仮面ライダーガヴ×カシバトル スイート・ジェネレーションズ 作:壱肆陸
鐘木チョコと井上ショウマ。時を超えた2人の出会いから始まった戦いは、べゼロ・エストマの撃破と
そして、2121年の戦いから年が明けた。
2122年
「おはよう! 体の調子はどう? フランちゃん」
「おかげで気分はずっと良くなったよ。ありがとう、ぽた子」
「うむ。きっとまた動けるようになるはずだ! 健闘を祈っているぞ!!」
「チョコちゃん、声大きい」
「また看護師さんに怒られんぞ」
「スマン!!」
闇菓子能力を使い、その後遺症で身体機能の一部を失ったフラン=プディング。チョコたち4人は、そんな彼女のお見舞いに訪れていた。
「ぽた子、何かあった? 前より顔が晴れやかに見える」
「うん、ちょっとね。苦しいことがあったんだけど、今はもうへっちゃら!」
「なっ……!? 誰だぽた子を苦しめた輩は……体が動けば焼き斬ってやったのに」
「その気持ちよく分かるぞフラン=プディング!」
ちなみにフランはぽた子にとても懐いている。
チョコはそのぽた子の優しさが成した景色を、後ろで何故か得意気に見ていた。
「来てくれたのは嬉しいけど、今日はレジスタンスの、世界お菓子フリーマーケット潜入任務って聞いてる。こんなところにいていいの?」
「なんでそんな事知ってんだよ、怖ぇな
「そうだけど、まだ集合まで時間あるから大丈夫だよ。カンキリさんとヤイガさんからのお見舞い、届けに来たんだ」
そう言ってぽた子は、プリンと代筆の手紙をフランに渡した。
「……ゆっくり読みたいから、後にするよ。またほとんど体調の心配だろうけど」
「そっか。あっそれと、大事なこと言わなきゃだった。あの戦いの跡からたくさんの板にされた王国の人達が見つかったんだ」
「グラニュートが使ったのは、多分過去から持ち込んだ人間で、こっちの人間には手を付けてなかったみたいだね。そういう事情もあって、彼らの罪は予想よりもずっと軽くなりそうだよん」
レモネドの言葉を聞いて、フランは僅かに表情を解いたように見えた。
「でも、わたしたちがしたことは許されない。わたしが闇菓子を───人間を食べたのは事実。これが罰なら、この体も一生動かないままかもしれないね」
「そんな……」
「それでいい。わたしたちは、孤独じゃないだけで幸せだから」
もし快復した時に王国との戦いが終わってなければ必ず力になる、とフランは付け加えた。
それが彼女の本心だというなら、チョコ達も何も言わなかった。しかし無言の時間が気まずく、ポップンが慌てて口を開く。
「そ、それにしても、ヤベェ戦いだったよな! 今思い出してもゾッとするぜ、ヒュドロに……仮面ライダーブレッド」
「うむ、恐るべき強敵だった。ショウマがいなければ確実に負けていただろう。そして、過去に戻られて『人間が食える闇菓子』を……!」
「わたしは闇菓子を食べたからわかる。あれは、常軌を逸した物質だった。圧倒的に有害で、圧倒的に魅惑的。あんなものが力ある者から出回れば、その魔性で人間の嗜好品は消滅していたかもしれない」
一歩間違えば世界から嗜好品、つまりお菓子が絶滅していた。遅れて理解したその脅威に、全員の鳥肌が立つ。
「それを言えばあの野郎、本当に倒せたのか分かんねぇよな。あのゲートから普通に過去に戻ったってことも……」
「ショウちゃんのことも心配だよね。あの『通りすがり』とかいった男に任せるしかなかったけど、本当に過去に戻れたのか」
「少なくとも、べゼロの方は問題ない。だって先生の能力では、パラドックスを起こせないから」
そう言ってフランは静かに微笑むが、一同は上手く要領を得ない顔で首を傾げる。
