ダンジョンで一攫千金を狙おうと思ったらどんどん人から外れていくんだが   作:アースゴース

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第31話 再生――Reborn――

 「すまない。君達の友人は私を庇い、死に瀕している」

 「はい」

 「ジィィ……」

 

 女研究者を屠った後。

 ドンは悲しみながらも、未だに生きているソラの生命力に驚愕した。これもダンジョンの成せる技なのか。

 

 「だが彼女は助かる。この人工エリクサーによって」

 「ジィ?」

 

 トレーダーの持つビン。

 ドンにも何となく分かる。これは自然界には決して()()べからざるものだ。

 脳の欠損すら治すことができるというのは、神の奇跡か、悪魔の気紛(きまぐ)れか……あるいは人の業か。

 

 「そうだ……助かるんだ……」

 

 そう言いながらビンの(ふた)を開けようとする手には、明らかな躊躇(ためら)いが見て取れた。

 だが、この男はそれでも止まらないだろう。だからこそ、()()()ドンは止めた。

 

 「ドン?」

 「何故止める。まだ手遅れでは――」

 「ジャッ」

 

 ドンは、口から何かを吐き出した。

 わずかに光るカットされた宝石のような物体……スキルジュエルである。

 

 「す、スキルジュエルだ!」

 「スキルジュエル……私も3回しか見たことが無い」

 

 貴重なものだった。数十年生きたトレーダーがジュエルで得たスキルは【短距離瞬間移動】、【念話】、【等価交換】()()である。

 これは、彼がダンジョンに潜っていた期間が少ないからかもしれないが。

 

 「ジュア! ジュア!」

 「これを使えというのか――ソラに」

 

 ドンは、しきりに前足を動かしてソラとジュエルを交互に指している。

 トレーダーは、どのようなスキルかを確認した。それを見た彼は、驚愕した。

 

 「これは……何という……君も見たまえ」

 「え? ……これは!?」

 

 今までに聞いたことのないスキル。いや、聞いたこと自体はあった。

 ただ、あるだろうと予想されてはいたが未確認。人間が、死から遠ざかる。

 

 「これを使えば彼女は確実に助かる。だが、彼女を利用しようと、多くの悪人に狙われるかもしれない。WDA(探索者協会)ならば守ってくれるかもしれないが……()は正直、胡散臭いぞ」

 「それでも、今死んだらそんなこと考える暇もないでしょう?」

 「ジャア!!!」

 「……なるほど。『もしもの話』よりも『今現在』……そうだな。私がとやかく言う権利はない」

 

 トレーダーは、失われたソラの右手にジュエルを触れさせる。

 ジュエルは使うという意志が無ければ使えない……が、彼には意識の無い相手とも交信できるスキルがあった。

 

 『ソラ、スキルジュエルを使いたまえ』

 

 スキル【念話】。意識が無くとも繋がる。

 彼の言葉は、ソラの意識の奥底へと潜り込んだ……

 

 

 

 ◇

 

 

 

 暗闇の中で声が聞こえる。 

 幾つも重なった、男にも女にも、老人にも子どもにも聞こえる声。

 だが、伝えようとする意味ははっきりと伝わってくる。不思議だ。

 

 【攻略せよ! 攻略せよ! 我らを攻略せよ!】

 

 【命知らずの勇者共! 腰抜けの怯者ども! 我らを攻略せよ!】

 

 【怪物殺しの功績は万雷の喝采と豪華絢爛たる財宝によって支払われねばならない!!!】

 

 【人々の(いしずえ)(じゅん)じたその覚悟は未来永劫に語り継がれるべき勇者の偉業である!!!】

 

 【友を庇い死に瀕した勇者よ! 目覚めるがいい!!! 新たなる異能が貴様を待っている!!!】

 

 【目覚めよ! 目覚めよ勇者! 我らは貴様ら全てを祝福する!!! 我らに挑む限り!!! 未来永劫!!! 貴様らが死に逝くその時まで!!! 貴様らの死後すらも!!! 久遠の時さえも超えて!!!】

 

 不思議な声が遠のく。

 そして、新たな声が聞こえてきた。

 

 『ソラ、スキルジュエルを使いたまえ』

 

 無いはずの右手に何かを感じる。

 それに触れた瞬間、意識が急激に浮上した。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 失われた肉や骨が、音を立てて再生する。

 脳すら(うごめ)くそれは、一見してグロテスクに見えるだろう。

 だが、彼らはそれが神聖なものであると錯覚した。

 

 「す、凄い……」

 「奇跡か……」

 

 マコトはともかく。トレーダーもドンも、奇跡を信じているわけではない。

 奇跡を否定しているというわけではない。都合が良くても悪くても、ある程度なら受け入れ……抗うだけだ。

 だが、カオス・キマイラの死体からこうも都合良く、瀕死から復活できるようなスキルが出てくるだろうか。

 

 そんな偶然をつかみ取ることができるからこそ、ダンジョンという世界で生き延びることができるのかもしれない。

 あるいは、そうして偶然や奇跡が積み重なったのが、人知を超えたS級探索者達なのだろうか。

 

 「……それはどうでもいいことか。大切なのは、ソラが生きていること。そうだろう?」

 「うぅ……も、諸星さん……良かった……!!!」

 「ジャア!」

 

 やがて、失われた部位が全て……片方の【触手】でさえも綺麗に治った。

 恐らく細かな古傷までもが回復しており、人間として“新品”の状態だった。

 

 「かはっ!? ゲホッ! ゲホッ!」

 

 目に光が戻ったソラが、咳き込むように呼吸する。

 

 「どうなった!? 敵は!? トレーダーは!?」

 「ジャア!!!」

 「!? ど、ドン!!! 生きとったかぁ!!!」

 「諸星さん!!!」

 「虎の穴まで!!! はっはぁ、良かった無事やったか!!!」

 

 目覚めてすぐにドンとマコトを抱きしめるソラと。

 しかし、一瞬で放し、周囲を確認する。

 

 「ソラ、落ち着きたまえ」

 「トレーダー! あいつは、どうなりましたか!?」

 

 立ち上がるが、ふらつくソラを受け止めるトレーダー。

 

 「死んだ。何とか虎の穴マコトが倒した」

 「そ、そうですか……」

 

 ソラは安心し、腰をついた。

 あの光線はまだ20にもなっていない少女が……いや、人間が受けるものではなかった。

 こうして腰をつくだけで済んでいるのは、彼女が頑強な精神力を持っているからだろうか。

 

 「ウチは、死にかけたはずや。どうやって助かったんですか? まさか、人工エリクサーを……」

 「いや、違う。君が助かったのはスキルのおかげだ」

 「スキル?」

 

 ああ、とトレーダー。

 

 「【超再生】……どんな怪我でも短時間で回復する破格のスキル。デメリットは、『露出の多い装備でなければならない』、だったか」

 「……ウチにはピッタリですね!」

 「デメリット被ってるね……」

 「ジャア……」

 

 かくして、今回の探索は終わった。

 ウチらは、いつの間にか大量の研究資料や発明品の数々を抱えたブロワーマンと合流し、研究所から脱出した。

 

 

 

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