邪兎屋の会計担当   作:守銭奴


原作:ゼンレスゾーンゼロ
タグ:オリ主
万年赤字の弱小零細人材派遣会社の会計は、しかし惚れた弱みで逃げられない

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重い溜息は止む事を知らず

 キーを弾いて数字を入力していく。同時に、左手はペンを走らせ書面に弾き出した数字を記入していった。

 唐突に音が止まる。

 

「…………また、赤字か……」

 

 吐き出された言葉に籠るのは、圧倒的な疲労感。

 何度書面と手元の電卓を見返しても燦然と輝く、不良会社(ポンコツ)の称号。

 

「あー………くそっ………やってらんねぇ」

 

 雪代(ゆきしろ)ヒムロは吐き捨てると、シルバーフレームの眼鏡を額にずらしてデスクの脇に寄せていた灰皿とその傍らのソフトケース、それからマッチ箱を手に取った。

 ケースから一本取り出し、フィルターを唇で咥えてからマッチを使って火をつける。

 煙を肺一杯に吸い込んでから、一気に吐き出せば紫煙が天井へと昇って行った。

 宜しくない。室内喫煙は、壁や天井をヤニによる黄ばみによって汚してしまい、ニオイの元になると同時に物件価格を下げてしまうのだから。

 一応、壁紙を変えるだとかで、掃除だとかで落とせない事は無いがヒムロがやる事は無いだろう。

 天井を見上げるアズライトの瞳は、その美しさに反して死んだ魚以上に死んでいた。

 彼の仕事は、この小さな事務所を拠点としたとある弱小人材派遣会社の会計兼実働担当。もっとも、後者に関しては余程の事が無ければお呼びがかかる事は――――

 

「…………チッ!」

 

 鋭い舌打ちと共に、煙草のフィルターが噛みつぶされる。

 甲高い音を立てる、ヒムロの通信端末。

 半分ほど吸った煙草を灰皿へと捩じりながら押し付けて、ヒムロは端末を手に取って耳に押し当てた。

 

「あいよー。今回は、何だってんだ社長」

『遅い!!!あたしが電話してるんだから、ワンコール以内に出なさいよ!』

「チッ!……あい、すいませーん」

『舌打ちしてんじゃないわよ!……って、こんな事言ってる場合じゃなかった。直ぐに車を回してちょうだい!』

「はあ?今日は歩きで行ける距離だから燃料代も掛からないって話だったろ」

『事情が変わったのよ!とにかく……なにッ!?今電話中だから後にしなさい!』

 

 耳元でギャンギャンと喚く上司の声に、思わず端末を耳から離したヒムロは眉根を寄せると溜息を吐きだした。

 椅子から立ち上がり、向かうのは貴重品を一括で纏めた棚の一角。そこに掛けられた車のキーを手に取った。

 

「とりあえず、かかった経費は給料天引きだな」

 

 騒がしいもう一度耳に押し当てながら、ヒムロは己の得物を背負って事務所を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何でも屋“邪兎屋”。本来の屋号は、“Gentle House”なのだが如何せんそのやり口からいつの間にか邪兎屋と呼ばれ社員もそう名乗る様になった。

 所属構成員は、社長含めて四名。

 

「よーし、座れ馬鹿共。何がどうしてこうなったのか説明してもらおうか」

 

 その内三名が、腕を組んで蟀谷をピキらせるヒムロの前に正座させられていた。

 一人は、ピンクのボリューミーな髪をツーサイドアップに纏めた露出の多い女性。

 一人は、白のショートカットにごてごてとした装備を背負った黄緑が印象的な衣服の女性。

 一人は、逆立った毛髪に赤いジャケットが印象的な知能機械人の男性。

 何れもが、何処かバツが悪そうに視線を逸らしている辺り自分達のやらかしを最低限は理解してくれているらしい。

 重い溜息が、ヒムロの口から零れ落ちる。

 

「はぁ……今回は、単なる配送業務だっただろ?ホロウの中にある物品の回収とその返却だった。それが何をどうやったらホロウレイダー組織+カラーギャングとの全面抗争なんてことになるんだよ」

「いや、聞いてくれヒムロ!今回に関しちゃ、確かにドンパチに成っちまったのは悪かったけどよ!でも、仕掛けてきたのは相手だったんだぜ!?こっちは応戦せざるを得なかっただけだし、ちゃんと依頼は熟してる」

「結果は、赤字だけどな。ビリーの弾代もタダじゃないんだぞ?」

「うっ……」

 

 ヒムロの指摘に、ビリー・キッドは項垂れた。心なしか逆立てた髪も萎びている。

 別に凹ませたい訳ではないが、それはそれとして帳簿を預かる立場である以上、ヒムロは口を酸っぱくして苦言を呈さねばならない。

 

