ダンジョンで一攫千金を狙おうと思ったらどんどん人から外れていくんだが   作:アースゴース

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第82話 THE MAUL

 『ショッピングモール内に徘徊するモンスターを一匹残らず排除せよ』

 

 それがウチらに下された作戦内容だった。

 まずモンスターを全て倒し、その後に救助隊『Dレスキュー』が突撃し、取り残された人々を救助する流れだ。

 強力な装備を持つDレスキューが直接モンスターを殲滅しない理由だが、Dレスキューは万年人手不足なため、手が回らないとのこと。

 

 「ここが件のショッピングモールかぁ……」

 

 ショッピングモールとは言うが、ダンジョン化していたとしても特筆すべき所は何もない。

 便利なテナントが多くあり、毎日大勢の人々で賑わっていたのだろう。事実、今日も多くの客がいたはずだ。

 しかし、駐車場は不気味なまでにガランとしており、窓ガラスから見える内部にもまるで人気がない不気味な状態だった。

 

 「で、どうするんだ、リーダー」

 「まずは全員で固まって中に入って、大丈夫そうやったら分かれて行動……で、ウチがリーダーでええんか?」

 「まあな。俺と石動さんは臨時パーティー組むくらいでほぼソロでやってたし、諸星さんはクランリーダーなんだろ?」

 

 ウチがこのパーティーのリーダーになったのは、当然の成り行きと言えた。

 ただ、いつものメンバーと違って能力の全てを把握しきれていないので、上手くいくかは別問題だ。

 

 「まずはウチ、ドン、虎の穴で様子見や」

 「任せて!」

 「ジャア!」

 

 ウチが慎重に機能しなくなった自動ドアをこじ開ける。

 内部は人がいないので静か……などということはなく、どこからかサイケデリックで軽快な音楽が鳴り響いている。

 

 「誰もおらんのか……」

 「いや、何かいる。ちょっと気配消した程度じゃ俺の【鷹の目】は誤魔化せないんだよね」

 

 影郎さんが、弓に矢をつがえて構える。

 その方向は、エスカレーターをはさんだ二階のフロアだった。

 天井まで見る吹き抜けから、何者かの姿が見える。

 

 「……人間じゃないな」

 「石動さん、魔法の準備を」

 「ええ……『(いしずえ)たる黒曜よ、その身を矛と成せ――』」

 

 石動さんの手に、黒い槍が出現する。

 それは宙に浮かびながら、今から現れる者に狙いを定めている。

 ウチらが警戒していると、そいつはのそりと姿を現した。

 

 「……」

 「何だあ、狼男(ウェアウルフ)か?」

 「マスク……?」

 

 狼男にも見えるが、狼のマスクを被っているようにも見える男だった。

 そんな男は……無言で発砲してきた。

 

 「銃!?」

 「これでも食らえっ」

 

 音もなく、影郎さんの矢が放たれる。

 それは真っ直ぐに狼男の胸へ飛来し、深々と突き刺さった。

 一撃で即死したと思われる狼男は吹き抜けから落下し、ウチらの前へ堕ちてきた。

 

 「思わず殺してしまったが……要救助者じゃないよな?」

 「もうしそうなら、どうして襲ってきたかが分からないけれど……」

 

 手に持っている銃はどこで手に入れたのだろうか。

 ダンジョンで銃を武器として使う探索者もいる一方、日本での銃器への規制は厳しい。この銃はダンジョン仕様ではないようだが、おいそれと手に入るようなものではないだろう。

 

 「取りあえずマスクをはがそう」

 

 影郎さんがマスクを取る。

 すると、下から出てきた顔は要救助者のものだった。

 

 「な!?」

 「ど、どういうこと!?」

 

 本当に要救助者が襲ってきていたとは思わなかった。

 ウチらの間に、少なくない動揺が走る。

 

 「ま、待て。落ち着け、冷静になろう……フゥーッ……」

 

 一番ダメージを受けているのは、直接手を下した影郎さんだろう。

 ここは、パーティーリーダーとしてウチが冷静にならなくてはならない。

 しかし、今は影郎さんをそっとしておこうと、ウチは死体を観察する。すると、ある違和感を覚えた。

 

