美少女になったら、追放元のPTに甘やかされたんだが   作:緑茶わいん

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ステラ(1)

 必死になって部屋を探したところいくつかのアイテムを発見した。

 別れた仲間たちから餞別代わりにもらった品々。

 

「……まだ、俺が受け取ることに納得しきれていなかったからな」

 

 リーダーの剣士が愛用していたサブのナイフ。

 盗賊娘が己の髪を使って編んだお守り。

 薬師兼狩人が最後に作ってくれた滋養強壮剤。

 戦士が「もう使わないから」とくれた娼館の無料券。

 

 まさか、こんな形で俺を助けてくれるなんて。

 ありがたい。……まあ、戦士に関してはもうちょっと他になかったのかと言いたいが。

 売れば当座の金くらいにはなる。

 

「悪いけど使わせてもらうぞ」

 

 背に腹は変えられない。むしろこのために残してくれたのだと考える。

 とはいえ服の問題は解決していない。

 仕方なく俺はベッドシーツを身体に巻き付けた。何も着ていないよりはマシだろう。

 

 まさか、『秘蹟』を使ってこんなピンチに陥るとは。

 

 ため息をつきつつ部屋から出て、一階にある酒場に降りようとしたところで、

 

「な、なにやってるんだ嬢ちゃん!?」

「こ、これは違うんです! 事情があって──!?」

 

 他の宿泊客に見つかってしどろもどろで説明する羽目になった。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

「……そうかい。記憶喪失でな。それは大変だったなあ」

「あ、あはは。そうなんです。本当に」

 

 どうやら俺はかなりの美少女になっているらしい。

 全裸にシーツ、統一性のない品物を手にした不審者。姿が俺のままだったらその場でぼこぼこにされていてもおかしくないのに。

 俺を見つけたおっさん含め、酒場にいた人たちは適当な説明を信じて同情的になってくれた。

 

「右も左もわからないし、お金も持ってないし。せめてこれをお金に換えられないかなって」

「そういう事なら協力してやらないとな」

 

 仲間たちの所持品は思ったよりも金になった。

 ナイフはよく手入れされていてまだまだ使える品だったし、盗賊娘の髪は魔術的な意味があるとして欲しがる奴がいた。意外なことに一番高値で売れたのは娼館の無料券だった。

 滋養強壮剤は宿に泊まっていた数少ない女子が着替えと交換してくれた。

 

「服がないんじゃ外も歩けないでしょ? このポーションも買えばそれなりの値になりそうだし」

「なにからなにまでありがとうございます」

「いいのいいの。困った時はお互い様でしょう?」

 

 人からこんなに良くしてもらったのはいつ以来か。

 男の身だと「知るか」「自分でなんとかしろ」が他人からの基本対応だ。それに比べると天地の差。

 もらった着替えは若干ぶかぶかだったが、紐で調節したり袖を折って使えばなんとかなる。

 

「で、嬢ちゃん。これからどうするつもりだ?」

「冒険者ギルドに行こうと思っています。なにかわかるかもしれませんし、手に職があればお金も稼げますから」

「しっかりしてるな。自分の事はわからなくなっても、その手の事は覚えてるわけか」

 

 みんな俺を応援してくれた。

 困ったことがあれば戻ってこい、宿が見つからなかったらここに泊まればいいと言ってもらい、何度も礼を言いながら宿を後にしようとして、

 

「ところで、あなたがいた部屋ってあのパーティの最後の一人がいた部屋ですよね? 部屋に残っていた物も彼の仲間たちの所持品のようですし」

 

 宿の主人の推理にひっ、と声が出た。

 

「そうか! あの男が犯人だな!」

「こんな子を誘拐して記憶喪失にするなんて、なんて奴なの!? 人畜無害そうに見えたのに!」

 

 ……俺がその男の変身だとは幸い誰も疑わなかったが、代わりに俺が誘拐犯にされた。

 この宿にはもう近づかないことにしようと心に決めた俺だった。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

「……いった」

 

