美少女になったら、追放元のPTに甘やかされたんだが   作:緑茶わいん

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フレア(2)

 剣の稽古に関してフレアは妥協しない。

 相応に手加減はしてくれる。ただ、加減した威力の剣をひたすら受け続けるだけでも俺には精一杯だ。たまに受け損ねてぶっ叩かれることもある。

 木剣を使っているので問題ないが、これが実戦なら……とへこみはする。

 その上、へとへとになるまでしごかれて。

 

 俺は、取り繕う気力も失い、宿の裏庭に大の字になった。

 一方のフレアは余裕綽々のまま上機嫌。

 

「ん、よく頑張ったじゃない。ご褒美にお酒奢ってあげる。ウォッカでいい?」

「先に水分補給しないと死んじゃいそうなんですが」

 

 心地よい疲れではある。

 なによりあのフレアから教えを受けているのだ。本当ならこっちが金を払うのが筋。

 きついし、力量の差を思い知らされるが。

 

「あの、フレアさん?」

「んー?」

 

 水筒の水をごくごく飲みつつ視線を向けてくるフレア。

 紅髪の美少女の肌にはうっすらと汗が浮かんでいる。女の汗は男と匂いが違う気がするんだが、あれはどういうわけなのか。

 

「前から気になってたんですけど、フレアさんはどうやって火の精霊魔法を使ってるんですか?」

 

 精霊魔法はその名の通り、精霊の力を借りるものだ。

 例えば火のあるところには火の精霊が、水のあるところには水の精霊がいる。火や水のないところでその属性の魔法は使えない。

 なのに、フレアはどこでもぽんぽん炎を放っている。

 

「精霊石を持っているとか?」

「ああ、違うわよ。そうじゃなくて、あたし、半精霊だから」

「え」

 

 目が点になる俺。そんな話初めて聞いたぞ!?

 慌てて身を起こすと、俺の分の水筒が投げ渡される。水を飲んだら若干気分も落ち着いたが。

 

「火の精霊とのハーフ、だったんですか?」

「そ。あたしのママが火の精霊、会ったことないけどパパは人間の冒険者だったらしいわ。だからあたしには生身があるのよ」

 

 精霊には肉体がない。半精霊(ハーフエレメンタル)は人間と精霊、両方の性質を持つため、肉体を備えながら精霊としての権能も持ち合わせている。

 

「代わりに精霊魔法で自分に働きかけないと火もろくに使えないんだけどね。小さい頃はそのせいで苦労したわ」

「それがフレアさんの強さの秘密の一つなんですね」

「あれ、秘密の『一つ』って言ってくれるんだ?」

「だって、剣の腕は種族と関係ないじゃないですか」

 

 身体能力で得してはいるだろうが、技術は間違いなく本人のもの。そこは認めないといけないし、憧れもある。

 

「というか、それって秘密じゃないんですか?」

「徹底的に隠してるわけじゃないわよ。エマとリーシャは知ってるし、勘づいてる奴もいるかも。まあ、黙っててくれると嬉しいけど」

「もちろん、そんなこと人に言いません」

 

 珍しい半精霊は人から狙われることもある。フレアなら一蹴するにしても余計な危険はいらない。

 なにより、フレアの秘密を知っている数少ない人間、と思うほうが優越感がある。

 とさ、と、俺の隣に少女が座って。

 思ったよりも小さな肩がとん、と触れる。

 

「だから、ステラもいつでも火の魔法使えるわよ。……そのへんの冒険者に許可出す気はないけど」

「そっか、他の人に力を貸すかは決められるんですね。でもわたし、まだ自分が精霊魔法を使える実感がないんですけど」

「そうだったの? ……いや、考えてみればそっか。あんた精霊視(アストラルビジョン)してる様子なかったもんね。素質があれば普通小さい頃に見えるようになるんだけど」

 

 俺は生まれてから一ヶ月経ってないようなものだからな!

