仮面ライダーガヴ×カシバトル スイート・ジェネレーションズ   作:壱肆陸

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この拳は甘くない

 世の中、どれだけ努力しても手に入る幸運なんてちっぽけだ。それなのに、どうして不運というものには際限が無いのか。

 

 18年前、その家族は決して裕福ではなかったが、互いに支え合う幸福な生活を送っていた。どれだけ苦しくても両親は息子を愛していて、息子も両親を愛していた。

 

 そんな日々を壊したのは、お金を貯めて行った家族旅行先での自然災害だった。

 

 どれだけ慎重に組み上げた尊いものでも、理由もなく崩れ去ると知った。愛や心に意味が無いことも、知ってしまった。

 

 心を閉じたまま生きる道をくれた人に従い、期待も執着もせずここまで来た。しかし、

 

「……だる」

 

 この男からは、また『どうしようもない不運』の気配がする。

 

《ヴラスタムギア》

 

 反射的にヤイガは引き金を引いた。

 だが、男はそれを易々と見切り、跳ね除ける。威力が不十分だったとはいえ、人間の身体じゃない。

 

「肉の弾丸……この間のミューターとやらとも違う。また知らない世界か。まぁとにかく、戦ってみるか」

 

《カップ・オン》

 

 男がベルトを装着し、天面に何かを置いた。

 すると男を囲む円錐台の防壁が出現し、ヤイガの弾丸を阻む。

 

 その中を黄色い液体が満たしていき、髪先を指で巻く動作をした男は、ベルトのレバーを───下ろした。

 

「変身」

 

 液体が弾んで揺れる固体に凝固したかと思うと、飛び交うスプーンに削り取られていく。その色艶、形、性状は間違いなく───

 

「プリン……!?」

 

 そうして宙に散ったプリンの破片は全身に配置され、最後に2本のスプーンが頭に突き刺さって、この世界に未知の存在が姿を示す。

 

《プディング・ヴラムシステム》

 

 まるでプリンのジャケットを着込んだような、奇妙でありながら力を感じさせる風体。こんな存在、ヤイガは知らない。

 

「さて、悪いがさっさと……」

「ああぁぁぁぁぁぁッッ!!」

 

 緊張を横からタックルで跳ね飛ばすような大声。ヤイガに敗れ、倒れていたダブリがいつの間にやら目を覚まし、プリンの戦士を指差して叫んでいた。それはもう、大興奮で。

 

「ヒーローライダーだーーーー!!!」

 

「ヒ……ライ……? なんだ……?」

 

「あれッ? でも見たことねぇヒーローライダーだ、てかオレ能力使ってねぇよな?? もしかしてこれ夢か!? オレがオタクすぎるが故の夢なのか!?」

 

「だる……何言ってるか分からんが、俺はヒーローじゃない。『仮面ライダーヴラム』だ」

 

 『ヴラム』はあまり気に入ってる名ではないが、ヒーローなんて分不相応に呼ばれるよりはいい。

 

「『プリン』の仮面ライダー……!? お前、どっから来た」

 

「妙な人間に連れてこられた。悪いが俺も暇じゃない、さっさと帰らせてもらうぞ」

 

 ヴラムの姿が目に入るたび、プリンからフランの顔が連想されて浮かび上がる。脳の奥をノックするように。

 

 気に入らない。この期に及んで唐突に現れる新しい敵も、その姿も。

 

 ヤイガはカルパスを噛み、能力で出したカルパスを伸ばして構えた。『ペンシルロッド』、ヴラムを中距離の間合いで捌くつもりだ。

 

《ヴラムブレイカー》

 

「───は?」

 

 ヴラムの手に現れたのはチェーンソーの鎌。

 

 油断したわけじゃない。だが、ほんの瞬きの間にヴラムはヤイガに肉薄し、ペンシルロッドを切断していた。

 

 咄嗟の回避で距離を取り、遅れて極寒の恐怖が背中を刺す。今、あと数センチ間合いを見誤っていたら、間違いなく死んでいた。

 

 命を奪う攻撃に躊躇いが無い。その殺意と風体は、まさに死神。

 

「っ……!? ちょ、ちょっと待ってくれ仮面ライダー! そいつすっげぇ悪モンだけど、できれば殺さないでくれ! 頼む!」

 

「殺すな? はぁ……わかった、というわけで手加減するが、構わないか?」

 

「……そりゃどーも。オレも構わずアンタを殺すから、お互い様だ」

 

 ヤイガは飛び上がり、ヴラムを見下ろす工場の見学用通路に着地。そしてホルスターから拳銃を抜き、カルパスの弾丸を放った。

 

 ヴラムも鎌を弓矢に変形させ、エネルギー矢で迎え撃つ。

 

 ヤイガが頭上を駆け、ヴラムが地上で追いかけ、互いが互いを狙って狙撃の応酬。2人の常識を超えた体捌きを前に命中を逃した弾丸は、代わりに工場を次々と破壊していく。

 

「いい感じに、頃合いだ」

 

 突如、ヴラムの脚に死角からの弾丸が命中し、体勢を崩した。時間差で生き返る銃撃、ヤイガの『偏差熟成』の弾丸だ。

 

 ヤイガのピストルはその隙を確実に射抜く。

 

