仮面ライダーガヴ×カシバトル スイート・ジェネレーションズ 作:壱肆陸
ある日、地球に『黒い流星』が降り注いだ。
流星は世界各地に着弾して大爆発を起こし、巻き込まれた地表の存在すべてを消し去った。
それにより発生する資源不足、国家システムの機能停止、流通の崩壊。
世の中は瞬く間に乱れ、それに伴って物価は高騰。その中でも特に『嗜好品』───『お菓子』は高級食品となり、人々の手に届かぬモノとなっていった。
そして、『黒い流星』の爆発から3年後。
突如現れた世界の王『オアズーケ王』により、『お菓子禁止令』が発令された。
オアズーケ王国の手によって人々が持つお菓子は全て取り上げられ、今やお菓子を持つ者は犯罪者とされる世の中。警察組織もオアズーケ王国の力には敵わず、人々からお菓子と笑顔が奪われていった。
しかし、そんな身勝手なオアズーケ王国に対して、立ち向かう者がいた!
「待っ……てやコラァァァァァ!!」
「待てと言われて待つ泥棒がいるかよ! ワンパターンなんだよバーカ!」
大きな袋を背負った黒装束の男を走って追いかける、爆発したようなアフロヘア-が特徴的な少年。少年は取り出した『何か』を口に放り込み、星型が刻まれた右掌を突き出した。
少年が食べた『何か』とは、何の変哲もない『ポップコーン』。
しかし、それが少年に超常的な力を与える。
「くらえ! ポップン砲!」
少年の掌から発射されたポップコーンの弾丸が、泥棒の頬をかすめた。
少年の名はポップン=コンスターチ。『黒い流星』の衝突と共に出現した、お菓子を食べることで超能力を操る者───『
「アンタのセリフも、大概ワンパターンだけどねっ♬」
体勢を崩した泥棒の反対側。その少年は軽い足取りと声で現れ、一瞬の容赦の無い視線と共に泡立つ球体を蹴り放った。
レモネド=スカッシュ、『ラムネ』の
炭酸の電撃を濃縮した『バブルボルト』が炸裂。しかし、泥棒はそれをも紙一重で避けてみせた。
「ありゃ、これも躱すか。流石はお菓子の怪盗、『トレジャー菓子取団』」
「世界各地の貴重なお菓子を盗む、泥棒専門の菓子取団だったよな? 泥棒だけあって身のこなしは一味違うぜ……!」
「あったりめぇよ。こんなレジスタンスのガキなんかに捕まるかよ!」
トレジャー菓子取団『ダイズー』が包装紙から取り出したのは『きなこ棒』。正義の力あるところに、同質の悪は必ず存在する。
『きなこ棒』
水飴ときな粉を棒状に練り上げたものの上から、更にきな粉をまぶした菓子。甘いお菓子の中でも低カロリーで栄養価も高い。
菓子能力でダイズーの手元に出現したきなこ棒の矢が、引くと同時に捻れていく。
「『ねじりBOW』!!」
「ポッちゃん!」
「あぁ、コイツで一気にフっ飛ばしてやるぜ! 『ポップ・バースト・ポップン』!」
点ではなく『面』。前方の空間を埋め尽くすほどのポップコーンの散弾が、ポップンの掌から爆発と共に放たれた。しかし、ドリルのように回転しながら直進するきなこ棒の矢は、ポップコーンの軌道を歪ませてすり抜けてしまった。
「うげっ! マジかよ全然弱まらねぇ!?」
「俺の『ねじりBOW』は台風みてぇに空気を巻き込む! しかも『きなこねじり』は元々保存食の菓子だ、威力の持続性はハンパじゃねぇ! くだばれガキ共!」
「『瓦せんべいウォール』!」
矢がポップンとレモネドに到達してしまう寸前、分厚い瓦せんべいの盾が2人を守った。敵を前に力強く佇む、短いツーサイドアップの少女───『煎餅』の
「ぽた子ちゃんセンキュー♬」
「2人とも油断しちゃダメ! 今回の
「すまねぇ! 油断してたわけじゃねぇんだけど……取り返す!」
