美少女になったら、追放元のPTに甘やかされたんだが   作:緑茶わいん

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ステラ(14)

「《ドラゴンクロウ》」

 

 右腕を肘の先まで竜化させたリリアーナが、ゴブリンの首をわし、と掴む。

 奇声と共に得物を振るおうとしていた魔物はその顔に驚愕の色を浮かべ──直後、ぐしゃ! と音を立てて頭と胴体にその身を分断された。

 崩れ落ちた身体の向こうから現れた二体目は鋭い鉤爪を持つ拳に貫かれ、その亡骸を投げつけられた三体目が吹き飛んで地面に頭から叩きつけられる。

 四体目は無造作に振るわれた爪にごっそりと胴をえぐり取られて。

 

「ゴブリンなど女を犯し、作物を荒らす人類の敵。百害あって一利ありません。恨むのならあなたたちの習性を恨みなさい」

 

 幾つもの死体を足元に転がしながらも、王女の表情に最初の頃の恐れや申し訳なさはもはやなかった。

 総勢二十以上からなるゴブリンの群れがほんの一分足らずで壊滅。

 俺たちは物足りなさを感じながら、その原因の一つである『頼もしすぎる新人』を見た。

 

「すっかり慣れてきたじゃない、リリアーナ」

「フレアにそう言ってもらえるのは素直に嬉しいわ。わたくしも少しは役に立てるようになってきたのかしら」

 

 言いながら、リリアーナは覚えて間もない精霊魔法で水を作り出し、右腕を軽く洗い流す。

 

「少しは、なんてとんでもないですよ。普通、こんな短期間でここまで慣れるのは無理なんですから」

 

 『冒険者の街』で暮らし始めて約二週間。

 新しい生活に慣れるだけで終わってしまってもおかしくない日数で、王女リリアーナは「危なげなくゴブリンを殺す」ところまで成長していた。

 彼女はもう余分な罪悪感など生じさせていない。

 もちろん、命を奪う行為、その重みを感じていないわけではない。

 魔物は殺していい、という、人類にとっては普遍的な価値観を保てるようになっただけ。

 殺意を人に向けるのはまた別だということはしっかり理解しているのだけれど……あまりにも急速に成長していく彼女に、プラムなどは「やはりリリアーナ様にこのような経験は必要ないのでは」と逆に平静を失いかけていたりする。

 

 けれど、戦うにあたって慣れはどうしても必要。

 俺たちにできるのは彼女の心の拠り所となることくらいで。

 俺は地母神に祈り、自分たちの穢れを浄化してから、後輩であり配偶者である少女を抱きしめた。

 少女は嬉しそうに俺に身を預け──それからこてんと首を傾げて、

 

「ですが、ステラお姉さまは一、二ヶ月で『三乙女(トライデント)』に相応しい実力と認められたのでしょう?」

「わたしは本当の意味での初心者じゃありませんでしたし」

「ならば、わたくしだって例外ではないですか」

 

 まあ、うん。

 中途半端に竜の力を得た代償というか副作用として、俺もリリアーナも好戦性が増し、血のにおいに対する嫌悪感が薄れ、肉をより美味く感じるようになっている。

 ゴブリンを殺すのも、より強い魔物が身の程知らずを掃討しているような面はあるにはあるのだが、

 

「これ以上、私たちに相応しい新人もいないかもしれない」

 

 今回、まったく出番のなかったエマが淡々と呟いて今の状況をまとめてくれた。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 中庭で修行をする傍ら、ギルドからの情報をチェックし、手頃──というか、俺たちにとっては雑魚の魔物を探して討伐に出る。

 リリアーナをサポートしながら経験を積ませること数回。

 

「二、三日に一度は出てるせいか、生活費くらいは地味に稼げてるわね?」

「いえ。さすがに赤字よ、フレア。宿に泊まっていた頃なら別だけれど」

 

 今や俺たちの屋敷は侍女十名近くに騎士三名を擁する大所帯だ。

 彼女たちの給金は城から出ているとはいえ、リリアーナの加入によって食事の質が向上したこともあって生活費としては赤字である。

 まあ、生活費も城からもらっているので、それを含めれば断然黒字なんだが。

 

 奇跡で服と身体を綺麗にできるのもあって俺たちの帰路は気楽なもの。

 これで何度目かになるリリアーナものほほん、とした様子で、

 

