捨て犬と俺と見ていた少女と   作:壁打ち

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5話

 子犬たちの里親も見つかり、少し時が経ち季節の変わり目を感じるようになった頃。

 

 

 テスト最終日の半日授業が終わった俺は朝陽と夕美に誘われたので、早紀さんに連絡を入れ了解をもらい、昼食にチェーンのハンバーガーショップに来ていた。

 

 

聡志は舞伽と貴重な制服デート、と息巻いて学校が終わって即教室から飛び出していっていた。楽しそうで何よりだ。

 

 

「んで、未来は北上さんにフラレでもしたの?」

 

 

 幼馴染の一人で朝陽の彼女でもある藍崎(あいさき) 夕美(ゆうみ)が茶色の爽やかなショートヘアーを揺らし、席につきながら藪から棒にそんなことを言い出すから危うく鼻からコーラを出す勢いでむせてしまった。

 

 

「...振られてねぇよ。 急に何だ」

 

「えーでもテスト始まってから明らかに様子がおかしいじゃーん」

 

「お前らが気にする事じゃねーっての」

 

「ケンカしたなら早くごめんなさいしなよー」

 

「そんなんじゃないからいらん気を回すなって…」

 

 

 そう、ケンカをしたわけではない。ただテスト前日の事が恥ずかしすぎて申し訳なさすぎて顔をまともに見れないだけだ。

 

 

 そう思っていると、夕美の隣の彼女と同じ髪色を持った朝陽が俺のポテトをつまみながら

 

 

「未来はいい加減北上さんに告白しないの?」

 

 

 なんて言ってくるもんだから俺は固まってしまう。

 

 

「いや、だって、まだちゃんと話すようになってから3ヶ月くらいしか経ってないし...」

 

「俺が言っても説得力ないけど時間なんて関係ないだろー。 ほぼ毎日一緒に帰ってるんだろ」

 

 

 朝陽達には言ってあることだ。 北上さんとは何もなければ一緒に帰るようになっていた。

 

 

「一緒に公園で犬の散歩してるのを結構見るって聞いたよ」

 

 

 夕美からも目撃例が出てきた。 成長してきたので遊ばせられる公園までお互いに連れて行ってるのだ。 まああの辺りに同じ学校の生徒はいるだろうからな…。

 

 

「水族館デートは楽しかったかぁ?」

 

「おい待てそれは誰にも言ってないだろ何で知ってるんだ」

 

「実はたまたまその日聡志と舞伽もデートでいたんだってさ」

 

 

 言われ俺は肘をついた片手で頭を抑える。見られて恥ずかしい事はしてないはずだが、どうにも慣れない感覚が襲ってくる。

 

 

「………はー未来くんの恥じらっている姿…栄養がありすぎる……」

 

 

 夕美、()()()()()()ぞ。勝手に謎の栄養を俺から摂取するんじゃない。

 

 

「俺としては2人が...というか北上さんが未来と一緒にいてくれたら安心なんだけど」

 

「何だよそれ...俺は要介護者かっての」

 

「だって未来が一番しんどい時に支えてくれたんだろ? 俺らにもなーんにも話してくれなかったあの未来がそうしたってだけでも信頼できるし」

「そうなーんにも私たちに相談してくれなかったあの未来がねー」

 

「だからそれはもう何度も謝まっただろ...」

 

 

 2人の本心半分からかい半分の言葉に俺はばつがわるくなる。

 

 

 

 

 早紀さんとちゃんと話せるようになったあの休日の次の月曜日、登校中に朝陽と会い、下駄箱で北上さんと会ってしまった時。

 

 

みっともない所を見せてしまった恥ずかしさと、顔を見れた嬉しさと、自覚した思いから。

 

 

どもりながら、顔を赤くしながらその場でうずくまってしまった。 北上さんには言い訳をして誤魔化したけど、それを間近で観てた朝陽のそれはもう嬉しそうな、面白いものを見つけたような顔を見たときは、碌なことにならなそうとは思ったが。

 

 

その日の夕方には幼馴染み全員が招集(舞伽は通話だったが)されてあった事を洗いざらい聞き出されてしまった。

 

 

その時、今まで話せなかった事を謝って、……悲しい顔をさせてしまったが、自分の問題が解決した事を喜んでくれて、ちゃんと自分の心を預ける事が出来たような気持ちになった。