「ガキが何人いようが同じだ! もう一発『ねじりBOW』!」
再びダイズーが矢を放った。しかし、彼らは子供ながらオアズーケ王国と戦ってきた、一人前の戦士たちだ。
レモネドが矢に向かって蹴り放った『バブルボルト』。さっきと同じ展開に笑みを浮かべるダイズーだったが、今度は攻撃の軌道が一切変わることなく、バブルボルトは矢と激突。
更に、中に仕込まれた泡と水分が矢を覆う。すると矢の勢いは急激に減衰し、防御の体勢を取るまでも無くレモネドが矢を蹴り飛ばした。
「レモネドくん上手い! 風の無い空間、『台風の目』を狙ったんだね!」
「プラスで周囲のきな粉も洗い流す。菓子能力はイメージだからね。ビショビショできな粉も無いんじゃ、きなこ棒も台無し。威力もガタ落ちってワケよん♡」
「くっ……ガキが! ッ!?」
動揺したところにポップンのポップコーン弾が命中し、ダイズ-の右手が爆裂。その手に持っていた盗品の袋が放され、ポップンは素早くそれを回収した。
「名誉挽回だ! ちょっと地味だけどな!」
「そんなことないよ、あとはあたしに任せて!」
あっという間にぽた子がダイズーの懐に入り込み、1対1のガチンコ勝負の構図に。そして、相手が女子だと舐めてかかったのが運の尽き。ダイズーは初手からぽた子に優位を奪われ、隙の無い体術が一瞬で一方的な制圧を展開し、
「『拳骨堅揚げ醤油味』!」
硬い煎餅を纏った醤油薫る一撃が、ダイズーの体を吹き飛ばした。
地面を転がり、呻きながら、ダイズーは彼らの凄まじい強さに戦慄する。その不自然なまでの強さには心当たりがあった。
ここ最近は王国に出入りしていないが、レジスタンスの子供が王国の直営店『スーパースナッキング』を制圧したというニュースは流石に知っている。そこを守っていたのは副軍団長クラスの強さを誇る店長を始めとした、『
もし、その子供たちが目の前にいる3人だというのなら、そんなバケモノと戦う理由が無い。ダイズーは団子状のきな粉飴を地面に叩きつける。すると、団子は爆発して辺り一帯に煙幕を撒き散らした。
「甘い匂い……きな粉の煙幕!? 前が見えない!」
「クッソ、あいつ逃げる気か! させるかよ!」
「俺を追いかける気か!? 言っておくが、この煙幕は俺の能力だ。こいつを吸っちまったらどうなるか……分かるよなァ~?」
見失う前に走り出そうとしたポップンだったが、ダイズーの言葉に思わず口を手で塞いだ。菓子能力を別の菓子能力者が口にするということは、刃物や爆弾を食べるような極めて危険な行為。
彼の言葉を真に受けるのなら、この煙幕は毒の霧のようなものだ。下手に動いて吸い込めばただじゃ済まない。しかし足を止めていればダイズーに逃げられてしまう。
「ならば、オレなら何も問題が無いということだな!!」
完全に出し抜いたとほくそ笑んでいたダイズーの耳に届く、何一つ混じり気の無い真っ直ぐで強い声。その少年の気配は、煙幕を割いて直進で近付いてくる。いや、それどころか……
「バカかアイツ……!? 煙幕を吸ってやがる!?」
そう、煙幕を気にしないどころか、空中に漂うきな粉の煙幕を少年は全力で吸い込んでいた。凄まじい肺活量でみるみるうちに煙幕は薄くなり、ダイズーの目が捉えたのは赤い影と鋭い眼差し。そして、とろけるように甘いカカオの香り。
閃く斬撃。一瞬の痛みの後、ダイズーの体から傷の飛沫が噴き出す。しかし、それは───
「安心しろ。それは血ではない、チョコレートだ」
気を失う寸前、ダイズーは思い出した。『スーパースナッキング』の店長を倒したのは、他人の菓子能力を食う『能力喰い』の力を持つ少年。
チョコレートの
任務完了を宣言するように、チョコは黒く輝く『チョコレー刀』を納めた。
