美少女になったら、追放元のPTに甘やかされたんだが   作:緑茶わいん

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帰らずの大森林

 『帰らずの大森林』。

 『冒険者の街』から少し離れた場所に位置するこの森は、大森林とあるようにとても広大な規模を誇っている。

 帰らず、と言っても外周であればただの猟師や薬草取りが入ってもそう危険はない。その本領は、奥に行けば行くほど凶悪な魔物が出現すること。

 大森林で無茶をしてはいけない。

 深入りはせず、身の丈に合った深度で我慢する。常に帰り道を把握し、それ以上奥へは踏み込まないこと。冒険者の間ではそれが常識だ。

 

「森って炎が使いづらいからあんまり好きじゃないのよね」

 

 剣で木の枝や草を払いながら、フレア。

 さすがに森で肌むき出しは怖いので今日のインナーは首から手足まで覆うタイプ。ただし、それ以外はまったく変わっていないので相変わらずミニスカート、へその形までわかる軽装である。

 この森での鉄則を知っているのか、と言いたくなるレベルでずんずん先に進んでいく。

 

 まあ、森に長く滞在しないのも鉄則の一つではある。

 多様な魔物、動物からいつ襲われるかわからない。疲労は蓄積するし、長引けば物資も必要になる。

 軽装で迅速に行動するのもまた正解。

 

「障害物が多くて魔法の狙いもつけづらい」

 

 エマもまたぶつぶつと文句を言っている。

 彼女はもともと全身をマントで覆っているため肌を痛める心配は少ないが、代わりに枝などに引っ掛けて取れなくなる危険がある。

 あと、またなにかマントの下で変なことをしていないか若干心配だ。

 

 と言いつつも、森では古代語魔法がかなり役に立つ。

 生命感知で近づく危険を前もって察知できるし、火を使わず明かりを確保することもできる。魔力そのものを破壊力に変える攻撃魔法は敵の種類に関わらず一定の威力が出る。

 

「でも、森での『間引き』も必要よ。不運にも亡くなられた方の埋葬もしてあげたいし」

 

 リーシャの聖衣もこういう場所だと若干歩きづらそうだ。

 ただし、歩みを制限されつつも抜かりなく危険を排除していくのが『三乙女(トライデント)』だ。

 これまでにもう三度の襲撃を受け、そのことごとくを一蹴している。倒された魔物は討伐の証拠を切り取り、高く売れる部位も確保してバックパックの中。

 

 俺は例によって全員の荷物を抱えながら最後尾。

 ただし、今回は前回よりも荷物が少ない。場所的には平原より遠いにも関わらず荷を絞っているのは少しでも身軽になるためだ。

 一日凌げるだけの食料と水、冒険必需品以外は多くを宿に置いてきている。盗みに入られる危険の少ないしっかりとした宿があり、先の宿泊代を前払いできる財力があってこその調整。

 おかげで俺もある程度動ける。

 新しく調達した片手剣で草木を払いながら進んでいく。

 

 俺の買った剣はフレアの愛剣のような高級品じゃない。

 かといって一山いくらの安物、と言うほど悪くもない。フレアのおすすめしてくれた手頃な店で、俺の背丈に合うものを購入。

 初の獲物は後方から襲いかかってきた蛇になった。毒抜きしてタレ焼きしたり酒に漬けたり利用法があるので確保した。

 

「ステラったら、簡単な索敵までできるなんてね」

「ですが、あまり無理はしないでくださいね? ステラさんはあくまでバックアップで十分ですから」

「わかっています。強敵はみなさんにお任せしますね」

 

 エマが魔法で探っているのでそう危険もない。

 道中、食べられるキノコや珍しい薬草をいくらか採集しつつ、奥へ。

 進むにつれて徐々に魔物も強いものが増えてきた。

 

 胞子を撒き散らすお化けキノコを浄化、銃で生命力だけを奪って無力化。

 大型の甲虫を魔力の矢で貫き、俺が角を切り取る。

 数羽の肉食鳥に紅の長剣が閃き、翼をもいで地面へ。さくっと締めて荷物に。

 

「あー、雑魚が多くて面倒くさい」

「でもその分実入りはいい」

 

 はっきり言ってこの森の全貌はいまだ解明されていない。

 いったいどれだけの危険が潜んでいるかわからず、潜在的脅威が常に付き纏う。『冒険者の街』が森の近くにできたのはこの森の魔物を少しでも多く、定期的に狩るためでもある。

 その分、森の魔物討伐は報酬も多め。

 だからこそ金のために奥へ踏み込む冒険者もいて、

 

「待って。……犠牲者みたい。弔う時間をちょうだい」

 

