美少女になったら、追放元のPTに甘やかされたんだが 作:緑茶わいん
一晩、好きなようにしてもいい。
男相手に言ったら最後まで行き着かれても仕方のないセリフだ。
いや、この場合、女同士でもあまり変わらない。
彼女に触れるのは初めてでもないわけで。
躊躇する必要はないはずなのに、俺は高鳴る心臓を抑えきれなかった。
深呼吸をして気持ちを落ち着けていると、シェリーが「もう」と頬を膨らませて。
「ステラ様は奥手過ぎます。……それはまあ、女性としては美点ですけれど」
「ご、ごめんなさい」
女としてもヘタレだと言われてしまった。そして言い返す言葉がない。
「そうですよね。……女性だって、勇気を出しているんですよね」
拳を握って、意を決する。
いいと言うのなら好きなようにやってやろうじゃないか。
「それじゃあ、今これから、でもいいですか?」
「! ……はい。ステラ様がそれでよろしいのなら」
シェリーは少し驚いた様子を見せつつも、頬を染めてこくんと頷いた。
部屋の空気が変わったような感覚。
身体が熱いのは酒のせいばかりではないだろう。
「わたし、試してみたいことがあるんです」
言って、いくつかの道具を取り出す。
手枷に、目隠し。それから、首輪。
ごく、と、今度は唾を飲み込む音。
「エマ様や伯爵様も似たようなものをお持ちですよね」
「はい。エマさんから『初心者向け』だといただいたものなんですが」
フレアもエマも、リーシャも、性癖的な意味では完成されてしまっている。
彼女たちの趣味はおそらく一生直らないだろう。
向き合うと決めたわけだが、いきなり上級者についていくのも難しい。
なら、練習台になってくれる相手がいれば。
「これでシェリーさんを拘束したいんです。……いいですか?」
無理やりされる怖さは俺も知っている。
まあ相手が好みのタイプならそれはそれで……じゃなくて。
同意があるに越したことはないと尋ね、
「はい。……ステラ様に、すべてお任せします」
それが始まりの合図だった。
◇ ◇ ◇
「シェリーさん。絨毯の上に座ってください」
「……はい、ステラ様」
しっとりと声を潤ませ、ゆっくりと腰を下ろすシェリー。
メイド服のスカートがふわりと広がり、足が左右へと投げ出される。
こっちを見上げてくる表情は期待と不安に満ちていて──美人にそんな顔をされると、ぞく、と奇妙な興奮を覚えてしまう。
まずは首輪からだ。
俺は、彼女の前に膝立ちになって、
「髪を、持ち上げてください」
「───んっ」
自らさらけ出された首へ、黒革の首輪を巻きつける。
緩みが出ないように強めに引っ張ると、ハーフエルフのメイドは小さく呻いた。
「苦しいですか?」
「……はい、少しだけ」
一つ分ベルトを緩めた。
ほっと息を吐く彼女の顔を見つめながら、金具に錠をはめ込んで。
「あっ」
かち、という音が、ひとつ、シェリーから自由を奪い取った。
「これで、シェリーさんはわたしの許しがないと首輪を外せません」
敢えて宣言したのは果たして誰に言い聞かせるためだったのか。
紅潮した頬。潤んだ唇。髪から離れた手がそっと首輪を撫でる手つき。自分から『それ』を受け入れる気持ちを、俺はついトレースして。
「両手を後ろにお願いします」
「────」
かち、と、手枷に鍵をかけると、もう彼女は見るからに囚われの身だった。
逃げ出せば誰かに見られるかもしれない。
別にフレアたちなら「ああ」とすぐ理解するだろうが、恥ずかしいことには変わりない。
そういう趣味だと思われるのも、「自分はまだまともだ」と思っている人間には正直辛い。
だからこそ。
「最後に、目隠しをしますね」
視界を塞ぐそれは、手が自由な状態なら簡単に外せる代物。
けれど、今の彼女にはどうすることもできない。
見ることを封じられた瞬間、シェリーはほう、と、深い息を吐いた。
「目が見えなくなると、においや音に敏感になりますよね?」
俺は椅子を持ってくると、彼女から少し離れたところに置いて、腰掛ける。
「シェリーさん。……その状態で、わたしの足にご奉仕してください」
「っ」
