美少女になったら、追放元のPTに甘やかされたんだが   作:緑茶わいん

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シェリーafter

 離宮の庭を何人もの女の子たちが走り回っている。

 とてとて、という感じでとても可愛らしい。

 貴族的な育て方をされていても子供は子供、こういう時期はあるものだ。

 ……と言っても、お世話する侍女は気が気じゃないようで、おろおろしながら追いかけたりしているけれど。

 適度なスピードで追いかけてくれるのが面白くて子どもたちは余計にはしゃいでいたりする。

 

「本当にみなさま可愛らしいですね」

「ええ、本当に」

 

 そんな中、わたしの隣に立ってのほほん、と見守っているのはシェリーだ。

 子守りに適した『秘蹟』を持つ彼女は子どもたち専属メイドを束ねる長の立場、わたしたちの子供全員をお世話する役割だ。

 

「シェリーはあの子たちを追いかけなくていいの?」

「はい。遊びたい盛りの子を無理に押さえつけるのもよくありませんし……」

 

 大怪我に繋がるような場所、ものでは遊ばせない分別をつけていれば問題はない。

 もし怪我をしても魔法で治せるわけで。

 シェリーが生命の精霊に呼びかけ《ヒーリング》をかければ後に残るようなトラブルはまずない。

 

「さすが、子育て経験者は頼もしいわ」

「リーシャお嬢様はとても大人しい方でしたので、少々勝手は違いましたけれど」

「そうなの? 小さい頃からお姉さまは大人しかったのかしら」

「……ええと。実を言いますと、本当に幼少の頃は意外とお転婆でいらっしゃいまして」

 

 と、はしゃぐ子供たちの後ろをとてとてとついていっていた一人の子が勢い余ってこっちに突っ込んできた。

 激突しそうになるその子を、わたしはぽふ、と受け留めて、

 

「大丈夫?」

 

 微笑んで顔を覗きこむと、彼女は恥ずかしそうに頬を真っ赤にした。

 

「あ、あの、もうしわけありません、ステラさま!」

 

 その子は他の娘たちと違って、ドレスではなく子供用のメイド服を着ている。

 この子はシェリーの娘。

 母親にならい、将来はメイド、あるいは侍女になるようにと今から教育を施されている。

 

 シェリーの血を受け継いだおかげか種族はハーフエルフ。

 長く生きられるので娘たちの側仕えにもぴったりだ。

 というわけで、仲良くなれるように子供の頃から一緒に遊ばせて交流を深めさせている。

 

 まあ、英才教育に熱心過ぎて、もう一人の母親であるわたしのことも「ステラさま」と呼ぶのだけれど。

 わたしにとってはこの子も大事な娘。

 

「いいのよ。むしろ、いつもあの子たちと遊んでくれてありがとう」

「……あっ」

 

 抱きしめて頭を撫でてあげると、彼女はうっとりとした表情を浮かべて目を閉じた。

 わたしの腕の中でゆっくりと呼吸を繰り返して、

 

「……ステラさまのにおいがします」

 

 小さくそんなことを呟く。

 そんなわたしたちの様子を見た他の娘たちが「あー!」と声を上げて「ずるい」と駆け寄ってきて──。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

「あの子のにおいに執着する性格はいったい誰に似たんでしょうか」

「どう考えてもシェリーだと思うのだけれど」

「わ、私は自分から抱きつくようなことはしません!」

 

 子供たちを寝かしつけた後、ささやかなオフのシェリー。

 寝間着姿になった彼女はいま、飾らない様子でベッドのうえ、わたしの隣にいる。

 わたしは「そう?」と首を傾げ、腕を広げて、

 

「じゃあ……おいで?」

「……っ」

 

 こちらから迎えてあげると、シェリーは素直に身を預けてきた。

 深呼吸。

 みるみるうちに瞳が蕩けていって、

 