 三人の冒険者の死体が固まっているのを見つけた。

 全員、頭がなくなっている。リーシャは彼らのそばに跪き、祈りを捧げながら神の奇跡を行使。強い浄化の力が腐肉を消し去り、残った骨は地面へと吸い込まれていく。

 俺はこれまで無宗教。神に関しては好きでも嫌いでもなかったが──。

 

「地母神の教えは理に適っている気もしますね」

 

 人は土に還り、命は巡る。

 豊穣や自然を司っているせいか庶民にもわかりやすい。もう少し詳しく知ってみるのもいいかもしれない──なんて、思えるようになったのはリーシャと距離が近づいたせいか、それともステータスの影響だったりするのか。

 ともあれ、弔いの終わった後、残されていた所持品は回収する。

 そのままもらってもいいし、ギルドに預けるとわかる範囲で遺族に届けてくれたりもする。捜索依頼が出ている場合もあり、その場合は申し出たほうが大きな謝礼に化けることもあった。

 

「人が食われる側に回るのも自然の摂理。死者の遺品を有効に使うのも悪いことではありません」

「あんまり気分は良くないけどね、人死にって」

「死体があった以上、危険もあるということ。……結構、近い」

 

 警戒を強める俺たち。

 やがてこちらに近づいてきたのは、口を模したような本体と何本もの蔓──というか触手? で構成された植物。

 フレアが言っていた人食い植物の一種だ。

 紅髪の少女剣士は「出たわね」と笑うと、

 

「ステラ、エマたちの護衛だけお願い!」

 

 鞭のようにしなり、襲い来る触手を次々と斬り飛ばしていった。

 俺はこっちに向かってきた一本を剣で払って押しのけ、エマが詠唱する時間を稼ぐ。別に俺がいなくても杖でぶん殴って済む話だったかもしれないが、

 

「助かった。……《フリーズ》」

 

 攻撃の手を減らされた敵は本体に強烈な冷気を受け、氷漬けになる。極端な低温は活動を鈍らせ、氷を割って暴れることを許さない。

 氷の上からリーシャが銃を連打すれば息の根は完全に止まった。

 完勝。

 凄腕三人のおかげであっさり倒してしまった感じだが、

 

「さっきの三人はこいつにやられたんでしょうか」

 

 敵の口は人の頭を飲み込めるほどに大きかった。

 触手に拘束されたまま頭を溶かされて次々に絶命させられたのか。肉体を溶かさなかったのは無力化だけが目的だったのか、それとも別の獲物をおびき寄せる餌だったか。

 人の命の儚さに思いを馳せていると、フレアがぽん、と肩を叩いて。

 

「人間、いつかは死ぬのよ。それが早いか遅いかだけ。死にたくなきゃ強くなるしかないわ」

「……そうですね」

 

 冒険者をやっていくなら生き汚さも必要だ。

 幸い俺は生き残れる程度の幸運には恵まれてきた。ここに来て巡ってきたチャンスを活かしてもっと強くなりたい。

 

「フレア。今回はこのあたりで切り上げたほうがいい」

「そうですね。これを解体して持ち帰るとなると荷物もかなり多くなります」

「時間も食ったしね。野営するなら外周付近か森を抜けたところがいいし。帰りましょうか」

 

 この森は奥に行くとコンパスまで狂い出す魔境だが、エマの魔法があれば正確な方角がわかる。

 今までとは逆に背後へ特に注意しつつ来た道を戻り、襲い来る脅威を払い。

 

「やっぱり街までは戻れそうにないわね」

 

 仕方なく一泊の野宿を経て、街まで帰り着くことになった。

 着の身着のままでもリーシャの浄化で汗や汚れは取り除ける。状態保存の奇跡があるので取った素材も状態のいいままだ。

 凄腕冒険者と並の冒険者を分ける一番のポイントは手数の多さかもしれない。

 精霊剣士のフレア。魔術師にして薬師のエマ。銃を操る神官のリーシャ。一人が二役をこなし臨機応変に動けるからこそ、軽装で森を探索して帰ってこられる。

 

 彼女たちの技術、可能な限り俺もものにしたい。

 エマがいなくても帰り道がわかるように。リーシャがいなくても服の浄化くらいできるように。そうなるのが本当の意味でのサブなのかもしれない。

 

 エマたちとの交流、冒険の経験によって複数のステータスが14→15に上がり、俺は一回り成長した。

 冒険者の遺体から回収した品は戦利品と一緒にギルドへ届けた。

 これによってまたまとまった額の金が入ってきて──同時に、思わぬ仕事をもたらした。

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