「ふぅーッ!……ふぅ―ッ!……」
ギラギラと目を輝かせ、興奮して呼吸が荒くなっているドクター。
「……な、何があったんですか?」
ウェイブが戸惑いながら近くにいるボルスに小声で話しかける。
「さ、さぁ? 私にもよくわからないんだ。何かあったのは確かなんだろうけどね」
「そ、そうですよね。出ないとドクターもあんな風にはならないはずだし」
こそこそと話すウェイブとボルス。
そこにコロを抱き抱えながらサヨがやって来た。
「皆さんおはようございます! あれ? ドクターどうしました?」
明らかに様子のおかしいドクターにサヨが動じることなく心配そうに話しかけた。
「……フフフフフフフフ……よくぞ! 聞いてくれたわね!!」
ビシッ! と左手で前髪をかき上げて、椅子の上に右足を乗せ、右腕を鳥が翼を広げたように上げる。
「……いつものドクターか」
テンションが無駄に高いだけだったようだ。
「…………そうだね」
クロメが同意した。
ドクターが見つけたナイトレイドのアジトの調査を終えて、1週間。
その間にナイトレイドと思わしき暗殺事件は1件も起こっていない。
故にナイトレイドは現在帝都付近にはいないという見解になっている。
なのでイェーガーズは賊の討伐が主な仕事となった。
ランはエスデスと一緒に帝都付近の賊の討伐に出かけているのでこの場にはいない。
「……レーザー発射よ!」
ドクターの左人指し指が一瞬だピカッと光るとドクターが指指していた場所が焦げていた。
「「「「……………………」」」」
全員が言葉を失った。
だが、ただ1人サヨだけは違った。
「す、すごい! すごいじゃないですか、ドクター!」
称賛するサヨに満更でもない様子のドクター。
満更でもない以前にすごい誇らしげだ。
「フッ……当たり前よ! アタシを誰だと思っているの?」
「帝国1の科学者であり医者だろ」
「うん」
俺の言葉にクロメが同意した。
「でも威力がイマイチなのよねぇ。やっぱりふとした思いついきで徹夜で造ったからかしら」
…………これを思いつきでしかも、徹夜でここまで造り上げたドクターには驚くしかない。
以前に新しい扉を幾つか開いていたがそれが原因なのだろうか?
「……何かドクターが1番変わったよね」
「新しい扉を幾つか開いた影響だろうな」
「いやいや!? そんな新しい扉を幾つか開いただけでこれって……」
ウェイブが俺とクロメの会話に加わってきた。
「……ウェイブは変わってないよ。やられ役のまま」
「オイィィィッ!? クロメから見たら俺ってそんなのかよ!!」
「うん。だって……ナイトレイドのブラートにたいしたダメージを負わせることなく負けたから」
「ぐはっ……」
胸を押さえて床に崩れ落ちるウェイブ。
「……クロメ。もう少し言葉オブラートに包め。いくら自分がブラートを倒せる可能性を持っていてもな」
実質イェーガーズの中でブラートを殺しうる可能性を持っているのがクロメとエスデス、そして……ボルスの3人。
ボルスに関しては完全にルビカンテによる一撃必殺を狙えるからだ。
クロメは超級危険種3体でごり押しすれば勝てる。
エスデスは言わずもがな。1対1なら負けることはない。アカメやアカメに準ずるような実力者と同時に相手をしたら危ういがな。
「はーい」
「……母ちゃん……帝都の荒波はいつも厳しいぜ」
「……ウェイブ君」
ボルスがポンポンとウェイブを慰めるように肩を優しく叩く。
「……マザコン」
ウェイブの様子を見ていたクロメがボソリと呟く。
「グハッ!?」
胸を押さえてウェイブがガックリと床に崩れ落ちる。
「ウ、ウェイブ君!?」
大丈夫! とボルスが床に崩れ落ちたウェイブを起き上がらせる。
「……だ、大丈夫っす……ただ、心にグッサリと言葉の刃が刺さっただけなんで」
「あらん? なら、アタシが慰めてあげようかしら」
そこへドクターが襲来。ウェイブの顔が真っ青に染まる!
