ダンジョンで一攫千金を狙おうと思ったらどんどん人から外れていくんだが   作:アースゴース

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第28話 追う者2人

 ドンは、出会った時からその男を奇妙に思っていた。

 男の名はトレーダー。この男からは、不気味なまでに『生』の臭いがしなかった。つまり、生きていないということだ。

 

 「ドン。ブロワーマンの言う通り、我々はあの女を追う。それでいいかね?」

 「ジャァ」

 

 死んでいるのに、生きている。それはこの世の掟に反することだ。しかし、ドンにはこの男が……いや、誰が自然の掟に反していたところで関係はない。そもそも、ダンジョンにいる時点でその考えは今更なこと。

 この恐ろしい男が見た目ほど『悪』ではないことに比べれば、非常に些細(ささい)なことだ。

 

 「先に行ってほしい。私はサポートに回ろう」

 「ジャッ」

 

 ドンの脚力は通常のコモドドラゴンを大幅に超える。

 自身もそれを自覚しており、狩りには非常に役立っていることを実感していた。

 

 「ジャアアア!!!」

 「!? こ、コモドドラゴン!? チィッ、畜生ごときが私に触れないでもらおうかッ!!!」

 

 見下した発言の女研究者に迫る。

 人と獣を(へだ)てるものは何か? 身体構造か? 遥か昔に分かれた生命の分岐図か? 倫理観の違いか? 言語か? 結束力か? 知能か?

 

 全てだ。全てが人間と獣を隔てている。

 欠点すら補い、環境を改変し、生息域を広げる人間が地球で繁栄(はんえい)するのも(うなず)ける。

 

 「これでも食らえ!」

 「ジャッ」

 

 女研究者は、銃を取り出した。恐らくは対モンスター用にカスタムされた、探索者仕様の銃だ。

 さきほど、探索者に対して差別感情をあらわにしていたというのに笑わせてくれる。

 

 だが、その威力は折り紙付きだ。

 女研究者が取り出したのは、拳銃タイプ。C級モンスターくらいまでなら、当たり所によっては1撃で(ほふ)り去る威力を持っている。

 今のドンでは、当たれば重症は避けられないだろう。

 

 これこそが、人と獣を隔てる違いだ。

 例えテイムモンスターでも、銃を知らなければ対応できない。それが何かを理解していなければ対応できないのだ。

 普通の動物に過ぎないドンも、そのはずだった。

 

 「こいつ、射線を!?」

 

 だが、このドンは違う。ドンは賢いコモドドラゴンである。

 だからこそ、『尻尾で物を投げて射線を切り、その隙に回避する』という芸当もできる。

 

 「足を狙え」

 「ジャッ」

 「ぐああっ足に!?」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()トレーダーの声に反応し、足首を狙う。

 胴体に噛みついてやろうと思っていたが、足で正解だった。もし胴を狙っていたのなら、恐らく銃による反撃が当たっていた。

 それを予測していたのだろうか、恐ろしい男だ。

 

 「クッ!」

 「逃げるか。しかし、君はもう助からない」

 

 その通りだ。

 ドンは毒性すらも強化されている。その証拠に、主要な動脈から近いはずの足首から、多量の出血が発生している。

 

 「死ね! 死ね!」

 

 女研究者は、悪あがきとばかりに銃を乱射する。

 ドンは物陰に隠れてやり過ごすが、トレーダーはその場から動かない。

 

 「ジャア!」

 「いや、心配ご無用。私はこの通り――」

 

 銃弾がトレーダーに命中し、()()()()()

 服すら破れることなく、弾丸が身体の向こう側へと飛んで行ってしまったのだ。

 

 「死なないんだ。この身体になってから、怪我をしたことがない」

 「ば、化け物め!!!」

 「それはお互い様だろう」

 

 その通り、どちらも化け物だ。(トレーダー)は体が、(研究者)は心が。ドンはそう考えた。

 

 「クソッ!」

 「む、スモーク……」

 

 女研究者は咄嗟にスモークグレネードを転がし、2人の追跡から逃れようとした。

 研究者とは思えない判断力ではあるが、閃光手榴弾ですらない。その場しのぎをして何をするのか。

 どちらにせよ追うしかない。そう思った時だ。

 

 「うおああああぁぁぁぁ……」

 『ォォォォン……』

 「む?」

 「ジャア?」

 

 声がする。絶叫と、力尽きたような声。

 その方向には、倒れ伏したカオス・キマイラ。そして……

 

 「腕を……」

 「ジャアア!?」

 

 右腕を失ったソラだった。

 

 「……奴が。急いで追いかけるぞ」

 「ジャアア!!!」

 

 コモドドラゴンと人間の手は違う。だが、それを失った重みは違わない。

 この戦いを生き残ったとて、欠損した腕では戦力は著しく低下するだろう。ただでさえ、ソラは片方の【触手】が半ばまでちぎれているというのに!

 

 「ば……馬鹿な!? カオス・キマイラが!?」

 

 女研究者は、カオス・キマイラが死んだことに驚愕しているようだ。

 だが、ドンに言わせてみればこの程度で驚くなど甘い。

 

 トレーダーは、このカオス・キマイラのベースとなったアーマードライノ変異種を捕獲している。

 つまり、少なくともこのモンスターを捕獲する戦力を持っていることとなる。そこに数匹ばかり掛け合わせた程度のモンスターが、殺されないとでも思っていたのか。

 

 「強化されたコモドドラゴンに噛まれた君が生き残れる目は、万に一つも存在しない。もうじき、君は死ぬ」

 「ジャラアアアアァァァァ!!!」

 

 ソラの腕は治らない。トレーダーも、欠損を治せるようなポーションも持っていない。

 確かに、強盗じみたハック&スラッシュをしにきたのはこちらだ。だが、非人道的な実験をし、ソラの友人を作り出したのは奴ら。

 

 ドンは、怒りを覚えながらも冷静だった。

 トレーダーは、ここにモンスターを売った自分に怒る権利がないことを分かっていた。

 

 「……ククク……愚かだね」

 「何がだ」

 「カオス・キマイラの第3の目……『レイ・ゲイザー』の瞳に触れた小娘の自業自得だと言っているのだよ。そして……その努力の一切が無駄なものとなる!!!」

 「!」

 

 女研究者が、カオス・キマイラに触れた。

 すると、凄まじいスパークと共に、その身体同士が融合していく。

 

 「隠し玉を……」

 『アッハハハハ!!! これこそ究極! 完全体! 神なる生命体の誕生だ! 盛大に祝ってくれたまえよ!』

 

 カオス・キマイラの眉間の目があった場所から、裸の女が生えている。

 趣味の悪い、自己顕示欲と悪意にまみれたおぞましい姿だ。掛け値なしの天才のようだったが、もはやその知能すら欠点でしかない。

 

 『私は『アルティメット・キマイラ』……もう一度名乗らせていただこう。『アルティメット・キマイラ』と!!!』

 「ふざけた奴だぁ! あの女!」

 

 怪物、『アルティメット・キマイラ』との最終決戦が始まった。

 

 

 

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