「いまお菓子を奪い返すためにレジスタンスがあって、また戦いに赴く。それが勝利の証明だよ」
そこでようやく理解して、皆が顔を見合わせて笑った。そしてチョコが再び、大きく声を張り上げた。
「それならばショウマのことも同じだ! なぜなら、今のオレたちの幸せは───」
──────────
時間は、二重の意味で遡り、
べゼロとの決着の直後、マゼンタのカメラを持った男に連れ去られるような形で、ショウマと絆斗は銀色のオーロラカーテンに飲み込まれた。
「どういうことだよ! あんた誰だよ!? つかこれなんだよ!! 本当にいま俺たちの時代に……」
「やかましい」
「絆斗!?」
門矢士の軽い小突きで絆斗がダウンした。
ビターヴァレン変身の反動もあり、とっくに限界だったのだろう。
「俺は旅人だ。色々な世界を巡ってる」
「旅人? 世界……!? グラニュート界と人間界みたいなものかな」
「昔、知り合いの泥棒が錬金術の世界からあるものを盗んだんだが、事故で時空の狭間に落っことしたらしくてな。俺もその世界に野暮用があるもんで、ついでに後片付けに来たんだが……」
士はヒュドロのカードをポケットに仕舞うと、ショウマと絆斗を見て軽く笑った。
「なにやら面白いことになってたから、少し世話を焼いてみたってワケだ」
「仮面ライダー、ってことは……君も改造された人間? それとも……グラニュート……?」
「仮面ライダーの意味は一つじゃない。まぁ改造された人間が多いのはそうだがな、可愛い後輩には勉強させてやりたいのが先輩心ってもんだ」
オーロラカーテンが透けて、向う側に広がるのは全く違う無数の景色。
鏡の中で戦士が戦っていたり、ゲームの力で戦う医者がいたり、剣士が本の怪物と戦っていたり───本当に色々な景色があった。
「お前が戦ったみたいな例外もあるが……人間の自由のために戦うのが仮面ライダーだ。こいつは覚えておけ、後輩」
透明に輝く指輪を付けた青年が映る景色を一瞥し、その終わらない物語に思いを馳せて、士は言った。
他にも、タイヤ人間や金の手甲を付けた戦士たち、眼帯を付けた少年たちの姿が、ショウマの顔の横を過ぎ去っていく。
「そっか……チョコたちみたいに、俺の知らない力で悪と戦う人たちが、この景色の数だけいるんだ!」
世界は、ストマック家の中でショウマが焦がれ、夢想していたよりもずっと広かった。その事実に体が震える。
「せっかくだ、俺の用に付き合って寄り道していけ。確かお前、菓子を食って戦うんだったな」
「えっ、ありがとう!! うわぁ……久しぶりのグミだ!」
そう言って士はショウマにグミを数袋投げ渡した。正直な話、腹が減って倒れそうだったショウマはすぐに開封し、2粒口に放り込む。
全身を駆ける幸福と共に、ゴチゾウが2体生み出された。すると、ピントが合っていくように、銀のオーロラが鮮明な景色へと変わっていく。
「用が済んだらまた迎えに行く。しっかりやれよ」
気付くとショウマと絆斗は、街に出ていた。
着地と同時に目に入るのは、多数の鈍色の兵士たち。そして、天使の怪人と戦う戦士の姿。
「あれって……そうか!」
倒れた絆斗を脇に寄せ、ショウマは気力が溢れる体で飛び出し───天使の怪人に駆け上がるような連続飛び蹴りを叩き込んだ。
「大丈夫!?」
ショウマは劣勢だった戦士の方に駆け寄る。
燃えるような紫の鋼を纏った、機械仕掛けの戦士。彼がきっと、この世界で戦う仮面ライダーなのだろう。
「これ食べて元気出して!」
「えっ……あぁ、いや……」
ショウマは善意と笑顔でグミを仮面ライダーに差し出すが、なぜだか困惑気味。よく見るとワイヤーで体を縛られていたので、ショウマはそれを引き千切り、そのままグミの袋を手渡した。