 ヤイガは狙いを決して外さない。ヴラムの眉間を貫いた確信があったその一発は───『飴』の防壁によって阻まれていた。

 

 倒したはずの純黄ベッコウが、菓子能力でヴラムを守ったのだ。

 

「どなたかは存じませんが……余計なお世話だったでしょうか……!?」

 

「いや、助かる」

 

 直面した不条理に目が眩んだ。その一瞬でヴラムは跳躍し、ヤイガと同じ目線に降り立っていた。

 

「捉えたぞ」

 

 この攻防の間に熟成させていたペンシルロッドでヴラムを迎え撃つ。

 

「クッソが……!」

 

 ヤイガは全力を以てヴラムと互角を演じる。

 しかしこの狭所はそもそも槍が有利。それなのにヴラムは最小限の動作で狭さを不利としない。

 

 ヴラムには余裕があり、ヤイガには無い。

 この仮面ライダーは、尋常じゃないほど強い。

 

 その実力差は如実に2人の間合いを詰めていく。

 

 またこれだ。予期もできない不運が盤面をひっくり返してハイ終わり。しょーもない。どうしようもない

 

「こんな不運ばっかの世界、生きてたってしょうがねぇよ」

 

 フランは、闇菓子を食べた。

 そうなることは分かっていた。分かっていて、ヤイガは止めなかった。

 

 もうどこにも、躊躇う理由が存在しない。

 

 ヤイガは無理矢理ヴラムから離れると、指のような黒い肉を出した。ヴラムはそれを一目見て、その忌々しさの正体を直感した。

 

「闇菓子……!」

 

 ヴラムブレイカーは鎌の状態。変形させ、弓を引いてでは間に合わない。

 

 ヤイガが闇菓子カルパスを口に入れる

 その寸前、地上からの光がヤイガの手を弾いて闇菓子が宙に放られた。

 

 ヤイガとヴラムの視線が向いた先にいたのは、派手な銃を構えたダブリだった。

 

「念の為の取っておきだぜ、ヒーローライダーのビームスナイパー! 設定では存在したけど登場は劇場版の1シーンだけなせいでガチなフィギュアには付属せず立体化は食玩のみの激レア……じゃなかった! やっちまえ仮面ライダー!」

 

 ダブリは『食玩』の菓子能力者(カシマスター)。お菓子を食べ、正確なイメージを持つことで、付属の玩具を具現化することができる。

 

 ダブリの声に応じてか、ヴラムが動く。

 ヤイガが気付いた時にはヴラムは背後にいた。

 

「これで終わりだ」

 

 その足元はヴラムブレイカーによって円形に切り取られており、下のフロアへと落下を始めたヤイガを、ヴラムは加速度をつけて追跡する。

 

《カップ・レディ》

 

 ヴラムは落下しながらドライバーのレバーを操作。

 一足先に着陸した円形の床を目掛け、ヴラムの右足がヤイガを踏み付ける。

 

《プディング・クラッシュ》

 

 落下と蹴りの激しい衝撃、それを『ぷるん』とした弾性力によって伝達・反転。身体が軋み、骨もいくつか砕けているのを感じるが、死ぬ気配は無い。

 

 切り取られた床()ヴラム(プリン)に挟まれながら、ヤイガは己の完全敗北を理解した。

 

「殺せよ。もういい、なんで生きちまったんだ、オレは」

 

 もう声を荒げる気も起きない。

 ただひたすらに無感情に、無感動に。もうそれも疲れた。

 

「殺せって……なんでそんなこと言うんだよ!? お前にも仲間とか、家族とかいるだろ!?」

 

「そんなの……いない。オレ達はみんな世界に向き合うのをやめた。だからせめてセンセイの望みを叶えようとして、それ以外は何も残っちゃいなかった」

 

 壊れてしまう寸前の心を缶詰に閉じた子供たち。それが新装(ネオ)レジスタンスの正体だ。

 

「いまさらオレ達に心の使い方なんて分からない。だからフランも……破滅を選んだ。幸せの意味も忘れて、不幸ばかりを恨んで、生きる理由がそれだけの……ただそれだけがオレ達だったから」

 

 ヤイガの独白に、ダブリも言葉を詰まらせる。

 そんな中、半笑いで自嘲するヤイガから足を離し、ヴラムは軽く溜息を吐いて、ただ一言を漏らした。

 

「話は分からんが、要は見捨てたんだろ。お前は、仲間を」

 

「……なんとでも言え。どうせアンタには分かんねぇ───」

 

「お前は全部気付けたのに、何もしないんだな」

 

 その言葉には、首の裏に刃を置かれるような、そんな重さがあった。

 

「……おい、聞いてるか。終わったぞ」

 

 彼は一体何に気付かなくて、何を失ったのだろう。

 それを聞く前にヴラムは虚空に声を掛ける。それに反応して再び銀色のオーロラが現れ、彼を飲み込んで消えた。

 

 「名前聞けませんでした」とベッコウが惜しむ横で、思い切り手を振っていたダブリがヤイガに視線を落とした。

 

「オレはちょっと前、レジスタンスじゃなくて王国に加担してた。悪の方がカッコいいって逆張りしてな。でもそんなオレをチョコが正義でぶっ飛ばしてくれた!」

 

「知ってるよ。これでも諜報担当だ」

 