「ステラ様のにおい……」

「あの子と言っていることが同じなのだけれど?」

「好きになった方のにおいなのですから仕方ありません」

 

 すっかり条件付けされてしまっているようで、わたしのにおい+ベッドの上だとこうやってあっという間にとろとろになってしまう。

 彼女との特別なひとときには道具もテクニックもいらない。

 ただ抱きしめてあげるだけでうっとりと、いつまでも浸ってくれる。

 時には目隠しに首輪などを使うこともあるけれど。

 

「ステラ様のベッドに呼んでいただけるだけで私は幸せです……」

「そう? でも、他の子のにおいもするんじゃないかしら?」

「嫌いなにおいではありませんし、ステラ様のにおいがやっぱりいちばん強いですから」

 

 ゆったりと言葉を交わしながらのキス。

 可愛いなあ、と心から思う。

 

「やっぱり、シェリーの子供も産んであげたいのだけれど」

「駄目です。ステラ様のお子様となれば私も従者として接しなくてはなりません。扱いが難しくなります」

「あの子もわたしの娘なんだけどなあ」

「それは私もあの子もわかっています。それでも、従者であるべき者とそうでない者で態度は区別するべきです」

 

 出会った頃に比べると柔軟になったと思うのだけれど、シェリーはこういう堅いところがある。

 

「子供でしたら、その、私がもう一人産めばいいでしょう?」

「あら、いいの? お仕事に支障をきたさない?」

「私の仕事は主に指示出しですから。……それに、ステラ様もあまり人のことは言えないでしょう?」

「それはそうね……」

 

 リーシャ、リリアーナ、フレアにエマ。

 一人産むのに一年くらいかかるわけなので、娘を四人産むだけでも四年以上はかかる。

 お腹の子が大きくなるのを感じてはその誕生を見届けて──次の子をお腹に宿しての繰り返し。

 わたし、ほとんど妊娠しっぱなしなんじゃ? と、男の頃のわたしが見たら絶句しそうな状態が一時期あったりした。

 

「ステラ様のお子様であれば欲しがる方はたくさんいらっしゃいます。だからこそ、ご自身が育まれるお子様は限定してくださいませ」

「ええ、わかっているわ」

 

 実際「愛人にしてくれとは言わないから子供を作らせて欲しい」みたいな申し出はわりとある。

 だいたいが侍女などの働く女性だ。

 恋愛してる暇はないけど子供は欲しい、養うお金は貯まってる、みたいなワーカホリッ──仕事熱心な人は思ったよりいるのである。

 そうなると、英雄と呼ばれているわたしの子供は狙い目らしい。

 

 そういう子たちは公的にわたしの子とは認められない。

 あらかじめそういう取り決めで話を進めている。

 リリアーナの血はからまないので王位継承権はないし、そのあたりも問題なし。

 

「それにしても、シェリーも大変ね。定期的に向こうのお屋敷にまで行ってるんだもの」

 

 『冒険者の街』にある屋敷は相当数の侍女に任せてあるものの、一番詳しいのはシェリー。

 なのでたまに《テレポート》で向こうに顔を出している。

 

「仕方ありません。フレア様とエマ様は放っておくといくらでも自堕落な生活をしますから」

 

 気心の知れたシェリーに一喝されるとさすがに効くらしく重宝されている。

 

「まあ、さすがにこの生活も長くなってきましたので、そろそろ向こうも任せていいとは思っています」

「ふふっ。いつもありがとう。シェリーがいてくれて本当に良かったわ」

「っ。……そんなこと。私だってステラ様と巡り会えたこと、本当に幸せだと思っているんですから」

 

 わたしたちは片手の指を絡めあうと、もう片方の手で相手の服の紐を引いて。

 

「お嬢様のお子様ともども、これからもお世話させてくださいね、ステラ様?」

「ええ、こちらこそ。これからもよろしくね、シェリー?」

 

 そこからのひとときは子どもたちにはちょっと見せられそうにない。

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