美少女になったら、追放元のPTに甘やかされたんだが   作:緑茶わいん

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勝利と帰還

 鉄塊のような大剣が小悪魔を数体まとめてなぎ倒していく。

 『冒険者の街』最強の男の長所は暴力。

 純粋な力の前では多少の人数差などなんの意味もなさない。

 

 戦神の神官は高らかに声を上げ、戦の歌を歌う。

 戦の神の信徒だけが用いられる特殊神聖魔法。祈りを歌に込め、味方の精神を鼓舞する。

 これは戦闘能力を一時的に高めるだけでなく恐怖を克服させる効果も持つ。

 

 さらに、魔術師の魔法の矢が小悪魔を次々に仕留め、盗賊と元騎士の矢がそれに加わる。

 バルログは魔界への門を開きっぱなしにし、魔力の続く限り小悪魔を召喚し続けるも、こうなってはもう駆除する速度のほうが早い。

 

 残る精霊使いは──。

 

「戦力は十分。ならば《槍》の使い所ですね」

 

 精霊使いは男女で扱える精霊が異なる。

 治癒を司る生命の精霊は子を育む女に親しみを覚えるが、勇猛なる戦乙女──精神の精霊は反対に男を愛する。

 だから、男の精霊使いには《ファイアボルト》以外に代名詞と言える攻撃手段が存在する。

 

 戦乙女の槍(バルキリージャベリン)

 

 純粋な破壊力を表す光の槍は真っ直ぐに飛び、バルログに逃げる隙を与えない。

 突き刺さった槍が大悪魔の肩を炎ごと大きくえぐり取り、その拍子に炎の銃が地面へ落ちた。

 

「勝機」

 

 すかさず、エマがとっておきの追い打ち。

 

「《ライトニングバインド》」

 

 雷の力によって形成された網が大悪魔を絡め取り、抵抗すればその威力を存分に、抵抗されても威力が低減するだけで網自体を打ち消すことはできない。

 その動きは大きく制限され、

 

「──見えた!」

 

 俺とフレアは、バルログへと繋がる道を見出した。

 俺は魔剣を二本の短剣へ変えると踊るように小悪魔を切り刻み、

 

「ほう。それがその剣の本領か。面白い」

 

 なおも俺たちを阻もうとする小悪魔を暴風のごとき剣撃が押しつぶした。

 

「行け。お前達の力、見せてみろ」

「言われなくても!」

 

 フレアが駆け、その後ろを俺が追う。

 雷の網をなんとか振り払ったバルログは残る炎の鞭を振るうも──。

 

「はっ、そんなもの!」

『うちのフレアちゃんに効くと思ってるの!?』

 

 大精霊とその娘のタッグにはなんの傷も残せない。

 迫る敵を前に隙を晒したのは失態にも程がある。

 

 ──俺も今は戦神の歌のおかげで絶好調だ。

 

 魔剣をさらに鞭へと変形させ、炎の鞭ごと大悪魔の腕を絡め取る。

 

『な、に……っ!?』

「相手が悪かったわね、大悪魔っ!!」

 

 鞭を取り戻そうと足掻くその腕を精晶石の剣が斬り落として。

 

「勝負、あったようだな」

 

 片手半剣に戻った俺の魔剣とフレアの魔剣がこれでもかと切り刻むと、おいついてきた『彼』の鉄塊が駄目押しとばかりに押しつぶして。

 

 崩壊していく身体が、大悪魔のこの世での『死』をはっきりと示した。

 

 残る小悪魔も程なく殲滅されて。

 巨体を持つ戦士は愛剣を肩に担ぐと「物足りん」と文句を言った。

 

「味方の戦力が過剰すぎる。お前達と肩を並べるのならばドラゴンくらいは相手にしなければ面白みがないな」

「たったの二パーティでドラゴン退治も尋常じゃありませんけど……」

 

 ふん、と、彼は鼻を鳴らして、

 

「せっかくだから手合わせしてみるか、精霊の姉妹よ」

「なんで化け物の後にあんたと戦らなきゃいけないのよ!?」

「わたしたち、別に姉妹じゃありません!」

 

 抗議の声が、危機の去った戦場へ響いた。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

『うん、なんとかなって良かった。これで安心して山を降りられるわ』

「まあ、一時はどうなるかと思ったけどね。……まあ、あのままでもエマが齧られるくらいで済んだかしら?」

「待って、フレア。それは一大事。主に私が」

「まあ、エマが齧られてもわたくしが癒やしますので」

「待って、リーシャ。敵を食い止めるのを諦めないで欲しい」

 

