特にこれと言ったような被害もなく、俺たちは新型危険種の討伐を終えた。
エスデスが周囲にいる新型危険種を全て凍らせたからだ。お陰で周囲は氷に包まれており、真冬のような寒さとなっている。
これまた、派手にやったものだ。そのお陰で早く終わったのだが……周りの環境が大きな被害を受けた。
「……もう少し周りの環境に配慮出来ないのか?」
「面倒だ」
その一言で俺の苦言はバッサリと切って捨てられた。
ただでさえ、今回の件で狂ってきている生態系が余計に狂ってしまうのではないかと心配になる。
定期的にやっていた危険種討伐がやり難くなってきているので困るのだが……。
危険種も湧いてくる時期があってそれが狂うと商人らが非常に危険なことになる。
この手のことにも人員を割かねばならないのは痛手だ。
帝都での就労を求めてくる地方出身者を雇って、一定期間この仕事をこなせば、帝都警備隊もしくは帝国軍に入るための推薦状を渡すとすれば人は集まるだろうか。
少なくとも自分の腕に自信のある輩は来そうだ。給料は少し安めにする代わりに武器の支給と整備費の無料。
西の異民族のこともあり、増えた給料に帝都内で捕らえた悪徳商人や貴族、汚職政治家から押収した金を使えば問題ないな。
「……はぁ。そうか……とりあえず、本部に戻るぞ」
これ以上ここにいたところで特にすることもない。ならば、することのある本部に戻った方が良いだろう。
少なくとも先ほど考えていたことを実行に移すための準備という有意義なことがあるのだから。
■
イェーガーズの本部で新型危険種の討伐後に思いついた案についてまとめていると来客があった。
「……どうした?」
「ハッ! 将軍宛にお手紙が届いておりました。こちらです」
手紙を受けとると持ってきた兵士はそのまま去っていった。
袋の封を切り、手紙を取り出して確認する。
「……戻ってきたのか」
それはチェルシーからのものであり、ナイトレイドの帰還を報せるものだった。
だとすれば……近い内にナイトレイドによる暗殺が再開されることになる。
そうなれば、イェーガーズとナイトレイドの戦いも秒読みの段階となるだろう。ナイトレイドが革命を成功させるには確実に潰さなければならない組織のはずだ。
標的となっているエスデスやボルスのこともあるしな。
エスデスを葬る分には一向に構わないが……ボルスは別だ。
私情を混ぜることなく任務を遂行させることの出来る数少ない人材だ。こんなところで失うのは惜しい。
そして、何よりも友人である。
友人の身を案じて悪いわけあるまい。
イェーガーズとナイトレイドで争うことになれば、その時は向こうが罠を張ってこちらを待ち受けているはずだ。
エスデスと俺を同時に相手取るようなことはナジェンダ元将軍がするはずない。
彼女のことだ。確実に分断して各個撃破を狙ってくる。
ブラート、スサノオ、アカメ。この3人を同時に相手に出来るのはエスデスか俺、クロメだけだろう。
そして、俺が西へ行くことになるのは目に見えている。異民族の手に渡った二挺大斧の回収に行くことになるはずだ。
革命軍もその為だけに異民族に帝具を流したのだろうしな。
基本的に帝国の人間よりも異民族の方が力が強い者が多い。それは帝国の技術が発展したことにより、軽くて強力な武器が増えたことが原因だろう。
個人用火器の発展につれて剣や槍などの使い手の数が減少傾向にある。
それでも、帝国軍は剣や槍なども使えるように訓練するが……。
まあ、今は関係ないことだ。
「…………さて、どうするか」
机の引き出しの中から黒と白の駒を取り出して並べる。
黒はナイトレイドで白はイェーガーズだ。
黒の駒は9個。白の駒は8個。
その駒のなかで上位の実力者の駒は黒白共に3つ。
ブラート、スサノオ、アカメと俺、エスデス、クロメ。
総合的にはこちらが勝つ。
だが、あちらの方が自由に戦場を選択出来る上に罠を張って待ち構えることが出来る時点でこちらの不利は否めない。
俺とエスデスが抜けると……白の駒は6。
チェルシーを含めるならば7だが、今はまだその時ではないのでチェルシーの分の駒はない。