「えぇっ!? あ、いや、オレが言いたかったのは……その、アレだ! 間違ってもやり直せるとか、なんつーか……」

 

「ワタシのチームメイトも、かつて荒んでいました。菓子能力に目覚め、戦ううちに力を誇示するようになってしまった。ですが彼らは正面から敗れ、今はレジスタンスを辞めて戦いから離れた生活を送っています」

 

 ベッコウが言っているのは、交流戦のペナルティでレジスタンスを脱退した黒島ブガジンとザラメノ=ワタワのことだ。それも知っている、とヤイガは何故か言えなかった。

 

「アナタは『不運』という言葉をつかいましたが、彼らにとって不運とは敗北したことでしょうか。それとも菓子能力に目覚めたのが不運だったのでしょうか。少なくとも、彼らは今幸せに暮らしているのは確かです」

 

「不運は自分次第、ってことか……」

 

 18年前、自分も死んでおけばよかった。

 でも、もう認めるべきかもしれない。生きたからこそ出会えたものはあるって。

 

「奥に行くんだろ……オレも連れてってくれ。どうせもう動けないし、何もできねぇよ。ただ、『これ』が何なのか、前に進んで確かめたい」

 

「おうよ! ッ、痛ぇぇぇッ!!」

 

「あぁ無理をしないで! ワタシが肩を貸しますから!」

 

「なんでアンタの方が痛がってんだよ……」

 

──────────

 

「ハッ、あったぜ。懇切丁寧に持ってたのは、俺様のためってことでいいよな? 人間」

 

 刺されて倒れた(シエン)の懐から古い缶詰を拾い上げる。

 

 以前チョコたちがダイズーから奪還した、2024年製造の缶詰。それは、2024年への復路の切符だ。

 

「今すぐ帰って、人間が喰える闇菓子で人間界を支配する……もいいが、受けた屈辱は返してやらないと不義理だよなぁ」

 

 仮面ライダーブレッド。

 濁って輝く栄華と、世界を侵す強欲。

 それは想いが紡いだ物語の上で脚を組み、神を騙る、傲慢なる支配者の名。

 

「人間に……闇菓子を……!? そんなこと───」

 

「許せねぇって顔してるな? お前もグラニュート殺すし、人間も人間を殺すだろうが。共食いくらいが丁度いい。罰されるべきだろ、人間はよ」

 

 ブレッドは倒れたチョコとポップンを見下し、ガヴの首を掴んで持ち上げる。

 

「真理の話をしようぜ。お前は人間と混ざることで未知の力を手にした。そして、島で俺様のエージェントを倒した時、異常な力を発揮した。ここから一つ、仮説が成り立つわけだ」

 

 立ち上がったチョコとポップンが、ガヴを救おうと攻撃を仕掛ける。ブレッドは遅れてそれ気付くと、ガヴを放り投げ、下向きに腕を振った。

 

 その風が黒い渦を生み出し、その中に潜ったブレッドはチョコの背後に出現。チョコの反応を置き去りにする速度の蹴りが、彼を壁に叩きつけた。

 

「俺様の風を起こす能力は、今や空間を抉じ開ける。グラニュートの力は混ざることで限界を超え、進化する。それが俺様が見出した真理だ」

 

 あの時、チョコの菓子能力はガヴが生み出した恐竜と共鳴し、凄まじい力を見せた。

 

 ブレッドの実力はそれを決定的にしている。

 ショウマの眷属───ゴチゾウとべゼロの能力、クッキー姫の空間を繋ぐ菓子能力『フォーチュンゲート』、そしてヒュドロの力が溶け合ったことで、新たな王が生まれてしまったのだ。

 

「はっはは、飛んだなァ! 手加減したつもりだったんだが、人間ってのは軽くて扱いにくい」

 

「チョコ! テメェ……ッ! ふざけんなクソ野郎……そいつは姫さんの能力だ! 勝手に使ってんじゃねぇ!」

 

「ウザってぇな。お前はもう殺すか」

 

 ポップンの腕を門越しに掴み、引き寄せた。

 ブレッドが地面に触れると、セメントが触手のように再形成されてポップンを縛り、その体を締め付けていく。

 

 体が徐々に砕かれる感覚は、言葉にならない痛みと恐怖を生む。ポップンはヒュドロ戦で死力を尽くし、既にショウマやチョコよりも遥かに満身創痍。この拷問に耐えられる力は、もはや残っていない。

 

「やめろ、べゼロっ……! 俺も、チョコも……まだ戦えるぞ! ポップンより先に、俺達が相手だ!」

 

「そうだ……傷を負った者から嬲り、痛めつけるなど……! 何故キサマはそれほどに卑劣なのだ!!」

 

「卑劣? 弱い奴から死ぬのがグラニュートの掟だ、そうだろ赤ガヴ! そうだ、本当なら消えるべきはストマック家だったのになぁ!」

 

 ブレッドの視線がガヴに向き、ポップンを放りガヴへと門を通って肉迫。砕いたクッキーから錬成した剣を振るい、斬撃を伴う黒い竜巻がガヴを斬り刻む。

 

「『錬金術』、ヒュドロが持っていた力を俺様は読み解いた。この力を手にして、闇菓子の技術を手に入れさえすれば、エストマ家はグラニュート界の頂点に立つはずだったんだ!」

