美少女になったら、追放元のPTに甘やかされたんだが   作:緑茶わいん

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死者の溢れた村(1)

「好きな花はありますか?」

「たんぽぽでしょうか」

「食べ物の好みなどあれば」

「揚げじゃがと冷えたエールが好きです」

「動物はお好きですか? 私は犬が好きで──」

「コボルトでしたら先日狩りました」

「…………」

「…………」

 

 伯爵家の兄弟から「お茶でも飲まないか」と俺だけ呼び出された。

 行ってみるといかにも「親交を深めようとしています」と言う感じの会話。

 これは、リーシャの言っていた通り、兄弟のどちらかが俺を娶ろうとしているな……?

 

 男にモテても正直まったく嬉しくない。

 しかも、彼らの目当ては魔剣の力だ。その上で俺が美少女だから「まあいいか」と声をかけてきているのだろう。

 もし娶られればいい暮らしはできるだろうが、貴族の妻とか正直面倒くさそうでごめんだ。

 

 即座に判断した俺は華やかさのない返答を心がけた。

 特に嘘は言っていない。たんぽぽは好きだし、女になる前は揚げじゃがを口に放り込みエールを流し込むのが好きだった。

 最近はチーズたっぷりのオムレツに白ワインを合わせるのとかも好きだが、それを言わなかっただけ。

 

 そんな返答が功を奏したのか、やがて会話には沈黙が多くなり。

 勝ったな。

 思いつつ、バターの風味香るクッキーを味わっていると、

 

「大変です! 近隣の村でアンデッドが大量発生したと報告が!」

「えっ」

 

 緊急事態が発生した。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

「場所はここから半日ほどの距離にある農村だ」

 

 領主の部屋。

 集まった俺たちに伯爵が地図を用いて説明してくれる。

 

「村では、今まで使っていた地下墓地が手狭になってきたため、拡張を進めていたらしい。スペースの都合上、下に掘り進めることになったのだが──その結果、良くないものを掘り当ててしまった」

「アンデッドの群れ、ってこと?」

「というより、古代の遺物か邪教の秘宝だろう。下からゾンビが這い出てきたかと思えば、墓地の遺体も次々にアンデッド化したらしい」

「この地方には『最も古き迷宮』がある。当時栄えていた地域だけあって、他にも遺跡があちこちにある」

「あるいは裏にリッチーがいるかもしれないわ。並の冒険者では手に負えないかも」

 

 幸い、拡張工事をしていた村人はすぐに逃げ出し、村民を連れてこの街に避難してきている。

 並のアンデッドに大した知能はない。また、移動速度も低下しているため、一度撒いてしまえば追いかけられることはなかったそうだ。

 

「人的被害は免れたが、放置しておくとアンデッドが一帯に広がりかねん。そして犠牲者が出れば──」

「今度はそいつらがアンデッドになってどんどん被害が増える」

「うむ。……そこで、凄腕の冒険者パーティに掃討を依頼したい。引き受けてもらえないだろうか? もちろん、報酬は弾もう」

「ま、明らかにあたしたち向きの仕事よね」

「アンデッドなら気兼ねせず倒せる」

「地母神さまの神官として、この状況、見過ごすわけには参りません」

 

 みんなやる気だ。それはそうだろう。冒険者にとって突発的状況なんて慣れっこ。しかも、ここにいるのは『三乙女』だ。

 

「やりましょう。お借りした魔剣の力を振るうのにももってこいの舞台です」

「……ありがとう。すまない。もちろん、他の冒険者にも協力は要請する。その上で、君達に主力を担ってもらいたい」

 

 他の冒険者は村の周りに配置され、あぶれたアンデッドを倒す役。

 俺たちは彼らが被害を抑えている間に村に突入、手当たり次第に敵を潰し、元凶を突き止め、アンデッド大量発生を止める。

 

「じゃ、さっさと出発しましょうか。応援を待ってたら遅くなっちゃうし」

「気の早い冒険者ならもう徒歩で出発しているかもしれない」

「君達には当家から馬車を出そう。危険を考え、村の近くまでにはなるが」

「それで十分です、お父様。被害は極力抑えましょう」

 

 短時間で準備を整え、出発。

 久しぶりの重要任務──でもないか。ストーンドラゴンを倒してから大して時間経ってないし。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

「ご武運をお祈りしております。どうか無事にお帰りください、お嬢様。ステラ様。……皆様」

 