「ウェイブ……そんなにお母さんが恋しいのなら……その、わ、私がお母さんがわりになっても……いいですよ」
さらにサヨが恥ずかしそうに視線をチラチラとウェイブに向けたり逸らしたりしながら大胆発言をかます。
しかも、抱きしめられるように両腕を広げている。
恥ずかしそうに言いつつもサヨ本人はウェイブを抱きしめる気が満々のようだ。
前門のドクターに後門のサヨか。
前者を選べば……ホモ。後者を選べば……恥ずかしい思い。
「クロメはどっちを選ぶと思う?」
「ウェイブはヘタレだから……逃げる」
「なるほど……逃げるという選択肢もあったな」
クロメの言葉にうんうんとうなずいているとウェイブから声がかかった。
「ちょ!? 変なこといってないで助けてください!」
助けを求めるウェイブ。
「む……そろそろ時間だから俺は出かけてくる」
「ん。いってらっしゃい」
俺はウェイブを無視してクロメに見送られながら部屋から出ていった。
その時にウェイブから向けられた視線は俺も一緒に連れていってくれと言うものだったことは確かだ。
■
アカメたちがアジトを放棄し、やって来たのは帝都から南東へ800㎞離れた場所に位置するマーグ高原。
垂直に切り立ったテーブルマウンテンが数十種点在し、独自の生態系を形作っている。
危険種のレベルも高く人間が住むには適さない……秘境であった。
この場所に来てから1週間が経過した現在。各々のレベルアップを図るためナイトレイドのメンバーは各々が修行に励んでいた。
中でも最も……厳しい修行に励んでいるのがタツミである。
帝具を所持していないのはタツミのみ。
帝具を持っているメンバーは各々の帝具の持ち味を生かせるように修行するれば良いのだが……帝具を持っていないタツミは違った。
「いつでもいいぞタツミ!」
「オッス!」
ブラートの組手だ。
たまにスサノオとの組手。それとブラート対スサノオの組手の観戦である。
今回の修行で1番ボロボロになっているのはタツミ。同時にメキメキと腕を上げているのもタツミだ。
インクルシオを発動していないブラート相手に毎日組手、たまにスサノオと組手。そして、ブラート対スサノオの組手の観戦。
自分よりも圧倒的な経験値を持つ凄腕の戦士の直接指導と強者同士の戦いを見ることによりタツミの潜在能力は一気に開花することとなった。
タツミ自身は気がついていないがすでにマーグ高原に来る前の自分と今の自分では明らかにレベルが上がっているのだ。
タツミの使用している剣もスサノオが新しく打った剣に代替わりしているのがその証拠である。
前から使っていた剣はタツミの力に耐えられなくなりその役目を終えた。
「……毎日毎日よくやるわね」
「ええ、そうですね」
タツミを鍛えるブラート。その修行の様子を遠目から見ているのはマインとシェーレ。
「それにしても……ブラートはノリノリね」
「フフ……ブラートにとってタツミは弟のようであり弟子見たいなものですからしょうがないですよ」
「それを言ったらシェーレにとってもじゃないの」
「まあ、確かに弟みたいな感じです。そう言えば……最近抱きしめてあげられてないから久しぶりに抱きしめましょうか?」
シェーレの言葉をたまたま通りかかったラバックが悔しい涙を流しながらその場から走り去ったのは当の本人しか知らないのであった。
「……シェーレ、タツミに甘くない」
「そうですか? 私はそうは思いませんが」
「いいえ! 絶対に甘いわ!」
ビシッ! とシェーレに人差し指を突きつけながらマインは断言した。
そんな自覚のないシェーレは首を傾げる。
ナイトレイドはある意味平常運転であった。
ちなみにマインとシェーレがこの会話をしている間にタツミは10回ほど宙を舞ったとだけ明記しておこう。
■
「…………ふむ」
破棄されたナイトレイドのアジトを訪れるも、そこはすでに帝国軍によって調べ尽くされた後である。
俺がここに来た理由はナイトレイドが再び帝都の付近にアジトを構えるのではないかという予感があるからだ。
革命軍の保有する暗殺者集団であるナイトレイドは今まで帝都で何件もの暗殺を成功させてきた集団だ。それを今から他の場所へ移すなど考えられない。
特にブラートやアカメといった実力者がいるのだ。彼らをエスデスにぶつけないでどうする。