 

 ブレッドの攻撃が激しくなる。割って入ったチョコの攻撃はゲートで透かし、片手間に風の砲弾を浴びせて吹き飛ばす。

 

「お前らストマックはエストマを恐れ、闇菓子の技術を独占するばかりか! エストマ家を一方的に滅ぼした! 卑劣なのはお前らだ」

 

 ガヴを壁に押し付け、ブレッドは踏み潰すように蹴る。何度も。何度も蹴り付けた。

 

「お前が刻まれてるのも、踏み躙られるのも、惨めに死ぬのも! お前がストマックなせいだ! 悪いのは、お前なんだよ!」

 

「黙れ!!」

 

 既に瓦礫だけになった地で、破壊の暴風を逆走するのは───尚も希望で照り輝くチョコレート。

 

 呆れ返るブレッドが、チョコが振り抜いたチョコレー刀を、クッキーの剣で砕いた。

 

 しかし、チョコは折れた刀を掴んで二刀流に再成形し、再び斬りかかる。もう一度折っても、今度は瞬時に刀を作り直す。

 

「チョコ……!」

 

「悪いのはショウマだと!? 人間の為に戦い続けるショウマのどこが悪いというのだ!! 悪いのは人間を喰い、虐げるキサマだ! いい加減な事を、言うなあッ!!」

 

「あ゛ァ……!?」

 

 いくら刃を挫いても、チョコの心を挫けない。

 なんだこの人間は。菓子のスパイス風情が、刈られる立場のゴミ種族が、なぜ潰れない。

 

 チョコの刺し貫くような本気の眼に、心臓が縮んだような感覚がした。

 

「ッ……お前ら人間も生き物を虐げる癖によぉ、何上から物言ってんだ!? 菓子を食えない程度でギャーギャー喚く愚図の分際で!」

 

「キサマの言っていることはワケが分からん!! 喋る度に主張が逆転し、根拠のない感情を押し付けるだけで、会話にすらなっていない!」

 

 無意識に後退した脚に、べゼロの脳内は怒りに埋め尽くされた。認められない。この恐れは、偽りだ。

 

《パンチングミ》

 

 チョコへの否定だけしか考えられなくなった瞬間を、狙いすましたように。ガヴのソーダグミの巨拳がブレッドの顔面に衝突した。

 

「ッ……あああ赤ガヴッッ!!」

 

「……お前は、ストマック家に不当に滅ぼされたと言った。俺は兄さんたちを絶対に許さない! でも……兄さんたちなら、脅威に怯えて先手を打ったとしても、有益なものなら必ず奪い取るはずだ」

 

「おい、何だ? 何が……言いたい!?」

 

「チョコの言う通り、お前の言ってることがおかしいのは、俺にも分かる……!」

 

「キサマが言っているのは正論でも何でもない! キサマの言葉は全部! 不都合を全部他人に押し付け、ただ己を正当化するだけの……『ウソ』だ!!」

 

 何を言っている、この人間どもは。

 エストマ家はグラニュートの上流階級だ。

 

 分家のストマックは祖父の代から始めた製菓会社を育てていると言うが、エストマは強者だ。せこせこ動かず、ただそこに在ればいい。

 

 エストマに生まれた天才は、運命に定められた支配者だ。家の誰もが平伏し、褒め称えた。

 

 ストマック家と顔を合わせることになり、闇菓子の技術を関心を持った。いずれ上に立つ者として、挨拶くらいしてやろうと、べゼロは彼らの前に立った。

 

『誰だお前は』

 

 それが、長男のランゴがたった一言吐いた言葉だった。

 

「ああああああああああああああッッッ!!!」

 

 砕いたクッキーをガラスの破片のように錬成し、全てを掻き消す暴風と共に撒き散らす。それでも折れない2人の気迫は、強さは、あの時に気圧されたランゴのようで。

 

 しかし、いくら心が強くとも、想いが能力を強くするとしても、

 

 力は無限ではない。

 体内のチョコレートが尽きたチョコが、武器を生み出せなくなってしまった。

 

 ブレッドの叫びが笑いに変わる。

 

《ガン》

《ブレッド・ライオット》

 

 不可視の風の斬撃と錬成した物質の刃が無数に入り混じり、ブレッドが触れた部分から爆発のように広がって、空間を塵へと還す。

 

 ガヴがチョコを庇い、その攻撃を一身に受けた。

 当然耐えられる訳がなく、グミの装甲も意味を持たず、変身を解かれたショウマはチョコと共に地に伏した。

 

「はははははッ!! どうだ、これが俺様の発明だニエルブ! これが新たな闇菓子だグロッタ! シータ、俺様はジープなんかより気高く、強い! そうだ……俺様は、お前を超える力を手にしたぞ、ランゴォ!! 俺様を見ろ───ストマック!!」

 

 体に力が入らない。気を失いそうなほど全身が痛み、立ち上がれるだけの気力も残ってない。

 

 何より、お菓子が無いのだ。島の脱出とここまでの戦いで、チョコはチョコレートを、ショウマはゴチゾウを使い切ってしまった。

 

 どんな世界だって、どんな時代だってそうだ。

 強さが全てだ。強い者だけが全てを手に入れる。

 

