美少女になったら、追放元のPTに甘やかされたんだが   作:緑茶わいん

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ステラ(15)

 半年は短いようで長い。

 俺がフレアたちと出会ってからリリアーナと出会うまで一年も経っていなかったのだから、なかなかの長期間だ。

 しかもスケジュールを詰めまくっているので、当のリリアーナはもちろん、俺たちも強くなっている自覚がある。

 そうして二ヶ月が経った頃、街へ久しぶりに『駆除する者(スレイヤーズ)』が帰ってくるというのでギルドまで会いに行くことにした。

 

 特に大した用事があるわけでもない。

 新しい依頼を確認するついで、という感じなので、リリアーナの訓練をフレアたちに任せて俺一人での外出。

 今さら「一人だと危ない」と言われるような経験値でもないし、魔剣さえ携えていればたいていの危険は払いのけられる。

 というわけで、軽装──ほぼ普段着に近い格好で大通りを歩いていると、

 

 なんか、めちゃくちゃ人に見られる。

 

 変なところはないはずだ。

 鏡の前で何度か一回転して確認したし、女の格好にももうとっくに慣れている。

 この街だと有名人なのでその手の原因かとも思ったが、熱烈な視線を送ってくるのはどちらかというと男が多く、その大部分が胸や尻、太ももを見つめている。

 

 いや、ほんとこういうのわかりやすいな?

 

 肌が敏感だと視線も感じ取れるのか。

 月日が経つごとに、フレアたちとえっちなことをするほどに俺の身体も成長してきている。

 歳はそれほどとった気がしないのだが、主に女性的な魅力を司る部分、特に胸が。

 リーシャやウィズにはまだ及ばないものの、十分に大きいと言っていいサイズ。俺が男だった頃ならその谷間に無限のロマンを感じたことだろう。

 うん、男っていうのはどいつもこいつもわかりやすい。

 ついでに言うと俺自身、そういう視線は悪い気がしない。

 触ろうとしてきたらぶん殴るくらいはするが、ただ見る分には好きにして欲しい。むしろぞくぞくして気持ちいいのでもっとやってくれていい。

 

 美少女ってのは得だな……と。

 

「あ、あの、ステラさん! 良ければ俺と飲みに行きませんか!? いい店を知っているんです!?」

 

 ほんと美少女は得だな?

 急に降って湧いてきた、明らかに「奢るのでいい夢を見させてください」という申し出に俺はきょとんと瞬きをした。

 酔わせてどうするつもりだ。

 ……というか、前は単に「可愛いなあの子」という雰囲気が強かった気がするのだが、今は俺も「あの子とエロいことしたいな」が主体になったのか。

 

 にっこり笑って、

 

「ごめんなさい。わたし、男の人に興味ないんです」

「……ぐはっ」

 

 俺に声をかけてきた青年はナイフで刺されたような表情でその場に崩れ落ちた。

 連れらしき男が「おい、しっかりしろ!」と彼を抱き起こすのを認識しつつ……まあ、放っておいていいだろうと歩いていくと、

 

「あの……ステラお姉さま。私とお茶していただけませんか?」

 

 今度は女の子からのお誘い。

 再び俺はにっこり笑って、

 

「ごめんなさい。今日はこれから用事があるんです。……でも、お休みの日なら大歓迎ですから、また誘ってくださいね?」

「くそ、なんだよこの対応の差は!?」

 

 そりゃ、野郎と可愛い女の子じゃ対応変わるのは当たり前だろ。

 男の気持ちもわかるが無理に便宜をはかってやるとは言っていないのだ。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 ギルドに行くとちょうどよく『駆除する者』たちが他の冒険者に囲まれていた。

 近づいていくと人混みが割れ、そこから一人の少女が飛び出してくる。

 

「久しぶりー! 元気だった?」

「はい。みなさんもお元気そうでなによりです」

 

 前にも少し話をしたことがある、向こうのパーティの紅一点、ボクっ娘魔法使いの女の子だ。

 向こうも会いたいと思ってくれていたのか、にこにこしながら俺に抱きついてきた。

 それを受けとめて笑顔を作ると──。

 

「あれ?」

「? どうかした?」

「いえ、大したことじゃないんですけど……」

 

 気になったことを確かめるべく、すんすんと鼻を鳴らす。

 サキュバスの影響を受けたせいか、あるいはシェリーの影響か、においに敏感になった身体は前は感じなかったにおいをしっかりと感じ取って、

 

「ウィズさんが前に『坊やのにおいがする』って言ってたのはこういう意味だったんだなって──」

「わー!? こんなところでなに言ってるのさ!?」

 

 俺は少女の手で思いきり口を塞がれ、もう一方の手も使って首を締められた。

 魔法使いの筋力じゃ俺を窒息死させることなんてできないので多少苦しかっただけだけれど、大事になる前に向こうのリーダーがひょい、と、彼女の首根っこをつかまえてくれる。

 

「こいつが暴れて悪いな」

「いえ、こちらこそ変なことを言ってしまいまして……」

 

 答えつつ、俺は少女をちらりと見る。

 半巨人の青年に持ち上げられた途端、借りてきた猫みたいに大人しくなっており──うん? これはひょっとして、俺の感覚が鋭くなったのもあるけれど、単に二人が前より仲良くなったせいだったか?

