

まさか……役に立つ日が来るとは夢にも思ってなかった。

 

「ランスロ……これを読めば春はすぐに来るぜ!」と無駄に凛々しい表情をしていたロクゴウ将軍の姿が思い出される。

 

タイトル……あなたに春を呼ぶ方法~~~意中の相手を落とす手段編。

 

である。

なんとなく読んでみたが……意外と使えそうなものが幾つかあったのだ。

 

何故か……同性編というオマケがついていたが……。

 

それは気にしない方針で行こう。

 

それに今の帝国に普通の出会いを求めるのは間違っているしな。

 

 

 

翌日。

 

城の壁に不自然な壊れ方をした部分が発見されて、それを直すための職人が呼ばれた。

 

「それにしても……あの太守の下卑た顔……全く隠す気が無かったわね」

 

「だな」

 

今朝、太守は当たり前の如く「昨夜はお楽しみになられましたか?」といやらしい顔で聞いてきた。

 

「中々に楽しい時間だったと言うだけで勝手に邪推してくれるんだから楽ではあるが」

 

「まあね。私も深く聞かれずに済んだから楽だったわ。だって……」

 

照れたような表情になるチェルシー。

 

「こんな顔をして……軽く俯いて恥ずかしそうにボソボソとそれらしいことを言うだけで勝手に勘違いしてくれるからね♪」

 

照れたような表情から一変、してやったりとした顔になる。

 

「お陰でこんな風に街中に出ても監視の目がつけられてないんだからな」

 

勝手に邪推した太守が俺とチェルシーの2人で街に行ってきたらどうです? と言ってくれたお陰で街に出られたのだ。

 

「あと、今さらだが……言葉使いは好きにしていいぞ」

 

「あ!? 」

 

「意外と言うか……チェルシーは微妙に抜けているな」

 

「……不覚」

 

まあ、俺と同じような年齢なのだからしょうがないか。

 

まだ、20にはなっていないのだから。

 

「……くっ、まあ……いいわ。なら、私はあなたのことを将軍じゃなくてランスロって呼ばせてもらうから」

 

「いいぞ。好きにしていいぞと言ったのは俺だからな。ただし、公の場では呼ばないようにな」

 

「わかってるわよ。そんなヘマはしないわ」

 

意外と抜けているところがあるので今一信用できない。

 

「まあ、気をつけてくれ」

 

それだけしか言えない。

 

「……信用してないわね」

 

「つき合いが短いからな」

 

「ま、いいわ。それよりも今日はどうするの?」

 

今日の予定か……。

 

「そうだな……とりあえずは何処かゆっくりと座りながら話せる店に行こう」

 

「それなら行きつけのお店があるからそこにしましょ」

 

「なら、頼む」

 

地元の人間行きつけのお店ならハズレは滅多にないだろうしな。

 

ハズレたらハズレたらでチェルシーの味覚がどんなものか把握できる。

 

 

 

 

「中々に良い場所だな」

 

チェルシーに案内された店は外見こそ至って普通のそこら辺にある店と変わらないが、落ち着いた雰囲気がある。

 

「でしょ!」

 

得意気に微笑むとチェルシーはここよ、と店のテラスの右端の席に着く。

 

「……ほう」

 

チェルシーの座った席の対面に座るとテラスから城の姿が見えた。

 

「良い眺めでしょ?」

 

「確かに……良い眺めだ」

 

城を見ながら飲んだり食べたりするのは普段の食事とはまた違った感じだ。

 

さて、どう口説き落とすべきか……。

 

それが問題だ。

 

恋愛感情で相手を落とすのではなく、部下……それもかなり重要なポジションに就いてもらうためかなり身の危険がある。

 

これだとロクゴウ将軍に貰った本は役に立たないな。

「どうしたの?」

 

「いや……どう口説き落とすか悩んでた」

 

「……それ、口説き落とす本人が目の前にいるのに言っちゃう?」

 

「お前のことが欲しいと言ったが……結構身の危険があるしな。俺は敵が多い」

 

味方よりも敵が多い現実。

 

特に内側にいる敵が多い。

 

外敵と違って武力で解決出来ない故に難敵である。

 

「……やっぱり、危険なんだ」

 

「そうだな。元々ガイアファンデーションを破壊するためにこの地に来たからな。チェルシーと言う使い手がすでにいるとは思ってなかったんだ」

 

「そうだったんだ。じゃあ、もし私が帝具使いじゃなかったらランスロは私を口説き落とそうとはしなかったのね?」

 

「正解だ。一般人を厄介事に巻き込むのは本意じゃない……自ら厄介事に首を突っ込むようであれば自己責任だが」

 

帝具使いじゃなかったら俺はガイアファンデーションを破壊した後、この街から出ていくと見せかけてここの太守を暗殺するつもりだったのだから。

 

この身は一般人を遥かに凌駕する力を秘めているのだからそれぐらいは容易い。

 

でなければ無毀なる湖光(アロンダイト)を使わずとも幾多の戦場で武勲を上げることは出来なかったはずだ。

 

馬上槍を投擲して敵拠点で指揮を執る指揮官を討ったり、雨のように降ってくる矢の中を両手に持った槍で当たりそうなのを打ち払いながら敵陣に向かって駆けることなど出来なかった。

 

故に無毀なる湖光(アロンダイト)を使う機会はほとんどない。

 