______________
「まずは
「うむ! 労い感謝する!」
「じゃあ早速反省会だ。『やりとげた』みたいな顔してるが、オレの目は誤魔化せねーぞ?」
チョコ以外の3人を凍てつかせた言葉を口にしたのは、レジスタンス筆頭格『ハイシャの会』の一人、『グミ』の
オアズーケ王国『
そして今、4人は肝心の修行へと戻り、その一環としてゼラチの指揮のもと、高難度の課題をこなしている所である。
「まずポップン。敵のハッタリを鵜呑みするな! 気付いてリスクを重く見たなら立派だがな、『留まる』系じゃなくて、あぁいう『飛ばす』系の攻撃は大体食べても無害なことが多い。お前もよく相手の顔にポップコーンぶっ放すだろうが」
「あー言われてみれば確かに! 無意識に分かってたってことかよ、だぁークソ!」
「で、レモネドは初見への反応が甘い! 分析して冷静に対処できるのがお前の強みだが、実戦で後手に回ると痛い目見るぞ!」
「うへぇ、厳しいー……」
「あたしは詰めが甘かったな。一発でちゃんと落とせてたら逃げられなかったわけだし」
「分かってるならいい。ぽた子の課題は多様タイプゆえの決め手の弱さだな。そんで鐘木チョコ!」
「なんだ!!」
「来るのが遅い!!」
「スマン!!」
ダイズーが現れたオークション会場から追いかける際、「きな粉の強い香りがする」とチョコは独走。結果、ダイズーが仕掛けた水飴の底無し沼トラップに引っかかり、到着が遅れてしまったのだった。
チョコは『ハイシャの会』の元リーダーであるチャーリーの弟子。その年齢に似合わぬ実力と、どんな逆境でも折れない強い精神には目を見張るものがあるが、如何せん食い気も強いのが難点だ。
「……まぁ、詳しいフィードバックは戻ってからでいい。まずは取り返した盗品の確認だ」
ダイズーから押収した袋の中身は、各地から盗み出された貴重なお菓子。このお菓子禁止令の時代、お菓子が美術品同然に扱われるのはもはや珍しくはなかった。4人は中身を傷付けないよう丁寧に、被害リストと照らし合わせて確認を行う。
「えーっと……『世界一硬いクッキー』に『この世で最も酸っぱい酢昆布』? なんか嘘くせーなオイ」
「まぁ金持ちの趣味なんてそんなもんでしょ。『禁止令直前に1日だけ販売されたチョコレート』ね、賞味期限大丈夫なのコレ?」
「『ポテトチップ幻のコーラ味』と『黄金のシフォンケーキ』、確認した!」
「あっこれ倉地製菓の『復刻版 ひとやすミルク』! 禁止令で製造中止になっちゃったんだっけ。あと100年以上の老舗が作る、風都名物『風花饅頭』……」
その指先が硬い何かに触れ、ぽた子の手が止まった。
「これって……『缶詰』? すごく古そうだけど……チョコくん中身分かる?」
「了解した! パッケージが剥がれている。匂いは……何も感じない。完全に密封されているようだが……」
「あっ……! 汚い手でそれに触んじゃねぇクソガキ!!」
「ぽた子さんの手は汚くなどない!!!!」
この缶詰にだけは血相を変えたダイズーだったが、チョコの激怒に掻き消されて消沈した。
しかし、袋の底から出て来たのは恐らくかなり古いであろう、この『缶詰』。これだけはリストを見てもそれらしい名前が見つからない。
「答えろ、この缶詰は何だ!?」
「俺も知らねーよ! ただ、そいつだけは王国とは別に依頼があったんだ。とんでもねぇ大金で買うってクライアントが現れたんだよ」
「その依頼相手は誰だ!!!」
「バカが。誰がそんなこと……うぐッ!?」
「もういい鐘木チョコ。後は本部の尋問で吐かせ───」
