スネークはザ・ボスの間合いに入ると、ナイフを握る手に力を込め、心臓を狙って突きを繰り出した。ザ・ボスはこれを難なく避けると伸びきったスネークの腕を掴み、突きをしたスネークの勢いを利用して投げ飛ばした。タイミングがうまく合い、八十九キロのスネークの体は軽々と空に投げ出される。
ザ・ボスの投げと突きの時の勢いが合わさり、地面に叩きつけられたスネークは想像以上のダメージを受けた。叩きつけられた背中から、骨が軋む音が聞こえる。技のキレは死後も健在だ。
スネークはザ・ボスから距離を置くように立ち上がり、再び睨み合いが始まったーーーー
「……すごい」
少し離れた場所で見ても戦闘の凄まじさが伝わってくる。あの二人の動きには感動さえ覚えてしまう。私も相当修行をしてきたが、あの二人の戦闘についていける自信がない。
しばらく二人の動きを観察しているが、徐々にスネークが押されている。スネークも人間としては相当すごいが、ザ・ボスが超人的すぎるのだ。今もスネークを掴もうとして出した右手がスネークの肩をかすめ、後ろに木に突き刺さった。どんな勢いで手を動かせば木に突き刺さるのだろうか?
そんな事を考えていると、気づけばザ・フューリーが棒立ちしていた。いや、気づかなかかっただけでだいぶ前からいたのかもしれない。全身を覆っている分厚い鎧のせいで顔は見えないので感情は分からないが、戦闘に参加させてもらえず、ふてくされているのかもしれない。
「あの、大丈夫ですか?」
「……逆に聞こう。大丈夫そうに見えるか?」
「その鎧のせいでよく分かりません」
「……そうか……」
今にも後ろについている装備を使用しそうなザ・フューリーを心配して声をかけてみたが、どうやら逆効果だったようだ。ザ・フューリーは余計に落ち込み、イグニッションしたかった、だとか、私を撃ってくれ、などと意味不明な言葉を繰り返し呟いている。
一人遠くで呟いているならいいが、近くで延々と聞かされるのはたまったものではない。早急になんとかしなければ、とは思うものの、声をかけられて落ち込むようでは、どう声をかければいいのかよく分からない。
せめて彼の上司であるザ・ボスに助言を貰えれば助かるのだが、現在絶賛戦闘中である。しかし、もし貰えたとして、それが効果があるのかは謎だ。さっきのやり取りを思い出すと、ザ・ボスも彼を持て余しているのかもしれない。
いろいろと思考を巡らせていると、ザ・フューリーが、そろそろイグニッションしてもいいんじゃないだろうか、とか言い出した。イグニッションが何かは分からないが、これは早くなんとかしないと本当にまずい気がする。
「あ、あの!」
「む……なんだ……?」
何とか声をかけてみたものの、焦りで質問が浮かんでこない。冷や汗を流しながら必死に考えていると、ふと幽々子様のことを思い出した。
「えっと……す、好きな食べ物はなんですか?」
「……ヤドクガエルだな」
幽々子様関連で好きな食べ物を聞いてみたら、カエルの名前が出てきた。しかも名前に毒という単語が入っているという、危険そうなカエルだ。
次に話すことがなかなか浮かんでこないので、とりあえずヤドクガエルについてもう少し聞いてみることにしよう。
「そ、それはなんなんですか?」
「……北アメリカ南部や南アメリカに生息している毒ガエルだ」
やはり毒があるようだ。そんな物を好き好んで食べるのだとしたら、相当自虐的な嗜好である。本人の嗜好を悪く言う気はないが、さすがに毒はないと思う。
別の話題はやはり思い浮かばないので、他に何が好きなのか聞いてみることにした。
「ほ、他には?」
「ウラルツキヨタケ、エゾテングダケetc……」
「もしかして、それ全部……?」
「毒がある」
予想的中といえばそうだが、さすがに教えてくれた食べ物全てに毒があるというのには驚いた。自虐的な嗜好の中でもかなりレベルが高い部類なのかもしれない。
これ以上好きな食べ物について聞けることもないので、次の話題を考えなければ……
「お前の好きな食べ物はなんなんだ?」
すると、今度は彼の方から話しかけてきた。なんとなくだが、声に明るさが戻り始めているような気もしなくはない。なんにせよ、この流れを消す訳には行かない。あの二人の勝負は邪魔させないようにしなければ。
「えーと、私は……卵かけごはんですかね」
「たまごかけごはん? なんなんだそれは」
「その名の通り、醤油を混ぜた生卵をごはんにかけて食べるものです。美味しいですよ?」
「それに毒は入れるのか?」
「普通は入れないですけど……入れても(貴方なら)いけるかもしれませんね」
話をなんとか盛り上げることができたようだ。これであの二人の勝負に邪魔が入ることは無くなっただろう。ただ、一つ後悔したことがある。それは二人の勝負を見れないことだ。ザ・フューリーに注目しておかないと言葉が尽きてしまうので、勝負に集中できないのである。心の中でため息はついたものの、今の状況は変わらないので仕方なしにザ・フューリーの話に付き合うのであった……
なぜこうもザ・フューリーがドM扱いなのかというと、彼のヘルメットに書かれているロシア語の意味が「撃て」という意味だったからです。
まあそれは置いておいて、次回もお楽しみに!