捨て犬と俺と見ていた少女と   作:壁打ち

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隣にいるための

 それぞれケーキを手に帰ってきてリビングに入ると、リリが駆け寄ってくる。 足に体を擦り付けてくる感触を感じつつ、真尋達の元へ向かう。

 

「ただいま。 ほら受け取ってくれ」

 

「おかえりなさい。 ほら舞伽ちゃん達も」

 

 

 呼び方が変わっていることに安心感を覚えつつ、渡さなかった分を冷蔵庫に入れる。 すると、舞伽が封筒片手にこちらへ近づいてきた。

 

 

「ありがとね。 はいこれお金」

 

 

 言われ、驚きつつも中を見ると、全員分のケーキ代が賄えるだけの金額が入っていた。

 

 

「いや多すぎだろ。 こんなん受け取れるか」

 

「元々パパが手土産にケーキを買おうとしてたの。 それをアタシがお願いして真尋と話すために使()()()()もらったんだ。 だから受け取って?」

 

 

 その言葉に、ちらりと真尋の方を目線をやる。 それに気づいたのか、微笑みを返して来るのをみて、聞こえるように安心した気持ちを伝える 。

 

 

「ちゃんと話せたようで良かったよ。 しかし全員分にしてもちょっと多いけどな」

 

「未来の家族の分も込だって。 買ってあるんでしょ?」

 

 

 図星だった。 いや家族の分は自分で出すつもりだったから、なんて誰に言うわけでもない言い訳を考えつつも封筒を納める。

 

 

 そして、ケーキの箱を開け色々な種類のケーキを前にしている大事な彼女に声をかけた。

 

 

「真尋が最初にケーキ好きなの選んでくれ」

 

「え、いいの?」

 

 

 俺の言葉に喜色を浮かべ選ぼうとした所を舞伽に止められ、何か耳打ちをされている。 それを聞いた真尋は、不思議そうに聞いてきた。

 

 

「えーっと……なんで私を最初にしてくれたの?」

 

「なんでって……選択肢が多い方がいいから」

 

「……………それだけ?」

 

 

 納得していない顔で聞かれ、少しの間のあと息を吐き自分の中の考えを言葉に出した。

 

 

 

「……………真尋、だって生クリーム苦手みたいだったから、それ以外がちゃんと残ってる状態で選んでもらえたらなって」

 

 

 

「…………………………………………………にぁっ!?」

 

「うわでた」

 

「出たね」

 

 

 驚いた様子の真尋が慌てて舞伽の後ろに隠れ、舞伽と夕美がジト目をこちらに向けている。 なんだその目は。

 

 

「いや、間違ってたならいいんだけど……」

 

「いや、合ってる、合ってるんだけどなんで!? まだ生クリーム苦手だって言ったこと無いでしょ!!」

 

「この前出かけたとき、クレープ屋があるのを見て俺が食べる?って声かけた時なんだけど」

 

「う、うん」

 

「まず声かけたときにほんの少し乗り気じゃないかなって感じて、真尋が頼んだのがカスタードメインで生クリーム系のやつじゃなかった事、俺の生クリーム系のクレープを一口上げるときにも恥ずかしがる感じじゃなく一瞬躊躇いを感じてたみたいだったから、そうなのかなって」

 

「なっ、え、は、嘘、嘘でしょ、そんなに態度には出してないつもりだったのに!?」

 

「態度に殆ど出てなかったのは本当だろうけどもね…真尋、ヒント出しすぎだよ」

 

「そうだよ、たとえ見せたのがほんの少しでもそれだけ積み重なったら断言されちゃうよ未来くんには」

 

「そ、そんな、そんな事………」

 

 

 打ちひしがれる様子の真尋に舞伽が俺には聞こえないように話をしている。 あまり変な事を吹き込まないで欲しいんだけど。

 

 

「いい、アタシ達には恋愛的好意がなかったから気遣いレベルの事しか無かったけど、多分これから真尋がされる事は今回の比じゃないよ」

 

「これからどれだけ甘やかされちゃうんだろうね………ふひ…………楽しみだね真尋ちゃん……………」

 

「うえええぇぇぇぇぇぇぇん…………?」

 

「完全復活って感じだな!」

 

「ホントにな」

 

「ありがとさん……」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 慌しかった幼馴染達との一日が終わり、暗くなったからと真尋の家まで2人で並んで歩いている。

 

 

 右側を歩く真尋とは手を繋ぎ、指が絡んだ状態であり、まだまだ触れ合うことに慣れることはなく心臓の音を感じながらも心地よい時間が過ぎていくのを感じる。

 

 

「今日はね、色々ありすぎてすっごい疲れた。 本当にほんっっっっっとうに疲れたの」

 

「ごめん、としか言えない……でも、俺と付き合うならあいつらとも関係が続いて行く事になるからどうしてもちゃんと話してほしくって」

 

「ううん、最終的にはきて良かったって心から思ってるから。ちゃんと面を向かって話して、これからも仲良くしていけるって思った」

 

 

 その言葉に俺は心の底から安堵しつつ真尋の家の道を歩く。 ゆっくりと、近くはない、しかし満足できるほど長くはない道を歩く。

 

 

 そんな時間の中、真尋がふと口を開いた。

 

 

「未来、私頑張るから。 あなたの隣にずっといれるように。 あなたがくれた誓いを裏切らないためにも」

 

