ようこそ悪魔がいる教室へ 作:バチこりやりやしょうやぁ
ノリで書いてるんで軽い気持ちで読んでください
「で、これからどうするつもりだ?お前はオレの策略を見破った。文字通りオレはお前の手のひら上だ」
降り注ぐ雨が全身に染み渡る。一人の少女を送り届けた直後、森に入るや否やとある男がオレの策略を見破っており、その男は口角を上げ、ポケットに手を入れて傲慢な態度で突っ立っている。舌が焼けて爛れる感覚、熱くはないが不快感が全身に広がる。なるほど、これが敗北の味か。
身体の体温が下がっていくのを感じる。汗は雨で流され今にも震えてしまいそうだが、オレは今目の前にいる男を試した。
すると男は悪魔のような提案をする。
「お前は俺の手のひらの上。俺がその気になればお前らは獲得するはずだったポイントを獲得できず、さっきのあの女の株を下げることになる。それはお前にとって不利益だろう」
今一度、確認するように男は言った。こちらへと距離を詰め、雨音で声が通らないことのないよう、ハッキリと耳打ちするように男は言う。
「この事は、"1000万"で見逃してやるよ」
「………………やっぱそうくるよな。お前は」
悪魔との契約、オレがこの後どんな行動をしたかはどうでもいい。ただオレはこの男の仕草や表現、生き方を観察してひたすらにこう思った。
この男は"悪魔"だと。
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桜の花が舞う道路を走るバス車内にて。とある口論が巻き起こっていた。
現代社会の公共交通機関を利用している人のほとんどはスマホに目を向けている中、一人の女性はその常識のような車内空間を壊す。
「ちょっと君、お婆さんに席を譲ってあげようとは思わないの?」
「それはそれはクレイジーな質問だねレディー。この席は優先席だが、席を譲るか譲らないかを決める権利は現在進行形で座っている私が決める事だ」
「お年寄りに席を譲るのは当然でしょう!」
「年寄りだから席を譲る?ハハッ、実にナンセンスだね」
不毛な言い争いが発生した。女性は他にも優先席に座っている人がいるにも関わらず、一人の男子高校生に照準を向ける。だが女性の言葉は男子高校生の心に突き刺さってはいなかった。それどころか掠ってすらいない。
「私は健全な若者だ。確かに、立つことに然程の不自由は感じない。しかし、座っている時よりも体力を消耗することは明らかだ。意味もなく無益なことをするつもりにはなれないねぇ。それとも、チップを弾んでくれるとでも言うのかな?」
「そ、それが目上の人に対する態度!?」
「目上?君や老婆が私よりも長い人生を送っていることは一目瞭然だ。疑問の余地もない。だが、目上とは立場が上の人間を指して言うのだよ。それに君にも問題がある。歳の差があるもしても、生意気極まりない実にふてぶてしい態度ではないか」
「なっ…………あなたは高校生でしょう!?大人の言う事を素直に聞きなさい!」
徐々にヒートアップしていく口論はもはや口論とは言えないほど崩壊していた。女性は男子高校生に言いくるめられ、怒りという感情に身体が支配されてしまっている。こうなってしまえばもはや口論とは呼べない。ただの一方的な口喧嘩だ。
「も、もういいですから」
老婆もこれ以上騒ぎを起こしたくはないからか、手ぶりで女性をなだめる。だが女性はまだ男子高校生に怒り心頭のようだ。
「どうやら君よりも老婆の方が物わかりが良いようだ。いやはや、まだまだ日本社会も捨てたものじゃないね。残りの余生を存分に謳歌したまえ」
男子高校生は勝ち誇ったような顔はせず、序盤から一切崩すことのない爽やかなスマイルを決め、イヤホンを耳につけ爆音ダダ漏れで音楽を聞き始める。女性は悔しそうに歯を噛みしめていた。
普通に考えれば年下に言いくるめられ、偉そうな態度を取られたら癪に障るのは当然だ。それでも言い返せなかったのはこの男子高校生の言うことにも一理あるからだ。