 強い者がお菓子を独占し、世界から幸せを奪っても、奴らは何の罰も受けずに笑っている。

 

 強い者は人間を食らっても、それを当然の理として強いる。虐げられる存在としての生を強制する。

 

 ───強くなりたい。

 

 どこにでもある小さな幸せを守るために。

 愛しいと思うものを、もう誰にも奪わせないために。

 

「ショウマ……!」

 

「チョコ……!」

 

 砕けたチョコレートと、弾けたグミの装甲が転がる荒れ地で、チョコとショウマは目線で確かめ合った。消えていない、決して消えることの無い、その思いを。

 

 守るために、強さを求める2人が出す答えは、必然の真理に辿り着く。

 

『グラニュートの力は混ざることで限界を超え、進化する』

 

 最後の力で、甘い香りに手を伸ばす。

 チョコはショウマのグミを、ショウマはチョコのチョコレートを掴む。

 

 そして、それを全霊の感謝と共に食した。

 

「───うまい……」

 

 口の中に広がる優しい甘さ。力強い香り。

 飲み込むと伝わってくる、それぞれの覚悟の味が。

 

 たった一口。だが、その思いの強さが、2人の心と腹を満たす。

 

 血が巡り、腹の底から熱くなる。力が───湧き上がってくる。

 

「……はぁ!?」

 

 ブレッドの笑いが止まり、肌を戦慄が走る。

 ショウマとチョコが立ち上がっていた。消える寸前だったはずの命の火が囂々と燃え、力を宿した体で両足を地に着ける。

 

「俺たちは負けない。絶対に諦めない! べゼロ! ここで終わらせる!」

 

 ショウマの赤いガヴから赤いゴチゾウが飛び出た。

 それは、純粋で鋭く、熱い眼差しをしたチョコレートのゴチゾウ。

 

 払い除けるようにブレッドが鎌鼬を飛ばす。

 それを、今度はチョコが盾となって庇った。しかし、今は倒れない。体から湧き出るのはチョコレートではなく、弾力を持ったグミ。

 

《チョコ》

《EAT チョコ》《EAT チョコ》

《ガヴ……ガヴ……》

 

 融けたチョコレートが収束していき、奇妙な板チョコを形作っていく。ショウマは腕を大きく回し、仮面を被るように手を顔にかざす。その瞳が紫に、光り輝く。

 

「変身!」

 

《マスターチョコザン》

《トロトロ!》

《パキパキ!》

 

 板チョコが分解し、鎧としてショウマへと覆い被さって、その力が全身を変位させる。身体を静かな力───紫と、熱き怒り───赤が並走し、首から伸びるのはハチマキのような細い赤のマフラー。

 

 同時にチョコの眼も紫に光り、鮮やかに透き通るグミの防具を身に纏う。その姿はまさに、仮面のない仮面ライダー。

 

「べゼロ……キサマは人間を襲って闇菓子にした。カンキリの改心を踏み躙った。オレの友達を侮辱し、痛めつけ、否定した! もう許すことはできん! 覚悟しろ!」

 

 菓子能力のゴチゾウで変身したガヴ。

 『能力喰い』でポッピングミの菓子能力を発現させたチョコ。

 

 世代と物語を超えた交差が、今並び立つ。

 

「これで最後だ! 歯磨きの準備をしておけ!!」

 

「イキってんじゃねぇぞ愚図共がァァァァァ!!」

 

 ブレッドが錬成したクッキーの槍が、ゲートを通って2人の頭上に降り注ぐ。

 

 しかし、「ムニュ」というグミの文字を傘にしてチョコは無傷で立つ。それどころか、ガヴの姿が無い。

 

「赤ガヴは───」

 

 真っ向から貫く赤紫の流星。チョコレートの宝剣『チョコザンケン』とガヴガブレイドが張り詰めたブレッドの視界を横斬った。

 

 不可解だ。『フォーチュンゲート』での防御をしているのに、滑らかな痛みが次々にブレッドの体に刻みつく。

 

 ガヴの斬撃は振り抜く瞬間に超加速し、ゲートの発生速度を追い抜いている。速さ───すなわち強さが、ブレッドの能力を打ち砕いたのだ。

 

「ふ、ざけん……なああああッ!」

 

 絶対防御だ。あのランゴと同じ力が、何故破られる。

 ブレッドは翼を広げ、空中に退避する。それを見て瞬発の判断を下したチョコは、「ムニュ」の文字を足場にし、

 

 跳躍。果汁が弾ける残光を空に描き、超速で天に昇る。そして接近と同時にブレッドの顎にかち上げを叩き込み、さらにもう一撃。

 

 しかし、分離したブレッドの羽とクッキーを材料に錬成された黒い使い魔が、チョコに喰らいつく。

 

「チョコ!」

 

 声を追い越す速度で投げ上げられたガヴガブレイドが、使い魔を砕いた。それを掴んだチョコは拳で剣のスイッチを叩き、雄々しく大きく振り被る。

 

「必殺、『剛剣一閃(タフブレイク)』!」

 

 固く、硬く、堅い、強靭な斬撃。

 それはブレッドの片翼を圧し折り、飛べない悪魔は墜落する。

 

「ッ……! 見るな、俺様を、見下すな!!」

 

