ようこそ悪魔がいる教室へ 作:バチこりやりやしょうやぁ
誤字脱字は見つけ次第更新しますが、基本スルーでお願いします
教室へ入り席を確認する渡海と猫田。窓際列の一番後ろが渡海、対角線教室扉脇に猫田で、座席表を見た途端、猫田は不服そうな表情を浮かべる。
渡海はなんて事ない様子で席に着き、鞄から枕を取り出し、机に敷いて寝始めた。
まだ昼ですらないこの時間帯に堂々とガチ寝をかます渡海を見て周りの生徒は若干引いている。
「お、おい、アイツ……」
「あぁ、バスで見た……」
どうやら同じバスに乗っていた生徒もいたらしく、渡海を見るや否やボソボソと陰口をたたく。それを話題の種として利用し周りの生徒と交流を深めている者もいた。
「うるさいな…………」
入学初日の割に声が止まない教室に苛立ちを憶え始めた頃、教室の扉がガラガラと開き、メガネをかけた細身の男が入ってきた。
「初めまして皆さん、このクラスを担当します、坂上数馬と申します。よろしくお願いします」
坂上先生の自己紹介に拍手する者はいない。普通このような場ではこれからお世話になる事も踏まえて拍手するはずだが、どうやらこのクラスにはそういった心構えがないようだ。
「えぇー、まずは皆さん入学おめでとうございます。この学校にクラス替えはございませんので、三年間どうぞよろしくお願いします。えぇー、それではですね、皆さんもご存知かと思われますが、この学校ならではの"システム"について紹介します」
Sシステム。この学校では学生証とかねてクレジットカードのようなものが全生徒に配布される。そのカードにはプライベートポイントと呼ばれるポイントが入っており、プライベートポイントを使用することで校内にある様々な娯楽施設を利用できる仕組みになっている。
カラオケ、映画館、コンビニ、ゲームセンター、飲食店などなど、生活するには十分すぎるほどの施設が備わっているこの学校は全てプライベートポイントでやりくりが行われている。
「プライベートポイントは1ポイント=1円という計算で扱われています。今からお配りする皆さんのクレジットカードには全員差額なく10万プライベートポイントが入金されています」
この言葉を聞いてようやく生徒たちがざわつきだした。1ポイント1円。つまり10万ポイントは10万円の価値があるということだ。入学初日で10万円が手に入るだなんて、高校生にとっては大金が手に入ったようなものだ。
「そして、このプライベートポイントは毎月の始めに配布されます。そのポイントを有効活用して、生活してもらう形となっています」
坂上先生の言葉を聞いて、生徒たちはさらに驚愕し、歓喜した。毎月の始めにポイントが入る、つまり毎月10万円分もらえるということだ。
「そう思ってるやつがほとんど、か」
渡海は先生の話を聞くだけ聞きつつ寝ている。渡海の独り言を聞いていた前の席の男が話しかけてくる。
「なぁなぁ凄くね?10万円だぜ10万円!」
「はいはい……」
「お前何に使う?俺はひとまずゲーム買うわ!そんでソフトも買ってそれから〜…………待て、思春期真っ只中の男女が同じ敷地で暮らすんだ。そういった欲が溜まってしまう生徒専用の大人のお店があったとしたら…………お、おい!計画的に使おうな?な!」
「しょうもな……」
渡海は健全な男子高校生の妄想を聞いていられず耳栓をしてガチ睡眠モードに入る。
意識が朦朧とし、段々と深い暗闇の中に沈んでいく感覚がする。気分が良くなっていき、思考能力が徐々に低下していって、やがて眠りにつく。
マイペースな渡海に前の席の男は少々引いていた。
「この後入学式がありますので、しばらく教室待機でお願いします。では私はこれで」
坂上先生は丁寧に説明を終え、教室を後にした。教室の扉がピシャンと閉まったのと同時に一人の生徒が立ち上がる。
「ねえ、皆んな自己紹介とかしない?三年間同じ苦楽を共にする仲ってことで、ね?いいでしょ?」
中心人物になりそうでならなさそうな、中途半端な印象の女子生徒は教室中の生徒に呼びかけた。こういうタイプの女子生徒は声がやたらと通る。
「賛成ー」
「いいよー」
「二人ともありがとっ」
