ようこそ悪魔がいる教室へ   作:バチこりやりやしょうやぁ

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続けて欲しいという声があったので投稿。
猫田の設定が完全オリジナルになってはいますが、ご了承ください。


龍園翔の提案

 入学式初日から数日が経過した。新入生はまだこの学校の構造に慣れていないが、クラスでの立場は徐々に定まりつつある。

 

 例えば、初日に自己紹介で恥をかいた真鍋志保。彼女は初日にクラス全体を巻き込んで自己紹介を行った事で、今ではクラスの中心人物として活動しており、友達も多い。

 

 山田アルベルト。彼は持ち前のキャラの強さと、見た目とは裏腹に優しい性格というギャップで周囲からは好印象な視線を向けられている。が、いくらギャップ萌えがあれどルックスが強すぎて、まだ友達が多いとはいえない。

 

 石崎大地。クラス内では怒らせてはいけない人として扱われている。何故なら彼は元ヤンで、自称ではあるが地元では一番の実力者だったらしい。いや、今もヤンキーと言われればそう見えてしまうが。

 

「しょうもない人たち」

 

「…………猫、今何か言ったか?」

 

「いえ、何でもありません」

 

 今述べた三人は、ここ数日の間でCクラス内で猫田の印象に残った人たちだ。猫田は今、とある理由でクラス内だけでなく学校全体をよく観察している。

 

「渡海君、今日は数学がありますよ。教材は持ってきてますか?」

 

 ほぼ手ぶら同然の格好の渡海に猫田は心配して声をかける。彼が手に持っていたのはマイ枕と筆記用具だけだ。これでは数学どころかほぼ全教科授業を受けることができない。

 

「置き勉してる。自宅学習する内容もないしな」

 

「確かにそうですね。渡海君はすでに、高校で習う学習課程を終えてますもんね」

 

「…………それはお前もだろ猫。よくあんな退屈な授業を0から100まで聞いていられるな」

 

「私の見解ですが、この学校では授業を真面目に受けていないといけないと思いますよ。理由は──渡海君は言わなくても分かってますよね」

 

 猫田は渡海に笑顔を向けてそう言った。

 

 猫田と渡海は幼馴染である。が、その関係性の中には「幼馴染」という言葉の範疇には収まりきらないほどの、切っても切れない"糸"がある。

 

 猫田は小学生の頃に両親を失った。母は不慮の事故で亡くなり、母の事故死をきっかけに全てがどうでもよくなった父は夜逃げしてしまい、そのまま行方不明となった。

 当時幼かった猫田はもちろん一人で生きていく事など到底できるはずもなく、自ら警察署に赴き、児童養護施設に送られた。

 

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『七年前』

 

 猫田が両親を失った一年後、地方のとある児童養護施設にて。彼女は充実した毎日を過ごしていた。

 

 施設に送られてきた頃は両親を失ったショックで言葉も話せない子だったが、周りの子供たちも自分と似た境遇だと知ったことで徐々に施設の環境にも順応していき、いつの間にか彼女は子供たちの中心人物として健やかに暮らしていた。

 

「ねぇねぇ麻里ちゃん!今日は鬼ごっこしよ!」

 

「だーめ。麻里ちゃんは私と服屋さんごっこするからあげませーん」

 

「えぇぇ?ユリちゃんは昨日麻里ちゃんと遊んだじゃん!今日くらいは私と遊ばせてよ〜。ね?麻里ちゃんも私と遊びたいでしょ?」

 

 遊びの時間がくると猫田の周りにはいつも子供たちが集い、我先にと猫田を遊びに誘う。皆んなで遊べばいい、なんて思う大人もいるかもしれないが、子供というのは自己中な生き物で、周りの意見を聞き入れる事ができず、『妥協』という言葉を知らない。だが猫田と遊びたいという気持ちは皆同じである。だから猫田の取り合いが始まる。

 

 取り合いの中にはこんな子供もいた。

 

「ね、ねぇ麻里ちゃん」

 

「ん?なぁに?」

 

「その、いつも女子と遊んでるし、たまには俺たちとも遊ばない?麻里ちゃんのやりたい事とか、俺、全力でやるよ!」

 

 顔を赤くして震えた声で誘う男の子。猫田からすればその提案は魅力的なものだった。いつも他人の誘いに乗るばかりで自分のやりたい事を思う存分にやらせてもらえていなかった猫田からすれば、この上ないお誘いである。

 

「うん!遊ぼ遊ぼ!私、野球やってみたい!」

 

「ほ、ほんと?だったら俺、教える事できるよ!野球やってたんだ」

 

「凄い!教えて教えて〜!」

 

「う、うん!」

 

 男の子はとても喜んだ。彼が猫田の事が好きなのは大人の目から見れば一目瞭然であった。早速と言わんばかりに軽快なステップで猫田と男の子はバットやグローブやボールなどを持って外へ出ようとする。

 

 スキップしながら子供用の野球セットを手にいっぱいに持って笑顔で外へと繋がる扉を開ける。

 