ナイトレイドの保持する帝具はどれも戦闘向けのものだ。
だが、イェーガーズのはドクターの帝具が戦闘向けのものでないため、戦闘を行えるのは5。
となると、やはり鍵となるのは八房の骸人形しかないか。
超級危険種3体をどう使うかによって結果は変わる。
上手く使えばそこでナイトレイドのメンバーを何人か討てるだろう。
超級危険種を相手に出来るような人間はそうそういない。
だが、その超級危険種を相手に出来るような人間か所属しているのがナイトレイドだ。
油断は出来ない。
そして、帝都で暗殺事件が起きないか警戒を始めて数日後のことだ。
フェイクマウンテンに新型危険種を狩りに出かけたエスデスが失踪した。
■
エスデスの失踪……この知らせにイェーガーズの衝撃が走ることは全くなかった。
そもそも、今回の新型危険種の件の犯人が転送系の帝具を所持していることが判明しているのだ。
となればエスデスの失踪の犯人が大臣の息子であるシュラであると考えるのは自然であった。
「って! 心配ぐらいしましょうよ!?」
誰もエスデスのことを心配しないことにウェイブがツッコミを入れる。
そのツッコミに1番最初に反応したのはコロに使わせる新武装の設計をしているドクターだった。
「あら、どうして? あの隊長よ。きっと、危険種を調教してなに食わぬ顔で戻ってくるわよ」
「確かに……エスデス将軍なら充分にあり得るな」
違和感なくすんなりと想像出来る。
「いや、まあ……確かにそうだけど……」
ウェイブもすんなり想像出来たらしく言葉がすぼんでいく。
「そうそう……隊長は将軍と互角に戦える数少ない人なんだから本当によっぽどのことがない限り大丈夫だよ」
クロメは相変わらずお菓子をパクパクと食べていく。
「そうだよ、ウェイブ君。隊長を信じて待ってよう」
ボルスがウェイブを励ますように軽く肩を叩く。
「……ボルスさん」
「…………そして、ウェイブは禁断の扉を開くのであった」
「ゴフッ!!」
まさかのクロメのナレーションにお茶を飲んでいたランが噎せる。
「誰が開くか!?」
そうウェイブが吼えるもクロメは涼しい顔して、ウェイブを指差す。
「……あら? なら、あたしがいいオトコに磨いてあげるわよ♪」
ドクター参戦! ウィンクをウェイブに飛ばす。
「……ごめんね。ウェイブ君……私は愛する妻と娘がいるから」
さっと顔をウェイブから背けながらボルスが悲壮感漂わせる声音でそう言う。
何とも混沌した空間になったな。
「……ウェイブ。そんな趣味を持ってたなんて……私はどうすればいいの?」
サヨはウェイブが男色かと信じたのか、途方に暮れている。
そんなサヨを慰めるかのようにクロメが自身ありげに言った。
「それもまた……ウェイブの持つ1面の1つだよ」
「おおーいっ!? 何変なこと言うんだよ! それじゃ完全に俺がホモじゃねーか!!」
ウェイブが声を大きくし否定するがクロメは首を傾げる。
「……え!? 違うの……」
「おい! お前の中での俺ってどんな奴なんだよ。俺はノーマルだ!」
「なんですって!?」
「何でドクターが1番驚いてんだよ!?」
唖然とした表情のドクターとは対照的にウェイブの表情は焦りに満ちている。
オカマにもホモだと思われていたのがよっぽどショックだったのだろうな。
すると、ランが口をハンカチで拭いながらボソリと言った。
「……隊長がいない方が賑やかですね」
「言ってやるな」
俺もそう思ってたのに口に出してなかったのに。
エスデスがいない方が賑やかな理由は……エスデスの機嫌を損ねたら拷問されるからだと思う。
「……明るい職場だな」
「明るすぎる気もしますが」
「やる時にちゃんとやれば問題ない」
結果さへ出せれば多少のことには目を瞑る。
命がけの仕事だ無理に押さえつけたりして不満を溜める必要もあるまい。
「でだ……式はいつ挙げるんだ?」
「…………未定です。何せ私の目的をまだ果たせてませんし」
「となると……早めに果たしたいな。そうしたら1度休みを取って墓参りに行ってくるといい」