呼びかけを行った女子の周りにいた二人の取り巻きが賛成の声を上げる。たったその二つの賛成意見だけで自己紹介を行う事が決定した。果たしてそれが満場一致の答えなのか、段々とこのクラスの特色が表れ始めているように思える。
「私の名前は真鍋志保。友達作りは得意な方だから、まぁボッチさんは私に声かけてみてね〜!あと、イケメンは連絡先交換しよ〜!」
なんとまぁギャルというか陽キャというか。言葉の節々に傲慢そうな性格が見え隠れしている。だが思ったより周りからの印象は良かったようで、彼女は拍手に包まれながら自己紹介の進行を続けた。
「じゃあ次の人〜って、あー……next!introduce yourself、ok?」
「sure」
次の人が巨漢の外国人だった。真鍋は少々引けをとりながら自己紹介をするよう促した。
「i'm Alberto Yamada. Nice to meet you」
日本人なら誰でも分かるような簡単な英語で自己紹介を済ませるアルベルト。穏やかな印象を受けられるが、ルックスでいえばまるで人種差別要素が歩いているかのようだ。これだけでコンプラ云々言われて作品が終了したその日は日本の終わりと言えるだろう。
「じゃあ次の人〜」
その後も自己紹介は続いていく。各々が個性を持ち、それを発揮して周りの注目を浴びる。中には少し内気な者も見受けられたが、クラスの雰囲気的に、そういった生徒も徐々にクラスに馴染んでいくだろう。
しかし、この男は違うようだ。
「はい!じゃあ次〜……って、あぁ、あれ?」
「………………」
真鍋が回し、渡海の番がやってくる。が、彼はマイ枕を机いっぱいに広げて絶賛睡眠中。周りの空気も読まず惰眠を貪るその姿は、教室にいる猫田を除いた生徒全員に波長が合わないと思わせるものであった。
「あ、あの〜……はぁ。起きないじゃん。ちょっと前の席の君、起こしてくれる?」
「あ、お、おう。お〜い、起きろ〜?お前の番だぞー」
先程渡海に一方的に話しかけていた男子生徒が渡海の身体を揺らし覚醒を促す。中々起きようとしない渡海だが、前の席の男子は渡海に触れるその手を離さない。
俗にいうイライラ指数が溜まっていった渡海はついにその重い瞼を開き、起こした張本人である男子を睨みつける。
「チッ……」
「え……いや、ごめんだけどさ、今自己紹介やってて、お前の番だから、な?」
「あー…………あっそ」
「いやいやいや!あっそ、じゃなくて!」
「ちょっとあんた、何また寝ようとしてんの?」
男子の言う事を聞かずまた枕に顔を埋めようとした渡海に真鍋が少し強く物言いをつける。バスでの一件を見ていた一部の生徒は真鍋の強気な態度に少し不安そうな表情を浮かべる。
「…………」
「チッ、ねぇ!今自己紹介してるんだけど、見て分かんない?」
「分からん」
「あっそうですか。空気も読めないなんてたいそう幼稚な脳内してますねー!」
「日本語キショ」
「なっ……!何よコイツ。ホント信じらんない」
「………………」
真鍋が感情的に渡海を詰めるが彼はそれを一切意に介していない様子。このままだとただ自分がキレて終わるだけな事を危惧した真鍋は、どうしても渡海に一矢報いたいのか、周りをキョロキョロと、何かを探し、やがて一枚の紙を見つけて彼の席と照らし合わせる。真鍋が手に取ったのはこのクラスの座席表であり、そこにはもちろん渡海の名前が載っている。
彼の名前を見つけた途端、真鍋は不愉快そうな顔から一気に愉快そうな顔に変わり、何だか嬉しそうな表情で渡海を指差しながら話す。
「聞かなくても分かるわ。あんた、
真鍋はやってやったZE☆と言わんばかりの顔で渡海を見つめる。しかし渡海は何も言わない。眠りについてはいないが、枕に顔を埋めたまま微動だにしない。
真鍋は一矢報いてやったと思っているだろう。しかし先の彼女の行為は、今自分が行っている自己紹介そのものを否定している行為でもあるのだ。『座席表があれば自己紹介は必要ない、だから渡海は自己紹介しなくてもいい』これは渡海に限った話ではなく全員に対して言える事。つまり真鍋は自分で自分の行為を気づかずに否定したことになる。この教室にいる一部の生徒はそれを理解し、今しがた彼女の事を愚者を見るような目で見ているだろう。