《ガン》

《ゴン》

《ガゴン》

 

《タルタロス・エンド》

 

 いくら猛攻を繰り広げようが、2人がかりでやっとブレッドと互角。それはチョコもショウマも、べゼロも解っている。

 

 だからブレッドは、その均衡を壊す。

 

 地面を手で握り砕き、絶叫するブレッドが、バックルを3度開閉しエネルギーを解き放つ。粉になったクッキー、銀色の粉糖、血のようなジャム。それらが風で混成され、錬成されしは巨大な菓子の大蛇。

 

「死ねッッ!」

 

 絶対的な質量が、ゲートを通って死角から襲い来る。それは万物を服従させる究極の『力』そのものと言っていい。

 

 ただ、『力』には必ず理屈がある。

 理屈には必ず、それを解く理がある。

 

「待たせたな、ショウマ!」

 

《BITTERSWEET THUNDER!》

 

 黒い落雷が大蛇の頭部を砕き、内側から苦味に蝕まれた大蛇が消滅した。

 

「お前は……! グラニュートハンター!?」

 

 仮面ライダービターヴァレン、辛木田絆斗がようやくショウマに追いついたのだ。

 

「───っ、絆斗! よかった! 無事だったんだ!」

 

「ビターチョコレートの香り……そうか、ショウマの仲間か! オレは鐘木チョコだ! よろしく頼む!」

 

「おうよ! ってチョコ……!?」

 

 そういえば、ガヴと初めて会った時

 

『チョコレートくんは、いいやつだね』

『チョコレートくんは……嫌だーーーーっ!!』

 

 それでヴァレンと名乗ることにしたのだが、

 

「あっ、なんか……悪ぃ。いい名前だと思うぜ……」

 

「何の話だ! わからん!」

 

「んなことより、俺だけじゃねぇぜ。アイツをぶっ飛ばしてぇのは!」

 

 ビターヴァレンに殺意を向けるブレッドの背後に忍び寄る、仄かで柔らかな存在感。殺意と認識できなかったそれは、間合いに入った刹那に激情を発露する。

 

「行くよ、フランちゃん!」

 

「……うん。これがわたしの心だ! 合体技(トッピング)───『ライスプディングモード』!」

 

 フランはぽた子の『米』を取り込み、気配を白に染め、ブレッドに米粒の雨(ライスシャワー)の如き乱撃を浴びせた。

 

「ぽた子さん! フラン=プディング!」

 

「頼まれたこと、やり遂げたよチョコくん!」

 

 ぽた子がフランの心を救った、それはフランの血の通った表情を見れば一目瞭然だ。

 

 そして、ぽた子がいるなら当然、あの男も来ている。

 

「───虹錠菓(にじらむね)

 

 それは、ラムネが残り七粒になった時だけ使える、レモネド=スカッシュの最終奥義。

 

「『藍』!」

 

 虹錠菓は異なる属性を持つ七粒のラムネから一つがランダムで飛び出し、技を発動させる。レモネドが引き当てたのは『藍』、風属性のラムネ。

 

 爽やかな突風がブレッドの禍々しい風を相殺し、その隙にビターヴァレンの追撃が深々と直撃した。

 

「何処までも、どいつもこいつも……つけ上がんな、群れるだけの、カス共が!」

 

 大地が揺れる。ブレッドの足元が無茶苦茶に再錬成され、うねり、最大出力の斬撃暴風が吹き荒れる。

 

 工場の屋根が粉々に吹き飛び、ブレッドが射し込む光を背に受ける。神の怒りと言わんばかりに、歯向かう全てを払い除け、蹴散らした。

 

「よくも、先生を!!」

 

 ビターヴァレンの変身が解け、レモネドとぽた子が倒れる。そんな中、風の隙間を縫って斬りかかるフランの首を、ブレッドは掴み、地に叩きつける。

 

 いくら集まろうが関係ない。気道を絞められて呻くフランは、威勢よく睨むだけの裏切り者の弱者だ。

 

 それを証明せんと、ブレッドは錬成した爪を振り上げる。

 

「……この……香り」

 

 消えかけた意思に語り掛けるのは、フランがよく知ったスパイシーな香り。

 

 爪が射貫かれて砕ける。フランを絞める腕が射貫かれて弾かれる。下卑た笑い声を出していた頭に、熟成されたカルパスの弾丸が命中した。

 

 ブレッドの攻撃も届かない遠方、そこから一方的に、寸分の狂いもなく。ベッコウの肩を借りたヤイガの銃が煙を吐いていた。

 

 心の開け方なんて忘れたと思ってた。

 でも、それを見た瞬間には、溢れた感情が体を動かしていた。

 

「───オレの……可愛い妹に、何してんだクソ野郎!!」

 

「ヤイガ……」

 

 体勢を崩したブレッドを、ガヴの流動するチョコレートの斬撃と、チョコのグミを纏った蹴撃が跳ね飛ばす。

 

 無様に転がり、背中を汚し、顔を上げた先にあるのは受け入れられない光景。

 

 なんでだ。

 グラニュートは人間より強い。

 エストマ家はストマック家なんかに負けない。

 べゼロ・エストマは天才だ。

 

 存在する価値がある。誰からも認められる。

 

「……誰に?」

 

