憑依者がいく!   作:真夜中

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6話 捕縛へいく

あれから一月が経過した。

東の地での危険種討伐は無事とは言えないが終了した。殉職者は1割、重傷者が3割、軽傷者が5割にも及んだ。

 

今回の危険種の異常繁殖の原因は秘密裏に危険種をペットとして飼っていた領主がその危険種に逃げられたことが原因だと判明。

 

逃げ出した頃にはすでに30を越える数となっていたようでそれが大繁殖したのだ。

 

その原因を作った領主はすでに死亡していた。

 

逃げ出したマーグドンに生きながらに喰われたらしい。

 

当然の報いだと思うと同時にこの手で裁くことが出来なかったことにやるせない気持ちになる。

 

「…………」

 

討伐を終えて、帝都に戻って来て陛下へと報告を終えた後、俺は墓地に来ていた。

 

この1ヶ月の間に俺に政治に関して教えてくれた良識派の文官が数人……大臣に消された。牛裂き、磔刑、打ち首などで処刑され無惨にも晒されていたのだ。

 

俺はすぐさまそれを回収して、彼らを埋葬した。

 

「…………」

 

彼らの墓にお供え物や花を贈るのはもはや俺と遺族の人しかいない。

 

中には一族ごと殺されてしまった人もいた。

 

皆……国を良くしようと大臣に屈することなく政治と言う戦場で戦う勇士であった。

 

磔刑に処されていた方とは最後にほんの数分であったが話すことが出来た。「先に逝ってしまうことを許して欲しい。そして……後を頼む」と最後に言うと彼は息を引き取ってしまう。

 

その時の彼の表情は苦痛に歪みながらも俺の心配をしてくれていた。

 

苦しい最中、俺の身を案じてくれたのだ。

 

その事に目頭が熱くなってしまった。

 

だが……彼らの犠牲を悲しんでいる暇があるのならば大臣側の力を削ぐために動かなければ……また、新たな被害者が出てしまう。

 

そして、今回……処刑されてしまった文官の1人が大臣側の文官や腐敗した貴族、悪徳商人を捕まえて、罰することの出来る証拠を掴んでいてくれた。

 

それを遺族の方から受け取った。

 

「……決して無駄にはしない」

 

眠ってしまった彼らに黙祷を捧げていると背後から複数の足音が聞こえてくる。

 

「将軍……準備が終わりました。いつでも行けます」

 

「わかった。これより……帝都に巣くう害虫を駆除する! 1人残らず引っ捕らえるぞ!」

 

「はい!!」

 

俺は対象となる腐敗した貴族の家へと部下を引き連れて向かう。

 

ランには悪徳商人の元へと行ってもらっている。

 

ボルスには現在新兵の訓練を任せている。新しく志願してきた兵士がいたからだ。

 

思考を腐敗した貴族の捕縛へと完全に切り替える。

 

大臣側の力を削ぐ。そして、大臣側の力が一定以下になった時そこが大臣の最期だ。

 

決して逃がしはしない。この帝国で陛下を操り、国を牛耳る大臣は必ず始末する!

 

犠牲になった民や同僚、恩師のためにも……。

 

 

 

 

その日の夜。

 

昼間から始めた害虫駆除は残るところ一件となった。

 

「……ここはこれで終わりか。救出した人の手当てはどうだ?」

 

腐敗した貴族を引っ捕らえ、その際に救出した人の手当てをしている部下に訪ねる。

 

すると、沈痛な面持ちで答えが返ってきた。

 

「命に別状はありませんが…もう、心が死んでいます」

 

そう言われ、救いだした人の顔を見る。

 

能面のように変わることのない表情、感情を失ったかのようにぼんやりとした眼。

 

「……そうだな」

 

見た目からしてまだ10代の少女。

 

本来であれば沢山の未来があっただろうに……。

 

「他はどうだ?」

 

他の救出した人について聞くも返答は首を横に振るだけだった。

 

「そちらは……薬物漬けにされていたようで……もう」

 

命すら助かる見込みがないか……。

 

「わかった。辛かったら……この仕事を辞めてもいいんだぞ? 俺は咎めはしない」

 

俺は帝都の闇を見て悔しそうに歯噛みをする部下へとそう言葉を投げかけた。

 

この仕事は精神的に辛い。それこそ何かしらの支柱を持っていなければ出来ないほどに。

 

特に人格面で兵を採用しているので帝都の闇を見て、実際に辞める奴もそれなりにいる。

 

「なら、何故……将軍はこんなことを?」

 

「俺か……俺は陛下に忠誠を誓っているからだ。その陛下が願うのが国の安寧と平和だ。なら俺がやることはその望みが叶うように出来ることをするだけだ」

 

例え1人でも出来ることはある。だが、仲間がいればより大きなことが出来る。

 

大臣が強大な力を持っているのも大臣に賛同する仲間がいるからだ。

 

「…………」

 

「だからお前も考えるといい。自分がなんのためにこの仕事を選んだのかをな」

 