道徳的な問題を除いてしまえば、席を譲る義務はどこにも存在しない。
「すみません…………」
まるで敗北を宣言するかのように女性は老婆に謝罪した。周りの乗客は巻き込まれなくてホッとしたのか、少し肩を落として安堵の息が漏れている者もいる。
だがここで終わるほど、世の中には善人が少なくはなかった。
「あの……私も、お姉さんの言う通りだと思うな」
女性からすれば救いの手が差し伸べられたように感じるだろう。この口論の勝者だと思われていた男子高校生と同じ制服を着ている女子高校生が勇気を出して男子高校生へと話しかける。
「今度はプリティーガールか。どうやら今日の私は思いの外女性運があるらしい」
「お婆さん、さっきからずっと辛そうにしているみたいなの。席を譲ってあげてもらえないかな?その、余計なお世話かもしれないけれど、社会貢献にもなると思うの」
女子高校生がそういうと男子高校生も納得がいったような表情を浮かべ、パチン、と指を鳴らした。
「社会貢献か。なるほど。中々面白い意見だ。確かにお年寄りに席を譲ることは、社会貢献の一環かもしれない。しかし残念ながら私は社会貢献に興味がないんだ。私はただ自分が満足できていればそれでいいと思っている。それともう一つ、このように混雑した車内で優先席に座っている私をやり玉ににあげているが、他にも我関せず居座り黙り込んでいる者たちは放っておいていいのかい?お年寄りを大切に思う心があるのなら、そこには優先席、優先席ではないなど、些細な問題でしかないと思うのだがね」
女子高校生の思いは届かず、男子高校生は終始堂々とした態度で優先席を離れようとはしなかった。女性も老婆も続ける言葉がなく悔しさを噛み殺す。
しかし女子高校生はまだ諦めなかった。
「皆さん、少しだけ私の話を聞いてください。どなたかお婆さんに席を譲ってあげて貰えないでしょうか?誰でもいいんです、お願いします」
この一言を絞り出すのにどれだけの勇気と決断、そして思いやりがいることか。決して容易いことじゃない。その発言で女子高校生は周囲から痛い、鬱陶しい存在だと見られてしまうかもしれないのだ。
しかし女子高校生は臆することなく真剣に乗客へと訴えかけた。
お願いします、そんな声だけが響く車内。女子高校生の思いは未だ届かず、誰一人として立ち上がろうとする者はいない。全員が全員、同じことを考えているだろう。"巻き込まれたくない"と。他人事の集団だ。このような呼びかけに応じる乗客がいれば、その人は善意ではなくプレッシャーに押しつぶされた人だろう。
しばらくお願いし続けた女子高校生。そしてようやく一人の女性が手を上げようとした、その瞬間だった。
「あの、もしよければ──「うるさいな」──ーぁ……」
近くの席に座っていた女性が勇気を出して席を譲ろうとした矢先、同じく優先席に座っていた黒髪の男子高校生が声を大にして言った。まるで女性の勇気を踏みにじるかのように。
「さっきからお願いしますお願いしますだの、お前この状況分かってるのか?」
「わ、分かってるよ。でもこれは社会貢献に繋がることであって、お婆さんも不安な思いでいっぱいになりながらバスに乗ることもなくなるから」
「今このバス車内にいる乗客全員が思っていることを代弁していいか?言うぞ?"どうでもいい"だよ」
男はハッキリとそう言い切った。この男もまた女子高校生たちと同じ制服を身に纏っている。男は女子高校生の目を見て話を続ける。
「これが社会貢献に繋がることはない。残りの人生短いこの老婆に席を譲ったところで何になるんだ?お前らが日頃言ってる税金が云々って一部コイツらのせいだろ。その様子じゃ後先長くないしな、放っておけば良くも悪くもどうにかなるだろ」
タラタラタラタラと嫌味ったらしく毒舌に述べる男。その言葉一つ一つには重みがあり、聞いている女子高校生はもちろん、他の乗客までもが重圧に押し潰されそうになっている。
「はい、これが今この車内にいる乗客のほとんどが思っている事だ。その老婆に席を譲ったところで直接的なメリットは一つもないんだよ」
