ダンジョンで一攫千金を狙おうと思ったらどんどん人から外れていくんだが   作:アースゴース

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第37話 特異個体 『象使い』ペイズリータイガー

 「プギーッ!」

 「はぁッ!!!」

 「フゴッ……」

 

 背中にキノコが生えたイノシシ、『ボアマッシュ』。

 キノコと共生関係にあるが、あまりにも長く生きると乗っ取られる憐れなイノシシだ。

 襲いかかって来たボアマッシュの首を硬化した足で蹴り砕く。

 

 草食動物の首は強固で頑丈と聞いたことがあるが、ウチのパワーなら問題なく一撃で殺すことができた。

 

 「しょあッ!」

 「ギャンッ!?」

 

 ブロワーマンの風がウルフを一瞬だけ浮かし、その隙にブロワーで殴りつける。

 瞬く間に5頭のウルフが物言わぬ屍となった。

 

 「ゲヘッ……」

 

 その光景を見たハイエナ、『ローエナ』が反転して逃げ去ろうとしたが……

 

 「ジャアッ!」

 「ゲェ~ッ!?」

 

 ドンの奇襲で食い殺された。

 そのまま、魔石以外の部分が貪られる。最後に残った魔石もストバッグ行きだろう。

 

 「急に来やがったなこいつら。ローエナはともかく、ボアマッシュは温厚で基本的に縄張りから出てこねぇんだが」

 「まあ、例外もあるっちゅうことちゃうか?」

 「確かにそうだが……風の様子が変だ。警戒しとけ」

 「ジュウゥゥゥゥ……」

 

 2人が警戒している。ドンは野性の勘、ブロワーマンは風を読む。

 ウチにそんな力はまだないが、取りあえず警戒しておけば奇襲は防げる。

 

 周囲を見回すと、わずかだが動くものが目に入った。

 モンスターかと思い目を()らすが、そこには何もない。

 

 「……そぉい!」

 「!?」

 

 ウチはおもむろに石を拾い、その方向へ投げつけた。

 すると、石はその先に飛んで行ったが、地面の草が動いた。何かに()()()()()()()ように。

 

 「いたぞぉぉぉぉいたぞぉぉぉぉ!!!」

 

 ブロワーマンはブロワーからでたらめに風を乱射する……などということはせず、言葉とは裏腹に冷静だった。

 彼は懐からペイントボールを取り出し、それをブロワーに詰め、発射したのだ。

 

 高速で発射されたペイントボールは、わずかに草の折れた部分へと着弾。匂いと塗料を巻き散らす。

 そして……広範囲に飛び散った塗料は、透明の何かにも付着した。

 

 「ペイズリータイガーだぁぁぁぁ!!!」

 「……思ったよりデカないけど、頭はキレそうやな?」

 

 塗料が付着し、もはや身を隠しても無駄と判断したのだろう。ペイズリータイガーがその姿を現した。

 迷彩柄だが、確かにトラと分かる模様。ネコ科動物特有のしなやかな肢体。トラとしてはやや小柄なものの、探索者を殺して有り余るモンスターがそこにいた。

 

 「や、ペイズリータイガーはもっとデカいはずだ。こいつは小せぇ!」

 「子どもか?」

 「多分、成体! たまたま小さいだけの個体だ!」

 

 モンスターにもわずかながら個体差が存在する。

 例えばゴブリン。同じゴブリンでも賢かったり、ガタイが良かったりするのだ。

 このペイズリータイガーも、他より小さいだけということだ。

 

 「ガァルルルル……」

 「来るか!?」

 「ガゥッ」

 「え」

 

 ペイズリータイガーが飛びかかるような体勢を取ったので、こちらも構える。

 だが、その瞬間、奴は(きびす)を返して逃走した。

 

 「逃げた!?」

 「追うか? でも……」

 

 正直、危険を冒してまで戦いたい輩ではない。

 だが、不利と見るや即座に逃亡する判断能力は、生かしておいても恐ろしい。

 

 ウチは遠ざかる背中に石を投げようとしたが、奴はそこで方向を変える。

 その方向には、群れから離れたメガエレファントがいた。そのゾウはウチらに尻を向け、気づいていない様子だ。

 

 「あいつ、メガエレファント襲う気なんか?」

 「……いや、ヤバいかもしんねぇ」

 

 ブロワーマンがそう言ったと同時に、ペイズリータイガーがメガエレファントに攻撃を加えた。

 この『太陽の自然公園』にいるモンスターなら、絶対に手を出さない最強生物に対してだ。

 