「ああ、一仕事終えた後に飲むワインの味は格別に違いありません……!」

「リリアーナったら、本当にお酒が好きになってしまいましたね」

「だって、今まで飲めなかったんですもの。少しくらい羽目を外してもいいではありませんか」

 

 今まで侍女たちに禁止されていたリリアーナの飲酒だが、城を離れたこと、竜やら精霊やらの影響を受けて体質そのものが変わってしまったこともあって解禁され、それからは毎日のように飲んでいる。

 

「いいことじゃない。じゃんじゃん飲みなさい。お金はあるんだし」

「そうそう。そうすれば私たちも気兼ねなく飲める」

「リリアーナ様。フレアやエマのようになったら人ととして終わりですよ」

「そうです。飲むのは構いませんが、最低限の自制は持ってくださいね」

「ふふっ。わかっています。……もし不安でしたらお姉さまが傍にいてくださればいいのです」

 

 歩くのを止めないままコツンと肩を触れ合わせて来る彼女をそっと抱き寄せて、

 

「リリアーナはフレアさんたちの側にはあげませんからね?」

「……ふんだ。なによ、三人でいい雰囲気出しながらお酒飲んじゃって。酒はもっと騒ぎながら飲むものよ」

『そうだそうだー!』

 

 いや、ヴォルカは酒を飲むっていうか、度数の強い酒を燃料にすることしかできないじゃん……?

 

 

     ◇    ◇    ◇

 

 

「お帰りなさいませ、みなさま。お食事とお風呂の用意ができております」

 

 多数の侍女に傅かれながら冒険者やってる俺たちは間違いなく冒険者の中ではトップクラスの勝ち組である。

 『冒険者の街』に来た侍女は多くがなんらかの魔法を使える者で構成されており、お風呂に水を張ったり湯を沸かしたりといった作業もなんなく行われている。

 雑用をメイドに任せていた侍女たちにとってはむしろ掃除や洗濯といった一般的な家事が「知らないことの連続」のようだが「せっかくの学びの場」と積極的にシェリーから吸収しているらしい。

 

「よっし。じゃあ先にお風呂にしましょうか? どうする? 順番にする?」

「わたくしのことなら気にしないで。みんなで一緒に入りましょう?」

「さすがリリアーナ。話がわかる」

 

 王女様は日を追うごとに俗っぽくなっている気がするが、ここにいる間はあまり堅苦しくしても肩が凝ってしまう。

 みんなで一緒に湯船に浸かるのもこれはこれで良いのではないかと思う。

 

「……ふう。ようやくここでの生活にも慣れてきました」

「お疲れ様です、リリアーナ。なにか困っていることはないですか?」

「困っているというか、驚いたのは部屋割りですね。まさかあんなふうに決めていたなんて」

 

 四つの棟があるので一人一つずつ使おう、という俺たちの大雑把すぎる割り振りは当然の如く侍女たちに怒られた。

 

『どうして女性しかいらっしゃらないのに女性棟に集まらないのですか!?』

『主人のお一人(フレア)を使用人部屋に押し込めるなど言語道断です!』

 

 というわけで、部屋割りはあらためて行われ、リリアーナ用のこまごました家具を発注するついでに屋敷の大改革が行われた。

 おかげで掃除が終わっても模様替えが終わりきっていない状態ではあるが、結果、女性棟に俺とリーシャとリリアーナ、元男性棟にフレアとエマが集まる結果となった。

 

『ゆくゆくは子供部屋なども用意しなくてはなりませんが、ひとまずはこれでよろしいかと』

 

 子供のことまで考えるとはさすが侍女たちである。

 まあ、なし崩しとはいえ俺とリリアーナは結婚しているわけだし、想定するのも当然といえば当然か。

 

「ところで、お姉さま? ……今日はどなたと夜を共にするおつもりですか? わたくしでしたら、その、いつでも準備はできているのですけれど」

「ちょっとリリアーナ? 少しはステラをあたしたちに貸しなさいよ」

「そうそう。七割くらいリリアーナとリーシャが専有してる。私たちは平等を主張する」

 

 もしかしたらこういう生活のせいだったりするかもしれないが……うん、まあ。あまり考えないことにしようと思う。

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