俺はそれだけ言うと今回捕らえた貴族の元へと向かう。

 

「貴様らッ! こんなことをしてただですむと思っているのか!」

 

縄で拘束された身なりのいい男がわめき散らしている。

 

「私のような高貴な者に逆らうのか……この平民風情が!」

 

この男を監視している部下の顔には不快感と共に嫌悪感が露になっている。

 

「黙っていろ……それ以上その汚い口を開くな」

 

殺気を乗せた声でそう言いながら目の前に転がっている男に冷たい視線を向ける。

 

「……将軍。この男はどうなりますか?」

 

「……死刑だ。どのような死に方になるかは不明だが確実にそうなるな」

 

部下の質問にそう答えると転がっている男が歯をむき出しにしながらわめく。

 

「何故だ! 何故私がこんな目にぃぃぃッッ! 貴様ら……絶対後悔させてやるからなぁぁぁ!」

 

「……その汚い口を開くなと言ったはずだぞ」

 

「ヒィ……っ!?」

本気の殺気とまでは言わないがそれなりに強い殺気を放ち黙らせる。

 

「気分が悪くなるだろうが……罪人が逃げ出さないように見ていてくれ」

 

「はっ!」

 

俺はここから離れると部下の1人にこの場の指揮を任せると次の場所へと向かう。

 

今日最後の仕事である大臣側の文官を捕らえるために。

 

 

 

 

大臣側の文官……確か名前はヒガンだったか? そんな名前の文官だ。

 

そいつが住んでいる屋敷の前にやって来た。

 

「…………」

 

警備の人間はすでに全員気絶させてもらっている。

 

警備の人間から屋敷の使用人に至るまで外道なのだ。容赦する必要はない。

 

辺境や地方からやって来た人間を誘拐して、痛めつけ、強姦し、薬漬けにして人の壊れる過程を見るのが楽しみな人間の集まり。

 

法で裁く必要は皆無。だが、今回は殺害するのではなく捕縛に来ているため殺しはしない。

 

俺は正面の入口から屋敷の中に入るとすぐに目の前に使用人の姿が見えた。

 

「あ……ッ!?」

 

「……」

 

俺は叫ばれる前にその使用人の口を塞ぐともう片方の手でその首を締め上げた。

 

首を絞めている手を外そうとしてくるがすぐに抵抗はなくなり、使用人はそのまま気絶した。その目に涙を浮かべながら。

 

それから次の標的を探して、屋敷の中を歩く。

 

気配を消して、音も出さずに1人1人確実に気絶させていく。最後に残るのがヒガンであるように。

 

「おーい……誰か、酒持ってこい!」

 

酔っぱらっているのか余り呂律の回っていない声が聞こえる。

 

この声は扉の開かれた部屋の中からだ。

 

その中を覗くと酒の入った瓶を片手に持っている男がいた。こいつがヒガンか。

 

「誰もいねぇのか……チッ、仕方がねぇ」

 

渋々と言ったようすでヒガンがお酒を取るために立ち上がった。

 

俺はゆっくりとヒガンに気がつかれないように後ろに立つと徐に首を片手で締め上げる。

 

「ア……ギァ……ァ……」

 

バタバタともがいていたがすぐに動かなくなる。

 

「…………行くか」

 

俺はヒガンを縄でがっちりと拘束すると肩に担いで屋敷を後にした。

 

この屋敷もすぐに取り壊されることになるだろう。

 

誰だって殺人事件のあった家に住みたくはないだろうしな。

 

「将軍。ご苦労様です」

 

「ん、ああ。どうしてここに?」

 

「いえ、何か手伝えることはないかと思ってきたのですが……衛兵や使用人が気絶していたのでそれを独断で処理してました」

 

俺が気絶させた衛兵や使用人は気を利かせた部下が処理してくれていたようだ。

 

「済まんな。助かった」

 

「いえ、勝手にやったことですので。自分としてはお叱りを受けるじゃないかと思ってました」

 

「そんなことはない。こいつを運ぶだけにしてくれたんだ。怒るなんて真似はしないさ」

 

肩に担いでいるヒガンを顎で差す。

 

「そうですか」

 

「戻るぞ」

 

「はい」

 

 

 

 

翌日。

 

俺は宮殿に行く前に墓地に立ち寄った。

 

「……あなたのお陰で救える命がありました」

 

墓前に頭を下げつつそう告げる。

 

大臣側の文官や腐敗した貴族、悪徳商人を捕まえて罰することの出来る証拠を掴んでいてくれたことに感謝を捧げながら黙祷する。あなたのお陰です、と。

 

例え助けても言われるのはお礼だけではない。

 

「なんで……なんでッ! もっと早く助けてくれなかったんだ!!」と被害者遺族の方や被害者本人に涙を流しながらやり場のない怒りをぶつけられることもある。

 

「…………今までありがとうございました」

 