 『パオオオオオオオオーッッッ!!!』

 

 無言でメガエレファントの尻を攻撃し、すぐさま姿を消す。

 塗料で少しは見えているが、怒り狂うメガエレファントでは気づくことができない。

 ――メガエレファントが、憤怒に燃える瞳でこちらを見た。

 

 「あの野郎これ狙ってやがったのか!? 頭いい!」

 「小賢(こざか)しいやっちゃぁ! アイツ絶対殺したる!」

 「こっちは気性荒すぎィ!」

 

 通常のゾウよりも速い(多分60キロくらいは出ている)メガエレファントは、ウチらに向かって突進してくる。

 戦車もかくやという威圧感のそれは、あっという間に身構えたウチらとの距離を詰めてしまった。

 

 「ヤベェ、オレら殺されるぜ。逃げよう! あの速度ならギリ逃げられる!」

 「体力は持たんやろ。それに道中、モンスターが邪魔してこんとも限らん」

 「命知らずどもめぇぇぇぇ」

 

 確かに、分厚い皮膚にシンプルな巨体、ゾウを超えるパワーは、C級探索者が太刀打ちできるものではない。なら、逃げるのも選択肢だ。

 しかし、モンスターの中には死ぬことを恐れないイカれた奴らは山ほどいる。この『太陽の自然公園』にもだ。

 

 だが! ウチはカオス・キマイラのような大型モンスターに対抗するための技を編み出してきた!

 

 「いや、ウチの新技を試させてくれ!」

 「新技!? 何でもいいや、やっちゃってくれよ!」

 

 ウチは【触手】を自分の腕に巻きつけ、硬化させる。

 両腕が巨大な拳のようになったそれは、まるで誇張したゴリラみたいだった。

 

 「おおっ!? 何だそりゃ!?」

 「ヌフフ……触手の拳、名付けて『テンタナックル』や!」

 「安直!」

 「パオオオオォォォォ!!!」

 

 ウチは両の拳で、怒り狂うゾウを迎え撃つ――

 

 

 

 ◇

 

 

 

 そのペイズリータイガー……仮に『象使い(エレファンター)』と呼ぼう。

 『象使い』はペイズリータイガーという種の中では弱い個体だった。

 

 体格が小さい、筋力が弱い、身体が丈夫ではない。

 どれをとっても、ダンジョンの疑似的野生界で生きていくには厳しい。

 だが、『象使い』にはそのデメリットを(おぎな)ってなお、有り余るほどの強みが存在した。

 

 それが『知能の高さ(狡猾さ)』だ。

 

 「グルゥ……」

 

 今回も、探索者(獲物)にメガエレファントをけしかけてやった。

 『象使い』は、磨き上げた隠密能力で『太陽の自然公園』にやってくる探索者達を観察し、学習していた。

 その中に、メガエレファントに手を出すアホがたまにいることも知った。

 

 そう、探索者をメガエレファントに殺させれば、低リスクで肉が手に入る。

 しかも、死因はメガエレファント。自分達ペイズリータイガーに疑いがかかることもない。

 

 そして、暴走したメガエレファントは強い探索者に殺される。

 メガエレファントを容易に殺せるならば、その素材は捨て置かれることが多い。

 その肉を食ってもいいし、探索者が比較的弱かったのなら、戦いで疲弊しきったところを食い殺してもいい。

 ……メガエレファントをさらにけしかけてもいい。

 

 「グルゥ、グルゥ……」

 

 まあ、流石に何度もやれば怪しまれることは分かっている。

 普段はモンスターや探索者の死肉を漁っているし、弱いモンスターなら狩ることもできる。

 今回は、たまたまメガエレファントの数が増えていて、モンスターの数が減ってきたから人間を狙っただけだ。

 

 メガエレファントは草木を大量に食う。

 すると、弱い小型モンスターや、草食モンスターのエサが無くなり、それらがいなくなる。

 獲物を失った肉食モンスター同士で喰い合う。

 

 それを経て、強い者が生き残る。だが、そんな奴らに限ってわざわざメガエレファントを狙わない。

 負のスパイラルだ、『象使い』にとって何も良いことがない。

 

 これを機に探索者がメガエレファントを狩ってくれたら御の字。その過程で探索者が死ねばエサが手に入る。

 『象使い』にとっては、まさにいいことづくめの作戦だった。しかも、やってきた探索者は鎧を着ておらず、楽に食えそうときた!