 

 

………それはそれとして、自分の心の中を全部打ち明けた事は、未だに恥ずかしい思いをさせられてしまっているが。

 

 

「急かしてもしょうがないとは思うけど、未来的には脈アリなんでしょ? 何を躊躇ってるのさ」

 

 

そう。 そうなのだ。 あの時は自分の事でいっぱいいっぱいで周りもちゃんと見れず、深く考えれてもいなかったが、思い返すと最初からこちらの事を気にしたような行動ばかりだったと思う。

 

 

しかしだ。これを口に出すのは恥ずかしいが、もうこいつらには取り繕いたくは無い。

 

 

「……………いや、だって、俺が好きって自覚した時、既に相手が好意を抱いてくれてるとか都合良すぎじゃ無いか………………?」

 

 

結局は自信が持てない事を言い訳してるだけだとしても素直な気持ちを吐く。

 

 

2人は呆れながらも、真面目な目を俺に向けている。

 

 

「ちゃんと話してくれるようにはなったけど、ヘタレとビビリは治らなかったか……」

 

「俺は夕美に告白しようと思ったとき聡志にも未来にもめちゃめちゃ相談してたからお前に言えることが無いよ……」

 

 

そうだぞヘタレ仲間。あの時ズルまでしようとしやがって。 俺は解っても絶対に言うなと釘刺しまでしたんだぞ。

 

 

「好意を向けられてるから好きになるってのはあると思うけどねー。 未来がそうとは今までを見てると言えないけど」

 

「なんにしても今のままのつもりはないんだろ。 ちゃんと仲直り出来る事を祈ってるわ」

 

「ケンカじゃないって………」

 

「ならなおさらだろ。しかしケンカじゃないのにあの微妙な感じは………」

 

「やめろ、考えるんじゃない、なんとかするから報告待ってろ!」

 

 

2人と話しながら、自分の中では心を決めていた。あんなことになったならテストを言い訳に自分をごまかすのも終わりにしないと。

 

 

それに、気持ちを素直に言葉にして伝えたい。そして彼女との関係を変えたい。そう求めるようになった自分がいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

テスト最終日の半日授業の後、友達から誘われた私は駅近くまで一緒に遊びに来ていた。

 

 

「はい、進藤くんと何があったか全部、ぜーーーーーーんぶ話しなさい。拒否権はないからね」

 

「空ちゃん落ち着いて………」

 

「二人揃って目が合うと顔を赤くしてさっと目を逸して! なにかあったに決まってるじゃん!? 私を置いて先に行っちゃったの!?」

 

 

高校に入ってからできた友達の空ちゃんにそんな風に言われて、そんなバレバレな姿を見られてたと思うと恥ずかしくて顔を上げられなくなる。

 

 

「あなた達本っ当に付き合ってないんだよね!? 空気がぶっちゃけヤったあと…………」

 

「大きな声で何を言ってるの空ちゃん!?」

 

 

慌てて正面にいる空ちゃんの口を抑える。チェーンのコーヒーショップにいる周りのお客さん達の視線が刺さるのを肌で感じる。

 

 

 前のめりになっていた空ちゃんは少し落ち着きを取り戻したのか椅子の背もたれに体を預ける。

 

 

「出会った頃は好きな人いないどころか恋した事ないとまで言ってた真尋が気づいたら一気に進展してるんだから驚きもするわよ」

 

「うう…」

 

 

 そう言われると言葉もない。以前では考えられない事もしている自覚があるので尚更だ。

 

 

「しかも相手があの進藤君だってんだからねぇ。 未だにあの虚無の自己紹介覚えてるわ」

 

「みんなが趣味とか色々言ってたのに名前だけ言って座っちゃったやつね……」

 

 

 高校に入ってすぐのホームルームで各自自己紹介するという流れになった時、彼は立ち上がり名前を名乗った後よろしくの一言もなく座ってしまったのを思い出す。

 

 

 そのすぐ後に天宮くんがこんなんでもいいやつなんで共々よろしく、なんてフォローをしてたっけ。

 

 

「そんな風だった進藤くんが気づいたら空気柔らかくなってる感じするし、真尋と話してる時には笑顔も見せるしでねぇ?」

 