 シェリーはさすがに危険なので留守番。

 

 保存食を調達している余裕はなかったため、荷物には伯爵家にあったパンやチーズ、干し肉やワインなどをもらって詰め込んだ。

 こっちで仕事をしていた都合上、装備をしっかり用意できたのは幸いだった。むしろ魔剣の分、いつもより充実しているくらいである。

 

 作戦会議は道中で。

 

「伯爵から村の建物は壊してもいいってお墨付きをもらったし、なんなら丸ごと焼いてもいいわよね」

「でも、それだと鎮火するまで待たないといけない」

「炎に巻かれない位置まで下がって野宿ね。……視界も塞がるから、上位のアンデッドが裏から這い出しても気付けないかもしれないわ」

「大きく燃やすのは最後の手段のほうがいいかもしれませんね」

 

 向こうは呼吸をしていないから酸欠にもならない。

 

「しょうがないわね。なら、主力はステラの魔剣とリーシャの銃ね」

「敵がどれだけいるかわからない以上、魔力はできるだけ温存したい。アンデッドが相手じゃ眠りや麻痺も効かないし」

「ええ。消耗を避けつつ敵の数を減らしましょう」

 

 聖職者の武器である銃は、あらかじめ魔力を神聖な力に変換し、銃自体に保存しておくことで弾数を稼ぐことができる。

 古代魔法王国期に存在し、現在は失われた技術──物質への魔力の保存に限りなく近い手法。

 エマやフレアも魔晶──遺跡で大量に手に入れて売り払ったアレがあれば保有魔力以上に魔法を放てるし、保険として持ってはいるが、使い捨てなうえに高いのでできるだけ使いたくはない。

 

「でも、剣ならフレアさんも使えますよね?」

「もちろんあたしも戦うけど、暴れるのはエマを守りつつ状況を見ながらね。アンデッドには聖なる力の次に炎が効くし」

「まとまった数に会敵した場合は先に《死者退散(ターンアンデッド)》をかけます。残った敵をわたしとステラさん中心に片付けましょう」

「わかりました。……あと、今回は退路にも気をつけないとですね」

 

 深追いして逃げ道を塞がれるのは避けないといけない。そう思って告げれば、フレアがくすりと笑って、

 

「すっかり頼もしくなってきたじゃない。もうあんたも十分、あたしたちの戦力ね」

「そう言っていただけると嬉しいですけど……」

 

 多分に魔剣のおかげなのでまだまだ自慢はできそうにない。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

「これは……ひどい状態ですね」

「まさにアンデッドの巣窟」

 

 のどかな村の風景。直前まで普通に生活していたことが窺える中を、ゾンビやスケルトンが闊歩している。

 さすがに連れて行く余裕はなかったか、家畜は村に残されており──すべて殺されてゾンビ化しているようだ。

 アンデッドは鼻がきかない代わりに生者の気配に敏感である。

 気づかれないギリギリで立ち止まった俺たちは「なんとかしなくては」と決意を新たにする。

 

「でも、確かに村の外には出てないみたいね?」

「操っている者がいるのかもしれない」

「それとも、アイテムの有効範囲的な問題かしら?」

「中心は墓地の可能性が高いんですよね? まずは外の敵を潰して安全を確保しましょう」

「おっけ。……じゃ、できるだけ少しずつ釣っていきましょうか」

 

 前進してわざと気づかれたら、それ以上前に出ず敵を引っ張り込む。

 おびき寄せられた敵を倒し終えたらまた進んで同じことの繰り返し。

 

 この作戦は功を奏し──主にスケルトンは俺の持つ伯爵家の魔剣が両断、ゾンビはリーシャの銃を浴びて浄化された。

 うっかり多めに釣ってしまった場合は《死者退散(ターンアンデッド)》が炸裂。抵抗に失敗した個体は消滅するか輝きを恐れて逃げ出す。これで数を減らしたら後は各個撃破だ。

 

「ん、順調ね」

「数がいようとソンビとスケルトンなら楽勝」

 

 いやまあ、今回は開けた場所での遭遇だというのも大きいが。

 ある程度敵の数を把握できるし、逃げ場のないところで殺到される危険もない。

 それに、

 

「楽に倒せるのはいいですが、わたしたち四人で倒すのはなかなか骨ですよ、これ?」

 

 並の冒険者パーティじゃたぶん、墓地に到達する前に全滅するぞ。

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