美少女になったら、追放元のPTに甘やかされたんだが   作:緑茶わいん

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彼女たちの馴れ初め

 きっかけは、大宴会中に娘が発した素朴な疑問だった。

 

「お母さまたちは、男の人を好きになったことはないのですか?」

「ないわね」

「ない」

「ありません」

「ありませんね」

 

 きっぱりはっきりと返答するフレア、エマ、リーシャ、リリアーナ。

 いっそ清々しい回答だけれど、男だった頃から彼女たちに惚れていたわたしとしてはちょっと複雑な気分。

 と。

 

「ステラお母さまは……?」

「わたしもないわ。わたしの初恋はフレアたちだもの」

 

 フレアは「本当にー?」という顔をしたけれど、嘘はついていない。

 わたし=ステラの初恋はフレアたちだ。

 冒険者になる前のわたし、というか『俺』=クライス少年は近所のお姉さんに憧れたことがあったような気もするけれど、それはノーカンである。

 

 そんな俺の内心を見透かしたのかどうなのか、フレアはあっさりジト目をやめて、

 

「ま、あたしたちは一回だけ男とパーティ組んだことあるんだけどね」

「一回だけじゃないですよね?」

「別行動するようになってからの話はしてないわよ。そっからはちょくちょく組んでたけど、全部臨時だし」

 

 要するに『三乙女』時代の話。

 

「お母さまたちが……殿方と」

「信じられないかしら? まあ、わたしが加入する前の話だから、わたしもよく知らないのだけれど」

 

 一部人物からめちゃくちゃ「嘘つけ」という顔をされたけれどスルー。

 詳しく聞きたい、という娘たちの希望にフレアは「そうねー」と目を細めて。

 

「リリアーナには昔話したわよね? あたしたちが出会った頃のこと」

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

「あたしは小さい頃山で暮らしてたんだけどね。パパの剣を直すのと、あと人間の世界を知るためにって一人で山を降りることになったのよ」

 

 父親の着ていた服はとっくに使い物にならなかったので、火に強い魔物の皮を剥いで「とりあえず着てるだけマシ」という服を作って。

 

「何度聞いても無謀としか思えないのだけれど」

「別にそんなに危なくなかったわよ。ママから『近づいてくる人間は全部敵だと思いなさい』って教わってたし」

「野生の教えにも程がある」

 

 まあでも、半裸の美少女が金貨や宝石を手にうろついてたら「食い物にしよう」っていう輩はいっぱいいる。

 自分一人でなんとかしようとするフレアの方針は正しく、彼女は服を買い、靴を買い、人間社会で生活する最低限のルールを学習していった。

 

「喧嘩もいっぱいしたけど、おかげでエマと会えたのよね」

「初めて会った時、私は『あ、馬鹿がいる』と思った」

 

 当時、エマは師匠であるウィズと別れてさほど経っていない頃。

 『冒険者の街』を当面の拠点とは定めたものの、主に性癖の問題から「入りたい」と思えるパーティを定められずにいた。

 そんな折、ごろつきを素手でぶっ飛ばしているフレアと出会って、

 

「ぶっ飛ばされたごろつきに服を汚されたから、フレアに酒を奢らせた」

「そしたら意気投合したのよね」

「私は『扱いやすそうな馬鹿だし護衛にちょうどいい』と思っていた」

「あんたさっきからひどくない!?」

「事実」

 

 暫定コンビが結成された。

 

「フレアとは確かに気が合った。お互いの性癖は尊重しあえたし、簡単な冒険で連携も確かめられた」

「悪くなかったけど、回復役がいなくてちょっと難儀したのよね」

 

 当時のフレアはまだ《ヒーリング》を安定して使えるレベルには達していなかった。

 敵を見ると燃やしたがる癖も持っており、魔力の温存が下手で──怪我をすると治療するのが面倒な面があった。

 

「わたくしと出会ったのがその頃ですね」

 

 当時のリーシャは実家を離れて神殿に入り、ある程度の修行を積んだ頃。

 冒険に出て経験を積んでみるのもいい頃合いだった。

 

「正直、リーシャの第一印象って最悪だったのよねー」

「ひどくないかしら、フレア?」

「だってリーシャときたら、私とフレアに初対面で説教してきた」

 

 娘たちは「フレアお母さまたちが悪い」と声を揃えたけれど、

 

「ひどいわよね? その日はちょーっと二人して二日酔いで、迎え酒でもしようかーって道をふらふらしてただけなのに」

「誰だって心配するわ。……というか、声をかけたのがわたくしで良かったと思って欲しいのだけれど」

「ま、それがきっかけでこうして仲良くなれたんだしね」

 

 うん、本当に、心からリーシャが加わってくれてよかったと思う。

 