「グミ……!? 笑えないジョークだ」
ショウマは敵の方に目を向け、腹のジッパーを開けて赤いガヴを晒す。士がグミを渡してここに連れてきたということは、ここでショウマがやるべきことはこれだ。
《グミ》
《EAT グミ》《EAT グミ》
「変身!」
《ポッピングミ》
《ジューシー!》
グミをガヴで吸い込み、倒れ込むように変身したショウマを見て、その仮面ライダーは驚嘆の声を漏らした。
「グミの……仮面ライダーだと!?」
「俺は『仮面ライダーガヴ』。ここは任せて!」
「何者か知らんが、今は助かる!」
そう残してその仮面ライダーは天使の怪人と共に走り去ってしまった。どうやら彼は───この世界は今、大きな戦いの渦中にあるらしい。
思いの強さが奇跡を生むと、ショウマは知った。それならショウマは、いついかなる時も人間の幸せと、自由のために戦おう。『仮面ライダーガヴ』として。
ガヴは兵士たちに向けて、弾むように駆け出した。
───────────
2024年
あの世界での戦いも終わり、門矢士の迎えが来て、ショウマと絆斗は元の世界、元の時代に戻ってきた。
久々に感じる馴染んだ空気と景色に、身体中を安堵が満たす。しかしどうやら、あの渦に巻き込まれてからほとんど時間は経ってないようだった。
「あっれ〜〜? 絆斗くんボロボロじゃない、何があったの」
「んでもねぇよ。とりあえず治療だけ頼む。こんなんでグラニュートなんか出られたらたまんねぇからな」
久々に見る胡散臭い眼鏡に、今以上に気分が悪くなる。絆斗は酸賀のもとに戻り、ひとまず乱暴にソファに腰かけた。
「いやいやいや、何も無いってことは無いでしょ〜。どんな強いグラニュートと戦ったの? どんな能力持ってた? ねぇってば」
「だーーーっ!! うぜぇ! っっ……叫ばせんな、死ぬわ!」
酸賀の方は絆斗に興味津々といった様子。
なんとなくこの男に今回のことを知られたら面倒くさい気がする。絶対に黙っておくべきだ。
というか、よく考えたら今回の騒動はこの眼鏡の研究データが招いたことなのだ。それを思い出したら無性に殴りたくなってきた。体力の無駄なのでやらないが。
ヴァレンバスターは変身を解いたら元に戻り、黒いゴチゾウも消えてしまった。故障してたら大変なので一旦酸賀にバスターを渡し、絆斗は思案する。
あのビターな力は凄まじいものだった。記憶が曖昧だが、苦い記憶の後にとんでもない力が身体を満たした。
「なぁ酸賀、あんたは……俺をもっと強くできるか?」
「……なーによ絆斗くん! 強くなりたいなら言ってよ〜! いいよいいよ、何からやる? 取り敢えずもっかい改造とか……」
「なんでもねぇ! どーせそうなると思った、忘れろ!」
だが、これからの戦い、もっと力が必要になる。
もしあの時に匹敵する力を手に入れることができるなら、例えこの身体がどうなろうとも───
こんなボロボロの体と頭で考えたってしょうがない。
絆斗は思考を閉じて、眠りについた。
絆斗の処置が終わり、深い眠りについているのを確認すると、酸賀はバスターとコンピューターを接続した。
「絆斗くんが教えてくれなくても、コレは戦闘データを記録できるようにしてるんだよね」
仮面ライダーヴァレンが今回の件で経験した全てが、酸賀の脳にインプットされていく。それを読み解くほど、酸賀は静かに、しかし確かな興奮をその眼に宿していった。
「へぇ……プリンの能力に、クッキーの戦士。それに絆斗くんのビターな姿ねぇ……これはニエルブくんにも報告しなきゃだね。いやぁ、盛り上がってきましたよ〜」
これだけの『強さ』が集まった戦いは、極めて有用なデータになる。
強くできるか?