いずれ帝都の付近にアジトを構えるのは確定しているのだ。
今のうちに候補地だけでも確認しておいた方がいいだろう。
このアジトの位置は帝都から約10㎞離れた場所に位置している?ならば次のアジトも似たような距離に設けられるのは確かだと見ていい。
革命軍の密偵も馬鹿ではない。アジトに相応しい見つかりにくい場所を幾つか検討をつけているはず。
おそらく……ナイトレイドとイェーガーズがぶつかる日はそう遠くない。
これは確信している。
西の異民族に帝具を渡したのは俺を西の地に一時的に行かせるためだ。
革命軍は俺とエスデスが同じ戦場に揃うことがないように手を打っているだろう。
俺とエスデスが同じ戦場に立てば大半の戦なら確実に勝てる。
エスデスが広範囲を凪ぎ払い、俺が敵本陣へと突撃する。それだけだ。
個人の力量に左右されるようなものではあるが単純な力押し。
単純であるが故に対抗手段がない相手ならば一方的に蹂躙出来る。
それ以前にエスデス1人いれば大半の戦で勝利を掴むことが出来るので俺とエスデスが同じ戦場に立つことはよっぽどのことがなければないだろう。
そのよっぽどの事態が起きることは現状ではまずありえない。
少なくともブドー大将軍が健在であるうちはだ。
■
「……ふむ」
すでに調査が終わっているナイトレイドのアジト内部に足を踏み入れる。
通路には戦闘痕が残っており、ドクターの私兵がナイトレイドのアジトの内部にまで侵攻したのが伺えた。
私兵の死体は全てドクターが引き取っている。
おそらく埋葬はされていないだろうと俺は考えている。死体は死体で使うのがドクターという人間だ。
多分……実験材料の一部という認識だろうな。
強化兵の損傷具合から何処が脆いのかを把握して、新たな強化兵はその弱点たる部分を無くした、もしくは何かで補強した状態に仕上げるはず。
だが、ナイトレイドと決着をつける時には間に合わないだろう。
圧倒的に時間が足りない。
より強化されたドクターの私兵ならばこの先数多くの出番があるだろう。
「私兵がいなくなったがドクターを失わなかった大きい。サヨを迎えに向かわせた判断は間違えではなかった」
ドクターにはイェーガーズの縁の下の力持ちとして活躍してもらう。
医療だけでなく薬を使ったサポート等が期待できる。
何よりもドクターの造り出す兵器の数々はイェーガーズだけではなく異民族との戦争にも使われるはずだ。
むしろ、異民族との戦争での使用がメインとなるだろう。
敵の心を折り、戦争の早期終結に結びつけるのに役立つ。
ドクターがコロ用に造った装備も一般の兵士たちが使えるようになればそれこそ帝国にかなう相手はいなくなりそうだ。
そうなれば俺やエスデスのような個人の力量によって戦局が左右されるような場面も少なくなる。
だが、兵器を奪われた時の危険度がはね上がるか。
強力であればあるほど自分たちに牙を剥いたときの被害は大きくなる。
それも踏まえた上での運用方法を確立しなくてはならない。
となると……やはり、実験部隊が必要だ。それこそドクターの私兵となりそうだが。
その方が安全という意味では最上だろうな。
制作者がいるのだから。
ドクターがコロに持たせてる装備として開発したガトリングガンにはかなり心惹かれるものがあった。
製作を依頼すれば造ってもらえるだろうか?
サヨの件もありドクターに作っていた貸しはもう無さそうだが……西の地にいる危険種の死体を何体か送ってもらえば、それを報酬に造ってもらえるか……聞いてみる必要があるな。
まあ、あれだ……超級危険種の素材を要求されたらクロメの死体人形の超級危険種を渡そう。
クロメなら言えば渡してくれるだろう。代わりの死体を用意する必要があるが。
「……本部に戻り次第早速打診してみるか」
帝国周辺の土地の調査をするための部隊を編成する必要もあるから、そのついでにな。
出来れば西の異民族に攻め込む時までには欲しいが間に合うかどうかはドクター次第か。
依頼すればドクターは報酬さえ前払いすれば確実に造ってくれる。
その点では信頼出来る。スタイリッシュな男を自称するドクターは出来ないことは言わないしやらない。
「……戻るとするか」
早めに依頼するのと部隊を編成する必要があるからな。