ゼラチはグミの縄を固く締め上げ、ダイズーを黙らせた。しかしその瞬間、今チョコたちがいる倉庫内に甘くクリーミーな香りが漂う。それは春先の風のように刹那の和みをもたらし、そして───
「っ……チョコちゃん、さっきの缶詰!」
「なっ……!?」
気付けば、チョコの手元から謎の缶詰が消え去っていた。
その場にいる誰もが一瞬だけ、さっきの香りに気を取られた。
なんてことのない課題の、最後に残されたこの些細な謎。
これがあんなにも大きなうねりを生むとは、この時は誰も思いもしなかった。
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「お兄ちゃんありがとう! お礼に、これあげる!」
「えっいいの!? お菓子がこんなにたくさん……こっちこそありがとう! はぁ~やったぁ!」
公園で小さな子供がスコップを持ったまま困っていた。そこに駆け付けた青年は『穴を掘りたいが地面が硬い』という話を聞くと、あっという間に全身が入るほどの穴を掘ってしまった。
通りがかった人に怒られほとんど埋めることになったが、子供は無邪気に青年へと感謝を伝える。青年もまた人の役に立てたことが嬉しそうに、同じくらい無邪気な笑顔を返した。その青年は子供よりもさらに子供のようで、優しい顔をした『人間』だった。
「でも、こんなところに穴を掘って何するの?」
「タイムカプセル! 未来の自分への手紙とか、好きなオモチャとか入れた箱を埋めて、10年後に掘り出して開けるんだ! さっきのお菓子も入れようと思って持って来たんだけど、よく考えたら10年後は腐っちゃってるし」
「10年!? そっか、未来に向けた贈り物……それってなんか、すごく素敵だね! 幸果さんにも教えてあげなきゃ!」
その時、青年の視界に入ったのは、小さい箱のような生命体。それは青年が気付くようにピョンピョンと跳ね、涙を流しながら何かを訴えていた。
青年の顔から笑みが消える。貰った
「───3枚用意できました。質には自身ありますぜ、だから是非とも報酬の方を……!」
「喧しい。そうがっつくな」
人目の付かない路地裏で、ヘコヘコと低い姿勢で媚びへつらう身なりのいい男と、真っ黒な恰好で姿を隠した人物。更に異様なのは両者の手から手に取引されていたモノ。それは、縛られるように赤い紐に巻き付かれた、人間の姿が刻印された透明な板。
「その人たちを返せ!」
板が手渡される寸前、駆け付けた青年が飛び込んで割って入った。
青年はその板───『ヒトプレス』を取り返さんと、2人に掴みかかる。彼の常識外れの膂力と、人間離れした体捌きに、男は怯えた声で驚きを漏らした。
「なっ、なんなんだお前ぇ! 邪魔するなら……お前も闇菓子にしてやるぞぉ!」
男は上着を乱暴に持ち上げ、突然自身の腹部を晒した。露出された腹部にあったのは彼が人間ではない証、歯の生えた巨大な『もう一つの口』───生体器官『ガヴ』。そこからメモリのようなものを引き抜くと、衣服の内側から男の肉体が隆起し始めた。
キメが細かい鱗で覆われた滑らかな体表。体格はやせ細っているように見えるが、人間のそれに比べると遥かに凶悪で、遥かに異形。言い表すのなら、まるで『ヤモリ』のような怪人だ。
異世界の生命体『グラニュート』。
彼らが人間界に来る理由はただ一つ。人間を『ヒトプレス』に加工し、グラニュート界の嗜好品『闇菓子』の材料にするため。平たく言えば、欲望のまま人間を害する人食いの怪人である。
グラニュート『ゲコ』は、腹の口から長い舌を青年へと勢いよく伸ばした。しかし青年はそれを慣れた動きで躱し、それどころか飛び蹴りを返してゲコを大きく怯ませた。
「お前っ、何者だ!」
「バケモノだよ。お前と同じな」
