ダンジョンで一攫千金を狙おうと思ったらどんどん人から外れていくんだが   作:アースゴース

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第66話 危険な森の危険な奴ら

 C級ダンジョン『危険な森』。

 身も蓋もない名称とは裏腹に、本当に危険なモンスターがひしめいている。

 鬱蒼(うっそう)とした森の中、やけに気色の悪い草木を踏み潰す。何か柔らかくひんやりした感覚で、かなりの不快感だ。

 それもそのはず、ウチは裸足なのだから。言っても、隣を歩くドンも裸足なのだが。

 

 「何かおるな……」

 

 ピタリと足を止めると、ドンも止まった。

 ウチはそっとショットガンを片手で構える。ソードオフなので、片手でも取り回しやすい。というかそもそもウチなら反動を完全に殺し切ることができる。

 

 「……」

 

 ガサガサと草木が揺れる。

 向こうも可能な限り音を消しているようだが、気配は隠せていない。

 音の出所は……

 

 「ウキャキャーッ!!」

 「上か!」

 

 木の上からサルが降ってくる。もちろんただのサルではない。前腕の側面から刃が生えた危険なサルだ。

 このサルは『サルブレード』という身も蓋もない名前のモンスターである。

 

 両腕のブレードが木漏れ日を受けてきらめき、ウチの首を飛ばさんと狙う。

 しかし、ウチはこのサルが考えているような並の人間ではない。

 

 「見えとるわっ!」

 「ウキャ――」

 

 ウチの【触手】がサルブレードを引き裂く。

 銃を使うほどの相手ではない。かと言って拳では届かない時には触手の出番だ。

 臓物をまき散らし、何が起こったのか理解していないサルブレードの死体が宙を舞う。だが、その背後からはまだ大量のサルブレードが次々と襲いかかってくる。

 

 「ウキャキャ!」

 「ホァァァァーッ!」

 「キャキャーッ!」

 

 ブレードを光らせ、迫りくるサルブレード達。

 ウチはそれを触手と拳によって迎撃し、次々に打ち落とす。

 あまりの衝撃に頭が爆散したり、胴体から真っ二つになったりするのが大半だ。

 

 「ジャアアアア!!!」

 

 ドンはというと、噛みつきや尻尾での攻撃だ。

 ダンジョンでの戦いによってコモドドラゴンとしても規格外の硬さを得たドンの皮膚は、鋭いサルブレードの刃も通さない。

 サルはあえなく食われたり、全身の骨をへし折られて死んだ。

 

 数秒か、数分か。

 しばらくサルブレードを迎撃していると、連中の数は尽きたようで、(しかばね)の山が転がっていた。

 

 「取りあえずこのブレードは売れるから取っといて……と」

 

 折れておらず、使い物になりそうなブレードをはぎ取る。

 このブレードはナイフとして加工されたりするらしい。だが、この肉の山はどうしようか。

 

 「ジャッジャ」

 

 ドンはもう空腹ではないようだ。

 野生動物からすれば関係ないかもしれないが、人間からするとサルブレードの肉は食えたものではないらしい。ならば……

 

 「ちょっと放置しといて、血の匂いにノコノコ誘われてきたモンスターがおったら狩るか」

 「ジャア」

 「アカンかったら引き上げればええしな」

 

 モンスターというのは大なり小なり好戦的である……というのは知られた話である。

 争いの気配を感じると釣られてやってくることもあるし、死を恐れず死ぬまで戦うなんてこともザラにある。

 

 1、2体の死体ならともかく、ここまで大量の死体を放置していたならば、血の匂いを嗅ぎ取ってモンスターがやってくるに違いない。

 目的のメガクローも例にもれず凶暴で、血の匂いに敏感だ。

 

 「何とか言っとる間に来おったで」

 

 のそのそとやってきたのは、人の腰ほどもある巨大なリスっぽいモンスター。

 このモンスターはその名も『殺人げっ歯類』。異常な長さの前歯で獲物を殺害する危険なモンスターだ。

 肉食で性格は凶暴。ウチを見れば襲い掛かってくるだろう。

 

 「ふんっ」

 「ゲピッ」

 

 だから気づかれる前にこっそり触手で貫いた。

 それからも、モンスターは入れ食い状態だった。

 

 真っ黒なタヌキの『ブラック・ラクーン』

 めちゃくちゃ筋肉質で凶悪な顔つきのキツネ『ハウンドフォックス』

 小型の乗用車ほどもあるカエル『丸呑みカエル』

 

 その悉くを狩っている時、そいつは現れた。

 

 「! 来おった! メガクローや!」

 

 メガクローはクマ型のモンスターだ。

 その名の通り巨大な爪を持っている。しかも、この爪は金属鎧も一撃で真っ二つにする威力があると言われている。

 コイツに盾ごと引き裂かれた探索者は数知れず、生きたまま食われた探索者は何人いるのか。

 

 おまけに肉厚の身体には並みの刃や鈍器は通用しない。

 『魔法』が使えるならば、それを利用して短期決戦を挑むのが最適である。

 まさにC級でも最強格のモンスターである。

 

