ダンジョンで一攫千金を狙おうと思ったらどんどん人から外れていくんだが   作:アースゴース

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第4話 『初心者の洞窟』ボス そして……

 「よし、ポーションは持っとるな。武器も防具も問題無し!」

 「ジャア」

 「ドンも準備バッチリやな」

 

 ウチらは、『初心者の洞窟』の第3階層にいた。目の前には、いかにもな両開きの扉がある。ボス部屋だ。

 ドンが舌をチロチロして探知してくれるおかげで、ここまでのモンスターは()()()()()()()()()できる限りスルーしてきた。

 

 鋭い嗅覚を持つといわれるコモドドラゴンにとって、通路で動く生物を感知することは造作もないこのなのかもしれない。

 

 「準備はええな? 開けるで!」

 「ジャッ」

 「ふんっ……あれ?」

 

 ウチは扉に手をかけ、押し込む……が、びくともしない。

 引いてみても同様だ。何度かいじくってみるとやっと扉は開いた。横に。

 

 「スライド式なんや……」

 「ジャア……」

 

 出鼻をくじかれたが、まあ些細なことだ。

 ウチらはボス部屋へと入って行った。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ボス部屋の中は広く平坦で、周りにある壁がまるで闘技場のようだった。その壁の上に大勢の観客がいる光景が目に浮かぶ。

 そして、闘技場の中心に鎮座するのは、筋骨隆々の『牛』だった。

 

 「ブモォ……」

 「ドン、アレが『ダンジョンスイギュウ』や」

 「ジャア?」

 「おう。水場も無いのに何でスイギュウか分からんやろ? ウチも分からん」

 

 その牛の見た目は、完全にヌーなどのスイギュウ系の見た目である。ただ、闘技場内に水場は見当たらない。

 しかも、ダンジョンスイギュウは蹄鉄(ていてつ)や鼻輪を装備していた。

 

 「何でスイギュウを闘牛にしよう思ったんやろうなぁ」

 「ジャア」

 

 まあ、細かいことはいいだろう。

 それよりも、あのスイギュウを楽に倒す方法を思いついたのだ。

 

 「よっしゃ、やるか! 作戦通りにな!」

 「ジャア!」

 

 まずはドンが遠回りをしてスイギュウの後ろへ回り込む必要がある。そのために、ウチは秘密兵器を持ってきたのだ。

 

 「オラオラ来いやぁ!!!」

 「ブモオオオオ!!!」

 

 ヒラヒラとした赤い布を巻いた棒(警棒ではない)で、ライオットシールドを壊れない範囲で叩きまくる。

 ガンガンという騒音と鬱陶(うっとう)しい布のダブルコンボで、スイギュウのヘイトは完全にこちらを向いた。

 

 「よっと」

 「ブモッ!?」

 「ははぁ、激突したら止まる。教えてもらった通りや」

 

 牛は、全力でこちらにダッシュしてくるが、ウチはそれを(かわ)す。

 壁に激突した牛は、少しの間だけ硬直する。その隙を逃さず、ウチはあるものを投げた。

 

 「これでも食らえや!」

 「ブモモッ!?」

 

 それはスイギュウの顔面に直撃すると、粉をまき散らした。粉を吸ったスイギュウは、みるみるうちに動きが鈍っていく。

 

 「どうや! ヒュージバタフライの鱗粉(りんぷん)の味は!?」

 

 ヒュージバタフライの鱗粉。長続きはしないが、倦怠感(けんたいかん)を与える毒性を持つ。その対象は人間のみならず、モンスターにも効果があるのだ。

 特にこのスイギュウは、毒に対して極端に弱いという弱点を持っている。一握りの毒鱗粉でも、この通り鈍りまくる。毒耐性は本物の牛より下なのだ。

 

 これは探索者の間ではポピュラーなやり方だ。講習や先輩に習ったり、なんなら教科書にも載ってる。

 というか、『初心者の洞窟』に少し潜った程度の身体能力では、ダンジョンスイギュウどころか本物の牛を倒すことすら難しい。

 

 なので、こうやって絡め手を使っていくことも探索者には求められるのだ。

 このやり方は、先輩探索者に教えてもらった方法だ。大体これで弱ったところを袋叩きにして仕留めるらしい。

 

 「けど、これだけじゃないねんなぁ」

 「ジャアッ」

 「ブモッ……!?」

 

 動きが鈍ったところで、ドンが襲いかかる。

 手始めに後ろ足へ噛みつきすぐに離脱。ウチが注意をひき、次は腹に噛みついた。

 

 「よし! そんなもんでええやろ。後は逃げるで!」

 「ジャアッ!」

 

 先程と同様に、ウチが引きつけ、時折ドンが噛む。

 これのヒットアンドアウェイを繰り返すだけで、スイギュウはどんどん弱っていった。理由は酷い出血である。

 スイギュウは毒に弱い。それは出血毒も例外ではないのだ。

 