陛下のために色々と覚えようとしていた俺に政治の知識を教えてくれたこと、この国の歴史を教えてくれたこと、そして何よりも……あなた方の教えのお陰で大臣に対抗出来ていることを忘れません。

 

「必ず……あなた方の名誉を回復させます。時間はかかるでしょうが……必ず」

 

俺は深く頭を下げると宮殿に向かって歩き出した。

 

 

 

 

宮殿内の謁見の間で俺は片膝をつき、頭を垂れていた。

 

「ランスロット将軍。昨夜、独断で兵を動かし……帝国の貴族、商人、そしてヒガン内政官を拘束したとあるが……間違いないか」

 

「はい。間違いありません」

 

俺は頭を垂れていたまま返事を返す。

 

「そうか。彼らは罪人ではないと大臣から報告されているが……」

 

「いえ、彼らは重罪人です。陛下が願う国の安寧と平和を乱した犯罪者です」

 

「と、申しておるが……どうなのだ大臣」

 

頭を垂れていたままなので想像でしかわからないが大臣は今やさぞ良い笑顔をしているだろう。

 

「ヌフフ……そんな報告はされておりません。彼らは帝国によく仕えてくれてますよ」

 

「……ついに耄碌しましたか? 大臣。本当にそうであれば捕まえたりなんてしてませんよ」

 

俺は下げていた頭を上げて不敵な笑みを浮かべる。

 

「耄碌とは言ってくれますね……将軍」

 

「陛下……証拠は全てここにございます」

 

俺は懐から昨夜捕らえた犯罪者が行っていた罪の数々、それによる被害を記した紙を取り出す。

 

「まことか?」

 

「はい」

 

確かめるように問うってくる陛下に俺は真剣な目で視線を逸らすことなくうなずく。

 

「では、見せてくれ」

 

「どうぞ」

 

俺はゆっくりと立ち上がると懐から取り出した紙を陛下に渡す。

 

それを見ていくうちに陛下の表情が変わる。

 

「……これは事実か?」

 

「はい。被害にあった方からの証言が必要でしたら直ぐにでも呼べますが」

 

どうします? と陛下に訪ねる。

 

「いや……よい。……大臣、この者等にはどのような罰がいい?」

 

陛下は見ていた紙を大臣に手渡す。

 

「……死罪ですね。それ以外にはありません」

 

冷静な表情で言っているが少しばかり声が震えていた。

 

「であるか。ランスロットよ大臣すら見逃していた悪事をよくぞ見つけてくれた! さすが余の臣下である! 」

 

「はっ! ありがとうございます」

 

俺は陛下の傍で膝をつき、頭を垂れる。

 

「大臣は早速、やつらを死刑にする準備を整えてくれ」

 

「はい、陛下。すぐに準備いたします」

 

大臣がそそくさと死刑の準備をするために謁見の間から退出する。

 

これで先に逝ってしまった彼らが少しでも浮かばれるといい。

 

彼らのお陰で大臣側の力を削ることが出来たのだから。

 

「では、本日はこれにて解散する」

 

陛下の声により、この場に来ていた内政官や文官、将軍らが次々と退出していく。

 

そして、俺と陛下以外が全員退出する。

 

「助かったぞ、ランスロット。これで民が安心して生活出来る」

 

「いえ、当然のことです。陛下のために自分の出来うることをやったまでですから」

 

「そうか。そなたの忠義頼もしく思うぞ」

 

「はい。これからも変わらぬ忠誠を誓います」

 

一生変わることのない忠誠を。

 

 

 

 

その頃。

 

「チッ……ただでは転びませんか」

 

大臣は今回の逮捕劇の裏にはこの前処刑した文官らの影があることを見抜いていた。でなければ帝都に戻って数日も経っていないのに検挙できるはずもないからだ。

 

処刑したとはいえ、一矢報いてきた文官らに苛立ちが募る。

 

大臣はその苛立ちをぶつけるかのように捕らわれて死罪に処すしかない破棄すべき駒の最期を決める書類にサインを書く。

 

「まあ、いいでしょう。当初の目的は達成できてますし」

 

目障りな文官を消すという目的はすでに達成されている。

 

「フフフ……幾らでも替えの効く手駒ですから、全く痛くないですね」

 

ニヤニヤと笑いながら大臣は砂糖のたっぷりと入った飲み物を一口飲む。

 

「それでも……目障りな存在ですね。ランスロットは」

 

暗殺しようにもランスロットを暗殺できるような強者はおらず、お抱えの処刑人である皇拳寺羅刹四鬼もランスロットを暗殺するために一時期動いていたが……隔絶した実力差を感じ暗殺を諦めた。

 

「陛下のランスロットへの信頼は揺るがすのが難しいですし……どうしたものですか」

 

―――まあ、いいでしょう。どうせ、ランスロットに出来ることなぞ限られています。

 

「……せいぜい足掻いて。そして、絶望してください。次に消えていただくのは……この方にしましょうか」

 

大臣は醜悪なこと呟き、次に消す文官を決めるのだった。

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