ぴくん、と、身を震わせたシェリーは、音を頼りに俺のほうへと顔を向けて「はい」と答えた。
「かしこまりました、ステラ様」
正直、俺も興奮でおかしくなっていると思う。
もぞもぞと、足だけで這うように動いて。すん、すん、と、その鼻がしきりに動いて。
はあ、はあ、と、明らかに呼吸を乱しながら、シェリーは俺の差し出した左足を見つけた。
跪くように座って、靴の先端にキス。
手が使えない彼女は感触を頼りに紐を見つけると口を使ってそれをほどいた。
靴が落ちると、ソックスに覆われた足が露わになる。正直、人に嗅がれるのは俺としても恥ずかしいのだが──羞恥と優越感という二重の
足先にキス。
「ステラ様。……ああ、ステラ様」
まるで自慰の最中のように息を乱したシェリーは夢中で舌を這わせてきた。
しまいには口を使ってソックスを脱がせ、生の足に鼻を近づけ、唇を触れさせてくる。
「───んっ」
気づけば俺の息も乱れきっていて。
主導権を握る側はどうすればいいのか。握られる側はどうすればより興奮するのか、そんな思考が脳内に溢れた。
熱い。
じわり、と、フレアたちに影響されて生まれた感情が、あるいは俺自身の中に秘められていた性癖が染み出してきて。
「シェリーさん。……いいえ、
自分自身をも嬲るような命令。
シェリーは涎でべとべとになって顔を上げて、口を半開きにしたままに、
「……ふぁい」
蕩けきった返答とともに、触れる場所を少しずつ上へと移動させ始めた。
そして。
◇ ◇ ◇
「すみません。……完全に、やりすぎてしまいました」
次の日の朝、俺はシェリーに本気で謝った。
室内の空気は入れ替えたものの、ベッドの上には二人分の衣服と下着が散乱。
俺たちは一糸まとわぬ姿でシーツの上にいて、身体には明らかな気だるさがのしかかっている。
酒と雰囲気に酔っていたとはいえ、昨夜のことはかなり鮮明に思い出せる。
匂いも、感触も、興奮も、快感も。
おまけに目覚めた時には抱き合うようにしてベッドの上だったわけで。
一般的な意味での最後まではしなかったものの、ある意味ではそれ以上の一線を越えてしまった感覚。
自分の意思で人に命令して、欲望を晒して、身体を触れ合わせて。
「あの、この埋め合わせは必ず」
「なにを仰っているのですか、ステラ様」
しかし、シェリーは微笑んで俺を宥めた。
「お任せすると申し上げたのですから、ステラ様に罪はありません。……それに、その」
「それに?」
「私も楽しんだと申しますか、その、夢中になって乱れてしまいましたので、同罪です」
「……そ、そう、ですか」
そう言われると無性に恥ずかしくなってくる。
素面であれをやれと言われても絶対に無理なのだが、雰囲気がまたしても甘ったるくなる気配というか、余韻がなおも残っているというか。
彼女もそうなのか、「と、と言いますか!」と声を荒げて、
「弱気に戻らないでください。……昨夜のステラ様はその、途中からとても素敵でしたのに」
いや、あの時の俺が素敵って。
「……シェリーさん? 匂いが好きなだけじゃなくて、命令されていじめられるのも好きなんじゃないですか?」
なかなか危ない性癖というか、これで恋愛対象が男なら伯爵といい関係になれたんじゃないのか、とか。
「す、ステラ様が言えることですか! あなたなんて責めるほうも責められるほうもお好きな変態のくせに!」
「なっ。わ、わたしはそんな変態じゃ……!」
ない、と言おうとした俺は「本当か?」と自問してしまい、結局いい切れずに口を閉ざした。
あまりにも説得力がない。
「と、とにかく。昨夜のことは内密にお願いします。特にお嬢様には決してお伝えしないでくださいませ」
言いながら手早くベッドを抜け出し、精霊魔法で水を作り出し始めたシェリーはふとこちらを振り返って。
「それから。……今後、こういうことをなさる時は一日以上前にお声をおかけくださいね?」
え? またしてもいいのか?
しかし、女慣れしていない童貞のような──まあその通りだが──疑問を抱いた俺が彼女を見つめた時には、メイドはもう、昨夜の余韻をいかに素早く部屋から消し去るかに専念し始めていた。