使うような敵がいないのだから。

 

超級危険種には使うしかなかったが……。

 

普通の武器では武器がもたない。物によっては超級危険種の身体を斬りつけただけで刃が欠ける。

 

その点無毀なる湖光(アロンダイト)であれば刃が欠けることなく容易く超級危険種の身体を斬り裂く。

 

今のところ偶然に遭遇したタイラントと呼ばれる超級危険種しか倒していないが……そのうち他の超級危険種を狩る機会があるだろう。

 

まあ、それは置いておいてだ。

 

「これは昨日も言ったが別に断ってもいい。自分の命を賭ける事になるような場面に必ず遭遇するような危険な事だ。場合によっては命を失うのよりも酷い目に遇うかもしれない」

 

「そんな危険な事に私を誘うんだ」

 

「ああ……なら、始めに言っておくべきだろう。知らないでは済ませられないような事だ。必要であれば誰かを暗殺すらしてもらうつもりだ。自分の手を汚すのは嫌だろう?」

 

「……そうね」

 

大抵の人は誰かを傷つけることを恐れる。だからこそ人が人を殺す事に嫌悪感を覚えるのだと思う。

 

チェルシーは何処か遠くを見つめるかのように空へと視線を向ける。

 

「でも……ここの太守のような畜生を殺すなら良心は痛みそうにないわ」

 

「そうか。……だが、先達の言葉だから覚えておけ……善人であろうが悪人であろうが人を殺せば人殺しだ。そして、善人であればあるほど人を殺した時に苦しむ事になる。かつて同じ戦場で戦った兵士の1人がそれで自殺した」

 

「…………」

 

「だから、誰かを殺す事になったら覚悟しておけよ。人を殺すのとそれ以外を殺すのでは訳が違う。ここの太守のように人を人と認識せず狩の対象するような人物がいい例だ」

 

人を狩の対象としている時点で対象者はすでに人と認識していないのは確実なのだから。

 

「ねえ……これから口説き落とそうとしている相手にそんなこと言う? 普通ならいい点しか言わないわよ」

 

「俺は言うさ……対象は選ぶがな」

 

「……選ぶねぇ」

 

「ああ……本気で欲しいと思うなら言うさ。危険な目に遭うのは避けられない。人も殺す事になるだろう……それでも自分の意思で俺の部下……いや、仲間になって欲しいからな」

 

部下にも仲間にもなるべく死んで欲しくない。

 

危険な目に遭うのだから死は常につきまとう。

 

死なせるために仲間にしたのではない、俺が望む未来にするためにその力を貸して欲しいからこそ危険な目に遭うのも承知で仲間になってもらいたいのだ。

 

「だからこの話は断ってもいいんだぞ。その場合は帝具を他の誰かの手に渡らないようにするために破壊させてもらうが」

 

「ねえ……何でガイアファンデーションを破壊しようとするの? この帝具ってすごく強いってわけじゃないないわよね

 

「ああ。それは武器としては使えない。だが、単純に強力な武器などよりも恐ろしい。使い方次第では国を滅ぼせる上に戦場で使えば敵の伝令に扮して嘘の情報を流し続けることも出来る」

 

「……人を信じられなくする帝具」

 

「そうだ。ガイアファンデーションは人を信じられなくさせる帝具だ。人間関係の破壊……これほど怖いものはそうもないだろう」

 

味方が信じられなく恐ろしさは何とも言えない。

 

想像するだけで恐ろしい。だからこそその存在を知った時に破壊しようと思ったのだ。

 

「……まあ、こんな危険な事に付き合ってもらうのだから役目……と言うか全てが終わった後お互いに生きていれば俺の手で叶えられる願いなら何でも叶えようと思う」

 

一生働かずに済むような金ならそれに見会うような金銭を渡すし地位が欲しいのならその地位を得られるように陛下に交渉する。

 

「何でもねぇ……」

 

「ああ……俺の叶えられる範囲ではあるがな」

それしか俺には出来ない。

 

「…………考えておくわ」

 

「この場で断られるかと思ったのだが」

 

「ん~、まあ……断るのも手だけどさ。こう頼られるって言うのかな? よくわからないけどさ……私が必要とされているのって初めてだからね。私じゃなきゃ駄目なんでしょ?」

 

「そうだな。チェルシーじゃなきゃ駄目だな」

 

「そっか~」

 

嬉しそうにチェルシーが笑う。

 

「何で嬉しそうなんだ?」

 

「だってさ……私だけだから。他の誰でもない私じゃなきゃならないってことがね」

 

「そうなのか?」

 

「うん。だってさ……役場に勤めるなんてそこそこ頭が良ければ誰にだって出来ちゃうけどさ。ランスロの言っているそれって確かに危険だけど……私にしか、正確に言えば帝具を使える私だからこそ必要なんでしょ」

 

否定出来ない。

 

「……誰かの代用品じゃない私という個が必要とされる……それが嬉しかったの」

 

「本当ならこんな危険な事に必要とされない方がいいんだがな」

 

「それをあなたが言うの? 私をそんな危険な事に誘っておいて……」

 

「言うさ。本当なら誘うべきじゃないからな」

 

こんなことをするべきじゃないってのは誘っている俺が1番わかっている。

 

……それでも誘ってしまっている時点で俺も俺が思っているより追い詰められているのかもしれんな。

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