「そ、そうなのかな…?」 

 

 

 なんて口では言いつつも、彼の自分への態度の違いは自覚していて、自然と口元が緩んでしまう。

 

 

 彼の中で自分が特別なんだと思えて胸の高鳴りを抑えられなくなる。

 

 

「まあ大丈夫だと思うけどあんまりフワッとした状態ではいられないかもよ? 最近進藤くんのこと良いって言ってる女子が出始めてるみたいだし」

 

「え?」

 

 

 寝耳に水だ。まさか私以外にも彼のことを見つける人が出てくるなんて。

 

 

「元々見た目は悪くないし、最近はさっきも言ったけど柔らかくなって人当たりも良くなってるからねぇ。 ちゃんと相手を見てる人は真尋の存在も解ると思うから良いんだけど、そうじゃないのもいるからね」

 

「………そんなの、駄目」

 

 

 自分の中の暗い欲が顔を出す。 これも以前の私では抱きようがないものであり、振り回されている物だった。

 

 

「それを言う相手は私じゃないでしょ。 ちゃんと進藤くんにどう思ってるか、どうなりたいか伝えなきゃ」

 

「うん……解ってる」

 

 

 解ってるのだ。 でも今の距離感だけでも幸せで、これ以上を望んでも良いのか、なんて思ってしまう気持ちもある。

 

 

 だが、自分達以外が絡んでくるかもしれないとなると話は別だ。曖昧なままでは横槍が入るかも知れない。

 

 

駄目になってしまうかもしれないけど。

伝えなければ。自分の心の内を。

 

 

 

 

 

「で、実際何があったの?」

 

「へっ」

 

「このまま聞かずに終わるわけないじゃん。 さあ、吐くんだ!」

 

「えーーーーーっ、と………………き、キスを、」

 

「は? キス? したの!?」

 

「未遂です…………」

 

「はい?」

 

「この前進藤くんのお家で一緒に勉強してる時にね」

 

「は?」

 

「隣に座って教えあってた、というか殆ど教えてもらってたんだけど、ふとした時にお互い目があって固まっちゃって」

 

「…」

 

「その時に、えっと、魔が差したといいますか、目をつぶってしまいまして」

 

「……」

 

「そしたら、頬に手が当たる感覚がしたから、もしかして本当にこのままとか考えてたら」

 

「………」

 

「リリちゃん……進藤くんちのワンちゃんの鳴き声が間近で聞こえて、びっくりして目を開けてしまい」

 

「…………」

 

「それで進藤くんとすごい距離が近づいてるのを認識した時、もうものすごく恥ずかしくなっちゃって、その場から逃げるように飛び出して来ちゃって、それ以来恥ずかしくて顔がまともに見れません………」

 

「……………もうさっさと押し倒しちゃえばいいんじゃない?」

 

「ちょっとぉ!」

 

 

言えっていうから話したのに急に雑にならないでよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

朝陽達と別れて帰り道を歩く。 日が沈むのが早くなるのを感じる中、あの河川敷に差し掛かったとき、ふと足が止まる。

 

 

川面を眺めながら、あの時の事を思いだし、感慨に浸っていた。

 

 

「え、ちょっと、どうしたの?」

 

 

そんな言葉が聞こえた方を見ると、北上さんが少し焦りを見せた表情でこちらを見ていた。

 

 

「どうしてもないけど……ただ見てただけ?」

 

「ならいいけど……ここにいた理由を聞いてるこっちからするとまた何かあったんじゃないかと思って」

 

「わざわざ心配してくれてありがとう。 まあただ見てたわけじゃ無いのは確かなんだけど」

 

 

そう言いながら腰を下ろす。すると北上さんも拳一つ分の距離を開けながら隣に座った。

 

 

「じゃあどうして?」

 

「………今日は早終わりだし、普通に考えたらこのタイミングではありえないんだけど、ここにいたら北上さんがくるかもなって思って」

 

「……………ひゃっ?」

 

 

空気が漏れるように声を出す北上さん。ああもう。惚れた弱みか、可愛くて可愛くてしょうがない。

 

 

 

「この前は、ごめん」

 

 

場の空気に流されて行動してしまった事、まだそういった関係でも無いのにも関わらずそそうしてしまった自分に自己嫌悪していた。

 

 

