スネークがしばらく道の無い野原を歩いて行くと、白い花で埋め尽くされている場所を見つけた。今の幻想郷はどこに行こうが亜熱帯並みの暑さに襲われるのだが、ここの花はしっかりとつぼみを開いている。暑さに強い花なのだろう。
その花畑の中心に、日傘をさした女性が鼻歌交じりに花に水をやっているのが見える。遠目からだが、かなり幸せそうだ。よほど花が好きなのだろう。
しかし、ここの花全てに水をやる気なのだろうか。この辺りは白い花の群生地のようで、数百メートル先まで真っ白だ。この全てに水をやるとしたら、それこそスネークが異変を解決するより長くなりそうなのだが。
次の瞬間、女性はスネークに向けてとてつもない殺気を放っていた。横切っただけなのに、なぜここまで殺気を放っているのかスネークには分からない。
とにかく、数メートルも離れていない今、何かされたらひとたまりないだろう。ここまで強い威圧感ならば、相当な実力者のはずだ。
女性はじっとスネークを睨んでいたが、突然スネークの足元を指差した。いったい何があるというのだろうか?
スネークが足元を見てみると、そこには踏みつけられズタズタになっている花があった。ここまで殺気を飛ばしてくるのも、どうやらこの花が原因らしい。
スネークにとっては非常食ぐらいの認識だが、この女性にとっては家族レベルの存在なのだろう。それならばここまで殺気を飛ばしてくるのも納得がいく。
その女性は傘をたたむと、傘の先端をスネークに向けてきた。傘の先端からは、エネルギーが集まるような音が聞こえてくる。非常にまずい予感しかしない。
しばらく、というか数秒もしないうちに高エネルギーの球体が傘の先端に発生した。スネークは、何が発射されるかは予想がついていた。このエネルギーが集まる感じは、妖怪の山でにとりがレーザーキャノンを発射しようとしていた時と同じなのだ。
エネルギーの密度からして、にとりのレーザーキャノンより数倍の威力を持っているだろう。にとりのレーザーキャノンでも当たった部分は消し飛んでいたのだが、その数倍とは恐ろしいことになる。
にとりのレーザーキャノンより強力、そんなものを地面すれすれで撃てば、この花咲き誇る野原が普通の焼け野原になること間違いなしだ。花が踏み潰されて怒るのならばそれでも撃つのだろうか?
なんてスネークが考えていたら、レーザーは何のためらいもなく放たれた。晴天の空に、だったが。
花に対する愛情のせいで、スネークに向けて撃つのはやめたようだ。もしくは威嚇射撃だろう。ただ、撃たれた直後、どこかの記者の悲鳴のようなものが聞こえたのだが、空耳だろう。
「今すぐ私の視界から消えなさい。次見かけたら……容赦しないわよ」
「分かった……ところで、この花は食えるのか?」
「ふざけてるのかしら? 花は愛でるものであり、食べられるために存在しているんじゃないの」
火に油を注いでしまったようだ。女性の額には、分かりやすい青筋が浮かんでいる。これ以上怒らせれば、本当に殺られるだろう。
スネークは、おとなしくその場から去ることにした。もちろん、足元の花を踏まないよう注意しながら。
しかし、足元は本当に花だらけなので、散らかった部屋とは別の意味で足の踏み場がない。この花が全て地雷だと考えれば、分かりやすい構図になるだろう。
スネークは、女性の目という監視カメラから逃れるため、急ぎたい気持ちを抑えゆっくりと進んで行った。
清く正しい(自称)射命丸は現在、というかいつも通り幻想郷の空を飛び回っていた。理由は聞くまでもない、ネタ集めである。ネタにされる人物がはた迷惑していることも聞くまでもない。
いい
「いやー、やっぱり幻想郷は特ダネの宝庫ですねぇ。次の見出しは『激写! 博麗の巫女の意外な一面!』で行きますか」
次のネタは霊夢のようだ。しかし、意外な一面とは、一体なんだというのだろうか? とても気になるのだが。
妖怪の山へ帰る前に、文は寄り道をすることにしていた。幻想郷最速を自負しているので、多少寄り道しても問題ないと考えたのだろう。今いるのは白い花で埋め尽くされ、緑の草があまり見えない野原の上空だ。上空から眺めると、まるで白い絨毯が敷かれているようにも見える。
今年の夏は地下で起きている異変により異常に暑い。高速飛行していれば頬を撫でる風がちょうど良く涼しいのだが、地上の花は直射日光を浴びているので、さぞ暑いことだろう。それでも健気に花を咲かしているのは、やはり、季節の花だから暑さに強いからなのだろうか。
季節の花といえばーーーーそう、あの本人が唯一枯れない花だと言い張る日傘がトレードマークの妖怪が自然と連想されるのだが、例に漏れずこの野原にいた。刺すように研磨された殺気が上空にまで届いているので、誰かが怒らせたのは間違いないだろう。もしくは、日課のイジメでわざと殺気をむき出しにして、哀れな被害者の反応を楽しんでいるのか。後者の方が可能性大だ。
「どれどれ、今日イジメられているのはどなたでしょうか……ん? あれは……スネークさん?」
運悪くドS妖怪に絡まれているのは、いつぞやの取材対象ではないか。地霊殿から戻って、この暑さが続いているということは、異変解決は失敗したようだ。この暑さが続くというのは彼が帰れないことを意味するが、ただの人間が旧地獄から無事に帰って来れただけでも幸運だろう。
「……幽香さんが誰かを襲っている、というのも記事にできそうですね。写真撮っときましょう」
助ける、という思考は絶賛休業中のようである。写真を撮るため、文はもう少し近くに寄ろうと、スピードを落として高度を下げた。スピードを落とすといっても、かなりの速さなのだが。
写真を撮れる距離まであと少し近付いた次の瞬間ーーーー目の前に極太レーザーが天を貫いていた。魔理沙の必殺技、その元祖である。
視線を下に落としていたため、文はレーザーがあと数ミリにまで迫っていることに気が付かなかった。文が前方の異常に気付き、前を向いた時には時すでに遅し。
彼女の体はレーザーに飲み込まれていった。
……前方不注意事故の元。
スネークが入った白い花の生えた野原は、完全な二次設定です。本家には存在しないものと思ってください。