ダンジョンで一攫千金を狙おうと思ったらどんどん人から外れていくんだが   作:アースゴース

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第19話 食品衛生法違反の現行犯で死刑執行

 『バァァァァピィィィィガァァァァザァァァァ!!!』

 「よう焼けとるなぁ!」

 

 ドンが観察のすえに弱点を見抜いたピザバーガーは、大炎上していた。

 異物混入どころじゃなく、違法な無認可薬品を使いまくって食品衛生法違反を隠してバレたくらいの燃えようである。

 

 「けど、こっちからも手が出せないよ?」

 「なら酸素を送り込んでやるまでさ」

 

 ブロワーマンがブロワーで風……酸素を送り続ける。【風の祝福(エアロ・ブレス)】は風、空気に関係するなら細かい部分でも調整できるらしい。

 爆炎にも近い炎を噴き上げるピザバーガーはもうすぐ死ぬだろう。しかし、腐ってもボスモンスターらしきこの怪物がただでやられるわけがなく……

 

 『ピィィィィバァァァ!!!』

 「おっ、やべっ」

 「な、何やぁッ!?」

 

 ピザバーガーが、その形を変えた。無数の触手を束ね、それを脚部のように見立てて立ち上がったのだ。

 その姿は、炎上する二足歩行のジャンクフードという異形そのものでしかなく、見る者に恐怖を与える食品らしからぬものだった。

 

 『バァァァァザァァァァ!!!』

 「消えかけのロウソクみたいや。粘り勝ちしたる!」

 「もうここまできたら頑張ろう!」

 

 ピザバーガーは早速、高所からの攻撃をしかけてきた。

 具体的にはその巨体を揺らし、炎上していない体液を広範囲にわたって飛ばしてきたのだ。

 

 「危なっ!」

 「触手まで!」

 

 さらに嫌らしいことに、触手での攻撃まで織り交ぜられている。ご丁寧に、先程より速度が増しているというおまけつきだ。

 

 「ブロワーマンさん!」

 「オレ狙いとかウッソだろお前!? ちょ、ちょっと戦線離脱」

 

 まず最初に狙われたのはブロワーマンだ。

 恐らくは、風による多種多様なサポートを脅威とみなされたのだろう。ボスモンスターっぽいし、そんな知能があってもおかしくはない。

 とにかく面で押すような触手と体液のコンボにより、あっという間にブロワーマンは後方……というか穴の外まで追いやられた。復帰には時間がかかるだろう。

 

 ちなみにドンは早々に分が悪いと判断し、逃げに徹している。

 おかげで若干だが、攻撃がそっちにも行っているので、こっちが楽になっているかもしれない。

 

 「虎の穴! 危ない!」

 

 次に狙われたのは虎の穴――

 

 「いや、ボクじゃない! 狙いは諸星さんだ!!!」

 「なぁッ!?」

 

 ピザバーガーはあろうことか、多量の触手と体液を(おとり)に使ったのだ。

 念入りに着地狩りとフェイントまでかけて、1本の触手で離れた場所にいたはずのウチを狙う。その触手からは、今までのものとは違う、白濁とした体液が射出された。

 

 「ギャ゛ア゛ア゛ア゛ア゛……あ?」

 「も、諸星さんが、ネバネバに!? ゴクリ……」

 

 回避したことでギリギリ直撃はまぬがれたものの、下半身が粘着性のある体液によってからめとられてしまった。

 ああ、パンツもちょっとズレて……

 

 「興奮してんとはよ逃げんかい!!!」

 「は、はいぃぃぃぃ!」

 

 ウチはピザバーガーから少し離れた場所で動けなくなっているので、攻撃される心配はあまりない。いざとなればドンがカバーしてくれるような動きをしてるし。

 どうやら、ピザバーガーは武器を持った虎の穴から仕留めるつもりでいるようだ。明らかに全力で虎の穴を狙っているのが分かる。

 

 そして、奴が必死なのには理由があった。

 燃え尽きた体表の一部が崩れ落ち、内部が露出する。そこには、本体らしきものが現れた。

 

 『ジャンク、フー……ド、や、ろう……ちょう……せいぶつ、に……』

 「え、ひ、人!?」

 

 その本体(仮)は、人型をしていた。

 まるで人間をそのままドロドロでグチャグチャのジャンクフードと置き換えたような、今までの化け物とはまた違う不気味さがあった。

 さらに、本体は明確に人の言葉を発しているようだ。

 

 『けん……きゅう、じゃ……ま……あぁ……?』

 

 その目が虎の穴を捉えた瞬間、本体の(うつ)ろだった目がギラリと光り、明確な殺意を抱いた。復讐者の目だ。

 

 『お、おおおおお前……!!! お前!!! クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソ女ぁぁぁぁッッッ!!!』

 「うわぁッ!?」

 

 本体はわけの分からないことを叫びながら、今までより熾烈(しれつ)な攻撃をしかけてきた。虎の穴の一点狙い、触手と体液による高速の連続攻撃である。

 虎の穴はそれを回避したり、剣で防御し続けていた。しかし、今まで持っていたのは、虎の穴の剣術の技量が高かったからに他ならない。

 

 「あっ、折れた!?」

 