「社長。俺言ったよな?今回ドンパチがあると、万年赤字から抜け出せねぇぞって」

「うっ……こ、今回は違うのよ!?そもそも、レイダーの方が話を聞かずにアタシたちに襲い掛かって来たんだもの!ええ、そうよ!反撃しないと一方的にやられていたわ!」

「いや、逃げろよ。何反撃してるんだ。依頼内容の物品だけ回収して逃げればよかっただろうが」

「ダメよ!舐められたままで終わっちゃ、邪兎屋の名折れだもの!」

「そこは折れて良いから金かけるなよ…………」

 

 眼鏡を少し持ち上げて右手で眉間を揉むヒムロ。

 ニコ・デマラ。邪兎屋の社長であり、ヒムロの上司でもある彼女は金遣いが荒い。オマケに借金も少なからずあり、踏み倒す事も屡々。

 擁護すると、邪兎屋の経費の大半は従業員への保障手当に充てられている。

 見捨てきれない人柄。それ故に、舌打ちをして頭を悩ませて毎月の帳簿で魂が抜けかけようが、ヒムロは彼女を見捨てる事が出来なかった。

 

「…………で?アンビー。お前は、何食ってる」

「ハンバーガー」

「今食ってんじゃねぇよ!?」

「バーガーは冷めてもおいしいけど、温かい方がもっとおいしい」

「うまっ……なっ……はぁ……とりあえず、経費でそれを計上してくれるなよ……」

 

 諦めた。

 アンビー・デマラは、真面目であるのだが変な所で常識を斜め上にカッ飛んでいく。因みに、ニコとは血縁関係は無い。

 更に深い溜息を吐きだしたヒムロは、腕組を解くと頭を掻いた。

 

「はぁぁぁぁぁ…………」

「……ニコの親分。ヒムロのため息が留まるところを知らねぇんだけど」

「うっ……し、仕方ないじゃない。今回は事故よ、事・故っ」

「でも、このままだとヒムロがストレスで白髪になってしまうかも…………それも良いかもしれない」

「良くないぞー、アンビー。人の頭髪の色が変わるほどのストレス与えてる自覚があるなら、少しはブレーキを踏め」

 

 本当に禿げ上がるのではないか。自身の水色の髪を撫でて何度目かのため息を零したヒムロ。

 ここまでストレスだ何だと言っても、それでも彼女らを見捨てられないのはその人柄に惚れてしまった彼の負けというもの。

 

 邪兎屋の会計担当は、今日も自分で望んで苦境(赤字)の前に立っていた。











キャラクターステータス

名前 雪代ヒムロ
レアリティ A
所属 邪兎屋
性別 男性
生年月日 12月3日
身長 180センチ
仕様武装 折り畳み式大型氷ノコギリ
属性/タイプ 氷/撃破
CV 


概要
何でも屋“邪兎屋”の主に金勘定を担当する苦労人。
守銭奴ながら浪費家でもあるニコの金儲けの上手い話に巻き込まれては、その帳尻合わせを任されてため息を吐くまでがワンセット。
ただ、本気でニコを疎んでいる訳でもなく、寧ろ彼女の人柄に惚れ込んで仕事をしている立場であり、何だかんだと揉め事を楽しんでいる節もある


人物
直ぐに舌打ちが漏れる程度にはガラが悪く、口も悪い。しかし悪人という訳でもなく一定の倫理と、時に法律を敵に回してでも対象を助けようとする義侠心を持ち合わせても居る
本人は特別数字に強い自覚は無いが、万年赤字続きの邪兎屋が空中分解せずに辛うじて自転車操業を続けている一因の一つとなる程度には資金繰りの手腕がある
ヘビースモーカーでもあり、ストレスの度合いは灰皿に出来る煙草の吸殻の山で把握できるというのは邪兎屋の共通認識。因みに、ニコには煙草をやめる様に昔言われたが、彼女の散財の結果数量が増えてしまった過去がある


容姿
後ろ髪を伸ばした水色の髪に、肉付きの薄い顔立ちが特徴的な目つきの悪い三白眼を有した面構え
白のタンクトップに、上には青いフライトジャケット。腰にニコに貰った黒い腰布を巻いており、黒のワークパンツにメタルブーツといういで立ち。

得物である折り畳み式の大型氷ノコギリは、全長で二メートル弱あり。二つ折りで背負って持ち運ぶ
刃は鉤状になっており先端は槍のように尖った細身。折り畳み式だが、その強度はエーテリアス戦で盾代わりにしても軋み一つも上げないほど

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