直前で止めてくれた、なんて意図は無いと思うけど、リリには様々な感情がありつつも感謝していた。

 

 

「いや、あれは、その、私のせいだし。 逃げちゃったし」

 

「いや、俺が自制しなきゃいけなかった事だよ。 場の空気だけでしていいことじゃなかった」

 

 

そう。だから。ちゃんとしなければならない。

 

 

静かに息を吸い、長く吐き、自分を落ち着かせる。怖いが、踏み出さなければならない。

 

 

「北上さん」

「進藤くんっ」

 

 

意を決して相手に向かい言葉を出すと同時に、北上さんもこっちを向きながら俺を呼ぶ。

 

「………俺から言ってもいい?」

 

「………………はい」

 

 

ああ。もしかしたら同じ事をしようとしているのかも、なんて自分に都合のいい考えが止まらない。喉が乾き焼け付くようだ。あいつらもこんな気持ちだったのか。

 

 

 

 

「北上真尋さん」

 

「あなたの事が、好きです」

 

「俺と、付き合ってくれませんか」

 

 

 

 

言い切り、言葉がなくなる。 自分の心臓が激しく脈打つのを全身で感じる。自分の中で押し留めていた物が外に出たことによる心地よさ以上の緊張が俺を支配していた。

 

 

少しのような、長い時間のような間の後。

 

 

 

 

「はい」

 

「私も進藤未来くんが好き……大好き」

「今日、今から、あなたの彼女がいいです」

 

 

 

 

その言葉を聞いた瞬間、緊張からは解放され、それ以上の安堵と多幸感に包まれる。なぜだか泣きそうにまでなっていた。

 

 

「…………嬉しすぎるな、これ。 えっ、本当に? 今現実!?」

 

 

テンションが際限なく上がって行くのを感じるが自分では抑えられそうもない。

 

 

すると、北上さんがそっと俺の手を握り、

 

 

「落ち着いて、現実だよ。 私は、あなたの事が大好き」

 

 

そう言われてしまい、落ち着くと同時に羞恥心が襲ってきた。

 

 

「なんかいつも俺ばっかカッコ悪い所みせてるなぁ……」

 

「そんなことないよ。 ほら」

 

 

そう言って俺の右手を自身の左胸に寄せる。 その行為に一瞬驚きはしたが、意図は解ったので冷静であるよう努める。

 

 

俺の右手には、自分の鼓動と同じくらいの激しさの脈動が伝わってきた。

 

 

「お互いにすごい事になってるね……」

 

「ね………本当は今すぐ走り出しちゃいたいくらい嬉しいの」

 

 

気持ちを向けているのが自分だけではないことへの安心感が俺たちを包む。

 

 

 

 

 

「ところでですね」

 

「? はい」

 

「私たち、彼氏彼女になったわけですよ」

 

「は、はい」

 

「告白はしていただいたので、これは私から改めて言わせて頂くんですが」

 

 

そこまで言われて、恥ずかしそうに目を逸らす北上さんを見て、何を言われるかの予想がつかないなんてことはなく。

 

 

「進藤くんとき、き、き、キス、したいでひゅ」

 

 

噛んでいた。可愛すぎる………….。

 

 

恥ずかしさからか顔を真っ赤にしながらもこちらに向き直り、目を閉じる

 

 

周囲を確認する。 犬の散歩をしている人も、下校途中の生徒も誰も見当たらない。

 

 

今この時は、誰にも邪魔されず、2人だけの物にしたいと思った。

 

 

彼女の頬に手を添える。

 

 

 

少しづつ距離を近づけ、目を閉じ、そして彼女に口づけをした。

 

 

 

緊張からか唇の感触とか、レモン味がどうとか気にする余裕なんてなくて。

それでも、ただただ幸せだと思った。

 

 

少しの後、どちらともなく離れて。

 

 

「……幸せすぎる」

「へへ、ふへへへへへ」

 

 

二人して笑い合って。

 

 

「これからもよろしく……真尋、さん」

 

「…………………さん?」

 

「………………………………真尋」

 

「うん、これからもよろしく、未来!」

 

 

その言葉と共に、真尋が俺の胸に飛び込んできた。

 

ああ。

 

 

先の事なんて解らないけど、これからも一緒に歩いていきたい、なんてありきたりな事を願った。

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