美少女になったら、追放元のPTに甘やかされたんだが   作:緑茶わいん

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リリアーナ(8)

 運命の日まではあっという間だった。

 総勢数百名の兵士・騎士が選抜され、凄腕の冒険者パーティも複数雇用された。

 その中には俺たちのよく知っているパーティもいて、

 

「やあ。ドラゴン討伐に参加させてもらえるなんて光栄だ。どうかよろしく頼むよ」

 

 聖剣の担い手アルフレッドをリーダーとする『至高の剣』が出発の直前、俺たちのところへと挨拶に来てくれた。

 以前はぴりぴりしていた間柄だったものの、今ではいい関係を築けている。

 こっちとしても、かなりのタフさを誇るアルフレッドがいてくれるとかなり頼もしい。

 

「こちらこそよろしくお願いします」

 

 フレアから「今回はあんたが主役でしょ」と押し出された俺はアルフレッドと握手を交わして、

 

「それにしてもあんたたちが来るとはねー」

 

 俺を押し出したフレアはそんなふうにぼやいた。

 イケメン聖剣士は気分を害した様子もなく笑って、

 

「僕達じゃ不足かい?」

「そういうわけじゃないけどさ。……あんた、間違ってもリリアーナを口説くんじゃないわよ。やったら最悪縛り首だからね?」

「わかっているさ。全然信用がないんだな」

 

 肩をすくめた後「色んな人から何度も言われたよ」とアルフレッドはこぼした。

 

「みんな僕のことをなんだと思っているんだ」

 

 爽やかイケメン女たらしだが?

 苦笑しつつ残りのパーティメンバーを見ると、彼女たちも俺と似たような表情で、

 

「正直、彼はともかく私たちじゃ力不足だと思うんだけどね」

「いいえ、心強いです。……ドラゴンだって生き物なんですから、ほんの少しでも傷を積み重ねればいつかは倒せるはずです」

 

 硬い鱗に覆われた身体に傷を負わせられる──その時点で一定以上の強者。一人でも多くそういう人材が欲しい。

 

「もちろん、一番いいのは無事に終わることなんですけど」

 

 果たしてそう上手くいくかどうか。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

「……なんだか、ただ座っているだけってすごく落ち着きませんね」

 

 結婚式が行われるのは王都から二日の距離にある平原に決まった。

 あまり近すぎても「そのまま都攻撃しよー」とか言われる可能性があるし、遠すぎても帰還する時に大変なのでこのあたりが妥当だろう。

 移動は馬と馬車を使う。

 『四重奏』と『至高の剣』はそれぞれ城から一台ずつ専用の馬車を与えられたのだが──俺はフレアたちとは別に、リリアーナやプラムと一緒の馬車にいた。

 服も貴族令嬢風のドレス。

 魔剣は携えているものの、まるきり「傅かれる立場です!」という見た目に若干気後れしてしまう。

 

 しかし、()()()()()()()()()()リリアーナは笑顔で、

 

「当然ではありませんか。わたくしとの結婚が決まった時点でステラお姉さまは王家の一員も同然なのですから」

 

 そうなのだ。

 女子であるリリアーナの王位継承権は低く、離宮に隔離されていたことから国家としての重要度も高くない。

 俺との結婚はあっさりと周囲にも認められ、俺は末席ながら王族の一員に数えられることが内定した。

 「冒険者になる」と公言してはばからないリリアーナに継承権を残すというのもなかなか剛毅な判断だが、

 

『冒険がしたいなら、ステラたちが使っている屋敷に移り住めばいいじゃない?』

 

 と、ウィズが提案したのが大きかったと思う。

 

『それでしたら使用人も十分に滞在できますね。もちろん私はリリアーナ様にお供いたします』

『いえ、あの、使用人つきで冒険者やるのはいろいろぶっ飛んでる気がするんですが』

『あたしたちだってシェリーに世話してもらってるじゃない、似たようなものでしょ』

 

 そういえば、そもそもリーシャが「貴族令嬢の立場を残したまま冒険者をやってる例外」だったか。

 というわけで、俺はリリアーナに嫁入りというか婿入りというかをする、という形になっている。

 離宮も完全に引き払うわけではないので必要になれば戻って来られる。

 国王としては愛娘にできる限りのことをしてやりたかったのかもしれない。

 

「わたくしが、お姉さまのような方と結婚できるなんて夢のようです」

 

 と、腕を組んで身体を密着させても、プラムでさえなにも言ってこない。

 

「リリアーナは、怖くはないんですか?」

「……それは、もちろん怖いです」

 

 俺によく似た翠の瞳がこっちを見上げて、

 

