美少女になったら、追放元のPTに甘やかされたんだが   作:緑茶わいん

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迷宮三度(1)

 久しぶりに訪れる迷宮入り口。

 俺たちはもう何度も訪れているし、シェリーにしても二回目だ。

 

「ウィズさんはここに潜ったことはあるんですか?」

「ええ。最後に来たのは何年も前だけれど」

 

 言うと、彼女はマントの中から片眼鏡(モノクル)を取り出す。

 隠された仕掛けや魔力の有無がわかるマジックアイテムらしい。これがあれば罠を安全に発見できるわけだ。

 

「師匠は本当にいろいろ持ってる」

「年の功かしらね。でも、あまり道具に頼りすぎるのも良くないのよ?」

「で、どんな感じで進むの? あたしたち、上のほうはざっくり突破しちゃうことが多いんだけど」

「それはもちろん、余すことなく──くまなく調べるわ。ステラに壁を触ってもらいながらね」

「めちゃくちゃ大変ですね、それ……」

 

 とはいえ、どこに隠し部屋があるかわからない。

 調べるには片っ端から触れていくしかない。

 左右の壁に同時に触れるのは通路の幅的に無理なので、ぐるっと一周することになる。

 

『それなら魔物も殲滅できるねー』

「呑気に言ってる場合じゃないわよママ。まあ上のほうの奴らは雑魚だけど」

「シェリーも一緒なのだし、あまり適当にこなすものでもないわ。ある程度着実に、堅実にこなしていきましょう」

「リーシャは相変わらず真面目。でも、特に異論はない」

 

 前回に続き、シェリーには探索の心得を実践で見せながら進んでいく。

 雑魚はフレアの剣とリーシャの銃で一蹴。

 銃には俺も協力して「これでもか!」と魔力をこめてある。

 魔法の鞄(マジックバッグ)があるので素材もしっかり回収。装備もメンバーもこれ以上ないほど充実しているのに、駆け出しに戻ったような不思議な気分。

 

 そうして、一階をぐるっとめぐって。

 最初の通路へと戻ってきて。

 

「うーん。近道を作るなら一階がベストだと思うのだけれど。あてが外れたかしら」

「師匠も案外役に立たない」

「あれ? というか、隠し扉があるならそのモノクルでわかるんじゃ?」

「普通の隠し扉ならね。古代魔法王国期の遺跡よ? 特に大事な場所には、魔法による感知を回避するためにさらなる魔法がかかっているのが定番なの」

「なるほど。それは見つからないはずですね……っと」

 

 手応えあり。

 行きに触ったのと逆側の壁。入り口から大して歩いていないところの壁が、俺の手に反応して動き出す。

 ウィズは橙色の瞳を輝かせて「ほら」と得意げ。

 

「私の言った通りだったでしょう?」

「うん。まあ、二分の一で外すあたりが師匠らしいけど」

「どうせ最初が当たりでも全部調べたわ。さ、そんなことより行きましょう?」

 

 隠し扉の向こうは一本道の通路。

 前に見つけたのと同じように奥に扉があって、開けると──小さな部屋の奥に扉、そして、これみよがしに置かれた悪魔の像が四つ。

 

「あからさまにガーゴイルですね」

 

 石像に擬態する魔物だ。

 

「あの中で何体がガーゴイルかしらね?」

「四体じゃないかしら。偽物を混ぜる意味もないでしょうし」

「というか皆様、よく平然としていられますね……?」

「それはまあ、キマイラに比べたらぜんぜんマシですし」

 

 例によって部屋の入り口には魔法を解除する結界が張られている。外から魔法を撃ち込んで破壊は無理というわけだ。

 

「別に大した問題じゃないでしょう。マジックアイテムを破壊する力はないのだから──」

「あ、魔剣は通っても無事なわけですね」

 

 部屋に入らず、魔剣を槍に変形。それを伸ばして石像をぜんぶ叩き壊した。

 うん、そうそう。こういう身も蓋もないのが俺たちの探索だ。

 

「さて。問題の扉だけれど」

 

 前に見つけた扉は俺が触れてもうんともすんとも言わなかった。

 おそらく、これもそうだと思うのだけれど。

 念の為にあれこれ調べてからおそるおそる手を触れると──。

 

 ぽわ、と、魔力の波紋のようなものが広がって、

 

