憑依者がいく!   作:真夜中

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8話 呑みにいく

宮殿内にある執務室で俺は部下たちの装備を変えるとどれぐらいの出費になるのかを計算して、それを元にボルスと打ち合わせをしていた。

 

「それで……どう思う?」

 

「そうですね。ラン君はどう言うかわかりませんが、私は良いと思います」

 

ボルスは賛成してくれたか。

 

「そうか」

 

「はい。でも、全員分となると時間がかかるので少しずつ交換していくしかありません」

「だな。今までのも危険種などを相手に考えないのであれば十分なものだしな」

 

人相手であれば最低でも頑丈であれば十分だ。

 

また、新しい装備に使われる材料によっても金額は変わる。

 

今現在で俺が計算したのは鋼を素材に使ったものだ。

 

安物の方はあまり純度の高くない鉄を使用している。

 

個人的には危険種を素材とした武器にしたいのだが、如何せん……金額の問題で部下全員に渡せない。

 

渡せるとしても完全に西の地に残してきているまとめ役の部下の分ぐらいだ。

 

エクター、サフィア、ラヴェイン、ボールスの4人。

 

俺が将軍になる前からの付き合いであり、最古参の者たちである。その実力は帝具持ちにも匹敵する。

 

1人1人が将軍クラスの実力者でありながら俺の下についている。何度か将軍にならないかと誘いを受けているがそれをすべて断った上でだ。

 

「はい。他に案としては危険種の討伐時にのみ使えるものにすかですが……」

 

「それだと、使える人数が限られてしまうか」

 

「……ええ」

 

そうなると安くは済むが一度に戦える人数が減り、数が膨大であった時には焼け石に水状態になる。

 

「とりあえずは新たな装備に変えることは確実としてそれをどんなのにするかはランが戻ってから考えるか」

 

ちらりと異論はあるかと視線で問いかける。

 

「そうですね。ラン君にも聞かないと。私たちだけで決めてもしラン君が必要だと考える武器を用意出来なかったら困りますしね」

 

「そうだな」

 

ボルスの言うことはもっともだ。ランにはボルス同様に部隊率いてもらうのでそれに合わせた装備が必要となる。

 

これについてはランが戻ってくるまで保留にするしかない。

 

「では、次にだ。新たに兵の募集をかける」

 

「あれ? それってこの前募集したばかりじゃないですか」

 

「ああ。だが、帝都の闇を見て辞める奴がいたからな」

 

あえて革命軍に行ったとは言わない。

 

これは特に言わなくても良いことだからだ。

 

「そう……」

 

軍を辞める奴の理由のほとんどがこれなのだ。

 

夢や理想を抱いて軍に入るも帝都の闇を見てその心を折られる。

 

そして、軍を辞めて逃げるように故郷へと帰るのもいるぐらいだ。

 

それも1つの選択だ。逃げるのも立ち向かうのも自分で決めること。

 

そうでなければあっという間に淘汰されてしまう。

 

「ああ、だから新人用の軍服に武器を用意しなければならない」

 

「武器はいいとして、服は入隊が決まってから至急用意しないと……サイズのこともあるし」

 

「それは、希望者の体格によっても違う。故に完璧に合うサイズは無いがよっぽどのサイズ差が無い限りは余っているので我慢してもらおう。着れるのがなかった場合のみ新しいのを作ってもらう」

 

なるべく節約できるところは節約しておきたい。

 

いつ何が起こるかわからないのだからある程度の余裕を持たせておきたいのだ。

 

特に今期は普段よりも武器の値段や整備用品などが高騰している。

 

もし、必要となったときに買えないとなってしまえば目も当てられない。

 

「わかりました」

 

コンコン! と扉が叩かれる。

 

「失礼します!」

 

背を真っ直ぐに伸ばした状態で書類を持ちながら部下が部屋に入ってきた。

 

「どうした?」

 

慌てた様子もないので大きな事件でないことはすぐにわかった。

 

「はい。募兵のために使う場所の確保が終わりました」

 

「そうか。ご苦労」

 

「詳しくは書類に記してありますので」

 

「わかった」

 

返事を返しつつ部下から書類を受けとる。

 

すると、すぐに「失礼しました」と言って部屋から出ていった。

 

「……仕事が早いんだね」

 

「早く終わればそのまま、2日の休暇に入っていいって言ったからな」

 

「そ、そうなんだ」

 

しばらくまとまった休みをあげられてなかったから本人も休みたかたのだろう。

 

予想以上の早さで終わらせてきた。

 

「ああ……それと俺はこれから場所を直接見てくるがボルスはどうする? 早いが今日は帰ってもいいぞ」

 

「えっ!? いいんですか?」

 

「いいぞ。忙しくなると早々に休みはとれないからな。休ませられるときは基本的に休ませるようにしてるんだ」

 

驚いているボルスにそう伝える。

 