 辺り一面の敵と、力の塊と化したバックルのカードが目に映り、べゼロの口からそんな疑念が───

 

「……なッ……!?」

 

 ブレッドが手をかざしても上手く物質が変異しない。ゲートが出現しない。

 

 怒りに身を任せて力を使いすぎたのだ。菓子能力も、錬金術も、エネルギーを消費する有限の理なのだから。

 

「───ベゼロ」

 

 ガヴが脚を交差し、前傾姿勢でブレッドを見据える。

 チョコが拳を握り固め、天に向ける。両腕を連結させるように組み、正面に構える。

 

「オレは、キサマのような悪人でも……永遠に命を奪うようなことはしたくない。だがキサマを永遠に捕える手段も無い。だから、選べ」

 

 ブレッドを挟んで、2人の戦士は委ねる。

 己を否定し罪を悔いる。もしくは、罰を噛み砕いてでも己を肯定する。その、最後の審判を。

 

「さぁ……どうする? 二度と闇菓子に関わらないか。それとも───」

 

「「ここで、(オレ)達に倒されるか!!」」

 

「ッ……誰がッ!! 誰に!! 物を言ってやがる!! 俺……様は……! べゼロ・エストマだ!!!」

 

 審判は下された。

 

 ブレッドにはもう戦う力は無い。だが、僅かに残った力を錬金術に使えば、折れた翼を再錬成して飛んで逃げられる。

 

 そう考え、ブレッドが見上げた空は───再び閉ざされた。全員を閉じ込めた鉄の密室、缶詰に。

 

「菓子能力……『禁錮兵糧牢』。これがワタシの……っ……最初の償いです」

 

「人間があああああああああッッ!!」

 

 帰りの缶詰を維持するために生かしていた(シエン)が、最後に。

 

《チャージ ミー》《チャージ ミー》

「準備完了。これより、必殺技に入る!」

 

 逃げ場を失ったブレッド。

 ガヴがチョコレートのガントレットを、チョコがグミの巨拳を構える。それぞれのオーラが渦を巻き、混ざり合い、2つのグミチョコの拳が顕現する。

 

 翼を再生させたブレッドが飛び上がり、上に手を伸ばした。硬い壁に阻まれた天を求めて。

 

 ガヴとチョコが、逃げるブレッドに向かって、跳ぶ。

 

 

 必殺技 原材料

〈チョコレート菓子〉

〈グミキャンディ〉

 

「チョコちゃん!」

 

 カカオマス ココアバター 乳成分(一部)

 

「ショウマ!」

 

 ゼラチン 果汁 でん粉

 

「チョコくん! ショウマくん!」

 

 仲間との絆

 時間を超えた出会い

 消えない友情

 

「お願いします、チョコくん!」

 

「行っけぇ! 仮面ライダー!」

 

 人々の声援

 分かり合う心

 お菓子への愛

 

「鐘木チョコ……頑張れ……!」

 

「期待していいんだろ!? 仮面ライダー!」

 

「頼みます……ワタシに出来なかったことを、どうか……!」

 

 幸せを守る意思

 悪を許さない心

 戦い抜く覚悟

 

「行け……チョコ……! ショウマ……!」

 

 砂糖 不使用

 

「ポッピンカカオ 930(グミ)%!!」

《マスターチョコザンフィニッシュ!!》

 

 ふたつの拳が、ひとつになる。

 香り高く滑らかなチョコレートが包み込むのは、鮮烈な風味を持った弾力豊かなグミ。力強く、魅惑的で、洗練されていて、それで───

 

「苦……い……!」

 

 拳が炸裂し、その勢いは缶詰を突き破る。

 ブレッドの感覚は、痛みと同時に人間の味覚に塗り潰され───断末魔を呑み込む爆発の中に、消え去った。

 

「ショウマ。感謝する、キサマがいてくれたおかげだ」

 

「俺こそ。出会ってくれてありがとう、チョコ」

 

 チョコの体内のグミが尽き、ガヴも力尽きて膝をつく。戦いが、終わった。

 

 

 

「───終わってねぇよ……!」

 

 その声に全員が瞠目した。

 キャンドバックルが砕け、ヒュドロのカードが遠方に舞い散る。そんな中で、爆炎からべゼロは這い出て来た。

 

「べゼロっ……!」

 

「俺様は……まだ死んでねぇ……ハハ、俺様は! まだ!」

 

 賭けだった。だが、この距離なら、自分だけが範囲内だ。

 

 べゼロは最後の奥の手、2024年製造の缶詰を握り砕き、時間を繋げるゲートが生成されていく。

 

「アイツ……! 過去に逃げる気か! そんなこと……!」

 

「ポップン……! くっ、キサマ……何処まで卑劣なのだ!!」

 

 ポップンとチョコがいくら吠えようと、この場にいる誰もが動く力さえ残ってない。べゼロを止める術が、無い。

 

「ポップン……つーことは、お前が『ポプ』か……そうか、お姫様から、預かりもんがあったな……! ショウマ、アレを!」

 

「絆斗……!? そうか!」

 

 絆斗が、形を留めていたガヴガブレイドを掴む。その意図を汲んだガヴが、超小型バイク『ゴチスピーダー』を渡した。

 

《プッシュ ミー》《プッシュ ミー》

 

