捨て犬と俺と見ていた少女と   作:壁打ち

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特別

「マイちゃん、さっき真尋ちゃんに言った言葉の中で聡志くんのアレについて何も無く話してたけど言っちゃっていいよね?」

 

 

「んあーそっか……。 まあ聡志の不思議ちゃん発言はどうせいつか聞くことだし言っちゃおっか」

 

 

「アレ?」

 

 

 要領を得ない2人の会話に首をかしげる。 舞伽ちゃんは少し考え、頭を軽く掻きながらゆっくりと口を開いた。

 

 

「えーーーーーっと……今から話すことは聡志の事で、聡志が言った言葉をそのまま話すからとりあえずありのまま聞いてほしいんだけど、アイツはね」

 

 

 

 

『他人の感情を、色で感じる』

 

 

 

 

「んだってさ。 意味解る?」

 

「………………………全然わかんない」

 

「でしょ。 でも本人的にはそうとしか言えないみたい」

 

「私たちは、人の感情を読める、って解釈してる」

 

「…………待って、急に何、この話。 天宮くんは超能力者ってこと?」

 

 

 今までとは全然別ベクトルの話をされ、混乱してしまう。 他人の感情を読む? なにそれ?

 

 

「まあそう思うのも無理ないけど、別にアタシたちも超能力なんて信じてないよ。 そんなものは無い、が共通見解。 観察力・洞察力、後は感受性……感性かなって」

 

「人の表情とか、声とか、体の動きからどう思ってるか、感じてるかを受けて、聡志くんの中から出てきたのがさっきの言葉みたい」

 

「………今言ってることは解ったけど、その、人の感情が読める、なんて言い切れる程なの?」

 

「精度が高いの。 ものすごく。 長くそれを見てきてそう思った方が自然だなっていうのが私達の結論」

 

 

 閉口してしまう。そんな事ができる人間がいるのか。 そうだとしたら私の今日感じていた心の内も底の底まで明かされてしまうんじゃ、なんて恐怖感を覚える。

 

 

「そんな顔しないであげて。 今の話で怖がるのは解るけど、アイツバカだから。 悪いことにはならない保証だけはする」

 

「バカ? ってどういう意味合いで?」

 

「アイツはその伝わってきた感情をそのまま自分に受け取っちゃうの。 相手が喜んでるならそのまま自分も嬉しい。 悲しんでるなら自分も一緒に泣きそうになる。 今は大分コントロール出来てるけど昔は随分振り回されてた」

 

 

 幼い頃からそうやって自分以外の感情を受け取ったらどうなってしまうんだろうか。 子供の遠慮の無い感情や大人の悪意を容赦なく浴びたら。 少なくとも私では耐えられそうにない。

 

 

「自分が悲しい思いをしたくないから、誰かの悲しむ事はしない。 ……というか、アタシはやめて欲しいんだけど、他人事をまるで自分の事のように受け止めてなんとかしようと行動するの。 本当にバカなんだから」

 

 

 そういう舞伽ちゃんの顔は呆れながらもどこか嬉しそうだ。

 

 

「だから、変な言い回しとかしてたらまあそういう感じだからわからなかったらスルーして」

 

「う、うん」

 

「あと、1個だけみんなで決めたルールがあるの。 それは出来る限り守って」

 

「うん。 どんなの?」

 

「聡志を使ってズルをしないこと」

 

「ズル?」

 

「誰が誰の事をどう思ってるか知りたい、とかそういう事に聡志を使うことかな。 言われなければわからないことを無理やり暴くような事とか。 知り得もしない事を知ろうとすること」

 

「………わかった」

 

 

 私は静かに頷く。 はっきり言ってしまうと今の話を聞いてどうしたらいいのかがわからないのが本音だが。 自分の中の倫理観から外れた事をしなければ大丈夫、だと思う。

 

 

「まあ、アタシらでも徹底は出来てないんだけどね。 アイツすぐに顔に出るからそれをつい見ちゃったり」

 

「そう。だから、聞かせた上でこんなお願いするのは烏滸がましいけど、普通に接してほしいな。 特別扱いせずに」

 

「正直、どうしたらいいかも解らないから今まで通り接するよ。 わざわざありがとう」

 

 

 例えどんな事が出来ようとも、私の好きな人が信頼している人なのだ。 そこだけはブレることがない。

 

 

「まあ未来と付き合うのも大概だと思うけどね。 聡志のそれほどじゃないけど」

 

「うぇっ、なにかそういう事あったっけ……? 今の所全然普通だと思うけど」

 

「あー……聡志の話だとおじさんの再婚から真尋と付き合うまでの未来いっぱいいっぱい期間はかなり鈍ってたみたいだからまだ体感してないんだ……」

 

 

 言われて思い返すが心当たりがない……わけでもないか。 こちらの事によく気づいてくれる事……? 今日もいっぱい甘えちゃったし………。

 

 

「ヒントだけ言うと、もしもでもありえない話だけど、アタシが未来と付き合ったらダメ人間になってると思う」

 