「今日は晴れだし、外でたくさん遊ぼ…………え、誰?」

 

「?」

 

 扉を開けた先には満天の青空……かと思いきや、知らない大人が立っていた。

 大抵このパターンではスーツを着た屈強な怖い大人が突っ立っているのがセオリーだが、そんな事はなく、立っていた見知らぬ大人はとても優しい雰囲気のおばさんだった。

 

「あら、こんにちは」

 

「こ、こんにちは」

 

「施設の人います?この子の友達になってくれる子を探しててね」

 

 そう言っておばさんは手を繋いでいた一人の男の子を猫田たちの前に立たせる。

 その男の子は無理やり来させられた感満載で、とてもぶっきらぼうな態度だった。面倒くさそうで、不愉快そうで、何だかちょっと怒っているようにも見える。

 

「………………フンッ」

 

「コラ征司郎、鼻で笑わないの」

 

 そしてその男の子は猫田たちを一望すると、呆れた様子で鼻で笑った。

 見た目から察するに自分たちと変わらない年齢なはずだか、どこか大人びているその男の子は、後に悪魔と称される渡海征司郎である。そしてこのおばさんは渡海の母だ。

 

 その後渡海の母と施設の大人は話し合い、保護児童から一人、渡海が養子として引き取る事になった。

 

 渡海は幼少期から勉強ばかりしており、友達がいなく学校では常に孤立していた。本人はそれでいいと思っていたが、渡海の母は自分の息子が将来人と会話出来なかったらどうしようかと思い、息子の話し相手として同い年の子供を養護施設から引き取ろうとした。

 そして選ばれたのが猫田であった。理由は単純で、その施設内で最も人気だからだ。

 

 その後猫田は渡海家で暮らし、二人は共に育った。幼馴染といっても、その関係性は常識よりも深く、親密なものである。

 

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「お母さんは元気でしょうか……」

 

「どうせ元気だろ。騒がしい人だし」

 

「愉快な人、ですよ。あ、すみません渡海君。私ちょっとお花摘みにいってきます」

 

「今時その言葉使うやついるんだな……」

 

 時は戻り現代。二人は午前の授業を終え、校内の食堂で昼食を共にしていた。見てもらえば分かる通り、猫田の存在によって渡海の性格が明るいモノに変わる事はなく、むしろ猫田が渡海の性格に染められてしまっている。

 その点に関して、もう渡海の母も諦めているようだ。

 

 猫田は席を外し、トイレで用を足して洗面所の鏡で自分の姿を見る。手を洗い、少し乱れた前髪を整える。渡海の前では出来るだけ完璧な自分でいたい。それが今の猫田の信念だ。

 

「よしっ」

 

 自身の姿に満足して化粧室から出る。しばらく食堂に向かって歩いていると、何やら会話声が聞こえてきた。

 

で、最初は何すんの?水でもぶっかける?

 

お前はくだらねぇイタズラしか思いつかねぇのか

 

 あまり良い内容ではない。そして猫田はすでに気づいているが、この学校には無数の監視カメラが設置されている。が、会話声が聞こえてきたのは監視カメラから死角になっている階段の脇だ。

 

 不審に思った猫田は気配を消して会話している生徒たちへと近づき、聞き耳を立てる。

 

「くだらないって何よ!じゃああんたにはさぞかし凄い作戦があるってわけ?」

 

「まぁ、お前が思いつかない程度のモノだけどな」

 

「いちいち神経を逆撫でしてくるわね……」

 

 良からぬ会話をしている生徒は真鍋とロン毛の男だった。真鍋の愚かさは重々承知している猫田だが、もう片方のロン毛の男は未知数だ。しかし制服の着こなし方から察するに、素行の良い生徒ではない事は確かである。

 

「そうだな……正直、お前はどっちに腹が立ってる?」

 

「は?どっちって何」

 

「男の方か、女の方か、に決まってんだろ」

 

「…………あんた、結構察しがいいのね。分かってるとは思うけど、正直私は渡海っていうガキよりも、あの猫田っていうブスの方がムカつく!」

 

 真鍋は近くに置いてあった三角コーンを蹴飛ばしながら怒りを露わにしてそう言った。それを聞いたロン毛の男は不適な笑みを浮かべ、猫田は特に表情を変える事なく聞き耳を立て続ける。

 

「ククッ、そうだろうな。あの女はお前よりも顔が良いし頭も良さそうだ。それにお前よりも授業は真面目に受けるし姿勢も良いし、おまけにダメ男の世話まで完璧にこなす。あんな良い女はそうそういねぇよ」

 

「何で私とばっかり比べるのよ!あんたから先に虐めてやってもいいのよ!?」

 

「まぁまぁ落ち着けよブス2号」

 

「誰が2号よ!!」

 

「キンキンキンキンうるせぇな……」

 