何かしらの事件が起きたり、忙しい時期には休みが全くとれないことも珍しくはない。なので、休ませられるときはなるべく休ませるようにしているのだ。

 

働かせ過ぎて倒れられるのも困る。

 

本当は適度に休ませられれば良いのだが……そうもいかないのが現実だ。

 

危険種の繁殖時期になったときの間引きや災害救援、罪人の捕縛と時間のかかる事が起こるとそれが終息するまで休ませることができない。

 

「それじゃあ、お言葉に甘えて帰ります」

 

「ああ……また、明日」

 

俺はそう言いながらパルチザンを背負うと執務室から退出して部下の確保した場所へ向かうのだった。

 

 

 

 

「……ここか」

 

宮殿より徒歩で10分ぐらいかかる位置が部下が募兵に使うためにとった場所であった。

 

近くにはこれといった店がないので営業妨害にならず、人通りは少ないわけではないが多いわけでもない。

 

本当なら募集は兵舎でも良かったのだが……そこに人が集まるといざ出動となったときに邪魔になる可能性があったために別会場にしたのだ。

 

「……悪くないな」

 

この場所は治安も悪くはないのでうってつけだろう。

 

だが、スリが出る可能性もあるので見張りの兵を何人かつかせるべきだな。

 

被害にあってからでは遅い。特に辺境からやってくる者がスリの被害にあい無一文となり、頼れる人がいなく野宿になったら大変だ。

 

スリにあったが故に空腹で犯罪を犯すかもしれないからだ。

 

悪いことは連鎖していくことを考えておかなければ。

 

「ふむ…………1階部分は広いから混雑はしないだろう」

 

混雑してもあまり問題ではない。

 

ここでやるのはあくまでも受付だ。

 

試験はその次の日。

 

人格面とどれぐらいの腕前を持っているのかを見させてもらう。

 

なのでその日は兵舎の近くにある訓練場を使う。そこで武の腕前を見せてもらうのだ。

 

強くても人格面が駄目だったら遠慮なく落とさせてもらう。

 

特にあからさまに人を見下す奴や自分が特別だと思っている輩は確実に落とす。

 

仮に弱くても人格面が優れていれば合格にする。

 

「おっ! 将軍さんじゃないか」

 

この声は……。

 

「……また、たかりに来たのか?」

 

「なんだよ……その言いぐさはー」

 

「お前はいつも俺に酒代を払わせているだろうに」

 

マフラーを巻き、上半身は胸元だけを隠した格好のスタイルの良い女性。

 

「いいじゃん♪ いいじゃん♪ お金稼いでんだからさぁー」

 

ニヤニヤとしながら完全に俺に酒代を払わせる気満々の女。

 

「……レオーネ。お前もお前で稼ぎはあるだろうに」

 

確か……マッサージ師だったはずだ。

 

「いやー……賭博で全部使っちゃった」

 

あっけらかんとした様子で笑いながらそんなことを言ってきた。

 

「はぁ~」

 

溜め息がでる。

 

毎度のことながらこいつはと思うがそれよりも先に呆れてものも言えなくなる。

 

「その溜め息はなんだよー! こんな美人と一緒に呑めるんだからそれぐらいいいじゃんかよぉーっ」

 

「相変わらずふてぶてしいな」

 

自らのことを美人と称するとは。

 

美人であることは認めるが……普通、それを自分で言うか?

 

「でも、事実だろ?」

 

「……そうだな。その図々しさ故に認めたくないものだがな」

 

「言ってくれるねぇ……でも、私が美人ってのは認めたな」

 

ニヤニヤしながら俺の腕を掴み、早速呑みに連れてこうとしてくる。

 

全く……俺に酒代を払わせる気満々じゃないか。

 

「……自分で払えよ?」

 

「フッフッフッ……」

 

意味ありげに笑うレオーネに嫌な予感しかしない。

 

ほどなくしてその予感は的中した。

 

「無一文の私に払う金なんてないぞ!痛ぁっ!」

 

それはそれはとても良い笑顔だった。

 

そんなレオーネの頭に拳骨を落とした俺は悪くない。

 

何でそんなことを自信満々に言うのか理解できないししたら駄目だ。

 

「……全く、お前というやつは」

 

「痛っぅぅ……なにも拳骨する必要はないだろぉー」

 

俺に拳骨を落とされた部分を擦りながら、恨みがましい目で睨んでくる。その目に少しだけ涙が浮かんでいた。

 

「だったら俺に払わせようとするな。賭博に使う金を飲み代に使えば良いだろうに」

 

「えぇ~~」

 

明らかに私不満ですという空気を出しているがそれは俺に関係ないだろ。

 

「えぇ~~じゃないだろ」

 

「いいじゃんか……私よりもずっと稼ぎが良いんだしさぁー」

 

「将軍なのに給料がマッサージ師よりも少ないなんて早々ないだろ」

 

そうだったらよっぽどの腕利きだろうに。

 