 ガヴガブレイドに置いたゴチスピーダーにチョコドンを乗せ、『あるもの』を持たせて、スイッチを叩く。

 

《GO!》

 

 刀身を滑走路にして発進したゴチスピーダーは、唯一動ける存在としてべゼロに向かっていく。

 

 ゲートの完成と同時に、それを払い除けたべゼロ。

 だが、それによりチョコドンが持っていたものが砕けた。

 

「ただの推理だが……俺たちがバラバラに到着したのが、計算外だったみたいに言ってたよな。定員オーバーだったってことじゃねぇのか? そんなにデリケートな代物なら───別のゲートが重なったら、どうなる?」

 

 それは、絆斗がクッキー姫から受け取った『フォーチュンゲート』のクッキー。

 

「な……ッ……!?」

 

 べゼロを包みつつあったゲートが、別のゲート干渉を受けて歪む。時空が軋み、雷雲の中のような激しいノイズが、明らかな異常を訴える。

 

 だが、べゼロは、この地獄へと通じるゲートから逃れることができない。

 

 誰かの強さじゃない。これは、人の繋がりが運んできた決着だ。たった一人で消えるべゼロに、ショウマはただ一言を差し出す。

 

「……じゃあな、べゼロ」

 

「赤ガヴ……ッ!! ショウマ・スト───」

 

 その名が声に成ることはなく、ゲートはべゼロだけを呑み込み、激しい光と衝撃を残して消滅した。

 

──────────

 

 

「ご苦労だった、お前等。まさか本当に勝っちまうとはな。負けた気分はどうだ、カンキリ=ハービスト」

 

 新装(ネオ)レジスタンスの戦闘員をほぼ1人で全員叩きのめしたゼラチが、遅れて工場最奥に到着。

 

 新装(ネオ)レジスタンス全構成員を無力化、今度こそ戦いは終わった。敗北した(シエン)───カンキリは、晴れやかな表情で答える。

 

「はい、やはりアナタ方は素晴らしい。ワタシには、ワタシの使命は重すぎた。これはアナタ方に託します、ゼラチさん」

 

「言われなくても王国はぶっ潰すよ。それに、お前等が望むならオレから恩赦を頼んでやってもいい。次こそレジスタンスに居場所を作ってやることもできるが、どうする?」

 

「いえ、ワタシは罪を償います。居場所ならもう十分なものがあります。もう、帰ることができないとしても……」

 

「……そうか」

 

 子どもたちを唆して戦わせ、挙げ句の果てに闇菓子製造に加担した罪は重い。それに、カンキリの体は変身のための改造で弱り、もはや───

 

「オレも大人だ、センセイと一緒に行くよ。闇菓子能力を使ったフランは後遺症でもう戦うどころじゃない。無理しやがって」

 

「ヤイガ……先生……!」

 

「悪かった……ワタシが間違っていた。心を閉じさせて、皆には辛いことを……!」

 

 謝るカンキリに、フランが手を大きく広げて抱きついた。その周りには、ヤイガと、新装(ネオ)レジスタンスの子供たちが身を寄せる。

 

「謝らないで。わたしは……幸せだった! またいっしょに、プリン食べよう?」

 

「帰ったら、また間違いながら、足引っ張りながら、全部晒して生きようぜ。家族なんだから」

 

「……えぇ、十分です。そこに在るだけで、ワタシは幸福だ」

 

 抱き合う彼らを見て、チョコは味わうように呟いた。

 

「任務完了、だな」

 

「うん、そうだね。あれ……でも、何か忘れてるような……」

 

「何言ってんだショウマ! んな良い話なのに、他に何を……あああああああああっ!!?」

 

 ショウマと絆斗も大団円に浸っていたが、大事なことを見落としていた。いや、本当に大事なことを。

 

「おい、おいおいおいおい! 俺たちどうやって2024年に帰るんだ!?」

 

「そうだった! 帰りの缶詰、べゼロが使っちゃったし!」

 

 2人が助けを求めてカンキリを見る。

 すると、とても申し訳なさそうに、彼は打ち明けた。

 

「……100年前の缶詰は非常に入手難度が高く、連れて来る分と連れて帰る分しか確保できなかったのです。なので……」

 

 絶望。チョコたちもかける言葉が無い。

 

「今後また100年前の缶詰が見つかれば喜んで協力しましょう! ワタシにできるのは、それくらいしか……」

 

「も、もちろんオレたちも探すぜ! レジスタンスの情報網がありゃ……もしかしたら! な!?」

 

「無論、ポップンの言う通りだ! 必ずショウマたちを元の時代に帰す!」

 

「そうだチョコちゃん! 今度、世界お菓子フリーマーケット潜入があるじゃん? もしかしたら100年前の缶詰なんかも……」

 

「いや、その必要は無い。そいつらは俺が送り届ける」

 

 チョコたちが必死に打開策を探っていた所を、低い大人の声が割り込んだ。

 

 奇妙な光景だった。真昼の地上なのに、そこにあったのはまるで銀色のオーロラ。その中から歩いてくる男は、落ちていたヒュドロのカードを拾う。

 

「……誰?」

 

「仮面ライダーだ。通りすがりの、な」

 

 その男───門矢士は、首にかけたマゼンタの箱のようなカメラをショウマ達に向け、シャッターを切った。

 

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