「え?」

 

 扉が開き、その奥に別の部屋が現れた。

 人が百人くらい詰め込めそうな、そこそこの大部屋。

 中央に台座と水晶玉があり、なにやら操作できるようになっている。

 

「あれ、開きましたよ……?」

「よくやったわ、ステラ。私の思った通り。ここが『玄関』だったみたいね」

 

 俺の頭をぽんぽんと撫でながら新しい部屋を眺めるウィズ。

 

「玄関?」

「製作者本人や友人、知人──商人とかもいたかもしれないけれど、要は『場所さえ知っていれば罠や魔物をスキップできる本当の入り口』が用意されてたってこと」

「なるほど。間口を広く取っているため、一階の隠し部屋だけはステラさんでも開けられたんですね?」

「そ。大方、一階から製作者の居住区への直通以外は合言葉がいるでしょうけど」

 

 二階以降に用があるのは侵入者か関係者のみ。関係者はパスワードを知っていて、メンテナンス用に各階へアクセスできるようになっている、ということか。

 

「大規模な遺跡にはこの手の仕掛けがつきものよ」

「ということは、これが魔法の昇降機?」

「ええ。ステラなら操作できるんじゃないかしら」

 

 俺たちが全員入ると昇降機の扉はひとりでに閉じた。

 よく見るとそれは二重になっていて、『隣の部屋』と『昇降機』にそれぞれ付随している。

 要するにこの部屋、というか箱は動くということ。

 

 扉の裏には文字盤があってなにやら書かれている。俺の知識だと全部は読めないものの、各階ごとの案内になっているようだ。

 案内をざっと読んだウィズは「あははっ」と声を上げて笑った。

 堪えきれないとばかりに口を押さえ、身体を折って笑い転げる。それを見たシェリーが「え、あの」と目を瞬いて、

 

「な、なにがあったのでしょう……?」

「大丈夫、師匠はただ面白くなってるだけ。……私も正直かなり驚いている」

「ん? つまりどういうことよ?」

「ステラならこの驚きを共有できるはず。……この迷宮は階数が半端じゃない」

「そうですね。──わたしの知識が間違ってなければ、最下層は()()ですから」

「……ひゃ、百階?」

 

 普段は表情を整えているリーシャもこれにはさすがにぽかんと口を開けた。

 

「っ、ふふふっ! それじゃあ何年経っても攻略が終わらないわけだわ。どれだけ暇だったのよ、ここの迷宮の主は」

 

 今までの挑戦が徒労──というか、無数の冒険者が挑んできた成果がたった、迷宮の何分の一かを制覇したに過ぎなかったと知らされて。

 普通ならがっくりくるのだろうが、迷宮のスケールがここまで桁違いだと逆に面白くなってもまあ、確かに仕方ない。

 フレアはこれに「はあ、なるほどね」と苦笑して、

 

「でも、これを使えば一気に百階まで降りられるんでしょ?」

「正確に言うと九十五階行きみたいだけれど。まあ似たようなものね」

 

 それより下は倉庫とかそういうのなんだろう。

 

 ……普通ならくぐり抜けないといけない脅威を全部パスして、九十五階まで移動できる。

 俺は、ごくりと唾を飲み込んだ。

 さすがにこんな深いダンジョンは聞いたことがない。いったいその奥にはなにがあるのか。

 

 ウィズは、息を呑む俺たちを見渡して。

 

「だから、私たちは二階から地道に魔物を駆除して回るわ」

 

 ……一瞬、なにを言われたのかわからなかった。

 未知の空間に飛び込む覚悟を決めていたところだったからだ。

 フレアもエマも「なんで」と言いかけて、それから納得の表情になる。

 

「……そっか。危険すぎるわよね」

「そういうこと。私たちは確かにお客様扱いで昇降機の利用を許されたけど、行った先でもお客様として対応してもらえるかどうかはわからない」

 

 ずるい手段で居住区に踏み込んできた不届き者を確殺するなにかが備わっている可能性がある。

 正直、このメンバーでさえ十分とは言い難い。

 

「今回の目的は迷宮に魔力を消耗させること。王の頼みを遂行するためにも無駄な危険は冒せないわ」

 

 ……うん、思ってたよりずっと冷静でまともだな、この魔女。

 格好は痴女だけど。言動も痴女だけど。

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