仮にも将軍の給料が低かったら他の将軍なんてほとんどが破産しているぞ。

 

愛人が10人もいるノウケン将軍は特に破産しそうだ。

 

「ケチ」

 

「お前は遊びすぎなんだ。賭博に使う金を少なくすればいいだろうに」

 

「それじゃあ……つまんないじゃんかよー」

 

「……だからって毎回毎回たかるな」

 

お金はかなり稼いでるとはいえ浪費したくはないんだが……。

 

「こんな美人と飲めるんだからそれぐらいいいじゃん」

 

「残念美人なのにか?」

 

「なんだとぉッ!? それはいくら私でも聞き捨てならないなぁ」

 

「人にたかる、賭博で金が無くなる……残念じゃない要素が何処にあるんだ?」

 

この2点を突くとレオーネは気まずそうに視線を逸らして頬をかいた。

 

「…………ほ、ほら……そんなことよりさ早く呑みに行こう!」

 

「……まあ、いいだろう」

 

明らかに図星を突かれたのがまるわかりだが……指摘しないでおこう。

 

藪をつついて蛇を出したら目も当てられない。

 

俺は意気揚々に腕を引っ張っていくレオーネに引きずられるようにしていきつけの酒場へと行くのだった。

 

 

 

 

「プハーッ」

 

いきつけの酒場に着くなりレオーネは遠慮なく酒を頼んだ。

 

「良い呑みっぷりだな」

 

「だろー。将軍は相変わらずちびちびとしか呑んでないけど」

 

「呑み方は人それぞれだ。俺はお前みたく一気に呑まないだけだ」

 

「それもそっか。あ、おかわり1つ!」

 

従業員が近くを通った瞬間におかわりを要求するレオーネ。

 

遠慮という言葉を知らないのではと思う。……すでに慣れたが。

 

「ついでに適当に摘まめるものも1つ頼む」

 

俺もついでに注文しておく。

 

「はい、ただいま!」

 

注文を受け取るとそそくさと従業員が厨房へと向かう。

 

「……少しは遠慮という言葉を覚えたらどうだ」

 

どうせ言っても無駄だろうが言っておく。

 

すでに何回も言っているのだから。

 

「そう固いこと言うなって」

 

「なら、自分の分ぐらい自分で払え」

 

「……後でサービスするから」

 

上目遣いしながら胸元を強調するレオーネ。酒が入っているからか若干顔が赤くなっている。

 

「……色仕掛けは通じないぞ」

 

「ちぇ~。そこら辺の奴らなら簡単に引っ掛かるのに」

 

お前は普段から何をしてるんだ? 盗みとかしているなら捕まえなくてはならないのだが……。

 

「お金を騙し盗ったりしてたら捕まえるぞ?」

 

「あははは、そんなことしないって!」

 

そう言いながら彼女はグビグビと瓶に入ったワインを呑んでいく。

 

「あんまり一気に呑むな。健康に悪いぞ」

 

そう注意するもあまり気にした様子はなくどんどん呑んでいき、瓶が物凄い勢いで空になる。

 

「大丈夫だって! 」

 

何処が大丈夫なんだ? 一気に酔い始めてるぞ。

 

そんな俺の心配を他所にレオーネは呑む速度を上げる。

 

「将軍も呑め呑め!」

 

「って、おい!? まだ呑みかけなのに別の酒を混ぜるんじゃない!」

 

こいつ……まだ3分の1しか呑んでないのに別物の酒を追加してくるとは……。

 

「あ、ほらあれだよあれ……カクテルってやつ?」

 

「お前……カクテルって適当に言ってるだけだろ」

 

しかも、変に混ざってるから不味い。

 

顔をしかめる俺を見てレオーネが笑ってる。

 

本当なら文句をつけたいところだが……まあ、良いだろう。

 

俺自身こいつと呑むのが嫌なわけではない。

 

俺のことを将軍と呼びながらも気安く話しかけてきたり、イタズラしてくるのは新鮮だからな。

 

こんな風に気安く接することができるだけでもいい気分転換になる。

 

大半の奴が立場的に恐縮してしまうしな。

 

完全に休みの人かなら別なのだが。そうでないとやっぱり……恐縮されてしまう。

 

「はははは! そんな細かいことは気にするな!」

 

またもや、酒を追加してくるレオーネ。だが、先ほど呑み終わり器が空になっていたので酒同士が変に混ざることはない。

 

「全然細かくないぞ。でもまあ……酒の席だから特には言わん」

 

酔っぱらいには言っても無駄だろう。

 

言ったところで忘れられるのが落ちだ。

 

「お待たせしました」

 

俺とレオーネが注文していたのが届く。

 

「待ってました!」

 

レオーネは即座に受け取るとそのまますぐに呑み始めた。

 

「そうがっつく必要もないだろうに」

 

俺はそんなレオーネのことを摘まめるものとして出てきたラスクを食べながら見ていた。

 

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