 まあ、青年はそんな俺たちの様子には構わず、こちらを見透かすような視線を送ってきて、

 

「また、随分と妙な強くなり方をしたようだな」

「一目で見抜かれちゃうのはなんだか悔しいんですけど」

「気にするな。俺が本気で確かめたいと思うのはそれに相応しい強者だけだ」

 

 彼はボクっ娘を適当に放り出すと、背中の大剣──というかもはや鉄塊と形容したい武器に手をかけた。

 

「折角だ。俺の一撃を受けてみる気はないか?」

「え、あの、ここでですか!?」

「問題あるまい。お前がしっかり受け止めれば床にも傷はつかない」

 

 まあそりゃそうだが。

 とはいえ、俺としても今の自分がどれだけ強くなったのか見てみたい気もした。

 少し考えた後に笑みを浮かべて「わかりました」と答える。

 数歩、彼から距離を取るように下がると、周りにいた人たちがその倍以上の距離を離れていく。そりゃ万が一にも巻き添えとか食いたくないもんな。

 

「こちらも全力で押し返します」

 

 鞘から抜いた魔剣を両手で握り、腰だめに構えて。

 

「その覚悟に応えて、俺も全力で剣を振るおう」

 

 ずん、と、踏み出した青年の足が床石に大きくひび割れを作って──やっぱり被害出たじゃねえか!?

 ともあれ、そんなことを気にしている余裕はない。

 《ドラゴンズマイト》。

 竜の力を引き出して身体能力を引き上げると、魔剣を振り上げながら変形。適度な重さの片手半剣から限界ギリギリの両手剣へと徐々に変化させながら、下から巨剣を迎撃して。

 剣と剣のぶつかりあいとは思えないような大きな音がギルド内に響いた。

 音の迫力と衝撃だけでギャラリーがたじろぎ、上から圧力を受けた俺の足が床にひびを入れる。

 

 とんでもない一撃をかるがると入れて来やがって。

 にもかかわらず彼はにやり、と、好戦的かつ野性味溢れる笑みを浮かべて──剣を、さらに押し込んできた。

 全体重を載せて、体格で劣る俺を押しつぶす気か。

 そっちがその気なら、と、俺は一撃だけの約束を無視して魔剣をさらに変形させる。

 長さと重さを小さく変えながら巨剣を受け流し、最終的に短剣サイズまで変えた剣を槍に変形──。

 

「っ!?」

 

 床に叩きつけられるか宙に浮くかするはずの巨剣が『横に』刀身の向きを変えて、常識外れの筋力だけを頼りにそのまま俺に襲いかかって。

 俺は槍への変形をキャンセルしつつ反射的に跳躍。剣の一撃を飛び越えて。

 

「……くっ。ふふっ、はははっ!!」

 

 剣が止まり。

 緊張が弛緩すると同時、彼が心底から楽しそうに笑った。

 それを見たボクっ娘が「ボクにはそんな顔してくれないくせに」とふくれっ面をつくり、俺は「勘弁してください」と苦笑する。

 

「床の修理代は折半ですからね?」

「細かいことを気にする奴だ。俺の剣を下段から受けきっておいて、よくそんな繊細な心配りができるな」

「それは関係ないと思うんです」

 

 お前だって俺と同レベルのゴリラだろ、と、言われたような気がしてなんというか気分が悪い。

 ちなみにゴリラというのは辺境にいるらしいとか、そもそも空想上の動物だとか言われる生きもので俺も見たことがない。どうでもいいが。

 『駆除する者』のリーダーは「今日のところはこれで終わりにしておくが」と言って、

 

「互いの総戦力で模擬戦するのも面白そうだ。……今ならばおそらく、お前達が格上だろう」

「な、序列第一位パーティのリーダーが格上と認めるだと!?」

 

 周りがざわつき始めるも……いや、どっちのパーティが強いかはともかく、パーティ対パーティでの模擬戦とか、もしかしなくても重傷者が出かねないだろうが。

 

「ドラゴン討伐に呼ばれて胸を躍らせていたのだが……こうなると逆につまらんな。お前達だけで倒せるだろう?」

「いえ、楽勝になって構いませんので手伝ってください、お願いします」

 

 少なくとも俺はお前たちほどバトルジャンキーじゃないんだ、一緒にしないでくれ。

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