 なんだかんだ言いつつ、俺たちは山を後にした。

 『駆除する者(スレイヤーズ)』は「一緒に帰る意味もあるまい」と、あの後すぐにどこかへ行ってしまった。

 バルログ退治の報酬はと尋ねると「いらん」とか言うので、エルフの精霊使いに手持ちから金貨を押し付けた。

 どうやら彼らもリーダーの気まぐれには困っているらしく、大いに感謝されて。

 

「それにしても魔物が襲ってきませんね」

「そりゃ、威圧感ばりばりだったママがあたしの剣の中にいて、しかも後釜を狙ったバルログが殺されてんのよ? これで襲ってくるのはよっぽどのアホでしょ」

 

 幸いにも帰りはとても楽な道のりとなった。

 終わってみれば一泊二日。

 移動含めても、双子の遺跡の時と大して変わらない日程だ。

 いや、あっちはあっちで罠とか命がけだったわけだし、どっちがキツいとは一概に言えない気はするのだが。

 

『さ、これから街に行くのよね? 人間の街なんてまともに見るの初めてかも』

「さすがの大精霊様も街を訪れた経験はないのですね」

『それはねー。なにしろ私が行っただけで街が燃えかねないし』

 

 麓の村も特に代わりはなく。

 村で一泊した後、俺たちは村で待っていてくれた馬車に乗って『冒険者の街』へと帰り着いた。

 大悪魔討伐の証明は、戦場に残ったバルログの鞭。

 力を失ってなんの役にも立たないそれだが、悪しき魔力の残滓から本物と判定されて無事に報酬が支払われた。

 

 噴火もどきのほうはフレアの剣からヴォルカ当人が証言。

 『てへっ♪』くらいのノリで謝られた上に大精霊だと名乗られたギルドスタッフの心境は想像するだけで悲惨だったが。

 

『なんならこの場で本当の姿を見せ──』

「絶対にやめてください!」

 

 噴火もどき解決については身内の不始末ということで「まあ形だけ支払っておくね」くらいの謝礼金だけを受け取ることにした。

 ぶっちゃけバルログの分だけでも十分だし、そのほかに倒した魔物もいる。

 マジックアイテムで寂しくなった懐がだいぶ潤った。

 

 そうして、

 

「さ、家に帰りましょ」

『フレアちゃんの今のおうちね。楽しみ』

「楽しみはいいけどママ、急に出てきて家を燃やさないでよね」

 

 屋敷では美味しい食事を用意したシェリーが出迎えてくれたのだけれど、

 

『初めまして、フレアちゃんのママです。よろしくね?』

「だ、だだだ、大精霊様!? しかもステラ様もなんだか精霊成分が増していませんか!?」

 

 大精霊が一緒とは聞いていなかった彼女は大いに驚き、その反応にヴォルカはご満悦だった。

 

「……それにしても、皆様は次々に大冒険を繰り広げますね? この分ではそのうち本当にドラゴン退治に駆り出されるのでは?」

「あはは、まさか。さすがにドラゴンなんてそうそういませんし」

『あら。山脈の奥にいるわよ、一匹。さすがの私でも勝てないくらい強力な火竜が。他にも──』

「待ってください。言うと招くんですから……!」

 

 冒険の疲れを癒やす意味も含め、俺たちはまたしばらく休息を取ることにした。

 フレアはヴォルカとの積もる話があるし、エマも知識面で興味津々。

 俺も魔剣の新たな力を活用するためいろいろ試してみたい。

 次の冒険の準備としても少し間を空ける必要があるだろう。

 と。

 

「ねえママ? 精霊魔法の応用で危なくない状態のママを実体化できないのかしら?」

『うーん……。ママはフレアちゃんと違って肉体とかないから難しいかも。あ! ステラちゃんの身体をちょっと借りるとかできるんじゃないかしら?』

「それだ! ねえステラ、ちょっとママに身体貸してあげてくれない?」

 

 またなんか変なことを言い出したなこの母娘。

 

「危なくないなら構いませんけど……いったいなにをするんですか?」

「そりゃもちろん、ママと一緒に街を歩くのよ。ね?」

『うんっ。娘と二人でお散歩なんて夢みたい』

 

 なるほど。それは確かに微笑ましい夢だし、叶えてやりたいが、

 

「騙されませんからね。ヴォルカさんは精霊だから服が嫌い、とか言ってわたしの身体を裸で連れ出すんでしょう?」

「なんでわかったの?」

「わかりますよ!?」

 

 ちゃんと服を着ないと駄目、と断固反対し、精霊母娘に条件を呑んでもらった。

 

「わかったわ。ちゃんとママに服を着てもらう。ちゃんと」

 

 ……二回繰り返されたのがなんか不穏だったのだが、それが気のせいではないことがわかったのはそれから数日後のことだった。

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