「わたくしとしても、フレアたちとパーティを組むのは好都合だったの。男性のいるパーティではお父様が余計に心配するでしょうし」

「そんなこと言って、リーシャは運命の出会いを期待してた」

「……エマ? 言っていいことと悪いことがあると思うのだけれど?」

 

 話が脱線してきた。

 

「そ、それで、どうやって男性をパーティに加入させたんですか?」

 

 助け舟を出すわたしだけれど、もちろん、それについてはわたしが知らないはずがない。

 『三乙女』に唯一加入した男性というのは元のわたし=クライスだ。

 

「あいつが自分から頼み込んできたのよ。『なんでもするから仲間に入れてくれ』って」

「うん。随分必死だった」

 

 あの時のわたしは焦っていた。

 盗賊ギルドに入って小型武器の扱いや申し訳程度の格闘はできた。ダンジョン探索や野外活動の技能も多少はあった。

 けれど、自慢できるほどの実力はまったくなくて。

 既に駆け出しでいられる年齢は過ぎていて。でかい山を当てるのならなにか大きな変化が必要だった。

 

 悪事に手を染めるのはプライドが許さない。

 だから、有名なパーティに参加しようとした。

 

「でも、どうして彼はわたくしたちに話を持ちかけたのかしら」

「さあ? 可愛い女の子目当てだったんじゃない?」

 

 他のパーティには断られただけだ。

 『駆除する者』も『至高の剣』もリーダーにさえ会えず当時メンバーだった盗賊に一蹴された。他のパーティも大差ない成果。

 でも、もしかしたら、男がいなくて危なかっしい彼女たちなら、わたしみたいなのでも力になれるかもしれないと思った。

 

「その人、強かったの?」

「クソ雑魚」

 

 ……もうちょっと歯に衣着せてくれてもいいのに。

 

「でもまあ、ガッツはあったわよ。実際雑用は率先してやったし、あたしの見様見真似で剣を覚えたり、簡単な古代語魔法を使えるようになったり」

「時折、視線を感じる以上の不埒な真似もありませんでした。男性にしては付き合いやすい方だったと思います」

「要するにやる気はあるけどヘタレ」

「みなさん、その方に対して妙に辛辣ですよね!?」

「仕方ありませんわ、お姉さま。いくら善人であろうと、女性を口説く勇気を出せない方はチャンスをふいにするものです」

 

 うん、リリアーナに言われるのがいちばん堪える……。

 

「お母さまたち、その人のこと好きじゃなかったんだ?」

 

 ごめんなさい、これ以上追い打ちをかけるのは──。

 

「そうねー。あの時、せめて押し倒してくれてれば別の未来もあったかもね」

「ラッキースケベのひとつやふたつあれば、秘密を共有する仲になれたかも」

「せめてもう少し言葉遣いを正してくだされば、父に紹介することもできたかもしれないわね」

 

 あの時の『俺』も、捨てたものではなかったのだろうか。

 

「努力は無駄じゃなかったっていうか、そこだけは買ってるってことよ。……ま、あいつとあのままどうにかなってたらステラと出会えなかったわけだしね」

「それは困る」

「本当に困ります! 私たちが生まれて来られないのですから!」

 

 あの時、夢破れた結果いまがあるなんて、不思議な話だ。

 

 案外、人生なんてそんなものなのかもしれない。

 失敗から挫折しても、また別の道で幸せを見つけられる。

 前に一度、元パーティ仲間──わたしではなくクライスの──に会いに行ったことがある。

 もちろん本当の素性は明かさなかったけれど、盗賊娘と結婚したリーダーは子どもを作って立派にパパをやっていた。

 

 彼らは彼らでちゃんと生きていたのだ。

 

 わたしは諦めきれなくて無茶をしたけれど、おかげでこうして幸せになれた。

 人生、なにがあるかわからない。

 

「生きてさえいれば、チャンスはある。……そういうことなのかもしれませんね」

 

 呟くように言うと、フレアが笑って「そうね」と頷いた。

 

「冒険の基本はとにかく生き残ること。希望を捨てないこと。それさえ忘れなければ、きっとなんとかなるわ」

「知識と技術は生存確率を高めてくれる」

「味方が多ければ、助け合うこともできるわ」

「絶望的な状況でも、足掻けば、思わぬ助けが得られることもありますわ」

 

 人の化けた竜との交渉。

 明日──ううん、もう日付が変わっているだろうから明後日──ううん、どうせ二日酔いだろうからしあさってに待ち受けるそれだってどうなるかはわからない。

 それでも、わたしたちは挑む。

 諦めないし、やるからには成功させるつもりで望む。みんなで、力を合わせて。

 

「わたしたちはこれからも一緒。だから、どんな困難だって」

 

 乗り越えて、まだ見ぬ明日へ。




ほんとにこれで終わりです
ここまでありがとうございました
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