美少女になったら、追放元のPTに甘やかされたんだが   作:緑茶わいん

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リーシャ(9)

「準備を整えたら王都へ向けて出発しましょう」

 

 迷宮から戻り、一夜を明かして。

 朝食の席でウィズがそう宣言した。

 

 ──猶予は数日。

 

 『魔女』の顔が広いお陰で多少なら王様を待たせられるっぽいが、そんなにのんびりもしていられない。

 数日の間に探索の疲れを癒やし、消耗品を買い足し、屋敷を留守にしても大丈夫なようにしないといけない。

 

 今回はシェリーも一緒なので防犯の用意は特に大事だ。

 

「守りの用意なら私に任せなさい。ゴーレムを適当に量産しておいてあげる」

「それを置いたらこの屋敷、もはやちょっとしたダンジョンですね……?」

 

 シェリーには食料品の管理をしてもらうことに。

 食料庫に残っている食材はきれいに使っていかないと腐って大変なことになる。

 出発の日までに使い切る+保存食なんかも用意できたら良い。

 

「ギルドにはあたしとエマで行ってくるわ」

「と言っても、さすがに報酬は後回しになると思うけど」

 

 というわけで、俺は主にリーシャと用事を済ませることに。

 盗賊ギルドへは俺一人、あるいはフレアを連れていくことになるが、学院はエマが担当してくれる。

 そうすると神殿にリーシャと顔を出して、

 

「パーティの皆と王都まで旅をしてまいります。戻って来るつもりではありますが、おそらく長旅になるかと」

「わかりました。ならば、都の神殿へ紹介状を書きましょう」

 

 さすが神官、わざわざ街の神殿のトップが対応してくれた。

 都の大神殿はこの国で一番の規模を誇る信仰の中心だ。一定以上の位を持つ者ならばそこを訪れて祈りを捧げ、偉い人に挨拶をするのも大事なことである。

 まあ、肩書きが偉いだけで下っ端の俺には関係ない──。

 

「ステラ。あなたにとっても良い経験となるでしょう。リーシャと共に学んできなさい」

「──はい。今回の旅がわたしの糧となるよう、精一杯努めます」

 

 地母神信仰を選んで良かった。

 これが至高神や戦神だったら偉い人との面会とかたぶん、もっと厳しい雰囲気だったに違いない。

 声をかけられるとは思わなかった! と思いつつなんとか返事をして神殿を後にし、

 

「リーシャさん。孤児院にも顔を出しておいたほうがいいですよね?」

「そうですね。では明日一日、孤児院のみんなと遊ぶことにしましょう」

 

 半年くらい留守にする可能性もあるのだ。

 前回「次は絶対に遊びに付き合う」なんて約束もしたし、このまま旅に出るわけにはいかない。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 翌日、俺はリーシャと共にいつも以上に差し入れを買い込んだ。

 魔法の鞄のおかげで運搬は問題なし。

 不在にする間の分、ということで、保存のきく乾物や塩漬け肉なんかも選んだ。後は調味料とか。

 

「リーシャお姉ちゃん、いらっしゃい!」

「ステラねーちゃん、今日は大丈夫なんだろうな?」

「うん。約束通りいっぱい相手をしてあげるね?」

 

 なんだかんだ子供たちの相手にもすっかり慣れてしまった──というか、ここに来ないと落ち着かない気分にさえなっている気がする。

 子供たちは「当分来られない」というとさすがに寂しそうな顔をしたものの、

 

「その分今日は思いっきり遊ぼう?」

 

 と言うと、元気に乗ってきた。

 男子と追いかけっこをしたり、木の棒でちゃんばらをしたり。

 

「なあ姉ちゃん、その剣見せてくれよ」

「これ? これは真剣だから危ないんだけど……」

 

 まあ見せるくらいならいいか、と魔剣を披露すればみんな「すっげー!」と目をキラキラさせた。

 わかる。

 別に冒険者になる気がなくても剣は格好いいよな。なんなら「俺に剣の才能があればなあ」とか定期的に考えるよな。

 ……そうだ。魔剣が変形できるなら非殺傷形態とかも可能なのか?

 

 試しに念じてみると、剣は俺の無茶な願いにも応えてくれた。

 刀身が綿でしっかり覆われ、紐でがっちり固定されたような姿に。ぺしぺしと手のひらを叩いてみても大して痛くない。

 子供たちからは「格好悪くなった」と不評だったが、

 

「せっかくだからこの魔剣で相手をしてあげる」

 

 そう煽れば「じゃあ俺が!」「俺も!」とどんどん挑んできて。

 全員が疲れて音を上げたところで女の子たちとも遊んだ。

 

「ステラお姉ちゃん、疲れてない?」

「ううん、大丈夫だよ」

 

 子供とのちゃんばらごっこごときで疲労困憊するような鍛え方はしていない……って言うと感じ悪いが。

 花を摘んだり人形遊びをしたり。こういう穏やかな遊びも心が和んでいい。

 

 ……リーシャじゃないが、子供、欲しくなってくるな。

 

 子育てをしながらのんびり日々を送るのも悪くない。そう思ってしまう。しばらくこの子たちに会えないと思ったせいか人恋しくなっているのだろうか。

 

「もし、今度の冒険でまとまった額が入ったら、一生普通に生活するくらいのお金は貯まるかもしれませんね」

 

 ふとそんなことを言うとリーシャも「そうですね」と頷いてくれた。

 

「そこまで頑張らずとも我が家はステラさんを大歓迎ですけれど」

「伯爵家はリーシャさんの兄弟が継ぐんでしょう? ご迷惑なのでは?」

「むしろ、魔剣を扱えるかもしれない子は手の届くところにいて欲しいはずですよ?」

 

 そうか、従兄弟同士なら結婚できるわけだしな……。

 将来、俺の子供と伯爵家の後継ぎの子が結婚する、なんていうこともあるかもしれない。

 うまいこと子供の素質にも俺の『秘蹟』が影響すればの話だが──そうなったら本当の意味で、伯爵家に魔剣が舞い戻る。

 いや、子供に精霊の血とかが遺伝する可能性もあるしいろいろアレな気もするが。

 

「ね、ステラお姉ちゃん。私、もっとお話したい」

「うん。わたしももっとみんなとお話したいけど……」

 

 昼食をみんなと食べて、午後も遊んで、そろそろ日暮れも近づいてきている。

 帰らないと夜になってしまう……と思ったらリーシャが微笑んで、

 

「今日は孤児院に泊まってはどうですか、ステラさん」

「え、でも」

「屋敷にはわたくしが伝えておきます。この子たちを安心させるのもお姉ちゃんとしての務めですよ?」

 

 そういうことなら、と、俺はこれに頷きながら、

 

「でも、お姉ちゃんは恥ずかしいです」

「あら、ステラさんも『ママ』のほうがお好みですか?」

「もう、リーシャさん!」

 

 くすくす笑ったリーシャは孤児院の管理者にまとまった額のお金(不在中の分)を渡して先に屋敷に帰っていった。

 考えてみると、俺、ここに泊まるのは初めてなのだが。

 

 たくさんの子供たちに囲まれながらとりとめのない話をして、一緒に眠るのは案外楽しかった。

 翌朝目覚めると俺の目の前には『秘蹟』の光文字が輝いていて。

 リーシャから受け継いだ『秘蹟』が第二段階に至ったことがわかった。

 

 これでフレア、エマ、リーシャの分がすべて第二段階。

 彼女たちとの距離もかなり近いところまで来たということか。

 

 今までで最大規模になるかもしれない、まだ見ぬ仕事。

 果たして全員無事に乗り切れるだろうか。

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