「あ、私も。 ありえないけどの所も含めて同じ考え」

 

「え、ええっ!? どういう事!?」

 

 

 気を遣った言い回しなのはわかるけど。 彼氏を下げられてるのか上げられているのか解らない発言が飛んできて困惑しきりだ 。

 

 

「まー付き合ってれば解るよ。 自分をしっかり持ってね」

 

「何こわい………私どうなっちゃうの…………?」

 

「どうなってしまうかを見たかった気持ちはずっとあったの……推しカプ観察させてね……………」

 

「ひぇっ」

 

 

 夕美ちゃんが怖い。今日だけで何回夕美ちゃんに驚かされているのか。

 

 

 そんな話をしているうちに寝そべっていたリリちゃんが急に体を起こした。 すると玄関から物音が聞こえて来る。 帰ってきたかな。 そんなに長い時間離れたわけじゃないけれど、早く顔が見たい。

 

 

 こうやって2人と話して、もっともっと仲良くなっていきたいと思えたし、何故か未来の事がもっと好きになったような気持ちになっていた。

 

 

「…………しまった。 ケーキ何がいいか連絡するの忘れてた」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 ケーキを買いに行く道すがら、白い息を吐きながら3人並んで歩いていると、聡志から早速お説教が飛んできた。

 

 

「お前、俺で答え合わせするのやめろって。 というか必要ないだろ」

 

「スマン。 視界に入っててつい………」

 

 

 真尋の様子がおかしいのを感じた時、視界にいた聡志の顔色で自分の感じた事が正しいかを確認してしまった。

 

 

 いけないことと解っているが、いっぱいいっぱいだったここ最近の自分を考えるとどうしても自信が持てなかったのだ。

 

 

「未来、ホントに様子おかしかったもんなー。 そんなギリギリとは思わなかったけど。 言えよ」

 

「だーからごめんってもう何回も言ったって……自覚はある程度してるけど、そんなに普通じゃ無かったんだなぁ」

 

「まあお前が寄ってくる人間に対してどういう意図で近づいてきたかをまともに考えてないのは流石に危ないと電話口で思ったな。 それが北上さんだったから結局丸く収まったけど」

 

「ホントホント。 北上さんには感謝しかないね!」

 

 

 言われるがままになっているが全て事実なので反論ができない。

 

 

 あの時に真尋と出会わなかったら、今頃こうやって2人と歩いている事もなかったかもと思うと、本当に感謝の念だ。

 

 

「そうだ! 俺なんで未来が北上さんを受け入れられたか考えてたんだよ!」

 

「なんか碌な話じゃなさそうだけど………なんだ?」

 

「簡単な話! 未来は身内と認めた相手以外には消極的だろ?」

 

「改めて言われると……まあそうだけど」

 

「北上さんにはそれがなかった………つまり、北上さんを最初に話した時から身内と認めていた………!! すなわち、北上さんは未来の幼馴染みだったんだよ!」

 

「…………………聞くだけ無駄だった」

 

 

 

 初めてちゃんと話したのがあの時だって言っただろ。 無い関係性を捏造しようとするんじゃない。

 

 

 そんな事を考えていると、聡志が口元に手を持ってきて考え込んでいることに気づく。

 

 

「おいおい、もしかして朝陽の話を真に受けてるのか…?」

 

「ああ。 幼馴染み、っていうのはまあ行き過ぎだけど、考え方は解る。 犬を拾ったとき以外に実は何かしらで関わってたみたいな覚えはないのか?」

 

「関わり方は基本的にはお前らと一緒だよ。 小学校にはいなかっただろ? 中学は同じだけど3年間別クラスで関わりなし。 で、高校で同じクラスになって、だから本当に無いんだって」

 

「…………それ以前は?」

 

「以前って……俺は幼稚園だけど流石にそこまで聞いたことないな。 というかその頃の事なんてもう覚えてねーよ」

 

「まあ、そりゃそうか……じゃあもう後はあれしか無いな」

 

 

 聡志は、真面目な顔のまま続ける。

 

 

 

「運命の相手だったって事だな」

 

 

 

 呆れ、聡志を見る自分の目が半目になっていくのが解る。 毎度の事だが真面目な顔で何を言ってるんだコイツは。

 

 

「朝陽、さっきは馬鹿にしてスマン。 コイツに比べたら全然そっちのがマシだった」

 

「え、俺聡志のも好きだけど! 素敵じゃんよ!!」

 

 

 こっちはこっちでなんでもいいんじゃねーか。謝って損した。

 

 

「まあ、今お前を()()ると大丈夫だと思うけど、大事にしろよ。 最近はマシになってきたけどこうやって未来がちゃんと信頼できる相手なんてそうそう見つかりそうにないからな」

 

「わかってるよ。 ……わかってるからニヤニヤしてこっちを見るのはやめろ! 朝陽も!!」

 

 

 俺は2人にそう言いつつ、さっき家から出たばかりでそんな長い時間離れるわけでもないのに早く真尋の顔がみたいな、なんて浮かれているのを自覚した事を思い足を早めて歩くのだった。

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