だがもちろん、この事を理解せずに『真鍋さんヤッバ〜』といった愚かな思考のお仲間もこの教室にいる事は確かだ。渡海はそんな生徒が複数いてもどうでも良いと思っており、わざわざ真鍋の愚かな行動について言及する必要性もないと判断している。
しかし、渡海を影ながら支える幼馴染である、猫田麻里は違った。
「それ、もう自己紹介する必要ありませんよね」
「……は?」
愉快そうな表情の真鍋を見る事なく、猫田は鋭くそう発言して席から立ち上がり、渡海が寝ているところまで歩を進める。何を言われたのか未だによく理解できていない真鍋はこれまた空気の読めない猫田に不愉快そうな目で睨みつける。
「ちょっとあんた待ちなさいよ。それどういう意味?」
「座席表見てその生徒の名前が判断できるのであれば、自己紹介する必要がない、という事ですよ。こんな事言うまでもありませんけど」
猫田がそう言うと全く同じ事を考えていた一部の生徒は無意識のうちに首が縦に動いていた。
「はー?心底意味不なんですけど。自己紹介ってさ、名前知れるだけじゃなくて趣味とか好きなものとか、その人の内面も知れるんですけど?座席表よりよっぽど価値のあるものなんですけど?名前しか知れないとか面白味なさすぎて草なんだけど」
「あら、そうなんですね。先程真鍋さんは渡海くんの名前を知っただけであ〜んなに嬉しそうにしていた割には、心の中では面白味がないと思っていたんですね。そのような態度で、真の友情が確立できるとでも思っているんですか?まぁ、私が言えた事じゃありませんけど」
猫田はやや冗談を交えてそう言うと、一部の生徒がクスクスと笑い出す。もちろん猫田の自虐もそうだが、それより真鍋が自身の品格をどんどん自分で落としている事に失笑しているようにも見える。
「何よあんた……私にそんな態度取っておいてタダで済むと思ってんの!?」
「渡海くん、そろそろ入学式の時間ですよ。起きてください」
「話聞いてる!?」
猫田は渡海の頭を撫でながらそう言う。言葉では起こそうとしているが、行動ではさらに睡眠を促しているようだ。この矛盾的な行動は、今の真鍋に刺さるだろう。
「…………ダルいな」
「同感です」
そんな事言いつつも渡海は枕から顔を起こし、大きく身体を伸ばして、学生服のボタンも留めずだらしない身なりで立ち上がり、猫田とともに教室から出ていった。
二人がいなくなった教室は、渡海が初めてこの教室に入った時の数倍以上のざわつきで埋め尽くされる。
「俺、アイツ入学式飛ぶかと思ってた……」
「非常識だもんな……でも言ってる事はちょっと分かるのがな〜んかこう、モヤモヤするなぁ」
「にしても猫田すげぇな。付き合ってんの?」
「はぁ〜?アレと付き合うとか俺が女でも無理だぜ?」
「顔だけ良い男のお手本だな」
「それな。性格最悪」
二人がいなくなった教室は二人の話題でもちきりだ。入学式まで時間も多く残されてはいない。一部の生徒は渡海たちに続いて続々と式場の体育館へと向かい始める。
真鍋もイライラが止まらない様子で拳を握りしめながら教室を出ようとする。
「なんなのよ……もう!」
「まぁ待てよ」
「……!」
真鍋が教室の扉に手をかけた途端、いまだに席から立ち上がっていないロン毛の男子生徒に彼女は腕を掴まれた。
「な、なによ!離して!」
「お前、あの二人が嫌いか?」
「は、はぁ?嫌いに決まってるでしょ最悪だし。あんなのと三年間同じクラスとか無理に決まってる……」
「ククッ、俺は結構好みだぜ?あぁいう奴ほど、潰し甲斐があるからな」
「…………まさかとは思うけど、あんたも?」
「勘違いすんじゃねぇ。俺はお前ほどバカで低脳な人間じゃねぇよ。ただ、お前が望むなら協力してやってもいいぜ?面白くなりそうだ」
ロン毛の男子生徒は不敵な笑みを浮かべてそう言った。わざわざ言葉にしなくとも、真鍋と男子生徒の間には共通の意志があるようだ。もっとも、目的は違うが。
「…………いいわ。低脳扱いされた事は癪に障るけど、あんたと手を組んだら楽しそう」
「ククッ、退屈しなさそうだな。この学校は」
ようやくそのロン毛男子生徒──龍園翔も席から立ち上がり、式場へと向かっていった。
続けるか未定です。評判次第で決めます。