「あんまり重荷に思ってくれなくてもいいよ……言ったけど、結局はただの言葉だから。 これから俺が真尋の傍に居続けて証明していくしかないんだ」

 

 

 これから長い時間を経て真尋と育まれるもの。 それはきっと俺が幼馴染達と育んだものとは違うものになる筈だ。 それがどのような形になるか解る時まで、彼女を裏切る事がないように、彼女を失望させないように、この幸せを今続けていきたい。

 

 

 この時俺はそんな浮かれたことを考えており、真尋が今日舞伽達と何を話したかの確認を怠っていた。

 

 

 そして彼女の心の内、もしくは今日の中でも顔を覗かせていた彼女の性質が頭から抜けていたのだ。

 

 

 思い知るのだが、彼女は、嬉しい時やテンションが上がっている時、又は焦っている時。

 

 

 

 思考、そして行動が暴走するのだ。

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 翌日、まだ人がまばらな教室。

 

 

 もう着慣れた制服で先に着いていた聡志と教室の前方窓際で取り止めのない話をしていた時。

 

 ふと気がつくと、真尋が俺の近くに立っていた。

 

 

 今までは特別用がなければ教室内では話すこと無かったため、行動の意図が読めず彼女の目を見る。

 

 

 明確な行動の意思と、焦っているような……?

 

 

 ふと教室の扉の方を見ると、廊下から夕美がこちらをニヤニヤと見ていた。 アイツの差し金か……?

 

 

「未来、おはよう!!」

 

 

 そんな事を考えていると急に大きな声で挨拶をされ気圧されるが、ひとまずは返さないとと思い口を開く。

 

 

 

 

   ◇

 

 

 

 

 昨日夕美ちゃん達と話して、私たちの関係性を周りに広めようと決めた次の日の朝、私は早速行動に出る。

 

 

 しかし、教室で未来の前まで来たはいいけど、具体的にどうするか全然考えてなかった…!

 

 

 どうすれば周りに付き合ってるって解るかな、挨拶だけじゃ足りないかな?

 

 

 恋人らしいことでもすればわかってくれるかな。恋人らしいこと、恋人らしいこと……未来としたいこと?したいことしたいことしたいこと………

 

 

 

   ◇

 

 

 

「真尋、おはんむっ!?」

 

 

 俺が挨拶を返す瞬間、俺の口が何かに塞がれる。

 

 

 いや、それは正しい表現ではなく。

 

 

 俺は、真尋からキスをされていた。

 

 

 甘い痺れるような感覚が口から伝わってくる。

 

 

 少しして物足りなさそうに口が離れ、周りが冷静に見れるようになる。

 

 

 先ほどの真尋の声で、まばらながらも注目を集めた中で行われた行為にどよめいているのが解る。 その瞬間には黄色い声も聞こえた気がするが記憶が定かではない。

 

 

 諸悪の根源であろう夕美の方に顔をむけ諌めようと思ったら、夕美は片手を額に当ててどうしてこうなった、といった様子だったのでまさかこうなるとは予想していなかったらしい。

 

 隣の聡志は顔を抑えてうずくまっていた。 至近距離で人の強い感情を受けただろうから処理が大変そうだ、なんて人ごとのように考える。 ごめん。

 

 

「まひ、ろ……?」

 

 

 惚けた様子の真尋になんとか言葉をかけると、はっと自意識を取り戻した様子を見せ、自分が何をしたのか自覚したのか、赤くなった顔をさらに赤くし

 

 

「へ、はっ、わ、わたっ、ひっ、ひゃ、ひゃぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」

 

 

 叫び声をあげながら教室から走り去っていき、「ちょ、ちょっと待ってまっひー!」なんて言いながら夕美が後を追いかけていった。

 

 

 

 取り残された教室で、感情の整理が追いつかず呆けていると、ふと右肩が掴まれた。

 

 

 

「……今までは暖かく静かに見守ってたけど流石にスルー出来ないわ。 進藤くん、うちの真尋になにを吹き込んだのかなー?」

 

「ひ、比内さん、いや、俺はなにも……」

 

 

 クラスメイトで真尋の友人の比内(ひない) (そら)さんに言い訳をしかけた時、堰を切ったように周りの女子が押しかけてきた。

 

 聡志がその勢いになす術もなく押し流されるのが視界の隅に映る。 もうホントごめん。

 

 

「し、進藤くんいつの間に北上ちゃんとそんな感じになってたの!? 私全然気づかなかったんだけど⁉︎!?」

「最近いい感じになったのってもしかして真尋ちゃんのおかげだったってこと!? 私ちょっと狙ってたのに!!」

「私はなんか空気感怪しいなって思ってたけど全然進んでたんだねぇ! ねえねえねえねえどこまでいったの⁉︎」

「というかさっきのキス凄かったね! 聞けば聞くほど美味しい……いやもう悶えることになりそうだけどもう1から1000まで2人の事聞かせてくれない!?」

 

 

 そんな言葉をかけられ、もはやどうしていいか分からない状況に押し込まれていくのを感じる。

 

 

 家族から逃げ、幼馴染達から目を背けていた中で、捨て犬を見つけ、真尋と出会い、救われ、恋に落ち、これから穏やかに過ごしていくと思っていたが。

 

 

 どうやら思っていたような学園生活は送れなさそうだな、なんて質問攻めにあいながらこれからの自分達に思いを馳せた。

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