 

 レザーアーマーでも、『象使い』の力では硬くて嚙み切れないことが多い。

 久々の上質な獲物に思いをはせる『象使い』。ただ、1つの誤算は――

 

 「オラオラオラオラ――」

 「……?」

 

 声が聞こえてきた。

 逃げないのか? あのメガエレファントから。

 立ち向かうというのか? あのメガエレファントに。

 

 どうやら空腹のあまり、実力を見誤ったらしい。

 急いでもっと遠くへ逃げよう。そう思い、走ろうとした時だった。

 

 「オオオオォォォォ……」

 「!?」

 

 何かが空を飛んでくる。

 あのクソッタレのクソバード、スピアーホークか? いや、もっと巨大だ!

 噂に聞くS級モンスター、ロック鳥か? いや、翼が見えない!

 

 『象使い』はその正体を看破することができなかった。

 いや、この『太陽の自然公園』を根城にするどのモンスターも想像できなかっただろう。

 メガエレファントが、()()()()()()()()()なんて。

 

 「ガァァァァ!?」

 

 『象使い』は逃げた。だが、それよりもメガエレファントが飛んでくる方が速い。

 彼はモンスター生の中で何度目になるか分からないが、自分の貧弱さを恨んだ。自分が平均的なペイズリータイガーなら、すぐに逃げられたのに!

 

 そうしている間にも、メガエレファントは迫ってくる。

 もうわずか、数メートルの距離、一瞬で縮む、激突――

 

 「ガァッ!」

 

 全身全霊で身体をひねり、その場から無理やり離脱する。

 結果、メガエレファントとはギリギリ衝突しなかった。

 

 「ガァ……!」

 

 危なかった。いや、安心するのはまだ早い、あの探索者が来るかもしれない。メガエレファントが生きているかもしれない。

 『象使い』がそのままの勢いで走り出そうとした時……

 

 「ガ……?」

 

 メガエレファントが、()()()()()()

 あまりにも勢いがつきすぎて、スーパーボールのように跳ねたのだ。

 

 「ガ!?」

 

 生物的な凹凸(おうとつ)のある身体で、跳ねる方向も予測しづらい。

 そして、不運なことに、メガエレファントは『象使い』の元へ飛んできた。

 

 「ガァァァァ――」

 

 ……今度は、身体がついてこなかった。

 先程の回避も無茶な体勢からだったので、かなりの負荷がかかっていたのだ。

 その知能で狩りをしていた『象使い』は、身体を酷使した経験が少ない。なので、身体が思うように動かなかったのだ。

 

 「ガウッ!? ガウッ……ガ……ア……」

 

 数トンもある巨体に押し潰された『象使い』は、ゾウによって死ぬという皮肉な末路を遂げた。

 彼の生きた証は、『()()()()()()()()()』。今までの狩りも、彼の仕業とはバレることはない。

 誰にも知られない。それこそが彼の生きた証だった。

 

 『象使い』は、少し賢かったペイズリータイガーとして認識されるだろう。

 ……唯一の祝福はダンジョンのみ。それがモンスターの生き様であり、死に様だ。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 「パオオオオォォォォ!!!」

 

 牙を突き出し、突進してくるメガエレファント。

 ウチはそいつに、真正面からラッシュをお見舞いした。

 

 「オラオラオラオラァッッッ!!!」

 「パ、パオオオオッ!?」

 

 【シン・硬化】による硬化に加え、重量の増加。

 さらに、【触手】がバネのような働きをするためにラッシュの威力が鈍ることはない。むしろ、速くなってさえいる!

 

 そして最後の一押し。

 【触手】を右腕に集中。その全てを硬化させ、ぶん殴る。

 

 「ブッ飛べやァッ!!!」

 「パオォォォォッ!?」

 

 立派な牙がへし折れ、メガエレファントが遠くへ吹っ飛んでいく。

 その先にわずかに見える、動く塗料。さっきのペイズリータイガーだ。

 そいつは一度はメガエレファントを避けたが、バウンドは避けられずに押し潰された。

 

 「……ふん、死んだか。賢しい奴やったわ」

 「ま、たまにはそんな奴もいるさ。それより早く回収に行こうぜ!」

 「せやな!」

 「ジャア!」

 

 ウチらは、死んだモンスター達から素材を回収した。

 妙に小賢しい奴だったが……まあ、気にするほどのことではないか。

 

 

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