 

「そっか。それじゃあ、精霊を感じるところから始めないとね」

「わっ!?」

 

 俺の膝を跨ぐように座った少女が前から腕を回してくる。

 ぎゅっと力を籠められると身体が密着。汗のにおいに混じってフレアの匂いも感じられる。

 

「ふ、フレアさん!?」

「あたしで始めるのが一番手っ取り早いでしょ。ほら、力抜きなさい」

 

 半ば無理矢理押し倒された。

 丈の低い草に受け止められながら倒れる俺。フレアの胸の感触。その奥から、少し速い鼓動の音。

 

「ステラっていい匂いするわよね。新鮮な果物の匂い、みたいな?」

「……なんだかそう言われると恥ずかしいです」

「いいじゃない。仲間でしょ?」

 

 それはともかく、精霊を感じるとはどうすればいいのか。

 正直、フレアにどきどきしてそれどころじゃないんだが。

 

「深呼吸しなさい。あたしの胸の音に自分の音を合わせて」

「……んっ」

 

 とりあえず言う通りにしてみる。深い呼吸を繰り返していると、フレアもそれに合わせてくれる。二つの呼吸が重なって、少しずつ、お互いの鼓動が同じリズムを刻み始めた。

 暮れかけた太陽。

 橙色に染まっていく空は、どこか炎を思わせる。苛烈で、熱く、恐ろしいものだが、付き合い方さえ間違えなければ頼もしい。

 闇を照らし、外敵を退け、身体を温めてくれる。

 

「目を瞑って」

 

 言われた通りにすると、他の五感がより鋭くなる。

 精霊を捉える感覚は第七感なんて言われる。いわゆる「勘」のようなものが第六感、その次というわけだ。

 神殿は「いや、神託を授かる感覚こそが第七感だ」と主張していて統一感はないが。

 息遣い。触れた感触。それだけに集中していくと、フレアの存在が再現なく強く明確になって──ある一点を越えたところで逆にぼやけていく。

 重なっているのか。

 人と変わらない肉体と、そうではない特別な存在。少女はそれを両立している。

 今までどうして感じられなかったのか。

 それとも、ずっと感じていたのか。フレアのそれをこんなに簡単に感じられたのは、一年とはいえ彼女と共に過ごしたお陰なのかもしれない。

 

「……ああ。こんなに近くにいたんだ」

 

 くすっ、と笑う声。

 

「そうよ。あたしはここにいるわ」

 

 目を開いても新しい感覚は消えなかった。

 フレアが今まで以上に頼もしく見える。視覚ではなく精霊的な感覚に頼ると、少女の身体がぼんやりと赤く輝いて見える。

 他の精霊はまだ見えそうにないが。

 この感覚に慣れれば見えるようになりそうだ。

 

「というか、もしかして精霊って『視る』っていうより『感じる』っていう感覚ですか?」

「あー。そのへん実はあたしよくわからないのよね。あたしは精霊なんて見えて当たり前だったから」

 

 天才には凡人の気持ちがわからない的なあれか。

 

「でも、それがわかるようになったなら一歩前進じゃない?」

「そうですね。少なくともフレアさんが精霊なのはわかるようになりました」

「そっか。じゃあ、その感覚忘れないためにも──今日は一緒に寝る?」

 

 悪戯っぽい目つき。火の半精霊、と言われると「確かにそうだな」と思える程度にはこいつは性格がきつく、情熱的で、こっちの体温まで燃え上がらせようとしてくる。

 というか実際、体温が高い気がする。

 落ち着いた状態ならぽかぽかして気持ちいい程度だろうが、いったん興奮し始めたら行き着くところまで行ってしまいそうな気がする。

 

「いや、あの、さすがにそれは問題があるような」

「なによ、リーシャとは毎晩寝てるくせに」

「リーシャさんはわたしに変なことしませんし……」

 

 高い頻度で俺のベッドに潜り込んでくるのと、一緒に寝ると抱きしめてくるのと、「お姉ちゃんって呼んでくれませんか?」とたまに求めてくるくらいで──けっこうやらかしてるな?

 フレアはむっと頬を膨らませて。

 

「やっぱり胸なのね? 胸の問題なんでしょ?」

「それ言ったらわたしはもっと小さいじゃないですか」

「あたしはステラの胸も可愛くていいと思うわよ?」

 

 俺の身体を文字通り尻に敷いたフレアは頬を紅潮させたまま、服に手をかけて。

 

「暑くなってきたから脱いじゃいましょうか」

「誰かに見られたらどうするんですか!?」

 

 とんでもないなこの露出狂!?

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