 外に出た途端、足裏に違和感を覚えた。

 考えてみると裸足だ。

 先に靴を調達するべきか。靴屋は確かあそこに……と、突起物を踏まないよう慎重に歩き出せば、なにやら視線がこっちに集まってくる。

 靴も履かずに歩く奴が珍しいのか──と思いきや、どうやらそれだけというわけでもなく。

 

 じろじろ見てくる人間に男が多いのに気づいて「ああ」と理解した。

 

 美少女が気になるのか。それもいかにもわけありっぽい風貌。宿でもそうだったが、美人ってのはいつもこんなに注目されているのか。

 あまり一箇所に留まっていると声をかけられそうだ。

 身長が縮んで筋力も下がっているはず。ナンパをあしらう自信のない俺は歩くペースを少し早めた。

 

 なんとか靴屋にたどり着き、見習いの少年に頬を染められながら安い靴を調達して。

 

「……あれ? 値札より安くないか?」

 

 少年は「大丈夫です」とオウムのように繰り返した。

 割引き。

 美少女、生きやすいにも程がある。まあ、良いことばかりではないらしいが……とりあえず少年には「ありがとう」と微笑んでおいた。

 上手くいったかといえば、彼の顔がトマトのように赤くなったのが答えだろう。

 

 そうしてようやく冒険者ギルドへ。

 

 ギルドとは冒険者の支援組合だ。引退した冒険者が主な構成員となり、冒険者を必要とする有力者・権力者の後援のもとに運営されている。

 酒はないが軽食を取ることもでき、仲間との相談や交渉にも利用できる。

 他に依頼書を貼り出す掲示板、冒険者の相談に乗る受付などがある。ちょうどギルドを利用している冒険者パーティも複数いた。

 俺が近づくと、カウンターの受付嬢は驚いたような顔になる。

 

「あの、冒険者登録をお願いしたいんですが」

「え? ……あ、はい! 冒険者登録ですね!」

 

 登録は所定の代金を払えば誰でもできる。

 手持ちの金なら登録料を払っても一泊分程度の金は残る。……思ったより靴屋で割り引いてもらったのは大きかったな。

 登録は簡単、羊皮紙に名前と年齢、出身を記入──。

 

「どうしました?」

「いえ、それが」

 

 「こんな子が冒険者なんて珍しいな」という顔をした受付嬢にかくかくしかじかと事情を話す。

 

「記憶喪失。なるほど……。でしたら年齢は大まかに、そうですね、十五歳くらいでしょうか。お名前は便宜的なものでも構いませんよ」

 

 別途金はかかるが登録変更もできる。わけあって偽名で登録する者もいるのでこのあたりの規則は緩い。

 偽名か。

 俺は少し考えてから、冒険物語のヒロインになりそうな名前を名乗っておくことにした。

 

「では、ステラと」

「ステラ様ですね。では、最後にこちらの魔道具に手をかざしてください」

 

 水晶玉のような形をした魔道具は対象の能力(ステータス)を大まかに数値化して示すものだ。

 例えば筋力が強く体力にも優れていれば戦士に向いている──など、冒険者としての方向性についてのアドバイスにも用いられる。

 初めて使ったのはもう十年近く前だ。

 あの時はステータスが中途半端で受付を困らせてしまった。曖昧な笑顔で「盗賊か狩人ですかね?」と言われた時は心が折れそうになった。

 以後、定期的に成長を確認していたが──まあ、俺なりに頑張ったな、という結果。なお『三乙女』は確認するたびにすごいと褒められていた。

 

 果たして、今の俺はどうなのだろうか。

 

 俺は当然、能力についても優秀であることを望んだ。どうせ生まれ変わるなら強くなりたいに決まっている。なので、期待はしても良さそうなのだが。

 

 ギルド始まって以来の大型新人、などと言われてしまったらどうしようか。

 各数値は12が一般人の平均値。14あれば駆け出しの冒険者としては及第点だ。18くらいあると有望株として向いている職業を強くオススメされるのだが、

 

「こ、これは──っ!?」

 

 魔道具に手をかざすと光が溢れる。

 やがて形作られた光文字を見て、受付嬢が歓声。

 やったか、と俺は喜色を浮かべて、

 

「珍しい! 全数値が14だなんて……!」

 

 しょぼい。

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