 「凄いなコモドドラゴンの毒は。ダンジョンのボスにも効いたで」

 

 もう後は逃げ回るだけ。

 これこそ、コモドドラゴンがスイギュウを仕留める動画を見て思いついた作戦である。

 

 卑怯だと言われそうだが、ウチから言わしてもらうとダンジョンスイギュウのフィジカルこそ卑怯だ。

 恐らく、スキルと強化された身体能力次第ではD級でも真正面から倒すのは難しい。あくまで、スキルなどの相性によるが。

 C級から上ともなれば、自然と強化された身体能力だけで倒せるだろう。

 

 そんなことを考えていたら、スイギュウは倒れ伏した。

 虫の息としか言いようのない死に体だが、未だにこちらを殺意のこもった目で睨みつけている。

 最後まで闘志を失わないのは、モンスターの本能だろうか。それとも……

 

 「……よし、トドメや」

 「ジャア」

 

 倒れたスイギュウの目に、大振りのナイフを突き入れる。

 一瞬びくりと痙攣(けいれん)したが、それきり息遣いも聞こえなくなった。

 

 「……さ、剥ぎ取りやな」

 

 このダンジョンスイギュウから取れるのは、魔石、肉、角、蹄鉄、鼻輪である。

 しかもこの魔石、1個で3万円もする。他の部位も合わせれば、肉を抜きにしても5万円はくだらないだろう。

 そしてもう1つ、このスイギュウを倒すことに大きな意味がある。

 

 「これでウチもE級からD級に昇格や!」

 

 『初心者の洞窟』を攻略することは、探索者にとっての登竜門(とうりゅうもん)である。

 スイギュウを倒すことで、D級探索者に昇格でき、『初心者の洞窟』以外のダンジョンへ入ることができるのだ。

 

 「これで他のダンジョンで稼ぐ! そこで強くなってもっと強いダンジョンへ。そこでまた稼ぐ……ヘッヘッヘ! アカン、変な笑い出てきた!」

 「ジャア……」

 

 スイギュウの牛肉を食っていたドンも呆れている。

 ちょっと表情筋が緩みすぎたようだ。シャキッとせなアカンわ。

 

 「よっし、剥ぎ取り完了。早いとこ帰って売っ払おうや」

 「ジャアッ」

 

 ドンもたらふく食べて満足したようだ。ウチも数万が手に入る予定で満足や。

 ウチらは地上へ戻るため、来たルートを進む。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 「途中で倒せそうな奴がおったらやるか?」

 「ジャア」

 「いや……せやな、油断大敵っちゅうことか」

 

 道中のモンスターは避けている。何故なら、今のウチは防具を着ていないからだ。ヘルメットと安全靴とアームカバーだけ。

 

 スイギュウから逃げ続けるのに、以外と重量のあるプロテクターをつけたままではすぐにバテてしまうからだ。

 なので、ウチはプロテクターをレンタルしていない。すぐに戻らないとなぁ。

 

 「何買おっかなぁ――」

 「ジャアッ!!」

 「うっおう!? な、何や急に!?」

 

 先行していたドンが足を止め、ウチにも止まるように尻尾を巻き付かせてきた。今までに見ない警戒の仕方だ……モンスターではないのか?

 ドンが警戒している場所は、ちょうど角になっていて見にくい。

 

 「せや、この手鏡で……!」

 

 身だしなみを整えるための物だが……こうして角を安全に見ることもできる。

 手鏡でこっそりと角を覗いてみると……

 

 「!? ひ、人が倒れとる!」

 

 通路では、4人程が血を流して倒れていた。

 レンタル品のプロテクターをつけている人もいれば、何らかの皮鎧をつけた人もいる。

 だが、その中で一際目をひくのが、何も防具をつけていない人物だった。

 

 「ほ、他はともかくシャツにズボンって……あいつイカれとんのか!?」

 

 ダンジョンで防具をつけないということは、半分自殺行為である。

 それとも、ダンジョンの宝箱からたまに出る『アクセサリー』をつけているのだろうか?

 横にブロワー(風を出して落ち葉などを吹き飛ばす工具)が転がっているのが気になるが。

 

 「とにかく助けるで!」

 「ジャッ」

 

 周囲にモンスターがいないことを確認してから、彼らに駆け寄る。

 防具を着込んだ3人の傷は酷くないが、私服の人物は重傷の一歩手前みたいな傷だった。

 

 「……ギリギリポーションで助かりそうやな」

 

 私服の人の上体を起こし、ポーションを飲ませる。ついでに軟膏(なんこう)タイプの傷薬も傷口に塗っておく。

 すると、私服の顔色はすぐに良くなり、目を覚ました。見かけは細く見えるが、タフやなぁ。

 

 「うぅ……こ、ここは……」

 「大丈夫かいな?」

 「あ、ああ……あんたが助けてくれたのか……?」

 「せや。感謝しぃや」

 

 私服の人はかなり若い(あん)ちゃんだった。

 彼は起きてすぐにブロワーを手にした。それで何をしていたんだろう。

 

