美少女になったら、追放元のPTに甘やかされたんだが   作:緑茶わいん

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大精霊の依頼(3)

「さ、みんな。準備はいい?」

 

 翌朝、朝食をとって一休みして、装備の確認も終えてから。

 

「フレアちゃんの剣に宿るのは外に出てからにしましょうか。途中で会った魔物はなんとかしてあげる」

「ママがいればあたしたちなんにもしなくてよさそうね」

 

 本当になにもしないで外に出られた。

 なにしろ多くの魔物はビビッて逃げていくし、残りの考えなしもあっさり焼かれてアウト。

 あまりにもあまりな強さ。敵じゃなくて良かったと心から思う。

 まあ、それと同等の敵とこれから戦うわけだが。

 

「あいつのことだから、私の気配が薄くなったらすぐに行動開始すると思うわ。注意して動いてね」

「おっけ。ママもサポートお願いね」

「うふふ。任せなさい」

 

 フレアが剣を抜き、空にかざす。

 ヴォルカがそれに手を差し伸べると、彼女の身体がほどけるように形を崩し、剣──正確にはそこに嵌まった宝石へと吸い込まれていく。

 宝石の色がより濃い紅へと変わって、

 

『うん。なかなか居心地いいかも』

「見た感じだと狭苦しそうなんですけど……」

「生命維持に気を使わなくていい空間だから、ある意味のんびりできるのかも」

 

 エマの解説に「なるほど」と思った。

 その間にリーシャが周囲を見渡して、

 

「索敵はどうしようかしら」

「戦いやすそうな場所に移動すればいいんじゃない? たぶんあたしたちを襲ってくるでしょうし」

『そうねー。私が剣に宿ってる間にフレアちゃんたちを片付ければ剣に閉じ込められる──とか考えそうだし』

 

 実際は自主的に入っただけなので自由に出られるのだが。

 

「よっし。なら、あのデカブツと会ったあたりでいいかしら」

 

 来た道を戻るのならちょうどいい。

 ある程度洞窟から離れたところで《熱防御》は一度効果が切れたものの──涼しい方向へ向かっているはずなのに、空気の熱がさらに強くなりだして。

 

「邪悪な気配を感じるわ。……確かに、これは大悪魔クラス」

「ええと……そうですね、わたしにもなんとなくわかります」

 

 むしろ、今の俺には火の精霊が怯えまくっているほうがわかりやすい。

 思った通り、いい感じに鉢合わせできそうだ。

 

『《熱防御(ヒートプロテクション)》をかけ直すわ。みんな、頑張ってね』

「任せて、ママ。バルログくらいあたしたちならなんとかなるわ」

 

 作戦はいつも通り、フレアと俺が前に出て引きつけ、エマとリーシャが後方支援。

 敵が炎無効なので燃える魔剣はあまり意味がないが、《熱防御》をかけてもらえただけで十二分。 

《熱防御》をかけてもらえただけで十二分。

 暑さに動きが鈍る心配もなくなり、俺は万全の状態で魔剣を握った。

 果たして、俺たちは敵の一団と遭遇して。

 

 総勢五十に届こうかという小悪魔に守られ、炎の大悪魔が俺たちを睥睨した。

 

「……いや、多っ!?」

 

 小悪魔はゴブリンより小柄なくらいだが、身体の末端が燃えているうえ、鋭い爪や牙も備えている。

 そして、肝心のバルログ。

 身長は2メートル以上。胸の部分は口のごとく大きく開いており、その中には燃える心臓。体表も同じく燃えており、炎の鞭と炎の銃を手にしている。

 

『精霊の娘よ。母親ともどもここで死に、我に領地を明け渡すがいい』

「あ、なんだ。喋れるのねあんた」

 

 母への殺意を向けられたフレアは不敵に笑って、ふん、と鼻で笑う。

 

「ママに怯えてこそこそしてた奴がよく言うわ。領地が欲しければ『冒険者の街』にでも出てくれば良かったのに」

 

 そうしなかったのは冒険者総出で迎え撃たれるのを警戒したからだろう。

 例えばあの『駆除する者(スレイヤーズ)』みたいなのが出てきたらさすがに分が悪いはず。

 でも、この山で、かつ一パーティが相手ならやれる。そう踏んだのだろうが。

 

「お生憎様。私たち『四重奏』はそんなに甘くない」

「邪悪な大悪魔。あなたに慈悲はかけないわ。最後に神へ許しを請いながらその身を消滅させなさい」

「多くの犠牲者が出ないうちに倒させてもらいます」

『面白い。できるものならやってみるが良い。脆弱なる人間如きが、我を侮るなよ!!』

『あはは。偉そうにしてても頭は足りてないのよね、あなた。のこのこ出てこなければ良かったのに』

 