 ついに刀の限界がきた。

 ピザバーガーは、酸をまとわせた太い触手で、刀を溶断したのだ。

 もはや、柄まで溶かされ、折れた部分すら使い物にならない有様である。

 

 『死ねぇ!!! このアバズレがあぁぁぁぁッッッ!!!』

 「アバズレ!? ボク男だよ!?」

 

 虎の穴を女性と勘違いしているのだろう、口汚く(ののし)りながら攻撃の手を緩めない。

 相当な恨みがありそうだが……勘違いで殺されてはたまらない。どうにか打開策を考えなければ。

 

 まず、本体は露出しているとはいえ、高い位置にある。虎の穴のジャンプ力ではギリギリ届かないくらいだ。

 次に、本体を倒せそうな武器がない。虎の穴の剣が折れてしまったからだ。

 そして、ピザバーガーを燃やす炎が弱まってきている。このままでは倒せないだろう。

 

 「うん?」

 

 そこでウチは気づいた。ブロワーマンがコソコソと戻ってきているのを。

 ブロワーマンはバレないように、ブロワーでサポートしようとしていることをジェスチャーで伝えてくる。

 あの風があれば、虎の穴でも本体に届くはずだ。

 

 虎の穴の反射神経は高く、頭の回転も速い。きっと、即興でも合わせられるはずだ。

 後は武器さえ、武器さえあれば――

 

 「武器……はッ!」

 

 武器ならある!

 ウチは【触手】を硬化させつつ、平たくなるように引き絞った。

 

 「ふんぎぎぎぎ……」

 

 両手で押しつぶしまで、平たくなった【触手】。それはまるで『剣』のようにも見えた。

 

 「これを……」

 

 ――ここまで皆が危険な目にあっているのは、ほとんどウチのせいだ。ウチが引き返していれば、虎の穴の剣も失われずに済んだだろう。

 だからこそ、ウチには『責任』を取る『義務』がある。これからすることは、ウチの『義務』だ。このツケを全部払うための!

 

 「う……うがああああッッッ!!!」

 

 硬化して剣のようになった部分と、普通の部分を無理やり引きちぎる。

 スキルとはいえ、自分の肉体なので激痛が走った。だが、躊躇(ためら)えば虎の穴は助からないかもしれない。

 

 「と、取れた!」

 

 多量の出血と共に、【触手】の切断に成功した。

 切断というにはあまりにも荒々しいものだったが、そのおかげか持つのにちょうど良さそうな『柄』にあたる部分ができたのは幸いだった。

 

 そして、【触手】の『剣』の刀身。無理に引きちぎったからか、まるで曲剣のように、刀のように()っていた。

 虎の穴が持っていたのはよくある日本刀だったが。だが、この形なら何とか大太刀のように使えるかもしれない。

 

 「虎の穴ァ! これ使え!!!」

 「!」

 

 ちぎった【触手】……いや、剣を投げる。

 虎の穴はそれを、攻撃を回避しつつ危なげなくキャッチした。

 

 「ありがとう!!!」

 『ウイルス以下の人間の屑がッッッ!!! この世に存在するなぁぁぁぁ!!!』

 

 すぐさま触手での攻撃が飛んでくるが……

 

 「虎の穴君ジャンプするんだぁぁぁぁ!!!」

 「はいっ!!!」

 

 ここでブロワーマンのエントリーだ。

 不意打ちじみたブロワーでの風起こしが、ジャンプした虎の穴を上空にまで押し上げた。

 正面には本体。このまま行けば倒せるだろう。しかし……

 

 『人格破綻者のクソカスがぁぁぁぁ!!! 空中に逃げ場が無いと言ったのはお前の方だろうがぁぁぁぁ!!! 死ねぇぇぇぇッッッ!!!』

 「ぐぅッ!」

 

 まさか、空中戦の経験でもあるのだろうか。ピザバーガーは即座に対応し、触手を伸ばしてきた。

 その内の1本が虎の穴の脇腹を(かす)める。ブロワーマンの風操作と、虎の穴が身をよじって回避したおかげで軽傷だが、触手は1本だけではない。

 本命であろうものが虎の穴を(つらぬ)かんと迫り……

 

 「シャアッ」

 『なにぃぃぃぃッッッ!?』

 

 跳躍してきたドンが、噛みついて強引に軌道を変えた。

 ブロワーマンの風は、今の段階でもコモドドラゴンにすら10メートル以上の跳躍力を与えることが可能なのだ。

 そして、そんな隙を見逃すほど虎の穴は甘くはない。

 

 「どうか、安らかに……」

 『ぐがぁぁぁぁ……お、男……!? ……そうか、そう、だったの……か……』

 

 本体の心臓部に、剣が突き刺さる。

 死に際に正気を取り戻した本体は、安らかに目を閉じ、沈黙した。

 同時に、ピザバーガーの巨体が崩れ落ち、ドロドロと半液状に溶けてしまった。

 

 「死んだんじゃないか?」

 

 ブロワーマンが注意深く確認をすると、確かに死んでいるという結果だった。

 つまり、勝ったのだ。

 

 「か、勝った! 勝ったで!!!」

 「はぁぁぁぁ……終わったぁ……」

 

 ウチらは、またしてもギリギリのところで勝利を掴むことができたのだった。

 

 

 

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