青年はゲコを視界の奥に見据え、引き裂くように服を横断するジッパーを開いた。
露出される腹部。現れたのはゲコと同じ怪物の証明、赤い『ガヴ』。彼もまた人ならざる『グラニュート』の因子を持つ者。
彼は人間とグラニュートのハーフ。どちらでもない孤独な存在でありながら、彼は母が生まれたこの世界と、人間を愛すると決めた。彼は人間の幸福を守るため、己の怪物を振りかざして戦う。
《グミ》
青年───ショウマは、小箱のような生命体を『ガヴ』の舌へと装填した。
この生命体は彼の力から産まれた眷族『ゴチゾウ』。改造されたガヴに備わったレバーを回すと、ガヴはゴチゾウを咀嚼するように駆動する。
《EAT グミ》《EAT グミ》
《ガヴ……ガヴ……》
ショウマの全身から無数に湧き出る、色とりどりの艶めいた物体。半透明で丸っこいそれはまるでお菓子の『グミ』のよう。
そして、ショウマがガヴ側部の『舌鼓』を打つと、ゴチゾウが吠えた。その瞬間飛散したグミはショウマの周囲を巡って流れを成し、ガヴの中へと一気に吸い込まれていく。
それに伴い、ショウマの全身が『変わる』。
生まれ変わるように姿が黒に覆われ、更にその上から生成されるのは、暗く色鮮やかな『グミ』の装甲。
「変身」
その瞳は紫の怪しい光を放ち、ショウマが気を失うように重力に身を任せる。倒れてしまう寸前、ショウマが踏み出したその一歩が境界線を越えた。完全に変貌したその姿は、人を越えた異形の存在。
《ポッピングミ》
《ジューシー!》
人間を襲うバケモノを倒す、もう一人のバケモノ。
人々はそのバケモノを『仮面ライダー』と呼ぶ。
『仮面ライダーガヴ』。それがショウマが変身する戦士の名である。
「へぇ、お前……」
黒服の方がガヴの姿を興味深そうに観察する一方で、ガヴの先制攻撃がゲコに直撃。ゲコの手から放られた3枚のヒトプレスをガヴがキャッチした。
「オイお前、今のはお前が愚図ったせいだ。お前の失態だ、分かるよな? 責任持ってあの材料取り返せよ」
「へ、へぇ、もちろんでさぁ! どこの誰だか知らんが邪魔しやがって……! 痛い目見せてやる!」
「そりゃこっちのセリフだバケモンが」
今のはガヴの言葉ではない。ガヴの背後から飛来する銃弾が、不意を突いてゲコの体に撃ち込まれた。建物の影から現れたのは、もう一人の『仮面ライダー』。
「
「よっ。怪しい奴を見失ったと思えば、やっぱりクロだったか。追いついたぜグラニュート!」
板チョコを身体の各部に装備したような赤の銃士、『仮面ライダーヴァレン』。ガヴと共にグラニュートを打倒する仲間だ。
そんなヴァレンに、ガヴはまず取り返したヒトプレスを丁寧に手渡した。
「その人たち、安全なところに逃がしてあげて!」
「お、おぉ……わかった。俺来たばっかなんだけど……しゃーねぇ、人命第一だ!」
「おいふざけんな、待てぇ! 返せこの野郎!」
登場、そして即退場。ヴァレンはヒトプレスを持って退散。
それを追おうとするゲコをガヴが迎え撃つ。ガヴは
「痛ぇぇぇぇぇ! でも、効かねぇぇぇぇ~!」
「斬った腕が元に戻った!?」
以前戦った不死身を名乗るグラニュートはただのハッタリだったが、今回は正真正銘の再生能力持ちのようだ。斬撃で倒すのは難しいと考えた方がいい。そうこう思案を巡らせているうちに、ゲコは建物の壁面に張り付き、ガヴを無視して進もうとしていた。ヴァレンを追うつもりだ。
「逃がさない!」
壁面を這って移動するゲコを追って、ガヴは身軽に跳躍した。狭苦しい空間も、点在する障害物もガヴには関係ない。壁面を蹴り、空中を跳ねるように、アクロバティックな動きでゲコに一瞬で追いついた。