「そうですね。あの子たちに先生は立派になりましたよって、報告したいですし」
そのためにはチャンプの足取りをつかむ必要がある。
暗殺部隊を動員しておくか。
おそらくチャンプの仲間にはシュラがいる可能性が高い。
もし、合流される前に捕捉出来たら直ぐに殺りに行く。
チョウリ様からこの前送られてきた早くランがスピアと結婚するように促してくれという手紙のこともあるからな。
それに……チャンプがシュラの仲間であるならその戦力を削ったことになるのでちょうど良い。
一石二鳥だ。
暗殺部隊も対革命軍のために大多数が動員されているからあんまり人数は割けない。
帝国各地で暗躍する革命軍の手の者と一進一退の攻防を繰り広げている暗殺部隊
部隊自体の練度は上がり、薬もドクター作の副作用の低く効果の長いものに変更されているので殉職者の数は徐々に減っている。
「そうか……なら、早く見つけないとな」
帝国各地で被害者が子どもの殺人事件が起きていないかを調べる必要があるな。
それを暗殺部隊にやってもらうとしよう。
まあ……それにしてもあれだ……エスデスがいない方が気が休まる。
珍しく花を育ててると思えば、それは軽く拷問に使えるとか……。
溜め息を吐きたくなる。
そんなものを宮殿内で育てるなと。
まあ、結局俺が撤去したわけだが……。撤去したその花は処分した。
もちろん土ごと焼却処分。種1つ残す気はなかったからだ。
代わりに見映えの良い花を植えてある。冬以外であれば咲いている。
そのうちを一般解放して入場料を取ることも視野に入れているが……。
■
その頃……ナイトレイドのアジトでは……。
「さて……そろそろナイトレイドの活動を再開させるぞ」
新たなアジトの会議室でナジェンダが煙草を吸いながら宣言する。
その言葉にナイトレイドのメンバー全員がうなずき、ナジェンダの言葉を待つ。
「先ず……顔ばれのしていないラバックとレオーネは帝都に潜入して情報収集。チェルシーは早速仕事だ」
ナジェンダがチェルシーにターゲットの情報の書かれた紙を渡す。
「了解っと!」
受け取った紙にサッと目を通すと余裕と言わんばかりに笑みを浮かべる。
「後は各々仕事が来るまで自由に過ごせ」
その言葉を聞くやいなやブラートがタツミの方へと視線を向ける。
「行くぞ! タツミ。修行だ!」
「オッス! 兄貴」
修行だ! と駆け出すブラートに続きタツミも駆け出す。
「本当……元気ね」
駆け出して行くブラートとタツミを見ていたマインが呆れたようにぼやく。
「まあまあ、元気なのは良いことですよ」
「そうだぞ、マイン」
シェーレやアカメは元気なのは良いことだと、いつもと変わらない様子であった。
「ブラっちの楽しみだからね……タツミに修行をつけるの。教えたことを乾いた大地が水を吸うようにして自分のものにしていくから教え甲斐があるんだってさ」
夜一緒に酒飲んでた時に自慢気に言ってたとレオーネは言った。
「ほう? その酒とは四角い瓶に入った物ではなかったか?」
「うん? そうだけど……まさか!?」
「そのまさかさ……あれは私の秘蔵の酒だ」
ダっと無言で逃げ出すレオーネ。
「行け! スサノオ!」
すぐさまナジェンダが追跡者としてスサノオをけしかける。
捕まって堪るかと全力で逃げるレオーネとナジェンダの命令を受けてレオーネを追いかけるスサノオとの追いかけっこが始まった。
その一部始終を見ていたチェルシーは普通に扉から出ていく。
任された仕事はどれも標的に近寄るまでが大変なものだった。
だが、それも帝具ガイアファンデーションならば簡単に出来るようなものであったので、チェルシーは足取り軽やかにアジトを後にする。
「さーて! 一仕事やってきますか」
気負った様子も無く、まるで散歩にでも行くみたいな感じでチェルシーは帝都へと向かっていくのだった。
任された仕事は数件。これなら2日、3日ほど時間をかけてもいいだろう。
内心で……今、会いに行くよ。と帝都で色々と腹黒いことを平然と考えているだろうと予想できる男の顔を思い浮かべていた。