 並の武器では歯が立たず、ヒット&アウェイをしようにも肉質は硬い。

 そんな怪物に、ウチは素手で、しかもほぼ裸みたいな格好で挑むことになっている。

 

 「……クマか」

 

 最初に死にかけた時もクマ……スタニング・ベアーだった。

 我武者羅に放った一撃は奴の腹を貫通し、心臓を潰した。

 苦し紛れの、まさにビギナーズラックというやつだったが……

 

 「リベンジと行こうやないか」

 

 茂みから出る。

 すると、死体を一心不乱に食っているメガクローがこちらに気づいた。

 

 「グルルルル……ガァァァァ!!!」

 

 草木を揺るがす咆哮、威嚇。

 巨大な爪が開閉し、ジャキンジャキンという金属じみた音が鳴る。

 大きさはツキノワグマほど……しかし、殺意と威圧感はそれ以上だろう。

 

 だが、ウチは全く怯まずに拳を構えた。

 戦法はただ一つ。

 

 「しばきあげあたらぁッ!!」

 「ガァァァァ!!!」

 

 まっすぐ行ってぶっ飛ばす。

 それだけだ。

 

 「ガァッ!」

 「ふんっ!」

 

 メガクローの、爪での一撃。

 恐らく、奴が最も信を置く攻撃なのだろう。

 その爪で引き裂けなかったものは存在しないのだろう。

 

 だがウチは、その攻撃をあえて受けた。

 硬化をせずにガードに使った左腕がねじ切れ、守るものが布すらない胴体まで引き裂かれる。

 しかし、ウチはその程度では死なない。ウチはスキルによって不死身と化したのだ。

 

 「これで終いやっ!!」

 「ガッ――」

 

 そのまま、残った右手を硬化させて胴体をブチ抜く。

 大量の内臓と血が零れ落ち、メガクローは息絶えた。

 

 「……真正面からやってもいけるな」

 

 ウチは、切れた左腕をくっつけながらつぶやいた。

 内臓の見えていた腹も、瞬く間に再生していく。あっという間に傷一つない身体の出来上がりだ。

 

 「どうやった? ドン」

 「ジャア……」

 

 ドンは呆れているようだ。

 まあ、メガクローなんて徒党を組んで袋叩きにするモンスターだから、一人で戦うなんて正気の沙汰じゃないと思っているのだろう。

 

 「これなら、傷だらけのメガクローも目じゃないなぁ?」

 「ジャア……ジャア!?」

 「ん!?」

 

 ドンと話していると、背後の草むらが揺れる。

 そして響いてくる複数の足音……これは、メガクローのものだ。

 姿を現したのは、群れた大量のメガクロー。

 

 先頭にいるのは、あまりにも傷だらけで、ヒグマよりもなお大きい個体。

 間違いない。奴が目的のメガクローだ。

 

 「グルルルル……」

 「強い癖にいっちょ前に徒党組んで……己の限界を悟ったんか?」

 

 落ちくぼんだ瞳が、ウチを睨む。

 戦闘は避けられない。これから――殺し合いが始まる。

 

 「来いやクマ野郎! ウチが全員ブッ飛ばしたるわ!」

 「ガァァァァッッッ!!!」

 

 戦いのゴングは、凄まじい咆哮だった。

 

 

 




 【サルブレード】
 ・ニホンザルに似たモンスター。
 両腕にブレードが生えており、これで狩りや縄張り争いを行う。
 また、同族のブレードに対抗するためにそれなりに硬い毛や皮膚を持っている。
 ブレードの生え方はカーズではなく鳴海タイプ。

 【殺人げっ歯類】
 ・リスというよりもヌートリアやカピバラ、ビーバーに似たモンスター。
 殺人的な前歯で相手を削り取って食い殺すが、金属鎧相手には無力。

 【ブラック・ラクーン】
 ・黒いタヌキ。
 毛をこすり合わせることで、まるで消えたように錯覚する。
 鋭い牙で襲ってくるが、身体能力に関してはあまり高くない。なので、奇襲に気を付けていれば比較的安全なモンスター。

 【ハウンドフォックス】
 ・別名『猟犬狩り』とも呼ばれるキツネ。
 別のモンスター『ウルフ』も捕食する強さと凶暴性を兼ね備えたキツネ。
 また、わずかに幻覚作用のある唾液を持っており、気化すると軽い幻覚を引き起こす。
 この幻覚は本当に軽いものであり、極度の興奮状態などにあると無効化される。

 【丸呑みカエル】
 ・小型の乗用車ほどもある巨大なカエル。
 その名の通り獲物を丸呑みにして食べてしまう。
 胃酸には強力な筋弛緩効果や幻惑作用が含まれており、呑まれると危険。
 ただし、胃酸は気化しやすく、気化すると特性を失う。

 【メガクロー】
 ・クマ型のモンスター。
 異常発達した爪は金属をも斬り裂く。
 防具を過信した探索者が何人も犠牲になってきた。

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