「ですが、わたくしはきっと、この運命を超えられると信じています。だって、こちらには『勇者』と『魔女』と『大精霊』がついているんですから」

 

 フレアが半精霊だってこともバラしてしまったのでもういいだろう、と、ヴォルカを紹介したときはさすがのリリアーナもめちゃくちゃ驚いていた。

 その後で目をきらきらさせながら身を乗り出したのはさすがとしか言いようがないが。

 

「愛しています、お姉さま。……不甲斐ないわたくしで申し訳ありませんが、この身と心をすべてあなたに捧げます。ですからどうか、わたくしを竜から守ってくださいませ」

「……リリアーナ」

 

 王女の剣の腕はかなり上達したものの、あくまで「対人ならそれなりに頑張れる」程度にしかならなかった。

 古代語魔法も低級の魔法をゆっくり唱えられるレベルで、彼女自身がドラゴンに迫ることは不可能に近い。

 

「お姉さまを利用するのが目的、とはどうか思わないでくださいませ。……証明する手段がありませんが、わたくしにとって、お姉さまこそが運命の相手なのです」

 

 相手が本当に自分を好きなのか。

 どんなに疑っても本当のところはわからない。それはとても苦しくて切ない話だけれど。

 

「はい。……証明なんていりません。わたしは、あなたを守ると決めました。だから、全力であなたを守ります」

 

 俺たちは揺れる馬車の中で見つめ合って、

 

「……お二人とも。式は現地に着いてからですので、ここで口づけをされては困ります」

 

 フライングしてキスしたせいでドラゴンが動き出して全部めちゃくちゃになりました、とか本気で洒落にならないので、俺たちは慌ててお互いの顔を離した。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 果たして、略式の結婚式はなんの支障もなく執り行われた。

 立会人を務めてくれたのはリーシャだ。

 地母神の神官位を持つ彼女にはその資格が十分にある。

 

「第四王女リリアーナ。あなたは勇者ステラを生涯愛し、共に歩み続けることを誓いますか?」

「誓います」

「勇者ステラ。あなたは王女リリアーナを生涯愛し、共に歩み続けることを誓いますか?」

「誓います」

 

 俺とリリアーナは共に純白のドレス姿。

 少女の背中にある花嫁の刻印は、もう隠す必要はないとばかりに一部が露出している。

 俺たち二人以外は有事に備えて武装しており、少々物々しい雰囲気の中ではあったが──。

 

 こんなに多くの人に見守られながら結婚できるなんて夢にも思わなかった。

 

 ……フレアやエマとキスの練習ができたのは正直、良かったかもしれない。

 少女の肩に手を置き、その清らかな唇と自分の唇を重ね合わせる。

 ほんの一秒ほどの接触だったけれど、きっと俺はこの時を一生忘れることはない。

 リリアーナの瞳にも大粒の涙が浮かんで、

 

「お姉さま。わたくし、最高に幸せです」

「はい。その幸せはまだ、終わりません。絶対に」

 

 王女の背中にある花嫁の刻印が輝き出した。

 同時に俺の眼前にも()()()()が浮かび上がって、

 

『竜の花嫁 ランク:SSS

 ドラゴンのつがいとなる運命を背負う

 契りを果たすことでその身にはドラゴンの力が宿り、やがてドラゴンそのものとなる』

 

 リリアーナの『秘蹟(ミスティカ)』が覚醒したのか?

 一瞬そう思ったけれど、違う。

 文字の向きが俺を基点にしていたからだ。要するにこれは、いつものアレ。

 

「………あ」

 

 考えてみると、結婚するほど親しくなった相手に対して『憧憬の学び』が発動しないわけがなく。

 キスを契機にリリアーナの『秘蹟』が写し取られても、無理はない。

 無理はないのだが。

 

 リリアーナの姿も竜に変わっていく様子はない。

 刻印から生まれた光に包まれながら、その存在が半分──()()()()()()変わっていくのは感じ取れたものの、今のところはそれだけで。

 想定していた最悪は回避できたと思うのだが。

 

「す、ステラ。あんた……あんたの背中にも刻印、浮かんじゃってるんだけど?」

「あー……なるほど、そうなるのね。ステラが竜に擬態できたとしても、それじゃ『雌竜』だもの。刻印を奪い取ることはできなかったか」

「まあ、ある意味奪い取ってるけど」

「あああああ! これ、どうするんですか、いったい!?」

 

 リリアーナを花嫁から解放しようとしたのに俺まで花嫁になってしまった。

 これ、ドラゴンは「ラッキー」とか思ってないだろうな……!?

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