言われるまでもなくそのつもりだ。
彼にはその素質がある。彼は必ず、『最強の生物』に辿り着くまでの、大きな足掛かりになる。
焦げて、焦がれて、形を忘れたその思いを、果たすために。
──────────
「ウマショーなにやってんの?」
なんでも屋『はぴぱれ』。
呼ばれて振り返ったショウマは、幸果の顔を見て数秒動きを止めた。
「なになに!? そんなじっと見て、ウチの顔なんか付いてる!?」
「あっごめん、なんだか……安心するなって。近くに幸果さんがいるの」
あれから幸果の顔を見るたびにそう思ってしまう。
長い戦いだった。本当に色々なことがあって、色々なことを知った。そして知る度に、この幸せを守りたいと、強く思った。
「なにそれ! まぁ、ありがと。ってそれより何してんのって」
「これ、紙でお菓子を作ってるんだ! 食べられないけど、ずっと腐らないやつ」
ショウマは牛乳パックや折り紙、画用紙でチョコレートや煎餅を作っていた。小学生の図工みたいで、幸果の頬も緩む。グミだけは質感が特殊で、苦戦していそうだったが。
「へーいいじゃん。部屋ん中飾る感じ?」
「ううん。タイムカプセルに入れようかなって!」
「えっそれめっちゃいい!! タイムカプセルか〜ウチも小学校でやったな〜10年後とか、一緒に開けれたらいいよね!」
「うん、100年後に開けてほしいなって!」
「100年!!?? ウチ生きてるかな……? ていうか、多分そのクッキー缶じゃ100年はムリかな〜?」
「え、そうなの!?」
ショウマは知らないが、物を長期保存するのなら、それそのものの耐久性よりも保管環境が重要なのだ。土に埋めるだけでは100年には届き得ない。
(チョコ達に思いを届ける、いいアイデアだと思ったんだけどなぁ)
チョコ達とは、まともに別れの挨拶もできなかった。伝えたい言葉はいくらでもあったのに。だからタイムカプセルを作ろうと考えたのだ。
あのお菓子禁止令の時代に、ショウマは生きていたのだろうか。もしかしたら100年後どころか、明日にもグラニュートとの戦いで命を落とすかもしれない。
彼らが生きる100年後の未来は、余りに遠い。
「……でもさ、ウマショー。100年後に何か残したいなら、もっといい方法があるよ」
「本当に!?」
「誰かに保管してもらえばいいんだよ。ウチの実家にも100年前の本とかあったし。自分じゃムリでも、次の誰かに頼んだりしてさ。ウチらはひとりじゃないんだし」
繋がる思いこそ、人間の強さだ。
そうだ。何も特別なことをしなくてもいい。ショウマが生きた証は、そのまま未来になる。
お菓子を食べる幸せは、ショウマの力になる。
ショウマの力が人間の世界を守る。
ショウマが守った世界に新しい幸せが芽吹く。
そして遠い未来、その幸せがいつか、お菓子を取り戻す戦いに繋がっていくのだ。
「うん、そっか……ありがとう幸果さん!」
「ま、それはそれとしてタイムカプセルは超イイから! ウチも手伝うよ。なに作ろっかなー、ハンティも呼ぶ?」
「それいいね! みんなで作ろう!」
例えこれからの戦いが辛くても。
いつかこの戦いが、君のいる未来の幸せに繋がっていくと信じて。
明日も彼らは、このお菓子な戦いを続けていく。
─完─
ここまで読んでくださってありがとうございました!
ガヴ最終回の後にはなると思いますが、エピローグとキャラ設定などを投稿予定なので、そちらもよろしくお願いします。