「じゃ、じゃあ!お婆さんはどうすればいいの?空いている席がないこの車内で、足腰の弱いこのお婆さんはどうやってこの苦痛でしかないはずの時間を過ごせばいいの?」
「自分でどうにかしろよそんくらい」
「どうにも出来ない人のための優先席だよ、それに座っている人は困っている人に譲るのが、社会貢献に繋がるって「じゃあ」…………」
「死ぬしかないな」
男は女子高校生の言葉を遮るようにそう言った。先程の態度がデカい男子高校生の論述には納得する者もいた。だがこの男の悪魔のような言葉に納得する人はいない。女子高校生どころか、周りの乗客も絶句する中、運転手も会話を聞いてボーッとしていたのか、バスは突然急停車するようにバス停に停まった。
急停車の勢いで車内で立っている人がバランスを崩したその瞬間、足腰の弱い老婆はその場に倒れ込んでしまった。それを見た先程の女性と女子高校生はすぐに声をかけて老婆の様子を伺う。
「大丈夫ですか!?」
「お婆さん大丈夫?」
「い……たたた、大丈夫だよ、ありがとねぇ支えてくれて」
どうやら倒れた先に先程の態度がデカい男子高校生の長い脚があったようで、それが手すりのような役割を果たし無事だったようだ。
「私は何もしていないよ。ただ君が私の美脚に吸い込まれただけさ」
「ありがとうねぇ…………」
一連の流れを見て運転手もホッとしたのか、バスの扉を開く。老婆はバスの扉の前辺りで倒れていたため、起き上がるのに時間を割いている。それを待つべく他の乗客はまだ席を立ち上がらなかったが、彼は違った。
鞄を持って優先席から立ち上がり、当然のようにバスから降りようとする。しかしそこにはまだ起き上がれていない老婆がいた。男は老婆の事を雑草を見るかのような目線で睨み、ため息をついてこう言った。
「邪魔……」
「なっ…………!?」
男の発言に女性が反応し、絶句する。男は老婆を跨いでバスから平然とした様子で降りた。周りの乗客が唖然とする中、男の近くで立っていた少女が男についていくように老婆を跨いでバスから降りていった。
一連の流れを見た乗客は悪魔のような男に言葉も出なかったが、何事もなかったかのようにまたスマホに目を向け始める。関わりたくない、自分は何も言っていない、何もやっていない、何も関係ない。他人事を貫き通し、バスから降りる学生以外の乗客は皆、現実から目を逸らした。
「そんな…………おかしいでしょ……」
「ごめんなさい、お婆さんの事お願いします」
「あ、うん」
女子高校生も扉が閉まる前に降りなくてはならない。老婆を優先席に座らせる作業を女性に任せ、善人である女子高校生もバスから降りた。
女性はその後老婆を席に座らせ、周りの乗客に目を向ける。先程まで全員耳を傾けていたはずなのに、今となってはもうSNSとやらに集中している。
結局この車内には席を譲ろうと思った人はいなかったのかもしれない。
何事も無かったかのようにスマホばかり見ている乗客を見て女性はそう思った。
「私…………間違ってませんよね……?」
「そうだねぇ……今の世の中、そういうものですよ」
老婆に自身の正義が正しかったのかを問う女性。想定していた答えとは全く別の答えが老婆から返ってきて女性は何が正しい事なのか分からなくなってしまった。
やがてバスは発車する。それらの様子を校門の前で見ていた悪魔のような男はニヤリと笑みを浮かべ、隣にいる少女に話す。
「な?結局世の中自分の事ばっかり考えてる人間しかいないんだよ。あの反論してきた女も、隠してはいたが自分のための偽善でしない」
「…………そうですね」
「だから謎なんだよなぁ。何でお前は俺に対して尽くしてくれるような真似するんだ?」
「それは渡海くんの言った通り、自分のためにやっている事だからですよ」
「へぇ…………やっぱお前だけは意味分かんないわ」
そう言って悪魔のような男、渡海誠司郎とそれについていく悪魔のような女、猫田麻里は高度育成高等学校に足を踏み入れる。