 どちらからともなく動き出した俺たちは、そのまま開戦。

 多数の雑魚に守られたバルログとの戦いはこれまでとは一線を画する激しいものとなった。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

「リーシャ、エマをお願いね!」

「ええ! エマの護衛をしつつ敵の数を減らすわ!」

「私は魔法の撃ちどころを見極める。その間に──」

「雑魚を倒して道を作ればいいんでしょ!」

 

 次々と閃く剣の輝き。

 束になって襲いかかってくる小悪魔を、フレアが次々と斬り払っていく。

 追いつかない分は拳でぶん殴り、足で蹴っ飛ばす。

 本人はともかく装備は焼けると壊れるのだが、《熱防御》もあるし、もしスカートが焼け落ちてもフレアは別に気にしない。

 

「わたしも負けてられませんっ!」

 

 俺は、自分に向かってきた小悪魔を相手に魔剣の真の力を試す。

 敵に向かって横薙ぎに振りながら、剣を斧槍(ハルバード)へと変形。長柄を活かして数体まとめて吹っ飛ばす。

 慣性で逸れた獲物は軽い短剣に変えて引き戻し、腰だめに構えて。

 槍に変えながら突き出せば、小悪魔が二体まとめて串刺しになった。

 

 魔界の住人である悪魔たちは現世に来るのに仮初の身体を作っている。

 一定以上のダメージを受けると身体が崩壊して元の世界に戻され、後にはなにも残らない。

 

 周りこもうとする小悪魔はリーシャの銃が牽制、あるいは絶命させ、エマに届こうとする者はいない。

 いても一体や二体、ぶん殴ればなんとかなる。

 これなら──。

 

『ステラちゃん、銃!』

「っ!」

 

 反射的に跳んだ直後、バルログが銃から放った炎が俺のいた地面を焦がした。

 危なかった。雑魚の多さに気を取られるとボスに狙われる。

 しかも、相手はまだ魔法を使っていない。

 

『少しはやるようだな。ならば──《アビスゲート》」

「なっ……!?」

「いや、それは反則でしょちょっと!?」

 

 バルログの背後に邪悪な門が開き、小悪魔が十も二十も追加。

 別に一体一体は大した敵じゃないが、こう一気に追加されると、

 

「飛び道具に注意しながら前衛を食い止める。それくらい、できなくちゃ……っ!」

 

 魔剣を俺に使いやすいサイズの片手剣に変え、確実に一体ずつ斬り捨てる。片手が空いたため、剣を振る手を休めないまま神への祈りを口にして、

 《聖光(ホーリーライト)》。

 聖なる光は悪魔への威力が高い。数体の小悪魔が消滅、あるいはダメージに怯む。

 

「ステラ、無茶するんじゃないわよ!?」

「フレアさんこそ!」

 

 フレアも剣を振るいながら大地の精霊に呼びかけて敵を串刺しにしたりしている。

 そうでもしないと増えた敵に対応できないからだ。

 そして、バルログは二度目の門を開き──。

 

「……大きいのを行く。二人とも避けて。《ライトニング》」

 

 電撃が、門から出てきたばかりの何体か、途中にいた何体かと一緒にバルログを焼いた。

 焦げるという現象は同じでも、雷と炎は違うもの。

 炎を纏う大悪魔もこれには苦悶の声を上げ、手にした銃でエマを狙うも、リーシャの銃から放たれた光がその手に着弾、僅かに、けれど大きく狙いをそらした。

 とはいえ。

 

「ああもう! あと何回あの門は開くのよ!?」

 

 リーシャの奇跡で小悪魔を最初に一掃するべきだったか。しかし、それだと治療が不安になる。

 目減りしない俺とフレアの魔剣を限界まで使い倒すのがセオリー。

 とはいえいつまで前線を維持できるか──。

 

『あら? もしかして、援軍かしら?』

「え?」

 

 いち早く声を上げたのはヴォルカだった。

 戦いの手を止めないままに見れば、あさっての方向から冒険者の一団がこっちに向かってきている。

 特徴的な、頭一つも二つも飛び抜けたあの戦士は。

 援軍は援軍でも、こっちの援軍。

 

「『駆除する者』!」

「どうやら母娘の邂逅は成ったらしい。そして、俺達の危惧していた危機もどうやら『これ』か」

 

 並の身長ではとうてい使いこなせない大剣が握られて。

 

「共同戦線と行こう。俺は見ての通り、雑魚をなぎ倒すのもデカいのを叩くのも得意でな」

 

 『冒険者の街』第一位と第三位の共闘。

 どうやら、バルログにとって今日は最大級の厄日だったらしい。

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