踵落としでゲコを壁から引き剥がし、そこから有無を言わせない連打、連撃。
そして、ガヴは『お菓子』の特性を操る戦士。ゲコの苦し紛れの反撃がガヴのアーマーを叩くが、作用するグミのムニュムニュとした弾力が衝撃を緩和し、殴り飛ばされた先にある壁と身体が反発。ダメージを反転したようなカウンターが、ゲコに叩きつけられた。
「ひぃぃぃぃぃ!! 痛ぇ! 聞いてないぞちくしょお……!」
打撃のダメージは確実に蓄積しており、再生している様子は無い。このまま打撃で押し切れば勝てる。そう確信したガヴは突如攻撃をやめ、怯え切ったゲコに言葉を投げかけた。
「……どうする? 二度と闇菓子に関わらないか───この場で俺に倒されるか!」
「な、なんだと……? 闇菓子を二度と食べられない!? そ……そんなの耐えられないぃぃぃ!! ぶっ殺してやる!!!」
このグラニュートも答えは同じだった。
これが闇菓子の魔力だ。一度食べれば最後、こんなに臆病そうなグラニュートでもその依存性に逆らえず、どんな非道にも手を染める。
選択は委ねた。それでも人を害することをやめないのなら
もう、交わす言葉は無い。
《グミ》
《EAT グミ》《EAT グミ》
《キッキングミ》
ガヴのもとに駆け寄って来たオレンジ色のゴチゾウをベルトが咀嚼すると、ガヴの右脚にオレンジ色のグミのブーツが生成される。『キッキングミゴチゾウ』を『追い菓子チェンジ』に使うことで顕現した、『キッキングミアシスト』。
本能的に危険を感じたゲコが壁に飛びつき、一目散に逃げだした。それに対してガヴは更にもう1度、ハンドルを回してゴチゾウを咀嚼。
《チャージ ミー》《チャージ ミー》
《ガヴ……ガヴ……》
右足を前に出し、左足と交差させるようにして構える極端な前傾姿勢。まるで獣が獲物を前にして、静かに狙いを澄ませるように。
舌鼓を打ち、ゴチゾウの全ての力が解放された。次の瞬間、ゲコの双眸が映したのは色鮮やかなオレンジの飛沫と、理屈を捻じ伏せた速度で肉薄するガヴの姿。
《キッキングミキック!!》
壁を這うゲコを狙い撃つように炸裂する全力全霊の蹴撃。
その破壊力はゲコの体を通ってガヴの右脚に吸収され、グミの弾性力により増幅&反発。
もはや再生能力も意味を成さない。全ての衝撃がゲコの体内で弾け、断末魔と共にその身体を木端微塵に爆裂させた。
その激しい爆風はゲコの取引相手のフードを剥がした。戦いの中、逃げる様子もなかったその黒服は、まるでカラスような頭部───まず間違いなくグラニュートだ。しかし、ショウマにはその事実が不可解だった。
「エージェントでも、兄さんや姉さんたちでもない……!?」
闇菓子を製造しているのはグラニュート界の製菓会社『ストマック社』。本来ならストマック社の幹部やその眷族『エージェント』がバイトを指揮し、人間界でヒトプレスを仕入れているはず。
「あァ~~~使えねぇ~~~! これだからダメだ、拾ったバイトは所詮薄汚い愚図。どうせドブで生まれてゴミでも食って生きてたんだ、じゃなきゃ説明が付かない無能さだ。うん。死んで良かったよ」
「お前は……誰だ!? ストマック社の手先か!?」
「オイ。初対面なのになんて暴言だ、侮辱だ!? この俺様がストマックの? 手先!? 勘違いから下賤で汚らしい。やっぱり人間なんぞの血が混じってるのがもう、遺伝子レベルで愚図なんだよ。生まれから哀れなもんで人間に慰めて貰ってるんだろ、そうに違いない! なぁそうだろ『赤ガヴ』? ストマックの末子!」
「ストマック社じゃない……それなのに人間を攫って、何をする気だ! それに、なんで俺の事を知って……!」