 こんだけ大声を出していればギャラリーが集まってきてもおかしくはないが、どうやら真鍋はそんな配慮も出来ないほどの低脳を待ち合わせているらしい。

 

「最初に女の方を潰す。その後に男だ」

 

「何か策でもあんの?」

 

「あぁ、あるぜ。折角だから獲物の前で話してやろうじゃねぇか」

 

「は?獲物の前……?」

 

 ロン毛の男の言う意味を分かっていない真鍋。男はすでに気づいていたようだ。この場には自分と真鍋以外にもう一人、通話にミュートで参加している者がいる事に。

 

「出てこいよ。悪猫」

 

「…………」

 

「なっ……!あ、あんたは……猫田麻里!?」

 

 逃げる意味はない。自分に不幸が訪れるのはどうせ時間の問題だ。この事を渡海に言えば何とかなるかもしれないが、食堂の入り口までまだ距離がある。自身の身体能力には自信があるが、あの二人の足の速さを正確に知らない状態で競走するのは愚かな判断だろう。

 

 猫田は焦る様子もなく平然とした顔で姿を現した。真鍋は全く気づいていなかったのか、親に一人遊びがバレたかのような驚きっぷりを披露する。

 

「ククッ、盗み聞きとは飼い主の躾がなっちゃいねぇなぁ」

 

「いつから気づいてました?」

 

「お前にしちゃぁ随分と生産性の無い質問をするんだな」

 

 ロン毛の男は不適な笑みを浮かべながら猫田に近づき、そのまま猫田を壁まで追い詰める。そして逃げ道を塞ぐように壁ドンし、猫田に顔を近づけた。

 

「俺の名前は龍園翔。前置きはいらねぇから単刀直入に言わせてもらうぜ?」

 

「どうぞ」

 

「お前のご主人様に身の危険が生じるのが嫌なら、毎日俺に2000ポイント渡せ」

 

「渡さなかったら?」

 

「渡さなかったら……二度と渡海(アイツ)に顔向け出来ない身体にしてやるよ」

 

 お互いの呼吸が聞こえるほどの距離感で龍園と名乗るその男は猫田にそう言った。それを聞いた猫田は渡海の名前が出て一瞬表情が険しくなるが、相手の思う壺だと分かっているためすぐに平然とした表情に戻す。

 しかし、この龍園という男は一瞬の隙も見逃さないようだ。

 

「ククッ、隠そうとしても無駄だ。入学式の日から今日に至るまで、俺はお前を見ていた。お前は渡海(アイツ)の事になれば我を見失う事もある、それ程までに渡海(アイツ)の事を想っている。そうだろ?追加だ。ポイントを用意出来なかった暁には、渡海(アイツ)も潰す。ご主人様に迷惑かけたくなかったら、大人しく俺の言う事を聞くのが賢明な判断だぜ?」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ!私を除け者にしないでくれる?」

 

 波に乗っていた龍園の調子を崩すように割り込んでくる真鍋。龍園は面倒くさそうな表情を浮かべて咳払いし、改めて言い直す。

 

「毎朝、HR後に俺と真鍋に1000ポイントずつ譲渡しろ。しなければ、渡海征司郎を潰し、お前も二度とアイツに顔向けできねぇ身体にする。承認するなら"ニャン"、否定するなら俺に唾でもつけてこの場を去れ」

 

 悪魔のような提案をする龍園。渡海とは違った部類の圧がある。どのみち唾をつけて去っても変態が一人生まれるだけだ。猫田は一度目を瞑り、今後の方針をわずか数秒で脳内で構築したのちに、目を開き、端末を取り出して写真アプリを開く。端末に映し出されたのはマイ枕でいつものように昼寝している渡海の写真だ。

 

 猫田はその写真を見て一瞬微笑んでから言った。

 

「ニャン」

 

「…………チッ、面白くねぇ」

 

「あはははっ!!猫田がニャンって言った!あはは!」

 

「これの何が面白いんだクソ真鍋」

 

「はぁ!?龍園今私のことクソって言った!?」

 

 猫田は真鍋が色々喚いているうちに龍園の腕をくぐって食堂に向かって歩き出した。真鍋が色々喚いているのを横目に龍園は歩き去っていく猫田の背中を見てまたもや不適な笑みを浮かべる。

 

「嫌いじゃないぜ。お前みたいな気の強ぇ女は」

 

「は?今さらっと私に告った?」

 

「何勘違いしてんだ気色悪ぃ」

 

「じゃあ何?聞こえない距離まで歩いて行った猫田に向かって言ったって事?何それキモ。目の前でデレる事ができないチキン野郎じゃないの」

 

「お前覚えとけよ。ぜってぇ殺すからな阿婆擦れ女」

 

「はぁ!?」

 

 猫田は耳が良いので龍園の捨て台詞も聞こえていたが振り返る事はない。

 理由は明白。彼女の心は何があっても、渡海の元にあるからだ。

 

 

 

 

 




ブラックペアン知ってる猫田ファンにしばかれそうなキャラ改変ですが許してください。
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