 「ん……?」

 「どうしたの?」

 「いや、それがな……」

 

 死体が綺麗なのだ。

 通常、影郎さんクラスの探索者が一般人を殺す気で矢を放てば、矢が貫通して身体に穴が開いている。

 

 たまたま影郎さんが手加減が上手かったから……というのはない。あの時点でこの要救助者は発砲してきており、敵だったからだ。

 少なくとも、B級に上り詰めた探索者が、未知の敵に手加減することはないだろう。

 

 「弾痕……」

 「だ、だんこん!? も、諸星さんいきなりナニを……」

 

 ウチはそう呟いた。

 要救助者の放った弾丸が、地面を深々と貫通している。まるで極小のクレーターのようだ。

 この弾痕をウチは知っている。『対モンスター弾頭』だ。探索者協会以外では手に入らないはずの弾を、なぜかこいつは使っていた。

 

 ウチはそのことを皆に伝える。

 すると、影郎さんも琥珀さんも冷静さを取り戻したようだ。

 

 「た、確かにおかしいな。俺も手加減なんかしてないし……」

 「ちょっと調べてみましょうか……『ディテクト・マジック』」

 

 琥珀さんが魔法を発動する。それは、どうやら魔力を調べるためのもののようだ。

 すると、琥珀さんが険しい顔をする。

 

 「この人からは影郎さんの魔力が検出されたわ」

 「や、やっぱりか……じゃあ俺は人殺しに――」

 「でも、それ以上に濃い魔力を感じるわ……ここにいいる誰のものでもない、この人自身の」

 

 死体から魔力が検出された。つまり、この要救助者は探索者だったということ。

 魔力は、ダンジョンでモンスターを殺さなければ身につかない。ダンジョン外にあるはずのないものなのだから。

 

 「えっ、じゃ、じゃあこいつは一体? 人間に擬態したモンスターとか……?」

 「いえ、人間よ。間違いなく人間の魔力」

 

 つまり、不測の異常事態。

 嫌な予感を覚えたウチは、作戦にあたって協会から貸してもらった通信機を使う。

 すると、すぐに無機質な音声が響いた。

 

 『こちら第61回迷宮町展開・侵蝕型ダンジョン救出作戦本部です。ご用件はなんでしょうか』

 「こちらH班。ダンジョン内部で要救助者に襲われています……なぜか、向こうは銃と対モンスター弾、そして魔力を持ってます」

 『少々お待ちください』

 

 ブツリと通信が切れる。

 そして、数十秒後か。新たに通信が入った。

 

 『お待たせいたしました。ただ今、探索者協会防衛司令官より指令が下りました』

 「ぼ、防衛司令官って、おいおいまさか……」

 『内容は【襲ってくる者は皆殺しにしてください】とのことです。皆様のご健闘と無事、そして帰還を心よりお祈りいたします』

 

 通信が切れた。

 後に残るのは、店内に流れる妙にサイケデリックで軽快な曲。

 

 「み、皆殺しなんてそんな……」

 「だが、あの五賢将から直々の指令だぞ。従わなかったら何があるか……」

 

 それはそうだ。相手は探索者とはいえ、紛れもなく人間。

 しかしウチは知っている。影郎さんも琥珀さんもB級にまで上り詰めた探索者だ。

 口では、倫理観では殺人を否定しているが、ダンジョン内で探索者と殺し合いなれば、恐らく躊躇うことは無いだろうと。

 

 殺しはしなくても、無力化するためには手足の一本や二本は持って行く。ウチにはそんな確信があった。

 

 「いや、何も襲ってくる連中だらけってわけちゃう。中にはホンマの要救助者もおるはずや。とにかく、進んで行こう」

 「……そう、だな。よし、切り替えていこう」

 「ええ。いざとなったら私に任せて。殺さなくても無力化はできるから」

 

 ダンジョン内に溢れる、狂気の気配を感じながらも、ウチらはショッピングモールを進む。

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