「闇菓子のスパイス以外で人間に何の価値がある? ただ俺様はストマックとはモノが違う。バカの一つ覚えで『幸せ』にしか目を付けねぇ凡人とは違うんだよ。そう、だからあんなヒトプレスいらねぇんだ。くれてやったんだ! そうだ、逃がしたわけじゃない」
謎のグラニュートは一人で勝手に会話を紡ぎ、一貫してガヴを見下して話す。真意が分からないが人間を襲う気なら止めないわけにはいかない。剣を持ち直して攻撃をしかけるガヴに、謎のグラニュートは右手を軽く上げた。
「払え、ヒュドロ」
ガヴを襲う、横薙ぎの凄まじい衝撃。
グミの防御でもダメージを全く吸収しきれず、それどころか装甲が一撃でほとんど消し飛んだ。壁に叩きつけられ、顔を上げると、そこにいたのは通常より三回りは巨大であろう体躯のグラニュートだった。
全身が腐ったように爛れ、腹の『ガヴ』は引き裂かれており、一つの体に無数の醜悪な生物が群生しているような、恐怖の根源とでも言うべき圧倒的な『異形』。人間がグラニュートをそう称するように、グラニュートから見てもそれは『バケモノ』としか呼べない容貌だった。
「全員元に戻して逃がしたぞ! そっちはどうなって……ッ、なんだこのバケモンは!?」
そこに人々を解放し戻って来たヴァレンが合流。その存在を見るや否や、即座に臨戦態勢に入った。これが敵でなければ嘘過ぎる。ヴァレンは以前もやたらと強い女のグラニュートに会ったが、目の前のコレは存在そのものが放つプレッシャーの桁が違う。
「コイツはヒュドロ、それなりに使える俺様の下僕さ。そして俺様の名はべゼロ・エストマ。天才闇菓子職人にして、いずれ世界の中心となる者だ」
その光景を屋上から見下ろす、2人の人間がいた。
共に軍服に身を包み、片方は若さと老いの中間にいるような白髪の男。もう一人は軍服を着崩し、目の下に濃いクマを刻んだ少年。
「やーっと見つけたぜ、グラニュー糖さん」
「グラニュートだ。いい加減に覚えなさい」
「一緒っスよ。で、あの変なのはどうするっスか? プンプン香るグミとチョコの匂い……マジに
「計画通り、どちらも連れて行く。我々は知るべきだ、彼らの可能性を」
白髪の男が『何か』を投げ落とした。
ガヴたちとべゼロたちのピッタリ中間に飛来したそれの正体は───1つの『缶詰』だった。
缶詰が地面に落ちる直前に開かれた。その中から空間を裂いて出現した、真っ黒な渦。
「何だァ……?」
「何が起こってんだ!? なんだコレ……吸い込まれる!」
「ダメだ絆斗、捕まって……! あぁっ!」
渦は問答無用で周囲をすべて飲み込み、ガヴたちを世界から消し去ってしまった。
屋上の2人もまた、彼らを追って渦へと飛び込む。
「ここからが本当の始まりだ。全ては世界を救うために」
_____________
そして、オアズーケ王国が支配する世界。
レモネドとポップンがパトロールがてら街はずれを散歩する中、真面目に周囲を見張っていたチョコが突然声を上げた。
「大変だ!!」
「うわびっくりした。チョコちゃん声が大きい」
「なんだよ珍しく
「人が倒れている!!」
「一大事じゃねーか!! 救急車呼べ! 救急車! いや、その前に応急処置……!」
「大丈夫、息はあるっぽい! まずは意識の有無の確認!」
「しっかりしろーー!!! オレの言葉が分かるかーーー!!!」
「「だから声がデカい!!」」
それはショウマたちの消失から、
世界からお菓子が失われた時代。『西暦2121年』。
3人の
「おなか……すいた……」
「「「へ?」」」
カシバトル時系列:グッド・テイス島編~ぽた子の過去が明かされる辺りの間。
ガヴ時系列:ヴァレンとガヴが正体を共有~ブシュエル登場の間。
みたいな感じでやっていきます。