 「ああ……ありがとよ」

 「おう。んで、何があったんや?」

 「実は――」

 「グルルルル……!」

 「!?」

 

 兄ちゃんが語り出そうとした直後、そいつは現れた。

 

 「奴だ……奴にやられたんだ……!」

 

 全身に生えた毛と、肉厚で重厚な肉体。

 他者を殺害し、捕食するための鋭い爪と牙。

 そして、見る者に恐怖を与えるその風貌。

 

 この『初心者の洞窟』において、ごく稀にしか現れず、そして最強格とされるモンスター。それが……

 

 「す、スタニング・ベアーか!?」

 「グルルルル!」

 

 ヒグマよりは少し小さい、クマ。

 銃も持たない人間が相手にすることは自殺行為でしかない最強生物の一角。

 それがダンジョンを徘徊(はいかい)する隠しボス的存在、スタニング・ベアー――通称『気絶グマ』だ。

 

 今の状態で、スイギュウより強いかもしれない奴を相手にするのは自殺そのもの。

 しかし、気絶した人達を置いて見捨てるというのも、ウチにはできない。放っておけない(たち)なのだ。

 

 「フゥーッ……あー、最期に助けていただいてありがとうございました」

 

 とんでもない諦めムード。だがそう言いたくなるのも分かる。

 なので、ここはウチが一肌脱ぐことにした。

 

 「なあ、兄ちゃん」

 「な、何だ?」

 「ウチが時間を稼いだる」

 「はぁ!? 奇特すぎる……人間の鑑かよ、惚れちまうぜ」

 

 正気かよみたいな顔しているが、そんな軽装でダンジョンに入ってるのだからお互い様だ。

 

 「兄ちゃんは逃げて、『Dレスキュー』呼んでや」

 

 『Dレスキュー』。ダンジョンでの要救助者を救助する、文字通りのレスキューだ。『初心者の洞窟』で気絶グマが出たなら、確実に動いてくれるはずだ。

 最低でもC級くらいの強さはあるらしいので、気絶グマでも大丈夫だろう。

 

 「すまん、クマにスマホ壊された」

 「はぁ!? じ、じゃあ、協会行って直接呼んできてや! ウチがここでなんぼでも足止めしたるから。だからはよ、レスキュー呼んできてや」

 「あ、ああ……人間の鑑であるあんたを死なせるのは忍びねえ。絶対呼んでくるから絶対死ぬなよ! いいか、絶対だぞ!?」

 

 兄ちゃんは、大慌てで駆けて行った。

 他3人は気絶したままだが、位置は良い。気絶グマから離れている。

 

 「すまんなぁ、ドン。こんなことに付き合わせて」

 「ジャアッ」

 「グルルルル!!!」

 「来るぞ!」

 

 ドンは気にしていないようだ。それは良かった。

 そして、ついにしびれを切らした気絶グマが、ウチらに襲いかかる!

 

 

 

 ◇

 

 

 

 「ガアアアア!!!」

 

 気絶グマが、大きな爪を振るう。

 本物のクマとそう変わらない速度、威力かもしれないが、防具を着ていないウチにとっては致命傷である。

 ライオットシールドは持っているが、受けるという選択肢はないので避ける。

 

 「ヒュッ!? こ、怖っ!!!」

 「シャアアッ!!!」

 

 未だかつて、こんなに命の危機を覚えたことはない。スイギュウが生温く見える殺意だ。

 ドンも噛みついているが、毛皮が分厚すぎて文字通り歯が立たないらしい。

 

 「これでも食らえや!」

 「ガアアアア!!!」

 

 さっき使った、チョウムラサキの鱗粉の残りを叩きつける。だが、興奮したクマにはあまり意味をなさないようだ。

 

 「グルルル……」

 「へっ、お前の攻撃は当たらんで!」

 

 爪を振り回す気絶グマだが、わずかでも上昇したウチの身体能力により、紙一重で当たらない。

 このまま諦めてくれと思っていたが――ウチは失念していた。クマの頭の良さを。

 

 「グル……グ? ……!!」

 「な、何や……まさか!?」

 

 気絶グマがいきなりウチから矛先を変え、走り出す。

 その先は――

 

 「嘘やろ!?」

 

 気絶している3人の探索者である。

 ウチを脅威とみなさなくなったのか、この状況を打破しようとしたのか。気絶グマは目標を変えたのだ。

 それを見たウチは、全速力で走った。

 

 「うおおおおっ!!!」

 「ガアアアアッ!!!」

 

 ギリギリで間に合う。だが、目の前にはクマの顔。

 咄嗟(とっさ)にシールドを構えるが……

 

 「あっ」

 

 無慈悲にもシールドが弾き飛ばされる。

 

 「ガアアアア!!!」

 「ギャァァァァ……」

 

 そして、無防備となったウチの胴体をめがけ、アッパーじみたベアークローの一撃が、ウチを遠くへ吹き飛ばした。

 

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